活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】音楽を楽しみながら、小児がんについて知ってもらいたい

(2022年06月17日公開)

地域音楽コーディネータ― ヴァイオリニスト 東京 澁江美加さん

■活動テーマ
「音楽を楽しみながら、小児がんについて知ってもらいたい」
「第1回目のコンサートの模様」
「第1回目のコンサートの模様」
■活動開催年:2018年~現在
■場所:豊洲シビックセンターホール、同レクホールなど
■対象:一般の方々

■活動内容

1.活動を始めたきっかけ

私は以前から病院などでボランティアコンサートをさせていただいており、チャリティーコンサートにも興味を持っていました。そんな折、ある小児病院の先生方が、小児がん治療に使う無菌室を増設するための資金をクラウドファンディングで集められているというニュースを目にしました。

そこで初めて、小児がんを専門的に診る病院ですら治療設備が不足し思うように治療が進められず、お医者さん自ら資金集めをしなくてはならないという小児がん医療の置かれた現状を知りました。音楽家の自分たちにも何かできることはないかと考えた結果、チャリティーコンサートを行って収益などを寄付しようという事になりました。

2.開催するにあたって

私たちがチャリティーコンサートを行う時には「Ensemble espoir(アンサンブル エスポアール)」(エスポアール=希望)という団体名で2017年より活動を始めています。この名称には小児がんの子どもやご家族が希望を持てるようにという願いが込められています。特にメンバーを固定せず、さまざまなメンバー、編成、ジャンルでのフレキシブルな活動を目指しています。

●団体ホームページ:ensemble espoir
https://ensemble-espoir.jimdosite.com

チャリティーコンサートを企画するにあたり、過去に行った自分たちの自主公演の経験を活かしながら準備を進めました。

(1)会場の確保

より多くの方にご来場いただける様にアクセスの良い駅前の会場を選びました。これまでの経験からアクセスが悪い会場だと、よほど興味を持って下さる方しか来ていただけないと感じているからです。

(2)演奏者

チャリティーコンサートという事でその趣旨に賛同し、無報酬での出演を引き受けてくれる演奏者を探さなければなりません。普段からよくご一緒しているメンバーに声をかけると皆さん快く引き受けて下さり、大変感謝しています。

(3)入場料の設定

誰でも気軽にご来場いただけるよう無料にして、趣旨にご賛同いただけた方には演奏の対価として募金をしていただく形を取ることにしました。

3.コンサート

(1)目的

  1. 私自身メンバーの一人として演奏をしますが、その合間に小児がんについてお話をさせてもらっています。ここがこのコンサートの一番の目的でもあるので、できるだけわかりやすく小児がんの現状をお伝えできるように小児がんについて調べ、まとめるといった準備も必要でした。ある意味、募金していただくためのプレゼンテーションといったところです。
  2. 小児がんを経験した子どもたちに演奏に参加してもらうことで、小児がんを克服して元気になった子どもたちの姿をご来場の方々に見ていただき、また子どもたちには普段とは違うことに挑戦する事で達成感を味わってもらっています。

(2)内容

これまでのところ弦楽四重奏が中心ですが、演奏する曲は弦楽四重奏の曲に限らず、オーケストラ等の曲を編曲したり、管楽器や打楽器を加えることもあります。演奏曲目は親しみやすい、誰もが楽しめるような選曲を心がけています。また聴いて楽しむだけではなく、このコンサートをきっかけに「楽器を始めてみたい」とか「他のコンサートも聴きに行ってみたい」と思っていただけるように作り上げています。

2回目、3回目のコンサートでは、小児がんを経験した子どもたちにも協力してもらい、みんなでハンドベル(ミュージックベル)の演奏を行いました。

演奏する曲の解説はプログラムに記載するのではなく、曲ごとに口頭で解説し、その曲にまつわるエピソードなども交えて、より楽しんでいただけるように工夫しています。

これまでのコンサートは2018年2月5日豊洲シビックセンター・サブレクホールでの1回目を皮切りに、2回目は2019年1月5日豊洲シビックセンター・ホールで行いました。その後の3回目と4回目のコンサートを少し御紹介いたします。

〇3回目:2020年8月10日豊洲シビックセンター・ホールでのコンサート

本来であれば東京オリンピック閉幕翌日だったため、世界のさまざまな地域の曲を演奏しながらオリンピックでの選手の活躍を振り返る予定でした。残念ながらオリンピックは1年延期になってしまいましたが、プログラムは変更せず、それぞれの曲の風景を想像して世界を旅したような気分を味わってもらいました。

〇4回目:2021年11月1日豊洲文化センターレクホールでのコンサート

土日でのホール確保が難しく、平日の夜のコンサートとなったため、ややクラシカルなプログラムにはなりましたが弦楽四重奏の名曲を選曲しました。プログラムの曲名を見るとかなり難しそうに見えてしまいますが、実は耳にしたことのある曲も多く、弦楽四重奏を身近に感じてもらいたいという思いが込められています。

ハイドンとモーツァルトの作品で、「狩」という同じ曲名がついた弦楽四重奏曲を聴き比べてもらったり、ハイドンの弦楽四重奏曲第77番「皇帝」の2楽章は「ドイツ国歌の元になった曲です」とか、モーツァルトの「3つのディベルティメント」は「なんとこの曲を作曲した時のモーツァルトは16歳でした」などと説明すると、会場からの反応もあり、興味を持って聴いていただけたようでした。コロナ禍で積極的な集客はできませんでしたが、50名ほどのお客様にご来場いただきました。

4.お客様の反応は

聴きに来て下さるお客様は、がんを経験した子どもやその家族、医療従事者、小児がんに興味を持って下さっている方、純粋に音楽を聴きに来て下さった方などさまざまです。演奏を聴いていただく合間に、小児がんのこと、小児がん医療の置かれた現状などをお話しさせていただきますが、皆さんとても真剣に聞いてくださいます。

終演後にお話を伺った方からは、「子どもにもがんがあるんですね」とか「小児がんは知っていたけど治療設備は整っていると思っていました」などのお声をいただき、微力ながらこのコンサートの意義があったと感じています。共感していただいた方から多くの募金をいただき、皆様からお預かりした募金は毎回小児病院にお届けしています。

5.課題と抱負

(1)課題

i.会場

最大の課題は会場の確保です。安価で借りられる公共の会場は競争率が高く、なかなか抽選に当たらないので、今後自治体などに働きかける事も考えています。

ⅱ.広報

広報活動に関しては、これから活動を拡げていこうと考えていた矢先のコロナ禍で積極的に行えていませんが、状況が良くなってきたらまずは自分の住む地域での活動を拡げ、さらに他の地域にも活動の場を拡げていきたいと思います。そのための第一歩として直近のコンサートでは地元議員の方数名にご案内を差し上げました。

ⅲ.継続性

このコンサートは、昨今のSDGsではありませんが継続してこそ意味があると思っているので、自治体や小児がん支援団体とタッグを組んだり、スポンサーを探すことも視野に入れていく必要があると感じています。また例えばチラシやプログラムのデザインをして下さる方(プロ・ノンプロ問わず、小児がん経験者も含めて)など、他方面からのご協力を得て継続していくことが理想形なのではないかと思っています。

(2)抱負

私たちが一番目指していることは「まずは小児がんについて知ってもらう」事です。子どものがんがあることもあまり知られていないので、コンサートを通じて一人でも多くの方に小児がんについて知っていただき、支援や理解につなげられればと思い活動しています。

著名なアーティストが大規模なチャリティーコンサートをされていますが、来場者の多くが医療関係者や小児がん経験者など、既に小児がんに何らかの関わりがある方であるのが現状です。もちろん、このようなコンサートは多額の寄付を集められる点では大変意義のあることです。

一方私たちにはそのような真似はできませんので、私たちにできることをできる範囲で進めて行きたいと思います。そのための第一歩が、地域で誰でも気軽に立ち寄れるチャリティーコンサートを行い、一人でも多くの方に小児がんについて知っていただくことです。その先に趣旨に賛同していただけた方に募金していただくとか、また支援活動にも参加していただくことによって輪を広げていくといった、次のステップに繋げられるような、そんな活動ができればと思っています。




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