活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】音楽療法とドラムサークルで人と街を元気にしたい

(2022年06月06日公開)

地域音楽コーディネーター 東京都 高田悦子さん

■活動テーマ 音楽療法とドラムサークルで人と街を元気にしたい
*市民イベントでの音楽療法
*市民イベントでの音楽療法
■活動開始年:2014年~現在
■場所:障害者通所施設、高齢者カフェ、学校、ライブハウス、街中イベント、不登校支援施設
■対象:障害者、在宅ケアを受けている人とご家族、認知症予防カフェ、ストレスケア、不登校支援など

■活動内容

1.音楽療法を始めたきっかけ

二女が中学2年生の時に不登校になりました。学校へいけない間、好きなミュージシャンのコンサートを見に行ったり、吹奏楽で活躍する兄や姉の演奏を聴いたり、音楽はいつも私たち親子に力を与えてくれました。

ある日、二女が「音楽療法士になりたいから大学に進学する」と言い始めたのです。辛い思いが続いていた時に音楽に助けられた経験から「自分も音楽で人を助けることができるかもしれない」と思った彼女は、それまでの数年の不登校から脱して学校に通学するようになり、願いが叶って大学で音楽療法の勉強を開始しました。

音楽療法の実習を始めた彼女が、私のピアノの伴奏でみんなが歌を歌って楽しむ姿を見て「これも音楽療法だよね」と感じ、私へ音楽療法を奨めてくれたのが勉強をするきっかけとなりました。

日本音楽療法学会の認定にチャレンジしようと決め、放送大学や学会の必修講習で3年強かけて認定音楽療法士の資格を取得しました。音楽療法の学びの中で、高齢者のデイケア施設、発達障害の子どもの就学前支援施設、認知症カフェや町の福祉イベントなどでのセッション経験も増えていきました。

2.具体的な内容

音楽療法には能動的音楽療法と受動的音楽療法があります。私は一緒に楽器の演奏などを行う能動的音楽療法を実施しています。

今活動している公立の福祉施設は、常時介護を必要とする心身に障害がある方々のための通所施設です。日替わりで作業療法、運動、プールや趣味の活動などがあります。そこでは、月1回精神科医が来所し、理学療法士によるリハビリもあります。

音楽療法士は2名体制で、毎週1回1時間のセッションをしています。対象者個々と充分に接することができる様に少人数のグループ毎に実施し、スタッフと次回に向けての振り返りを行っています。

内容的には民族楽器や手作り楽器など、打楽器を中心にいろいろな種類の楽器を利用して、はやりの歌や童謡、良く知っている曲の演奏や即興演奏を取り入れています。

音楽療法士は対象者の呼吸や生み出されるリズムにていねいに向き合い、リズムや音を重ねたり、音でのやりとりを通して相手の存在を意識したり、気付きがあったり、音楽を通してのコミュニケーションを引き出しています。

3.アプローチする際の留意点

(1)音楽療法は音楽レッスンではありません。

楽器の演奏の上達が目標とはなりません。

(2)音楽療法は音楽レクリエーションではありません。

「楽しかった」という感想を得ることが最終の目標ではありません。音楽には、人の生理的、心理的、社会的、認知的な状態に作用する力があります。音楽療法では活動における音楽の持つ力と人とのかかわりを用いて、対象者を多面的に支援していきます。言語を用いた治療法が難しい対象者に対しても有効に活用できる方法です。

具体的には、例えば身体的に動かすことのできる範囲を拡げる、口腔ケアや嚥下力をつけて誤嚥を防ぐ、体幹を整える、握る力を維持向上する、などの効果を狙えます。

また、認知症予防としては脳トレ、指や四肢をバラバラに動かす、二つ以上の動作を同時にこなすなどのトレーニングを取り入れ、脳に負荷をかけて脳の活動を活発にする、馴染みのうたをきっかけに長期記憶を引き出す、などのことをします。

発達支援では、順番を待つ、達成感を得る、「できた」を喜びにして、音楽で身につけたものを日常生活の中に活かす、などの目標をもって音楽をつかっていきます。

そのほかにも、楽器を無心に楽しく演奏することで発散し、ストレス解消になったりします。リズム運動により脳が活性化して心を守るホルモンがたくさん出てくると言われています。このように心についても音楽の効用がたくさんあることが知られております。

私たち音楽療法士は、対象者を客観的に評価し、それぞれの対象者に合った目標を設定し、活動を選び、目標に向けての支援をしています。

音楽療法士は多様なニーズに対応するために、日頃音楽的なスキルを磨く事は当然ですが、福祉や心理学、医学、生理学的な分野や、支援の方法についても常に知識や技術を磨いていくことを求められます。学会で学んだり、連携する領域の先生との学びの場を持ったりしています。

4.効果

音楽療法のセッションをすると、とても顔の血色が良くなり、笑顔が増え、笑い声が出ます。日頃発語がない方でも歌詞がすっと出てきて歌が歌えたり、盆踊りの曲で四肢を動かしやすくなったり、心身にさまざまな変化が起きます。

子どもでは友達や支援者と一緒に「できる」が増えます。「順番を待つこと」「お友達を褒めること」「お友達から褒められること」「楽しみながらルールを覚えること」など、ソーシャルスキルトレーニングを通してコミュニケーション能力を育てることができます。

5.他の活動

A.ドラムサークル

公民館で勤め帰りの社会人を対象に、またイベントで来場者へ呼びかけるなどさまざまな場所で、西アフリカのジャンベという太鼓やパーカッションを使って、輪になって叩いてもらいます。最初はぎこちなく、「叩いていいのかしら」とおっかなびっくり太鼓を叩いていた人たちでも、だんだんとグルーヴに巻き込まれ、素敵な一期一会のアンサンブルとなっていきます。皆、日頃のストレスを吹き飛ばすかのように叩き表現し、輝くような笑顔を見せてくれます。これも音や音楽、一定の間隔のビートやリズムが持っている力です。

B.地域振興

私は東京都北区の出身です。「北区ってどこ?」と聞かれることも少なくありません。また「王子と間違えて八王子に行っちゃった」という人もいます。そのような出来事が悲しくて悔しくて、街がもっと元気に楽しく、有名になったらいいなと思い、 地域振興の一環として「北区おでん」を盛り上げるお手伝いをしています。

私がお手伝いできる分野はもちろん音楽!「北区おでんの歌」は、二女が作詞作曲をし、私と夫、長女の伴奏で、北区では有名な歌手、大出久美子さんに歌っていただき「北区おでんファン」の人々に「あったかい」思いを届けています。

小田原や静岡など、各地で開催される「おでん祭り」に「北区おでん」が出店される際のBGMに使われ、ショッピングセンターのおでんブースで流していただいたこともあります。皆様もぜひ応援してくださいね。よろしくお願いいたします。
「北区おでんの歌」は、YouTube動画でもご覧いただけます。

 


6.今後の抱負

私は小さい時から音楽が大好きでピアノを習い始め、高校ではバンドを組み、大学時代にはお店でピアノの生演奏をしていました。子どもが誕生してからは保育園の父母会のバンドでイベントステージに立つなど、ずっと音楽と関わってきました。

音楽は生きていく上で必要なものだと考えています。人間は言葉を使い、そして音楽を使うことで、コミュニケーションをとることができ、人と人が繋がり、人らしく生きていけるのです。

急に脳の話になって恐縮ですが、言葉を聞いたり、言葉の意味を認識したり、喋ったりするにはウェルニッケ野やブローカ野などの脳の言語野(*)と言われる部分を使いますが、音楽は特定の部位ではなく、脳全体でリズムやメロディーや音色を捉えているということがわかっています。

音楽療法やドラムサークルの認知度は、まだまだ高いとは言えません。しかし、私達はこの音楽の持つ人の心や身体に作用する力を使って、より多くの人の心身のウェルネスを目指して地域と関わり、より生きやすい社会ができると確信します。 今後も地域音楽コーディネーターとして活動の場を拡げていきたいと思います。

*)言語野
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%A8%80%E8%AA%9E%E4%B8%AD%E6%9E%A2

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