活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】心豊かに生き生きと 笑顔あふれる楽しいシニアレッスンをめざして

地域音楽コーディネーター Music Cube菅谷台教室主宰 jet会員
PSTA指導者、MIDI検定認定指導者 宮城県 伊藤智和さん

■活動タイトル:心豊かに生き生きと 笑顔あふれる楽しいシニアレッスンをめざして
レッスン風景
レッスン風景
■活動開始年:2012年~現在
■場所:宮城県宮城郡利府町
■対象:子どもからシニアまで

■活動内容

1.活動を始めたきっかけ

現地への新築の際に環境を整え、地域に根差した音楽普及を目指して、まず自宅で音楽教室を始めました。現在子どもから大人を対象に主にエレクトーンとピアノを扱って指導を行っています。

近年、講師仲間の間では大人(特にシニア層)の入会が増えていることが話題となっており、世の関心の高さを感じることも多くなってきました。これは今、健康寿命が延び人生100年時代となり「生涯何かを学び続けたい」という風潮と思います。

「昔からピアノを習うことが叶わないまま、ずっと憧れを持ち続けていた」「子どもの使っていたエレクトーンが眠っている」など、さまざまな声を伺う中で、実際に足を運んで下さる方は残念ながらごく一部に留まっているのが現状です。

レッスンというと、どうしても敷居が高いと思われがちな部分もありますが、その先への一歩を踏み出すお手伝いができることを願って日々活動を続けています。今回、ここではシニアの方へエレクトーンやディスクラビア(*1)を使って指導している二つの活動をご紹介いたします。

*1)ディスクラビア(Disklavier™):ヤマハから発売されている自動演奏機能付きのアコースティックピアノ。ジャズから映画音楽、カントリー、ロックなどのあらゆるジャンルのデータを扱って楽しむ事ができる。

2.具体的な内容

(1)70代の女性Kさんへのエレクトーン指導

<経緯>

Kさんは鍵盤楽器初心者として教室に来られました。娘さんは幼少期にピアノレッスンに通われており、比較的ピアノの存在は身近だったものの、ご自身においてはずっと憧れだったそうです。

始めるきっかけは、当教室の生徒募集看板を見て一念発起、ピアノを上手に美しく弾けるようになりたいという目的のもと、「勇気をもって飛び込みました!」と笑顔でお話されていたのが大変印象的でした。

音楽はジャンルを問わず全般的に大好きとのことでしたので、体験レッスンでエレクトーンにも触れていただいたところ非常に気に入って下さったため、音楽表現の幅を広げる方向性でピアノとエレクトーンの併用レッスン展開となりました。

<レッスン内容>

レッスンは概ね月3~4回程度、1回30分の個人レッスンで、現在8年目に入りました。レパートリーは指導内容によってそれぞれの楽器を使い分けています。同じ曲でも「ラテンで賑やかに」「しっとりとバラードで」など、楽器編成イメージを変えて、いろいろなバリエーションで変化のある演奏を体感していただきました。

中でも長いフレーズのレパートリーでは、リズムを正しく把握できる様になり、さらにていねいなタッチが身に付いたことで、ピアノで演奏する際には、各フレーズの最後の音が美しく聴こえるようになりました。

この事はピアノとエレクトーン両方の楽器の特色を加味して指導した成果だと思います。

<エレクトーンの優位性>

エレクトーンの音色数は1,000種類を超え、リズムスタイルも幅広くプリセット(楽器の中にあらかじめ組み込まれている)されているので、多彩な音楽ジャンルへ即座に対応できることが大きな強みです。

演奏レベルに合わせて、三段鍵盤・自動伴奏・サポート機能を段階的かつ効果的に使うことで、細かなレベルアップに対応しやすいところも優れています。また鍵盤がピアノに比べて軽いので、比較的指の力が弱い高齢の方も無理のないタッチでの運指が可能です。

〇これまでのKさんのレパートリーは
聖者の行進/アメージング・グレイス/茶色の小瓶/ピアノ協奏曲第1番(チャイコフスキー) /いい日旅立ち/ロンドンデリー・エア 他

<シニアの指導にあたっての留意点>

  1. イメージを持たせる
    難易度に関わらず、曲のイメージを持ち表現力を大切に弾いていただくようにお伝えしています。例えば「一滴のしずくが葉っぱの先から落ちるような感覚で」とお話しした際には、自然と透明感のある凛とした素敵な演奏に一変し驚いたこともありました。
  2. 一緒におさらいする
    シニアの生徒は経験豊かな人生の先輩ですので、リスペクトはもちろんですが「教える」ではなく、あくまで「一緒におさらいする」感覚を心掛けています。
  3. 引き出す
    皆、独学での基礎知識を必ず何かしら持っていらっしゃることが多く、その部分を上手に引き出すことも指導者の大きな役割かもしれません。

<Kさんの反応>

毎回、「今日も楽しかったです! 宝物のような時間です!」といつも笑顔で満足してお帰りになります。今では家での練習も生活の一部となっているそうで、家事の合間にしばしば鍵盤に向かうというスタイルがご自身に合っているみたいとのことでした。

「趣味を続けることによる気持ちの面でのゆとり・心の豊かさが、生活に潤いをもたらしてくれている気がします」といった大変嬉しいお話も伺っています。

(2)ディスクラビアを使ってのレッスン

<対象と活用におけるねらい>

主に鍵盤初心者への導入期や、少し飽き気味の子どものお楽しみ、そしてポピュラーピアノの指導においてさまざまな機能を駆使しながら活用しています。

ピアノパートの装飾的フレーズのサポートや、それに加えてピアノ以外のアンサンブルパート(例えばジャズトリオ編成のウッドベース・ドラム)をサポート付加することにより、一曲としての音楽的完成度を上げて「達成感・充実感」を体感していただくことがねらいです。

また記録再生機能の利用方法として、レッスン中のピアノ演奏をデータで記録しニュアンスを含めてそっくりそのまま再生することで、生徒自身による客観的な演奏チェックにも活用しています。

<ディスクラビアの利点>

  1. サイレントモード(消音)で生ピアノ音を完全に消し、さらに音源部の音色を選択することで、ピアノ鍵盤タッチのまま他の楽器音での演奏が可能となります。
    応用例として「バロック時代の曲なので今日はチェンバロの音色で弾いてみましょう」といった展開にて時代背景についての興味へと広げていくことができます。
  2. データを活用することにより、ピアノ上で弾く次の音の鍵盤がわずかに動くことで教えてくれる機能や、正しい音が押さえられるまで伴奏のパートは一時停止して待っていてくれる機能など、いずれも習得の過程において有効性を感じています。
  3. 応用例となりますが、パソコンなどからMIDI(*2)信号を送信することによって生ピアノを「物理的」に鳴らすことができます。この機能を活用することで、楽譜が読めなくても音楽制作ソフト上でマウスを使って音符を置くことにより、 プログラミングのように機械的にピアノを奏でるといったコントロールも実現可能です。
  4. *2)MIDI: Musical Instrument Digital Interface の頭文字を組み合わせた言葉で、電子楽器やコンピュータなどのメーカーや機種に関わらず音楽の演奏情報を効率良く伝達するための統一規格です。
    【一般社団法人音楽事業協会(AMEI)のHPより】

<レパートリー>

枯葉/ライオンキングより『愛を感じて』/ノクターン Op.9-2(ショパン) /パッヘルベルのカノン/サウンド・オブ・ミュージックより『すべての山に登れ』他

<指導上の留意点>

弾く鍵盤の位置を把握されていた場合でも、指使いについてはアドバイスが必要なケースもあるため、無理のない適切な運指が正確につかめているかをしっかり確認する必要があります。

<生徒の反応>

「レベル的に難しいと考えていた『弾きたかった曲』にピアノで挑戦できたことが嬉しい」「自分がとても上手くなった気分になり、大変気持ちよく弾くことができた」「モグラたたきゲームのように曲が弾けるのでとても楽しい」このような反応がありました。

3.発表会について

「習い事としての発表会」と「趣味で弾かれる大人の発表会」では違った指向性を持つため、それぞれの生徒に合った発表の場をお勧めしています。

特に前回コロナ前にエレクトーン講師会で実施した「jet大人のティータイムコンサート」は、古民家カフェでスイーツと共にリラックスした雰囲気の中で演奏していただきました。同じ音楽を楽しむ仲間同士といった感じで終始和やかな時間に包まれており、演奏者だけでなく聴衆者の方からもたくさんご好評をいただいています。

4.課題

エレクトーンの自動伴奏やディスクラビアのサポートなどで演奏する場合、意外と重要になるのがアンサンブルに必要な「自分以外の音を聴く力」になります。なかなか自分の演奏に精一杯な場合は、まわりの音が聴こえず慣れるまでサポートと合わせて弾くことがままならない方もいます。今後この点につきスムーズな導入指導を目指して、もう少しアプローチの方法を探っていきたいと考えています。

また運営面については、これまで小中学校の学区内をエリアとしてチラシなどで生徒募集をしていましたが、大人の生徒を対象と考えた場合には行動領域が広いので効果的な広報宣伝方法を検討しているところです。

5.今後の抱負

私の役割は「楽器を弾いてみたい」という思いを抱いている方々を一人でも多く、夢のままで終わらせることなく、音楽ライフの扉を開くお手伝いをすることと考えています。そのきっかけづくりとなる周辺の接点として、コロナ禍でしばらく実施できなかった近隣のショッピングモールでのステージ演奏や特別支援学校でのコンサートなどの活動が再開できる日を待ち望んでいます。

また地域に根差した教室の位置付けとしてサードプレイス(*3)的な役割を担っていると感じることも多く、大人の生徒との他愛ない世間話が弾んだり、小学生からは悩み相談を受けたりすることもあります。さまざまな面において、そのような「心の受け皿」の部分もできる限り大切にしたいと思っています。

最近地域では公共ホールが新たに完成したことで文化活動も盛り上がりを見せているので、より地域に根差した活動を一層深めていきたいと考えています。私の地区では教育委員会に生涯学習指導者人材バンクの登録制度があり、多くの登録指導者がさまざまな分野で活躍しています。私も音楽活動を通じて地域のお役に立てるよう、今後も積極的に働きかけを行っていきたいと思います。

*3)サードプレイス:自宅、学校、職場以外でリラックスでき、心が安らぐ場所。
●Music Cube(ミュージックキューブ)菅谷台教室
http://www7b.biglobe.ne.jp/~mc-s/index.html




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