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協議会 活動事例

【事例紹介】「芸に終わりなし・一生が勉強」60年の軌跡

(2021年11月29日公開)

全国生涯学習音楽指導員協議会 大阪支部会員
箏曲、三弦教授 河内長野市三曲協会会長 菊伊祇京子さん

■活動タイトル:「芸に終わりなし・一生が勉強」60年の軌跡
■日時:1959年より箏を始める
1964年から現在に至るまで教授活動が始まる
■場所:大阪市 国立文楽劇場
河内長野市 河内長野市立文化ホールラブリーホール
河内長野市 国際交流会館キックス
富田林市 富田林市立文化ホールすばるホール
吹田市 吹田市立文化会館メイシアター
鳥取市 とり銀梨花ホール
■対象:趣味層から演奏家を目指す方々まで

■活動内容

1.お箏との出会い

昔から習い事は6歳の6月6日からといわれる邦楽の世界ですが、私は稀有なケースです。18歳の頃、友人のお箏のお稽古に興味本位でついて行き、そこで聴いたお箏の音色と長老の先生の指導に対する真剣な眼差しを見て感動いたしました。

兼ねがね、「何か一生を通じて続けていけることに関わりたい」、「生き甲斐を見つけたい」と思っておりましたので、その時に心が呟き、「お箏は弛まずに続けていける」と、確信にも似た想いを持ったのがきっかけです。

たまたま大阪は地歌(*1)発祥の地であったことも大きかったと思います。日本で一番歴史のある邦楽団体の本部があると知り、そこから修業が始まりました。

当時の皆様は優雅なお嬢様の稽古で、しばし音の世界を楽しんでいると見受けられ(後で知った、両家の子女の三つの条件はまず ⅰ.お琴が弾けること ⅱ.和歌が詠めること ⅲ.書を嗜むこと)ましたが、負けず嫌いの私は次々楽譜をむさぼり弾き、他のお筝仲間より羨望のまなざしで見られていました。

大阪ではプロを目指すなら普通稽古の三倍多く通うように言われ,私の10年は他の人と比較すれば30年修行したことになるような日々、今では考えられない若さ故の頑張りでした。最初から趣味の域でなく、一生の仕事と決めたことなので我武者羅に頑張れました。

*1 地歌:上方歌と呼ばれる三味線の弾き歌いによる音楽。地歌は純粋に上方で育った芸能。古典地歌の中には、百人一首の沢山の句が題材になっている。

2.目的

心の豊かさ、明日に繋がる新しい何かを求めて、自分自身を生き生きとお稽古を始めていただく事が目的です。

3.音楽家、指導者としての信念と指導にあたっての心構え

私は箏曲・地歌三絃師匠として長年演奏活動と後継者育成のための指導のエネルギーを、いつもフィフティ・フィフティと決め古典地歌三絃・箏曲という伝統音楽を守り伝えて来ております。

しかし邦楽の封建的な世界の中で西洋音楽を融合して、現代音楽という新しい道も開拓すべき責任を感じながら過ごしてきました。

特に最初の修行は初代菊伊都美津江師、後、故・人間国宝の菊原初子師でしたから、地歌に魅せられ、地歌の心を会得すべく勉強してきました。

私の信念とは「芸に終わりなし、一生が勉強」を信条に、60年ほど続けております。

61歳の時、この信念の基、無謀でしたが、演奏、指導活動を続けながら大阪芸術大学に入学しました。「原点に戻って学びたい」という気持ちでした。

この経験を通して理想ほど人間の心を勇気づけ、積極的に行動する事、学び続けることの大切さを教えてもらいました。また音楽の奥義を追求できたことは、私の宝になっています。

卒業式での学長の言葉「日夜、美しいものを求め続けてきたことは、芸術に対する心はどの様な時代でも通用すると確信できます」という言葉に感銘を受け、今まで指導者の立場であった私が学生として教えていただく立場であったことは新鮮でした。

4.師匠の教訓

次の言葉は師匠が100歳を迎えられた時の言葉です。私の日々の生活や指導においての教訓となっておりますので少しご紹介いたします。
  • 「百歳(ももとせ)を迎えし今日の喜びは、道一筋と弟子ありてこそ」
  • 「道一すじ」「絃一すじ」「芸一すじ」「一生が勉強」
  • 「上方地歌ははんなりと」
  • 「盗人は(ぬすっと)はあきまへんけど、芸は盗みなはれや」
  • 「芸の子はよろしいな」生徒は子供と、「世の中(緩」ゆるうなりましたな」
  • 「生涯現役で芸を教えなあ」
    又、演奏に際しては暗記する事を次のように、うるさくおっしゃりました。
  • 「あんさんらは、池の鯉みたいに譜,譜、言うて」、「あんさん、おかわりごわへんか。あて、よう食べますねん」(先生とは42歳も年齢差がありますがよく食べられました)
    先生は100歳まで舞台に立たれました。同じ舞台にたちました。

5.地歌は一番大切な古典芸術

地歌は上方(かみがた)地方で行われた芸術な三味線組歌の総称で、地歌の最古のものは三味線組歌なのです。三絃組歌は32曲あり、これに箏組歌49曲を加えた組歌81曲がありますが、これを全曲我が師匠菊原初子先生が全部伝承され、地歌保存の功績が認められて1979年に人間国宝に認定されました。

私も箏組歌・三味線組歌の両巻の伝授を受けていますので弟子たちに伝えていく責任を持って勉強し伝えています。巻物の系図には、箏の元祖である八橋検校から始まり現在に至るまでの長い重たい巻物は私の宝です。

意欲的に古典を勉強してみると、行きつくところは三味線組歌・箏組歌で、一番大切な古典芸術です。正確に勉強し正しく伝承して、日本の邦楽の素晴らしい音楽が伝えられてきたことに、誇りもって進みたいと思っています。

西洋のバッハ、ベートーベンより早い時代に活躍した八橋検校から長い時代に伝承された日本の音楽芸術は素晴らしいと豪語したいです。ちなみに八橋検校は1614年生まれ、バッハは1685年です。

    

6.主な活動の軌跡

  • 1964年 地歌三絃・箏曲教室『菊祇会』設立、設立記念日6月6日、現在の菊祇会稽古場は【菊祇庵】
  • 1965年 なにわ芸術祭、於:サンケイホール現在ブリーゼ。国立文楽劇場、2005年第42回「桜川」
  • 1970年 大阪万国博覧会にて15日間100人合奏、当道音楽会会員
  • 1971年 当道音楽会定期演奏会、於:毎日ホール現在は国立文楽劇場、2020年、2021年(140回)はコロナで無開催
  • 1975年 河内長野三曲協会設立、河内長野市文化連盟設立1954年の歴史なので文化連盟46回より参加、2021年は67回
  • 1979年 NHKFM放送 曲目:地歌『御山獅子』『茶音頭』『四季の眺』『笹の露』、箏曲『三つの景色』『嵯峨の秋』など
  • 1985年 吹田三曲協会設立、第1回、於:メイシアター、今年(2021年)は第36回です
  • 1989年 堺市仁徳天皇量の横大仙公園日本庭園の茶室完成記念演奏、菊祇会7人での演奏風景は庭園のパンフレットに掲載されています
  • 1993年 (財)伝統文化活性化国民協会事業「伝統文化子供教室」に取り組む
  • 1995年 大震災復興の街へ(当時の皇后さまの希望で)於:明石市民ホール
  • 1996年 楠公祭・楠木正成縁の地高野山真言宗観心寺にて演奏
  • 2000年 人間国宝菊原初子百歳記念地歌箏曲演奏会、於:国立文楽劇場
  • 2000年 同期の桜を歌う会、於:大阪護国神社、2017年まで17年間祭壇で演奏、1989年初会
  • 2005年 公民館事業、箏曲地歌三弦教室、「琴弦会」設立
  • 2007年 河内長野市文化会館ラブリーホール会館15周年記念事業
  • 2011年 東日本大震災復興支援邦楽チャリティーコンサート、2021年で11回
  • 2013年 高齢者大学校特別公開講座、於:なにわのみやホール
  • 2013年 地歌箏曲研修会第1回、於:国立文楽劇場、2021年7回
  • 2013年 師籍50周年地歌箏曲演奏会(洋楽器とのコラボ演奏を含む)
    生涯学習で御世話になりました東京芸大の大政直人先生がこの会を一人でプロデュースして開催したことを日本でもいや世界でも誰もいないでしょうと絶賛してくださいました。過去に師籍33周年記念、39周年記念を成功しています
  • 2015年 古典の日普及啓発事業、於:ラブリーホール「雪」「六段」
  • 2015年 奥河内ライティングショー、於:観心寺
  • 2018年 和文化伝承協会邦楽演奏、於;御屋敷再生照合ショップ『練』
  • 2019年 チェロとのジョイントコンサート
  • 2019年 島之内芸能文化協会5周年、於:有栖川侯爵別邸サロン・アリス座敷

  • <海外公演>
    ニュージーランド(建国150周年)、オーストラリア(オペラハウス)、アメリカ(カネギーホール、アートフェスティバル)、スイス(ローザンヌ音楽祭)、イタリヤ(ローマ法王謁見)、中国(国賓)、タイ、マレーシア、ドイツ(文化財団研修)、インド(チェンナイ小学校建設金寄付した竣工式に)、モンゴル(国際会議でレクチャー)、ポルトガルなど


    7.課題と今後の抱負

    伝統とは何か? ということを言い表すことは難しいです。ある辞書によれば「世代を超えて受け継がれた精神性」とか「人間の行動様式や思考習慣などの歴史的潜在意識」などといわれています。

    私は伝統文化は先人が残したことを受け継ぎ、切磋琢磨して次世代へ伝承していく事が我々の使命と思い長年演奏、指導を続けてきました。

    国は、伝統文化の継承発展の為、平成14年、学習指導要領の改訂時に学校音楽教育の中に邦楽を取りいれました。平成15年、伝統文化活性化国民協会は文化庁の委嘱を受け「伝統文化子供教室」事業も始まり、子ども達や保護者にとって日本の伝統楽器を見、響きを聴く事により「参加して良かった」「面白かった」など、興味を持ってくれます。

    しかし、現在様々な要因のもと、衰退の一途をたどっています。中心になる担い手(演奏家、楽器屋、楽器製造・メンテナンス者など)の高齢化、感動や魅力を提供する側にとっては、それに対しての対価を得られることが難しいのです。文化がいくら素晴らしくても必要と求められなければ衰退していくのは当然です。

    温故知新を胸に新しい邦楽の世界を広げて行く事は大切と感じます。音楽文化の普及に音楽ジャンルは関係ありません。日本全国には流派は違いますがそれぞれの地域で信念をもちながら頑張っておられる先生方が多いです。

    私もその一人として伝統文化の関りが永遠(とわに)続く事を望みますと共に、縁(えにし)を大切に100歳まで普及啓蒙に尽力したいと思っています。

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