生涯学習音楽指導員

活動事例 生涯学習音楽指導員

【事例紹介】お花と音楽のコンサート

(2021年11月19日公開)

生涯学習音楽指導員 池坊華道家 埼玉県 萩原幸子さん

■活動タイトル:お花と音楽のコンサート
■日時:2019年3月~現在
■場所:春日部市正風館、春日部市中央公民館大会議室 他
■対象:小学生とその保護者

■活動内容

1.企画が生まれたきっかけ

音楽大学でピアノを学んでいたころ、演奏に対して悩んでいた時期がありました。いくらテクニックが上達しても音楽表現を深めないと、各作曲家の作品の本質が伝わらないことを知らされました。そのような時期に息抜きのために生け花教室に通い始めたことが最初のきっかけです。

花を生けるにあたり「花の命」について何度も向き合い考えてきました。生け花は「空間芸術」だと思っていました。しかし続けているうちに「花の命」の短さを考えると一瞬で消えてなくなる、それでもその美しさは人の心にいつまでも残る、これは音楽と同じ「時間芸術」ではないかということを強く感じたのです。そこでコロナ禍の今だからこそ命の尊さと美しさを子供たちに知ってほしいと思い、「音楽」と「お花」の融合を思いつきました。

2.ピアニスターズ結成

2019年3月に生涯学習音楽指導員の栗岡一矛さんとふたりでピアニスターズを結成し、6月より春日部市内を中心に活動を始めました。
〈これまでの活動と今後の予定〉
2019年6月30日(日) ほんやく・おんがく1~翻訳が変わると音楽が変わる?~
265名動員
2020年9月10日(木) ほんやく・おんがく2~かえうたと翻訳の違い~
50名動員(コロナ禍)
2020年11月29日(日) 秋のコンサート 156名動員(コロナ禍)
2021年10月26日(火) 埼玉県ふれあい事業参加
(鍵盤ハーモニカとミュージックベルのワークショップ)
2022年1月20日(金)(予定) 生演奏でわらべうたベビーマッサージ(講師・萩原幸子)
2022年2月21日(土)(予定) ほんやく・おんがく3~映画翻訳と映画音楽~
☆そのほか春日部市内で子供のためのワークショップ実施多数
(ヴィオリラ・ミュージックベル・鍵盤ハーモニカ)

3.お花と音楽のコンサート開催

はじめは2021年2月14日に春日部市正風館主催の「きっずぴあ」(子供のための公民館まつり)の一部としてのコンサート開催予定でしたが、コロナ感染拡大により中止しました。下記がその時のチラシです。
注)コンサートがメインなのに企画タイトルが「お花をいけてみよう」なのは、「きっずぴあ」が体験をメインとした企画だったため。
その後、春日部市中央公民館の職員の方に私達の企画内容に興味を持ってもらい、2021年8月6日中央公民館主催の「夏休み子供体験」の枠で単独の企画として採択していただきました。

4月より前回中止した企画「きっずぴあ」の「お花をいけてみよう」と同じ内容での準備に取り掛かりましたが、タイトルはコンサートがメインになるように変更し実施いたしました。その内容をご報告いたします。
  • 〇日時:2021年8月6日(金曜日)13:30~15:30(生け花の体験教室含む)
  • 〇会場:春日部市中央公民館 大会議室(定員66名・現在33名)
  • 〇対象:小学生とその保護者 25名募集(25名満席)
  • 〇内容:音楽と共に生け花のデモンストレーションを楽しんでいただくコンサート。コンサート終了後、生け花の体験教室。
  • 〇演奏者:池坊華道家 菊池真理
    ヴィオリラ(注1) 栗岡一矛
    ピアノ        萩原幸子
    注1:ヤマハ株式会社が開発した大正琴を基にした鍵盤を有する弦楽器。ピックで弾いたり、弓で弾いたりすることができる。

A.オープニング

☆『カイト』(米津玄師曲 NHK2020応援ソング ヴィオリラソロ)

B.バラについて

♪子供たちになじみ深い「バラ」についての解説
♪生花正風体三種生けデモンストレーション
☆森のスケッチop.51より『野ばらに寄す』(マクダウェル曲 ピアノソロ)
ここでは、私がひとりで解説・生けこみ・ピアノソロ演奏をしました。バラを題材に決めた理由は、クラッシック作品にはシューベルトに代表されるように「野ばら」を題材に作られている曲が多いからです。バラを題材にすることは前々から自分の中で決めていました。
野ばらを生け花で使うことはあまりないので、今回は西洋バラを使って生けました。誰でも知っており多様性のある花なので、解説でも楽しんでもらえると思いました。「野ばらに寄す」を選曲した理由は、「野ばら」の素朴で穏やかでさわやかなイメージを伝えたかったのです。
それにはこの曲のイメージがぴったりだったからです。またこの曲は上達した子供が弾けるピアノ曲なので、興味付けとして良いと思いました。

C.みんなで生けよう

近隣の皆様からご自宅の庭の花をご寄付いただき、ひまわりをメインに身近な花を使って会場全員で生ける。
☆ひまわりの約束 秦基弘 ヴィオリラ・ピアノ

ここでは、一つの作品を会場全員で生ける事を目的に設定しました。自分が生けたもの(有形)が音楽のイメージ(無形)と一致するという体験をしてほしいと思いました。
真夏の開催でしたので、花材をひまわりにしたことから『ひまわりの約束』を選曲しました。その意図は子供のためのコンサートなので、子供たちに知られてる人気のある曲を選びました。ひまわりの印象が強く伝わったと思います。

D.プロの華道家による日本の伝統花

<生花一種生け>

☆さくら・荒城の月 ヴィオリラ・ピアノ

ここでは日本の伝統音楽を聴いていただくことを目的として伝統花キク科のリヤトリスという花を先生に選んでいただき生けていただくことをお願いしました。

ヴィオリラを使ったコンサートなので琴の音色を楽しんでもらえるよう『さくら』と『荒城の月』をメドレーで選曲しました。

<自由花>

☆映画 アラジンより ア・ホール・ニュー・ワールド(アラン・メンケン曲)ヴィオリラ・ピアノ
ここでは、最初に選曲をしました。子供のためのコンサートなので子供たちがよく知っていて人気のある曲を数曲選曲、その中から、華道家の先生が生けるイメージができる曲に決めました。自由花なので自由な発想で、アラジンの世界を表現していただきました。

E.エンディング

☆くるみ割り人形より『花のワルツ』(チャイコフスキー曲)ヴィオリラ・ピアノ
*アンコール
『おはながわらった』(保富康午・詞、湯山昭・曲)を手話で会場の皆さんと一緒に歌いました。
コロナ禍で、みんなで歌うことは難しいので、手話で歌うというのは時代に合った方法だと思います。

F.コンサート終了後の体験教室

体験教室では、子供たちに生け花を体験していただきました。
花材)ひまわり・ソリダゴ(注2)・ヒぺリカム(注3)とご寄付いただいた花

注2 北アメリカに分布するキク科の多年草で黄色い花を咲かせる。
注3 オトギリソウ属で半落葉性低木。夏に黄色い花を咲かせ、秋に赤い実を実らせる。

4.成果

子供の様子とアンケートより
  1. 身近な音楽によって固いイメージの生け花をやわらげた印象がある。
  2. 子供たちが自由にイメージを持って生ける様子が見られた。
  3. 有形の生け花のおかげで、無形の音楽のイメージが広がった。
  4. 音楽によって生け花への親しみがわいた。
花に触れる機会が少ない子供たちにとって、身近な花を馴染みのある音楽を聴きながら自分で生けることができることは、音楽が「花を感じる心」を手助けしていたように感じました。

私たちのテーマ「花と音楽」融合の相乗効果がよく表れていたことを嬉しく思います。体験会では、イメージを持って生ける子供たちの様子が見られました。

5.広報宣伝について

以前中止になった春日部市正風館・実施した春日部市中央公民館とも春日部市の企画として取り上げていただいたので、市の広報、公民館だより、市の広報関係の市内の掲示板、近隣小学校へのチラシ配布、春日部市SNS等を使って広く広報していただきました。

6.課題と抱負

〈開催時期について〉

今回の企画は「夏休み子供体験」ということで、真夏の実施でした。
結果としてできれば花が保つ時期、花の種類が多くある時期に実施できると準備が楽だったと、スケジュールを設定する上で勉強になりました。

〈内容について〉

コンサートでは、『音楽はBGMではなく、生け花と同じ立ち位置であること』を特にこだわっていましたが、実際は曲の長さと生ける時間が合わず、演奏を繰り返さなくてはいけない場面が生じてしまいました。

今後は曲の長さと生ける時間を考慮し、下準備が必要な花は半分生けていただき、時間の調整をする方法がよいことを学びました。
今回は「子供のための企画の枠」で取り上げていただいたので子供のためのコンサートになりましたが、実は大人の方からの問い合わせも多く、今後は大人向けのコンサートも考えていきたいです。そのためには幅広い選曲も検討課題の一つです。

〈公民館について〉

どこの地域でも同じ状況だと思いますが、若い方が公民館になかなか出向かないことで、広報が一部の方向けになってしまっているところが今後の課題だと思います。

今回は満員御礼になりましたが、時期によっては難しいことも多いです。多くの方に周知していただけるSNS等を使った方法も考えていく必要があると思います。

■今後継続していく上での夢

クラッシック音楽は一般的には敷居が高い印象を持たれてます。しかし目に見えるイメージ(生け花)と聴くイメージ(音楽)が一致すると、より分かりやすく、聴きやすくなるので、普段クラッシックを聴かない方には興味付けとなり、良い手段ではないかと実感しています。

また日本の伝統芸術の「生け花」や「邦楽」を普及していく上で次世代の子供たちに興味を持ってもらうことは大事だと思います。今回はピアノとヴィオリラを使った西洋音楽寄りのコンサートでしたが、邦楽器を使って洋楽器とのコラボレーションは、より日本文化の魅力を広く知っていただくにはよいと思います。私の今後の目標は、このコンサートを海外で開催することです。

有形と無形のコラボレーションは、言葉が通じなくても日本を知っていただくには分かりやすいコンサートではないでしょうか。そのためにも、音楽も生け花もより自己研鑽に励むことが、今後の私の課題です。

最後に、ご協力いただいた先生方、中央公民館職員様、ありがとうございました。

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