全国生涯学習音楽指導員協議会 栃木・郡馬支部会員 村上陽一さん
■活動テーマ:コロナ禍での吹奏楽・金管バンド活動の挑戦と、新しい価値観への希望
■日時:1999年4月〜現在
■場所:栃木県各所(主に宇都宮市、矢板市、高根沢町)
■対象:小学生〜社会人
■活動内容
当時の宇都宮市の小学校は今で言うところの「部活動のクラブチーム化」が先進的に行われており、通常よくある吹奏楽の全体指導・パート指導などとは違い、地域の保護者が中心に運営するバンドの指導をしつつ運営のコーディネーター的役割も求められました。
「教員の働き方改革」「地域に根ざした音楽文化」というと聞こえは良いのですが、現実は指導者がいなくなって路頭に迷うバンドの世話、という感じでした。昨今、教職員の「働き方改革」を旗印に、全国的にこの傾向は強まっていると感じます。
この様な国の政策指針に加え、コロナ禍という特殊な状況が重なりましたがその中で、どのように工夫しながら複数のバンドと関わってきたかをご紹介いたします。
最初に突き当たる壁は、「どの様に対策をして活動したら安全なのか」ということです。幸いなことに様々な業界団体が安全な活動のガイドラインを示してくださったので、ネット上の情報を参考に手探りで活動を再開しました。主な対策は、
一番感染防止に意識の高いのは小学生です。基本的に、言われたことはきちんと守ります。楽器演奏時はマスクを外しますが、必ずアゴマスク状態にしていて、演奏中以外はもちろん、4小節の休みでもマスクをします。
練習場に出入りするときはもちろん入り口で手指消毒します。そのような行動を約束することにより、保護者の信頼を得て活動しています。
その後、感染者数の増減や緊急事態宣言の発令と解除に合わせて活動したり自粛したりを繰り返し、専門家の方々の情報を頼りに、どうやらこう活動すれば安全のようだ、という光が見えてきました。
そこで、学校に提案し昼の校内放送に演奏の録音を流してもらい、その録音にむけて活動を続けました。ただ録音するのではなく、6年生にラジオのパーソナリティ風にMCをしてもらい、ラジオ番組のように編集したので、バンド以外の児童・教職員にも非常に好評でした。
そして児童たちもその事情を見越してか従来よりも上級生がリーダーシップを発揮し、率先して準備・移動を促す風景が多く見られたのは大きな収穫でした。
今回はヤマハミュージックメディア出版のJBクラブシリーズ(*注1)など、初級者パートがあり耳馴染みのある曲を多く手掛けました。 吹奏楽にありがちな「難曲一曲に集中でコンクール金賞!」ではなく、『聖者の行進』『パプリカ』など、平易な曲を数多く演奏し、子どもたちの集中力が切れないようにしました。
*注1
「JBクラブ」…ヤマハミュージックメディアから出版されている、誰もが知っている楽しく親しみのある曲をモチーフにした、易しく負担なく演奏できる曲集です。 小学校の金管バンド編成を基準に、木管・打楽器パートを追加して吹奏楽編成でも楽しめる構成になっており、小学生でも無理のない音域で演奏することができます。
現在、私は2つの社会人バンドに関わらせていただいています。
「高根沢ウインズオルケスタ」
栃木県高根沢町を拠点に週1回(2時間程度)活動しています。高校生から入団でき、現在30人程度の団員が所属しています。2016年に高根沢町在住・在勤・在学者限定の公民館講座として発足しましたが、2018年からは講座から独立し社会人バンドとして活動しています。
公民館講座から引き続き参加している町民の方もいれば、その後ホームページやSNSを通じ団員募集を行い、近隣の自治体の方も多く入団されています。また地元の学校吹奏楽部と交流コンサートを行い、卒業後入団してくれた方もいます。
「山の音楽団」
2020年コロナ禍の中、発足しました。当時、職場の関係や家族への遠慮で大人数が集まるバンド活動には参加しにくい、または所属しているバンドは練習会場の人数制限の関係で使用できないという状況が続いていました。
そんな中、少人数ならば会場使用に問題がないのでは、と有志8人でアンサンブル集団を作ったのが発端でした。その後会場使用の制限が緩和され、知人なども加わり現在は10人程度の団員でアンサンブルを楽しんでいます。練習は週1回2時間程度、栃木県さくら市などを中心に活動しています。
両バンドとも、決してコンクール等を否定するという意味ではありません。ただ、どうしてもコンクール参加となると準備・移動・参加費等に時間と費用・人員が多くかかり、それが社会人バンドに参加するハードルを高めてしまっている部分があります。そうではなく、カジュアルに楽器演奏を楽しめる場を作り、そうすることによってプレイヤー人口を増やし、吹奏楽活動の裾野を広げて行くことが重要ではないかと考えています。
最近はメンバー減少によるパートのバラツキがあっても演奏可能な「フレキシブル編成」(*注2)という楽譜が多く出版されているので、そちらを主に取り組まざるを得ない状況でした。
ただ、参加しているメンバーで声部の抜けがないようにパート分けをしなくてはいけないので、工夫する必要がありました。楽器によっては無理のある音域になってしまうこともあるので(個々のスキルに依りますが)、そこへの配慮も必要でした。
*注2
「フレキシブル編成」…1つの声部に複数の楽器が割り振られており、一般的な吹奏楽編成の一部の楽器が欠けていても演奏可能な楽譜。近年少子化の影響による吹奏楽部員の減少などにより大編成の吹奏楽の演奏が難しくなっていることを受けて、各出版社より販売されています。
また、職場から複数人の会合に参加を禁じられた方も多く、練習を欠席、または退団・休団となる団員も多く、非常に辛い現状でした。辛うじて野外演奏の本番や、客席を大きく制限した本番ができたのが幸いでした。
本当にこのコロナ禍というのは、我々の社会を分断していると感じます。従来通りの活動ができず、また練習自体に参加できず、はたしてここまで苦労をして活動すべきなのだろうか、という思考も出てきます。 ワクチン接種が進み、経済活動再開がゴールなのでしょうか。ある意味、これが我々社会人バンドのみならず、音楽などの趣味を愛好する社会人共通の目標なのかも知れません。
これは流石に外部指導員にはハードルが高いので、吹奏楽部担当の先生に内部の連絡・調整をお願いする必要があります。
そうなると、音楽に対する知識、指導についての知識経験と同様またはそれ以上に、学校サイド、生徒(および保護者)とのコミュニケーションスキルがとても重要視されます。 どうも外部指導員というと、『金賞請負人!結果を出すために猛進!』というイメージが強く、生徒や保護者からはそのような振る舞いを期待される雰囲気もありますが、 現実は決してそうではなく、生徒が音楽を楽しむ、また音楽を通じて演奏技術を高める中で、組織マネジメントやコミュニケーションスキルを高めるような活動環境をコーディネイトする必要があります。
このような、言わば「新しい価値観」を生徒・保護者とともに理解し、その価値観をきちんと実践する組織を構築、運営していきたいと考えています。
全国の同じようなご経験をされている先生方、ぜひ情報交換をさせていただければ幸甚です。
■活動テーマ:コロナ禍での吹奏楽・金管バンド活動の挑戦と、新しい価値観への希望
■場所:栃木県各所(主に宇都宮市、矢板市、高根沢町)
■対象:小学生〜社会人
■活動内容
1.活動の背景
中学校で吹奏楽に出会い、その魅力に取りつかれ吹奏楽指導者を志ざし、専門学校へと進み指導法を中心に勉強してきました。卒業と同時に同郷の先輩指導者からお声がけをいただき、地元栃木県の宇都宮市の小学校の全体指導をするようになりました。当時の宇都宮市の小学校は今で言うところの「部活動のクラブチーム化」が先進的に行われており、通常よくある吹奏楽の全体指導・パート指導などとは違い、地域の保護者が中心に運営するバンドの指導をしつつ運営のコーディネーター的役割も求められました。
「教員の働き方改革」「地域に根ざした音楽文化」というと聞こえは良いのですが、現実は指導者がいなくなって路頭に迷うバンドの世話、という感じでした。昨今、教職員の「働き方改革」を旗印に、全国的にこの傾向は強まっていると感じます。
この様な国の政策指針に加え、コロナ禍という特殊な状況が重なりましたがその中で、どのように工夫しながら複数のバンドと関わってきたかをご紹介いたします。
2.具体的な活動内容
(1)コロナ禍になっての活動の変化
2020年3月あたりからの活動自粛で、ほぼ3〜4ヶ月は休止しました。その後、栃木県内では自治体毎の感染状況等により差異がありますが、6・7月頃より限定的ながら活動が再開できました。最初に突き当たる壁は、「どの様に対策をして活動したら安全なのか」ということです。幸いなことに様々な業界団体が安全な活動のガイドラインを示してくださったので、ネット上の情報を参考に手探りで活動を再開しました。主な対策は、
- 管楽器は必ずペットシートを使用し、楽器から出る水分に十分気をつける
- 管楽器のマウスピースは中性洗剤を希釈した水が入ったバケツに5分漬け洗いする
- 打楽器のスティック等はもちろんのこと、管楽器も持ち替えなどはしない
- 練習場、楽器置き場の導線を見直し、対面通行にならないようにする
その後、感染者数の増減や緊急事態宣言の発令と解除に合わせて活動したり自粛したりを繰り返し、専門家の方々の情報を頼りに、どうやらこう活動すれば安全のようだ、という光が見えてきました。
(2)各団体への対応の工夫
私は小学生から社会人まで幅広い世代のバンドに関わっています。その二つの団体の活動をご説明いたします。●小学生バンド
現在バンドメンバーは2年生から6年生までの21人で構成されています。A.目標
2021年になって各種大会は制限のもと開催されていましたが、安全を考慮し大会などには不参加としました。通常必ず地域のイベント・校内行事での演奏にウエイトを置く活動をしていた我々には目標がなくなるという危惧がありました。そこで、学校に提案し昼の校内放送に演奏の録音を流してもらい、その録音にむけて活動を続けました。ただ録音するのではなく、6年生にラジオのパーソナリティ風にMCをしてもらい、ラジオ番組のように編集したので、バンド以外の児童・教職員にも非常に好評でした。
B.指導の工夫
コロナ以前とコロナ後の圧倒的な違いは、消毒・間隔を空けた配置・練習後の除菌など、準備と片付けに大きく時間を割かなくてはならない、という点です。 楽器の準備と片付けには余裕を持った対応が求められるので、楽器練習に割ける時間が大幅に減りました。今までの基礎練習を見直し時短を図り、また合奏を少なめにして天候が良い日は外でパート練習などを行い、密を避けつつ効率のよい指導を心がけました。そして児童たちもその事情を見越してか従来よりも上級生がリーダーシップを発揮し、率先して準備・移動を促す風景が多く見られたのは大きな収穫でした。
C.扱っている曲
一生懸命演奏していますが、さすがに高い音・早いパッセージは厳しいです。本来、子どもたちの演奏したい曲を募って演奏しますが、やはり流行りのポップスが多いです。今回はヤマハミュージックメディア出版のJBクラブシリーズ(*注1)など、初級者パートがあり耳馴染みのある曲を多く手掛けました。 吹奏楽にありがちな「難曲一曲に集中でコンクール金賞!」ではなく、『聖者の行進』『パプリカ』など、平易な曲を数多く演奏し、子どもたちの集中力が切れないようにしました。
*注1
「JBクラブ」…ヤマハミュージックメディアから出版されている、誰もが知っている楽しく親しみのある曲をモチーフにした、易しく負担なく演奏できる曲集です。 小学校の金管バンド編成を基準に、木管・打楽器パートを追加して吹奏楽編成でも楽しめる構成になっており、小学生でも無理のない音域で演奏することができます。
D.児童の反応
前述の録音や、感染者数が下降している時期に開催されたイベント等で演奏することができたことは非常に良かったです。特に、録音というのは「撮り直しすればするほど出来が悪くなる」というマイナス志向に陥ることもあり、 やはり一発本番と同じ集中力が大切だね、と児童と確認することができました。とてもよい経験になりました。●社会人バンドに対して
「高根沢ウインズオルケスタ」
栃木県高根沢町を拠点に週1回(2時間程度)活動しています。高校生から入団でき、現在30人程度の団員が所属しています。2016年に高根沢町在住・在勤・在学者限定の公民館講座として発足しましたが、2018年からは講座から独立し社会人バンドとして活動しています。
公民館講座から引き続き参加している町民の方もいれば、その後ホームページやSNSを通じ団員募集を行い、近隣の自治体の方も多く入団されています。また地元の学校吹奏楽部と交流コンサートを行い、卒業後入団してくれた方もいます。
「山の音楽団」
2020年コロナ禍の中、発足しました。当時、職場の関係や家族への遠慮で大人数が集まるバンド活動には参加しにくい、または所属しているバンドは練習会場の人数制限の関係で使用できないという状況が続いていました。
そんな中、少人数ならば会場使用に問題がないのでは、と有志8人でアンサンブル集団を作ったのが発端でした。その後会場使用の制限が緩和され、知人なども加わり現在は10人程度の団員でアンサンブルを楽しんでいます。練習は週1回2時間程度、栃木県さくら市などを中心に活動しています。
A.目標
社会人バンドと一言で言っても、その活動内容・方針はバンドによって多種多様です。私は2つほどの団体に関わっていますが、2つともコンクール等の大会には参加せず地域のイベント演奏や自主公演を開催して活動しています。両バンドとも、決してコンクール等を否定するという意味ではありません。ただ、どうしてもコンクール参加となると準備・移動・参加費等に時間と費用・人員が多くかかり、それが社会人バンドに参加するハードルを高めてしまっている部分があります。そうではなく、カジュアルに楽器演奏を楽しめる場を作り、そうすることによってプレイヤー人口を増やし、吹奏楽活動の裾野を広げて行くことが重要ではないかと考えています。
B.指導の工夫
一番の問題は、パート(楽器)による参加メンバーの偏りでした。せっかくの本番があっても参加メンバーが0のパートもあり、非常に頭を悩ませました。最近はメンバー減少によるパートのバラツキがあっても演奏可能な「フレキシブル編成」(*注2)という楽譜が多く出版されているので、そちらを主に取り組まざるを得ない状況でした。
ただ、参加しているメンバーで声部の抜けがないようにパート分けをしなくてはいけないので、工夫する必要がありました。楽器によっては無理のある音域になってしまうこともあるので(個々のスキルに依りますが)、そこへの配慮も必要でした。
*注2
「フレキシブル編成」…1つの声部に複数の楽器が割り振られており、一般的な吹奏楽編成の一部の楽器が欠けていても演奏可能な楽譜。近年少子化の影響による吹奏楽部員の減少などにより大編成の吹奏楽の演奏が難しくなっていることを受けて、各出版社より販売されています。
C.扱っている曲
前述の理由から、選曲は条件が限られました。またイベント演奏が主ですので吹奏楽オリジナル曲やクラシック曲ではなくポップスが中心となりますので、メンバーによっては選曲に不服な部分があったかと思います。 ただ、「山の音楽団」は偶然編成が「シュピール室内合奏団」に近い編成であったので、シュピール室内合奏団版の出版譜が演奏できました。- 演奏曲(高根沢ウインズオルケスタの場合)
『ジョン・フィリップス 〜Sousa’s Pieces』(スーザのマーチ・メドレー。フレキシブル版)
『め組のひと』、『虹』など。 - 演奏曲(山の音楽団の場合・すべてシュピール室内合奏団版)
『春の猟犬』、『カタロニアの栄光』、『ギンギラギンにさりげなく』など。
D.メンバーの反応(というか取り巻く環境)
ほとんどの演奏機会は中止・延期となりましたので、非常に厳しかったです。また、前述の学生バンドと違って地域の公民館・多目的ホールなどを借りて活動している関係で、施設が感染症拡大予防のため貸出中止になることが多く、活動時間が大きく制限されました。また、職場から複数人の会合に参加を禁じられた方も多く、練習を欠席、または退団・休団となる団員も多く、非常に辛い現状でした。辛うじて野外演奏の本番や、客席を大きく制限した本番ができたのが幸いでした。
本当にこのコロナ禍というのは、我々の社会を分断していると感じます。従来通りの活動ができず、また練習自体に参加できず、はたしてここまで苦労をして活動すべきなのだろうか、という思考も出てきます。 ワクチン接種が進み、経済活動再開がゴールなのでしょうか。ある意味、これが我々社会人バンドのみならず、音楽などの趣味を愛好する社会人共通の目標なのかも知れません。
3.今後の展望と抱負
(1)国の「働きかた改革」政策
私は現在、前述の小学校バンド、社会人バンドの他に、県立校の部活動指導員として県立校の吹奏楽部の指導に携わっています。教員の働き方改革、部活動の地域クラブ化などの流れの一環で制度化されました。 制度上は従来の外部指導員とは違い教育委員会から辞令を受けた役職であり大会等の引率が可能、とのことですがまだ制度自体ができて日が浅いため、諸々の調整が必要なことが多いと感じます。(2)学校、保護者、生徒の調整役として
部員数が少ない小規模の活動ならまだしも、吹奏楽部となると数十人が動きます。また体育館や屋外施設を使用する運動部と違い、校舎内の音楽室・多目的室または一般教室を使用するため、どうしても職員室内の先生方との調整が必要です。これは流石に外部指導員にはハードルが高いので、吹奏楽部担当の先生に内部の連絡・調整をお願いする必要があります。
そうなると、音楽に対する知識、指導についての知識経験と同様またはそれ以上に、学校サイド、生徒(および保護者)とのコミュニケーションスキルがとても重要視されます。 どうも外部指導員というと、『金賞請負人!結果を出すために猛進!』というイメージが強く、生徒や保護者からはそのような振る舞いを期待される雰囲気もありますが、 現実は決してそうではなく、生徒が音楽を楽しむ、また音楽を通じて演奏技術を高める中で、組織マネジメントやコミュニケーションスキルを高めるような活動環境をコーディネイトする必要があります。
このような、言わば「新しい価値観」を生徒・保護者とともに理解し、その価値観をきちんと実践する組織を構築、運営していきたいと考えています。
全国の同じようなご経験をされている先生方、ぜひ情報交換をさせていただければ幸甚です。