活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】音楽家と地域活動家の『翻訳者』でありたい〜地域音楽コーディネーターは私のライフワーク

(2022年02月14日公開)

地域音楽コーディネーター、音楽教室主宰 東京都足立区 檜垣由紀さん
足立区江北地域学習センターにてミニコンサート中
■活動タイトル:「音楽家と地域活動家の『翻訳者』でありたい〜地域音楽コーディネーターは私のライフワーク」
■地域活動・音楽活動を開始した年:地域活動―1997年~現在に至る 音楽活動―2000年~現在に至る
■場所:東京都多摩市・八王子市(多摩ニュータウンエリア)、現在は足立区
■対象:地域住民

■活動内容

1.活動を始めた経緯と具体的な内容

~「地域活動」をしていなかったら「音楽」を仕事にすることはなかった~

(1)多摩ニュータウンエリア在住時代

現在エレクトーン・ミュージックベル講師として活動していますが、私は音大出身ではありません。法学部政治学科で「地方自治」を研究し、大学院に進学し、総合政策研究科でも「生活圏と行政区界の不一致」に関する問題点を研究していました。

大学・大学院時代に研究の一環として参加させていただいていたNPO団体「フュージョン長池」が法人化することとなり、そのNPO法人立ち上げの一員として法人登記の書類を作成し、法務局で手続きをしました。

八王子市の多摩ニュータウン地区で活動する「まちづくりNPO」でもある「特定非営利活動法人NPOフュージョン長池」の事務局スタッフとして、地域の団地の夏祭り「長池ぽんぽこ祭り」の運営実行事務局も担当させていただきました。

この「長池ぽんぽこ祭り」の中で、このエリアにお住まいのエレクトーンの先生方が開催していた野外演奏に飛び入り参加させていただいたことが、私が「音楽を仕事にする」第一歩になったのです。

その頃、野外演奏スタッフをされていた楽器店の営業の方に「うちのjet(全日本エレクトーン指導者協会)に入らない?」と声を掛けていただいたことがきっかけとなり、2000年にjetの会員として入会しました。

jetの研修の一環として受講した「ミュージックベル」、全日本ミュージックベル連盟の認定講師となり、すぐに八王子市立長池小学校の放課後活動として「長池ミュージックベルバンド」を担当させていただきました。

約10年に渡り、200名以上の小学生とそのお母さま方と、ミュージックベル演奏を楽しんできました。「長池ぽんぽこ祭り」での演奏も毎年行わせていただきました。

(2)足立区在住になってから

結婚して多摩ニュータウンエリアから足立区に移り住んでからも、地域の音楽活動に少しでも還元できることがあれば…と。

  • ①2012年12月から「足立区江北地域学習センター」にて「ミュージックベルミニコンサート」を担当させていただくようになりました。月1回のミニコンサートに足を運んでくださった方に、もっとミュージックベルを体験してほしい! と、今では「ミュージックベル体験サロン」も月1回実施させていただいています。

    コロナ禍に入ってからは実施できていませんが、足立区江北地域学習センターの秋祭りでは、地元のフルートの先生と一緒にコンサートを開かせていただいたりもしていました。

  • ②足立区佐野地域学習センター(ミュージックベルクリスマスコンサート)、足立区江南コミュニティ図書館(ミュージックベルミニコンサート)などでもミュージックベルの演奏を担当させていただきました。

  • ③2019年には足立区で活動する音楽団体および足立区出身・在住の音楽家が主催・運営をする「足立区音楽祭」にも実行委員・演者として参加させていただきました。
  • ④2020年2月には「ベニースーパー佐野店」(足立区佐野)の店頭で「ミュージックベル演奏会」を実施させていただきました。季節柄「ひなまつり」をテーマに演奏しました。
  • ⑤2021年10月には足立区六町の「六町公園」で行われた「六町つながるフェスタ」に初参加をさせていただき、エレクトーンの野外演奏と体験会を実施させていただきました。

    インスタグラムからお声掛けをいただくという、なんとも今っぽい体験でしたが、地域密着型のイベントに参加させていただけたこと、とてもいい経験になっています。

2.イベントを通じて体感した「音楽家(演奏者)」と「運営」の違いと、難しさ

下記の3つのケースでご紹介します

「ケース1.」演奏家として(公共施設が企画立案から運営まで)―「足立区江北地域学習センターミュージックベルミニコンサート」他

下記の3箇所での演奏がこのジャンルに分類されます
足立区江北地域学習センター ミュージックベルミニコンサート
足立区佐野地域学習センター ミュージックベルクリスマスコンサート
足立区江南コミュニティ図書館   ミュージックベルミニコンサート

最初に「こんな感じでやりたいのですがいかがでしょうか?」と趣旨を説明してくださり、その段階で当日の謝礼や交通費についてのお話もありました。演奏場所の確保、会場の準備等もセンターが行ってくださっています。楽器を運んでいくために車で向かうことが多いですが、駐車場も確保してくださっているケースがほとんどです。

「演奏者」の立場としては、一番やりやすいケースに当たると思われます。

足立区江北地域学習センターでの「ミュージックベル体験サロン」は、企画段階から「こんな感じのことをしてみたいのですが」とお話をさせていただきました。少しではありますが、演奏者側から企画を発信した形になります。

「ケース2.」演奏者が運営を兼任するプレイングプロデューサーとして―「足立区音楽祭」

足立区音楽祭は、「国際音楽の日(10月1日)」の制定を受けて、足立区で活動する音楽団体および足立区出身・在住の音楽家が、区民に向けジャンルを問わない多様な音楽を提供しています。

「演奏者」が実行委員となって、自ら運営をする音楽祭です。「運営」専門のスタッフはいません。足立区は共催として、演奏会場や打ち合わせ場所を提供してくださっています。足立区のホームページでの情報発信も行ってくださっています。

①企画・運営・宣伝・広報

当日のスタッフも全て「演奏者」が行っています。自分の演奏の出番がない時は「運営スタッフ」として、受付から舞台裏まで支えます。そして、別日程・別会場の日も可能な限り運営スタッフとして参加・運営をします。

②当日の運営

舞台監督は存在しませんでした。

「次の演目の準備、舞台裏ここまで進めておかなくちゃ」「出番の演者さんの楽屋に声をかけに行かなくちゃ」などの舞台裏進行をプログラムと進行表片手に進めながら、自分の出番に向けても準備を進めておく必要があります。そして、自分の出番では「演奏者」としてステージに出ていきます。

幸い、jet支部の合同発表会や楽器店講師として、150人以上の生徒を誘導、ステージ補助しながら司会進行し、講師演奏では自らが演者としてステージに上がるケースを数多く経験してきていました。今まで「プレイングプロデューサー」の立場でいなくてはならない環境で、たくさんの舞台を踏んできた経験が、ここでは本当に役に立ちました。

「演奏者」の立場でいるのは、自分のステージの時間のみ。前後の時間のほとんどが運営スタッフとして裏方で支えなくては成立しないイベントです。

「ケース3.」地域活動家が主体のイベントの一員として―「長池ぽんぽこ祭り」「六町つながるフェスタ」

「長池ぽんぽこ祭り」も「六町つながるフェスタ」も、立場的には「出店者」という立場でした。「演奏者」の側面もありますが、まずは他の出店者様と同じ立場であることを大前提として、当日の進行や展開を決める必要があります。

①会場の下見、事前準備

会場の下見にも何度か出向きました。ホールやライブハウスのような「音楽のための場所」ではないため、地面に傾斜はないか、デコボコしていないか…それによって当日どのように楽器を置けばいいか、いくつかパターンを考えておく必要があります。

演奏場所が「公園」です。野外のため、直前1週間ほどはずっと「週間天気予報」を見ながら、当日の準備をしていきます。

周辺にお住まいの方、お仕事をされている方がいらっしゃることもあるので、事前に公園の使用許可をとっていても、周辺事情を頭に入れておかなくてはならないという点もあります。

②楽器の準備と当日の設営

楽器の準備や設営も自分で行うことになりますが、出店者同士で設営を補助しあうことも。持ちつ持たれつ、助け合いつつのスタンスがとてもありがたいし、楽しい場でもあります。

音楽経験者がほとんどいないケースも多いので、びっくりするようなご提案が出てくることもありますが、それをどのように「解釈」するのかも大事な要素になっています。

ご提案のほとんどが、演奏者としては思いつかないようなことばかりです。目から鱗が落ちるようなご提案がとてもためになっています。

新しいチャレンジができるのは、このご提案きっかけのことがかなり多いです。

③地域住民への配慮

「長池ぽんぽこ祭り」は夏場のお祭りだったため、虫よけ対策なども必要でした。大きな公園でのイベントでしたが、周りは閑静な住宅街。団地に囲まれた立地のため、音に関しては夜8時以降の演奏は極力小さな音で行うというプログラムを組んでいました。

「六町つながるフェスタ」は、駅前の公園でのイベント。公園の中でも住宅が隣接する面と、駅のバスロータリーが隣接する面がありました。電源の場所を考えると、住宅側に楽器を置いた方が電源が取りやすいというメリットはありましたが、音の問題も同時に発生してしまうもの。楽器の設置位置や音量など、客観的に聞いていただき、ボリュームを調整していく感じでした。

④内容面の工夫

ずっと演奏し続けるだけでなく、初めてエレクトーンをご覧になる方も多かったため、楽器の説明や簡単な体験会なども合わせて実施できるように、事前に内容を準備しておきました。

3.「音楽家(演奏者)」としての育ち、「地域活動家」としての育ちは「違う」ということ

両方の立場にいたからこそ、いるからこそ、思うことがあります。

音楽の世界では「常識でしょ」と思われていることが、地域活動の場では「そういうものなんですか?」と不思議がられたり、逆もしかり。地域活動の場では「そういうものでしょ」と通用していることが、音楽の世界では「信じられない…」と言われてしまったり。でも、それが「普通」なんだと思います。

その世界では当たり前でも、それが全ての世界で当たり前ではない、ということ。そして、勉強して知識として頭に入っていても、いざ実践の場で直面してみないと分からないということ。

実際に「どうでしょうか?」「やれそうですか?」とお互いがお互いに「聞きあわない」と解決できないことが多く、聞いてみると…その段階で会話が通じない事態に多々直面してしまうということ。これがなかなか難しいところだと思っています。

(1)役割

足立区音楽祭に関しては、ほとんどの方が「演奏家」として参加してきていますので、運営側・スタッフとして何をどうしたらいいのか、難しく感じてしまうケースも出てきます。参加する段階で「スタッフとしても動いていただけますか?」と聞かれても。

でもそれは「演奏家」として育ってきたからこそ。「演奏家」としてのステージに立つのであれば、運営側まで関わる道を通常は通らないからです。

(2)演奏の場所

逆に、地域活動の世界でよく起こることとしては、その楽器をその場所で演奏できるのかどうかの判断に困る方が多いということ。

私が演奏している「ミュージックベル」は、残念ながら野外演奏には向きません。響くことでより豊かな音楽を奏でる楽器でもあるからなのですが、今までかなりの数「野外で演奏してほしいです」という依頼がありました。

また、エレクトーン演奏に関しても、重さが100kg近くある楽器を誰がどう運ぶのか。電源はあるのか、設置場所は平らなのか? ミュージックベルよりは室内外を問わず演奏できる楽器ではありますが、それでも演奏場所はどこでも…という訳にはいきません。

(3)演奏者に対する謝金など

演奏時間は? ギャラは? 会場までの交通費や駐車場代などはどう扱うべき?

演者として招待される場合、それを演奏者側が自ら決めるケースは少ないと思われます(通常は提示されるもの)。そのため、いざ演奏者から質問された時に答えられない…という事態が発生してしまうことになります。

(4)ステージ進行

以前、とある音楽会当日、なんの打ち合わせもなく、事前のリハーサルもなく「出演者の皆さまステージに再度どうぞ!」とアナウンスがあり、突然全員でセッションをしてください、と言われたことがありました。

これをどう感じるかは「音楽家(演奏者)」の立場からと「地域活動家」の立場からでは、全く違った結論になることは言うまでもありません。

4.今後の抱負~「音楽家(演奏者)」と「地域活動家」の橋渡しができる「翻訳者」でありたい

大学院生をしていたころ、毎日新聞の取材を受けたことがありました。当時は研究者の卵として「地域活動と研究者の間を行ったり来たりしながら、互いにわかりやすいコトバに『翻訳』ができる人になっていきたい」とインタビューに答えたことを、今でも鮮明に覚えています。

どうしても研究者の言葉は、その事象を正確に言い表すために難しい用語を用いなくてはならないことがあります。それは残念ながら地域活動をする人たちに伝わりにくい、通じないことも多々ありました。

どちらの立場にも立ったことのある自分が、少しでもその間で「翻訳」ができたら、「橋渡し」ができたら…と思っていた時代があったのです。

その後、自分が音楽を仕事に選び、たくさんの、様々な立場の人と一緒に活動してきた中で、今度は「音楽家」と「地域活動家」の間で「翻訳」や「橋渡し」ができたら…と思うようになりました。

どちらの立場も経験してきたからこそ、できることがあるような気がしています。

今後は、今までと何も変わらず、いつも通り地域に種を蒔き、根を張りながら、音楽の楽しさを伝えつつ。

足立区音楽祭のスピンオフイベントとして、地域で小さなお教室を経営している、教室単独では発表会が難しい音楽教室の先生方と一緒に「生徒さんによりたくさんの拍手がふりそそぐ発表会…教室は違えど、同じく音楽を学ぶ・楽しむ同士、拍手を送り合える発表会」なども企画できたらいいなと思っています。

●co-nekoみゅーじっくのホームページ
https://co-neko-music.com/


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