生涯学習音楽指導員

活動事例 生涯学習音楽指導員

民間のチカラを部活動で活用~部活動の地域移行へ向けて

全国生涯学習音楽指導員 フルーティスト 神奈川県横浜市 松井瞳さん

■活動テーマ:民間のチカラを部活動で活用~部活動の地域移行へ向けて
パシフィックブラスオルケストラを指揮している筆者
パシフィックブラスオルケストラを指揮している筆者
■日時:2000年より現在に至る
■場所:横浜市立桂台中学校他
■対象:中学生

■活動内容
私は現在フルートを子どもから大人まで指導しております。過去10年間吹奏楽部を指導してきましたが今その機会が無くなり、自治体の人材バンクに登録中です。今までの経験と今後の地域での吹奏楽部の在り方について述べさせていただきます。

1.指導者になった背景

中学生の頃、入部した吹奏楽部顧問の先生に憧れ、将来指導者になりたくて音楽大学に進学しました。教員免許は取得しなかったので外部講師になる足がかりを得ようと、区の生涯学習支援センターにボランティア登録したところ、偶然母校から依頼が来ました。

夢の実現に大きく近づいたと嬉しくて、依頼の電話があったその日のうちに学校へ伺いました。見学してみると活気がなくなってしまった様に感じたので、再びかつての勢いを取り戻せればと思いました。卒業生ということもあり、初めはボランティアでしたが数年後、横浜市教育委員会の外部講師の制度を利用して、横浜市から謝礼が出るように取り計らってくださいました。

2.母校吹奏楽部の変化

当初は1年生しかいないフルートパートの演奏基礎指導の依頼を受けましたが、顧問の先生が理科教師(ユーフォニウム経験者)やピアノ科出身の音楽科教師だったため、合奏指導や選曲のアドバイス、運営面の補佐なども任される様になりました。

私が在籍していた頃は吹奏楽コンクールで県大会に出場していましたが、現在はコンクール至上主義ではなく、学校行事や地域での演奏が中心へシフトしていました。良いことだと思いますが、その反面私の在学中開催されていた定期演奏会が無くなっていました。理由はよくわかりませんが、教育熱心な地域で部活よりも塾や習い事の優先順位が高くなったことも影響していたかもしれません。

3.吹奏楽部について

<部員>

全体で30~40名程度で女子が中心で男子は数名です。募集は毎年秋に学区内の小学校6年生に中学訪問で部活を見学していただき、入学後4月に体験入部をしてもらいます。

<顧問の役割>

合奏指導、本番での指揮、運営全般が主です。

<楽器編成>

フルート/クラリネット/サックス/トランペット/ホルン/トロンボーン/ユーフォニウム/チューバ/打楽器の中編成です。

<練習>

平日放課後4日程度と土曜日。本番前は必要に応じて休日練習や朝練もあります。
夏休み期間中は1日練習、春休みは半日練習、冬休みは部活と合宿はありません。
(私が在学中は2泊3日の校外合宿がありました。)

4.内容と指導の留意点

(1)年間スケジュール

4月:体験入部
5月~:初歩指導、コンクール自由曲の練習
夏:地域の夏祭り、区の中学校音楽会の曲、体育祭の練習
秋:文化祭、アンサンブルコンテストの練習
冬:卒業式、入学式、区のイベントの練習

(2)指導の留意点

指導を始めると、しばらくして中断していたコンクールに参加する方向になりました。GW明けに本入部となり、配属が決まると体験入部の続きのような形で基礎指導が始まります。

初心者がほとんどで(学区内に金管バンドのある小学校が1校あり経験者も少しいましたが)上級生による指導が中心でした。ある程度音階が吹けるようになってきたらコンクール曲の吹けそうな部分から上級生と合流、というようなスタイルです。 (1年生も加えないとB編成(当時35人)に足りない)卒業生にもエキストラで参加して欲しかったのですが、中学校が横浜市内でも交通の不便な地区にあったため、自分の進学先の高校通学に精一杯で参加できなかった様です。

(3)楽器

私が在学中はフルート、クラリネット、サックス、トランペットなど、個人用の楽器を購入できない人は、希望のパートに入れない状況でした。しかし今少子化や不況の影響で立場が逆転し、 人気のフルートでさえ「学校で楽器を用意してくれるなら入部しても良い」というような雰囲気になっており、生徒は学校の備品を使っていました。 (私が在学当時の楽器がまだ使われていた事は驚きです)一時的に私の個人所有の楽器を貸していた時もありました。その一方、高価なサックスやトランペットなどを親に買ってもらっている生徒もいました。

5.吹奏学部の位置づけ

学校として吹奏楽部は特別な存在ではなく他の部と同様、普通の部活の1つ、というように感じました。隣の学区にコンクール全国大会常連の中学があり、本格的に吹奏楽をやりたい子は越境入学していました。 生徒たちは勉強優先でしたが、やる気のある子は熱心に活動していました。普段は保護者会による日常的なサポートはなく、必要な時だけお手伝いに来てくださるという、つかず離れずの距離感で、 勉強の妨げにならない範囲で充実した中学生活を送ってくれれば、という意識だったように感じました。

6.10年間の成果

コンクールで銅賞止まりだったのが、演奏レベルが上がり銀賞も取れるようになってくると生徒達も達成感と満足感を得、喜んでいました。吹奏楽の盛んな高校に入り、部長やパートリーダーを務めるなど活躍する子が何人もいました。 サックスで東京芸大附属高校に進学した子もいました。また母親になった今でもユーフォニウムを続け、市民バンドで吹いている教え子もいます。学生時代の経験を、皆それぞれが生活の中で音楽に親しんでくれている事は指導者冥利に尽きます。

また私自身も勉強になり、ここでの指導経験をもとに書いた本「脱・銅賞バンド大作戦!」「吹奏楽部 運営便利帳」(ドレミ楽譜出版社)を出版しました。さらに勉強の必要を感じ、指揮を勉強するために音大へ行き学び直したり、音楽文化創造の生涯学習音楽指導員や日本吹奏楽指導者協会の吹奏楽指導者認定1級などの資格を取得しました。

7.現在及び今後の課題

私が現在の日本全体の吹奏楽部状況を見て感じたことを列挙いたします。

(1)指導者

A.顧問

  1. 一般教科担当教員、音楽科教員で吹奏楽以外の出身者(ピアノや声楽など)が顧問を任される場合が多い。
    (公益社団法人日本吹奏楽指導者協会の指導者講習会に毎年参加していますが、吹奏楽のことは何も分からないのに顧問を任されて困っているという先生方が全国から集まっていました。)
  2. 教員の業務量増加で指導の時間が十分に取れない
  3. 国の働き方改革により、ガイドラインが制定されさらに関わる時間が難しくなってきている

B.外部指導者

  1. 現在文科省・教育委員会の部活動指導員制度、自治体の生涯学習課人材バンクなどがあるが窓口がバラバラで連携が取れていない。しかもその制度が浸透していない
  2. 部活動指導員は教育委員会による条件の制約(1校につき2名まで、かつ月に何回まで)があり地位が不安定
  3. 指導に関しての対価は薄謝またはボランティアの場合もある
  4. 部外者である外部指導者の校内立ち入りは保安上厳しい

(2)部員

  1. 少子化による部員減少のため、標準編成を作ることが困難になってきている。
    (地方の学校では10名以下というところもある)
  2. 減少の要因は二つあると考えられる。一つは塾や他の習い事のスケジュール調整が難しい。もう一つは男子はスポーツの方へ興味を持つ傾向が強くなってきており、部員は女子の割合が多くなっている

(3)内容面

  1. コンクール常連の強豪校(100名以上の部員数、常任指揮者、長時間練習)とそこを目指していない学校との2極化が進んでいる
  2. 標準編成ができない学校は不在のパートが有り、その中で音楽をまとめるのは応用力を求められる
  3. 初心者が充分に楽器指導を受けることができない場合、全体の演奏レベルを保つには、高い指導力が必要

(4)練習場所

今後、地域移行する際には下記の3点が考えられます。
  1. 地域住民の理解によるが、練習時が騒音と感じられる場合は他の場所を探す必要性が出てくる
  2. 場所の確保には、利便性、会場費、スケジュール、保険などを考慮しなければならない
  3. 上記が確保された時、外部講師の場合は責任の所在が誰になるのか難しい問題

(5)予算

部活動にかける全体の予算、そして楽器購入費、保管費、運搬費などの削減がある。

8.地域移行と抱負

今後、部活動は教員の働き方改革や少子化の影響により、官から民営化(地域移行)され、官民協働の必要性がさらに高まると思われます。私は吹奏楽部にとっても民間の力を活用する良い機会で次のメリットがあると思います。
  1. 教員の負担軽減
  2. 地域在住の専門家の活躍の場が増え、質の向上が図れる
  3. 市民吹奏楽団などと一緒に演奏する機会が持て、世代間交流が可能

ただしこれらを推進していくには様々な課題が山積しておりクリアーして行かねばならないと思います。まず現場の声を聞き、各地域の実情に合わせた仕組みを官民連携・協働(役割分担の明確化、予算確保、支援体制責任の所在など)で確立して欲しいと願います。 そのためには、文科省・教育委員会・自治体の地域振興課・各吹奏楽関連団体・吹奏楽指導者・市民バンド・公共民間施設・販売店を一堂に集めて座談会などがあると良いのではないでしょうか。

この地域移行で、私がこれまでの経験や学んだことを活かして、地域の吹奏楽の活性化に貢献していきたいです。様々な年代やキャリアを持つ人が一緒に活動することになるので、音楽面のみならず、 運営実務やコーディネート、コミュニケーションスキルなど、自身もさらに学んでいく必要を強く感じています。

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