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生涯学習音楽指導員 ヴァイオリニスト オーケストラトレーナー(嘱託顧問)
神奈川県 荒井あゆみさん

■活動テーマ:高校学校弦楽オーケストラ部活動支援を通じて「楽器演奏」を楽しむ事を伝えていく
部活動風景
部活動風景
■日時:2010年~現在
■場所:神奈川県立川和高等学校、神奈川県内演奏施設等
■対象:高校生の部活動

■活動内容

Ⅰ.活動を始めたきっかけと想い

1.活動を始めたきっかけ

中学・高校で、吹奏楽部がある学校は多いと思いますが、弦楽器のクラブがある学校は、まだ少ないのではないでしょうか?横浜市都筑区にある神奈川県立川和高校には「室内楽部」という名の弦楽オーケストラがあり、私はそこで嘱託顧問(トレーナー)として演奏指導のお手伝いをさせていただいています。この「室内楽部」は、1980年設立ですが、ちょうど30年経過した2010年に当時の顧問の先生から今でいう技術指導の外部委託(アウトソーシング)の一環としてお声がけをいただいたのが、支援を始めさせていただいたきっかけです。

2.想い

私自身、オーケストラや室内楽活動に永年携わっており、とりわけ弦楽オーケストラについては少なくとも70曲以上はコンサートで取り上げたことがあるので、この経験で得た知見やノウハウを若い世代に伝えていければと思っています。

自分は高校時代にブラスバンドでトランペットを吹いていました。同世代の仲間と一緒に演奏し曲を仕上げていったことはとても楽しい思い出です。当時と現在では時代背景も違いますが、生徒それぞれ3年間という限られた時間の中で、仲間と出会い、一緒に考え、物事を組立てパフォーマンスに繋げていくということは共通です。生徒にはそういった青春の一コマ一コマの大切さを伝えていければ良いと思っています。

Ⅱ.具体的な活動内容

1.「室内楽部」の概要

(1)設立の経緯

私がお手伝いさせていただいている「室内楽部」は、今でこそ弦楽オーケストラですが、1980年の設立当初は生徒の有志による小規模な弦楽四重奏などの室内楽活動から始まりました。その後徐々に新入生の入部者が増加し、弦楽オーケストラとして活動をするようになったと聞いています。

最近は年によって若干メンバーに増減がありますが、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの計20〜30名程度が参加しています。部の名称は現在も設立当初からの「室内楽部」を受け継いでいます。

(2)活動メンバー

経験者が1学年に1~2名いることもありますが、ほとんどが高校入学後に初めて弦楽器に触れた初心者です。年度末の定期演奏会ではチャイコフスキーやドヴォルザークの弦楽セレナードなどの難曲にも取り組んでおり、抜群の吸収力をみせる初心者メンバーの目覚ましい上達ぶりに驚嘆します。

活動メンバーは1、2年生が主軸で、3年生は受験に備え一線を退きます。卒業後も大学や地域のオーケストラ等で楽器演奏を続けているメンバーも少なくないようです。

(3)指導目標

A.定期演奏会・高校文化連盟演奏会他
生徒たちにとっての活動の最大の目標は、年度末の定期演奏会と、毎年12月に行われる神奈川県高校文化連盟の器楽・管弦楽部門演奏会です。年度末の演奏会は2年生にとって高校での部活の集大成となります。
また高校文化連盟の演奏会では、2020、2021年に相鉄賞を受賞するなど、毎年のように受賞しています。その他、毎年夏に開催される全国高等学校選抜オーケストラフェスタへの参加や、全国高等学校総合文化祭(例年、オーディションに合格した2年生が参加します)などへの参加で他の学校との交流も貴重な演奏機会となっています。
B.学内イベントでの演奏、地域での交流コンサート他
学内の文化祭や新入生歓迎コンサート等での演奏のほか、コロナ禍の前までは老人ホームや地域の小中学校での交流コンサートでの演奏も行っていました。こうしたイベントではモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(*)などのクラシックの名曲の他、ジブリやディズニーなどの映画音楽やJ-POPなど、クラシックに馴染みのない人でも楽しめる曲も演奏します。また入学式や卒業式では、吹奏楽部と合同で管楽器入りの臨時オーケストラを編成して演奏する場合もあります。

生徒達は、上記の各種の公開演奏の場を目標に練習を重ねていく中で、いかに自分たちのイメージを演奏で表現できるか、アンサンブルとしての一体感をいかに高めていけるかを日々試行錯誤し、仲間と協力し合い、活動に取り組んでいます。その結果として本番後の充実感・達成感を得られることは、とても貴重な経験になっているのではと感じています。

*)アイネ・クライネ・ナハトムジーク:W.A モーツァルトの作品の中で最も有名な曲の一つ。正式名称はセレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525。「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」とは小夜曲という意味。

2.指導にあたって

(1)指導の流れ

生徒達の練習は日曜日を除く毎日の放課後ですが、私は月4回演奏指導に参画し、ヴァイオリンの技術指導とTutti(全体合奏)のアンサンブル指導を行っています。

月4回の指導は生徒の曲の仕上がり状況に応じて、パート練習と合奏、個人レッスンを組み合わせて行っています。また、ヴァイオリン以外のパートも、トレーナーの先生を時折お迎えして、パート毎に技術指導をしていただいています。

(2)指導にあたっての留意点

生徒たちが自主的に行う練習方法は
  1. 全員での合奏練習やパート練習
  2. 各パートを1人ずつに絞った室内楽編成で練習
  3. 2年生1年生をマンツーマンで教える通称「ペア練」
  4. 合宿で1・2年生混合で室内楽曲を部内演奏会で披露する など
長い室内楽部の歴史の中で、色々な練習の工夫もでき上がり後輩へと受け継がれています。コロナ禍前は夏に合宿を行っていましたが、現在はコロナ禍で部活動が思うようにできず、さまざまな練習方法をする時間的余裕がない状況となっており、伝統的な練習方法が受け継がれるか難しい状況となっています。

生徒達は、若く体力があるので長時間の練習もあまり苦にならないようですが、社会人になってからも長い間楽器演奏を続けてくれれば良いなと思っているので、なるべく効率的かつ体の負担が少ない演奏姿勢や演奏方法のコツを教えています。
音楽は「再現芸術」なので、音の出し方については多種多様な選択があり得てただ一つだけの正解はありません。したがって、単にリーダー(パートトップ)の弾き方に合わせるということではなく、一人一人が自分でどういう音を出したらその場の音楽に合うかを自ら考えてもらうということを実践しています。

「こういうアプローチがあるよね」とか「なるほど。ではこっちはどうする?」などいろいろメンバー間でコミュニケーションを取りながら、コンセンサスを得ていくという指導を重視しています。多様な価値観がある現代社会においては、音楽演奏に限らずこうした対話と結論の導出のプロセスは大事だと思います。

Ⅲ.課題と抱負

現在の活動については、弦楽オーケストラの生徒達に寄り添い、活動を見守る教員の顧問の先生、指揮者や各楽器のトレーナーの先生方などとの連携が上手くいっていると思います。

現在の最も大きい課題は、コロナ禍の影響で思うように部活動ができないことと思います。地域との交流コンサートができず、演奏を聴いてもらう喜びを味わう機会が減っている事や、今までの伝統で培われてきたユニークな練習方法が受け継がれにくくなっている事が、悩ましいところです。

コロナ感染拡大の状況いかですが、今後も校内・校外双方で地域と連携をとりつつ、いかに生徒達の発表の機会を確保し、なるべく多くの人に演奏を聴いてもらえるようにしていくかが課題だと思います。特に、生徒たちが校内の友達に気軽に演奏を聴いてもらえる機会があったら素敵だなと思っています。

生徒達には、部活動で楽器を演奏する楽しさ、表現することの喜びに出会い、音楽と共に過ごす豊かな時間を味わってもらえたら、指導者としてとても嬉しいです。

弦楽器は、子どもだけでなく大人になってからも幅広い年代で楽しめる楽器です。今の川和高校の生徒達のように活気がありお互いを尊重しあうことができるメンバーが大人になり、地域のオーケストラその他の集まりに入って今までの経験を還元してくれると、現状にも増して地域における音楽文化の裾野が広がると思っています。私としては微力ながら少しでも種蒔きできればと思っております。