活動事例

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【事例紹介】コンテンツと地域のマーケットを繋ぐ《音楽のライフスタイル提案者》として

地域音楽コーディネータ― 東京都 杉並公会堂 企画運営グループ マネージャ― 浅岡浩輔さん

■活動タイトル:コンテンツと地域のマーケットを繋ぐ《音楽のライフスタイル提案者》として
杉並公会堂
杉並公会堂
■日時:2017年2月~
■場所:杉並公会堂
■対象:一般区民、杉並公会堂利用者(催事主催者、出演関係者、来観者を含むすべての方々)

■活動内容

1.私のルーツ

私は中学・高校で吹奏楽部に、大学ではオーケストラに所属し、アマチュアながら音楽漬けの学生時代を過ごしました。しかしクラシック音楽一筋というわけでもなく、むしろジャンルの垣根を意識せず様々な音楽と出会い、友人に勧め共感したいタイプでした。

転機は大学2年の夏、所属団体が「全日本大学オーケストラ大会(現・公益財団法人ソニー音楽財団主催)」に出場することになり、成り行きで企画スタッフに参加。このイベントを通して、音楽マネジメントのプロの仕事を目の当たりにし、強い憧れを抱きました。

新卒で一般企業に就職も、音楽の仕事への想いを捨てきれず、26歳でクラシック音楽事務所へ転職。所属アーティストの担当マネージャーのかたわら、全国の主催者に公演企画を提案し、地方公演やツアーに同行する日々が始まりました。

当時の社長が大切にしていた「プロのマネジメントとして、世界的なアーティストと対等なビジネスのもとで信頼関係を築くとともに、芸術文化の価値を社会に広く紹介し、マーケットを創造する」という姿勢は、現在も自分の想いの原動力となっています。

一方でこの仕事を通じて、主催者や地域の想いに寄り添って企画を練り上げ、成立させる意義を学びました。

事情は地域ごとに千差万別であり、私たちが提供させていただく企画コンテンツを用いて何を実現し、あるいはどのように包括的な課題解決に繋げていくのか。こういった想いを主催者や地域の方々と話し合い共有して進めていくスタイルは、後に勤務したオーケストラの事務局や、音楽祭等を制作する公益法人でも、一貫して意識してきました。今思えば、自分の地域音楽コーディネーターとしてのスタートは、このあたりにあったのかもしれません。

その後、2006年のオープニング企画を音楽事務所時代に担当したご縁もある、杉並公会堂の運営会社に2017年2月に入職しました。そこでの活動をご紹介いたします。

2.杉並公公会堂とは

旧・杉並公会堂は、1957(昭和32)年に開館。日本フィルの活動拠点に象徴される《音楽の殿堂》といったイメージに加え、テレビ黎明期における「ウルトラマン」や「8時だョ!全員集合」などの公開中継会場として、お茶の間にもよく知られた存在でした。

建て替え後2006(平成18)年にオープンした現在の杉並公会堂は、本格的なクラシックコンサートを想定したシューボックス型の大ホール(1190席)から印象づけられる音楽発信拠点です。一方で、大小の練習スタジオや居心地の良いカフェを備え、地域の公民館的な役割も担っています。

私たちのミッションは、そんな杉並公会堂に集う方々にそれぞれの創造環境を提供し、総合的な文化発展に尽くすこと。結果として、杉並公会堂のプレステージを維持・向上させ、地域の誇りを繋げていくことにあると考えています。私は現在、主に2つの業務領域を担当しています。

3.自主事業公演の企画制作・実施

音楽発信拠点であるホールの主催公演は、その地域の文化イベントを象徴する存在であり、地域の生活文化の質や多様性を映す鏡でもあります。もともと区民の文化活動がとても盛んなエリアですから、必然的に杉並公会堂の主催公演にも高い意識が求められていると感じます。

ここで言う意識とは、出演者の演奏水準や知名度といった一般的価値だけでなく、それぞれの企画の必然性(なぜこの時期に、この場所で、誰に対して、どんな手段で、どんな内容・メッセージを届けるか)にこだわり続けることで見えてくる、 企画・提案者側として一貫して筋の通ったコンセプトとでもいえるでしょうか。

そのためには企画・提案者側として、社会状況や多種多様な価値観、芸術文化に関する広い視野と知見を持ったうえで、収支などを十分に考慮し、業界内外とのネットワークを駆使し、杉並公会堂ならではの企画内容や見せ方に落とし込んでいく、 いわばキュレーター的な役割が求められると感じています。まさに地域音楽コーディネーターの総合力の見せ所といえます。

2019年の[山田和樹×東京混声合唱団 谷川俊太郎の世界]は、こうした想いが集積した公演のひとつです。杉並ゆかりの詩人・谷川俊太郎さんの米寿を音楽でお祝いしたいとのアイデアを発端に、出演者や内容はもちろん、このタイミング・場所で実施する意義に最後までこだわりました。

当館にも縁の深い指揮者の山田和樹さん、東京混声合唱団・杉並児童合唱団の皆さんとともに創り上げた公演には、谷川俊太郎さんご本人にも来場いただき、地域の想いを音楽に集約し、企画として発信しました。

杉並公会堂では、杉並区を拠点に活動する日本フィルハーモニー交響楽団のシリーズ公演を中心に、年間20公演程度の主催・共催事業を実施しています。実情は、予算策定、企画折衝、広報宣伝、チケット販売、当日オペレーション、精算といった、多岐にわたる業務を少人数でまわす日々。

《オーケストラの住むホール》として常に一緒に歩みながら、私たちだからできること、私たちにしかできないことは何か。頭と身体をフル稼働させ、限られたリソースを最大限に活用して、挑戦を続けています。

4.貸館運営に関するお客様対応

お客様に施設を貸し出しご利用いただく事業を、施設側の立場で、貸館(かしかん)と呼ぶことがあります。業務は利用のサポートから施設・備品管理まで多岐にわたり、そのアプローチは公演の企画制作とは大きく異なります。

地域音楽コーディネーターとしての役割を特に実感するのは、ホール利用の1ヶ月程度前に行われる利用者との打合せの場面。それぞれの催物がスムーズに行われるよう各主催者と情報を共有し、趣旨や要望を踏まえて施設のルールや条件に沿った確認や提案をしていきます。

杉並公会堂の施設は、主にクラシック音楽に特化した仕様でありながら、音楽以外の講演会・集会やダンス・舞踊といった催しも開かれ、またプロフェッショナル・アマチュアを問わず、実に多種多様な主催者・内容をお迎えしています。

したがって、打合せも一筋縄ではいかず、伝える側のイメージをどのような方法で実現できるか、あらゆる想像力を働かせて一緒に知恵を絞ります。ときに主催者の想いに共感し、一緒に課題や問題点を洗い出し解決方法を提案するという点においては、施設利用のコンサルティングにも似た役割といえるでしょうか。

特に学校やアマチュア団体の利用においては、イベント運営に不慣れな担当者や、組織内での責任分担が曖昧なケースも散見されるため、状況に応じたフォローが必要です。舞台上の出し物を優先するあまり、本番当日になって進行スケジュールや客席側のオペレーションが破綻することの無いよう、全方位的な視点で成功を見守ります。

5.課題とこれから

直近のトピックスではありますが、やはりコロナ禍は私たちを取り巻く環境を大きく変え続けています。より多くの利用者がそれぞれの創造を実現しながら、安心安全・快適に施設をご利用いただくために、コロナ対策においてはひとりひとりのご協力が不可欠です。

しかし、状況の変化が速く、個々の意識の差も拡がるなか、特にご案内のあり方において私たちスタッフも葛藤を続けてきました。丁寧なコミュニケーションを通じて、お客様に一方的な印象を与えないよう、常にさまざまなバランスをとりながら取り組んでいます。

また当館だけの課題ではありませんが、地域文化の担い手という視点で考えると、美術館・博物館には専門職の学芸員が配置される一方で、音楽ホールには特にその種の資格は求められません。

杉並公会堂のように、施設の現場業務を民間会社が担うことが多い現状において、短期間の業務引継ぎだけでは継承できない担当職員の専門性や地域への理解を、継続的に担保することの難しさも想像できます。こういった状況をある程度打開するための手段として、将来的に各ホールの職員が地域音楽コーディネーターの視点で活動することで、結果的にそれぞれの地域文化により豊かな実りを結ぶのではないでしょうか。

私個人としては、音楽の力を信じ、感動の場を創ることを通じて、コンテンツとマーケットを繋ぐ《音楽のライフスタイル提案者》であり続けたいと思います。たとえ働く場所が変わっても、こだわりと柔軟性を大切に、今後も世界がさらに広がることを願っています。

●杉並公会堂
https://www.suginamikoukaidou.com/



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