活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】Zushi Music Festaの企画、運営を振り返って

(2023年01月05日公開)

地域音楽コーディネーター 山形大学農学部 プロジェクト教員(助教)
(株)ViAR&E代表取締役 神奈川県逗子市 市浦 茂さん

■活動テーマ:Zushi Music Festaの企画、運営を振り返って
Zushi Music Festa 2016 with Dance (冬編)での合同演奏
Zushi Music Festa 2016 with Dance (冬編)での合同演奏
■活動開始時期:2014年~現在
■場所:神奈川県逗子文化プラザホールのなぎさホール、逗子市 Café KITORI, 東京都、世田谷区下北沢 BREATH、栃木県佐野市のDining Bar Kenほか
■対象:40代~50代中心

■活動内容

Ⅰ.きっかけ

1.バンドで活動

私はスラップ(*1)好きのベース弾きで高校生の頃、カシオペアやスクエア(*2)などをコピーし学園祭向けにバンドを組んで楽しんでいました。

2007年外資系企業に勤めていた際に、企業内のバンド部に入部。クリスマスパーティのステージで11年ぶりの演奏した際は、蘇る演奏の楽しさを噛みしめた記憶があります。

2010年頃、ふとまたフュージョンを弾いてみたくなり、その当時SNSの走りであったMIXに入会し、いくつかのカシオペアセッションに参加。知らない方々との一発演奏は、かなりスリリングな体験だったことを記憶しています。セッションをきっかけにさまざまなフュージョン仲間と知り合うことができ、オープンコミュニティの素晴らしさを感じました。

その後は、さまざまな機会に演奏に参加する活動を広げたことでより幅広い方々との知人が増えました。音楽を通じて、年齢、仕事も関係ない関係は非常に刺激的でした。


*1)スラップ:エレキベースの演奏方法の一つ。指で弦を引っ張ったり、叩いたりする動作を組合せて演奏する。

*2)カシオペア、スクエア:カシオペア(Casiopea)スクエア(T-SQUARE)は1970年代後半に結成された日本のフュージョンバンドでブームを作る。フュージョンとはジャズ、ロック、ラテンなど違うジャンルの音楽を融合したもの。

2.ずし平和デー“アマチュアバンドチャリティライブ”開催

バンド活動に没頭している中、母が逗子の平和活動のボランティアで“ずし平和デー”というイベントの”実行委員をしていました。母からは地域と繋がる活動の大切さの教えをもらい、“ずし平和デー”を盛り立てる、音楽ライブイベントを立ち上げる決心をしました。

ちょうどその当時、スクエアのコピーバンドで活動しており、池袋ジャズフェスティバルや仙台、定禅寺ストリートジャズフェスティバルなどさまざまなパブリックイベントに参加し、この活動を通して、さらにバンド仲間も増え、もっとさまざまな活動をしてみたいという想いが高まり、地元、逗子でイベント立案につながりました。

神奈川県逗子市は、人口6万人弱の都市であり、高齢化率が高い地域です。少子高齢化の流れにより、人口減少は進みつつあります。当時の私は、都内に通勤をし、日中の大半の時間を都内での仕事に従事し、帰宅しても地域にほとんど関わらない“神奈川都民”であったため、自分の将来を考えて、地域と関わるきっかけを作りたいと考えていました。

まず、最初は大きな目標を立て、逗子で一番大きな施設である、逗子文化プラザホールのなぎさホール(555席)の大ホールの企画を立ち上げ、2014年にずし平和デー”アマチュアバンドチャリティライブ”名称とし、平和デーにちなんだチャリティ企画として開催しました。わずかな金額ではありましたが、日本ユニセフ協会へ10,000円、福島県災害対策本部(東日本復興支援)へ10,000円を募金できました。

このイベントはイベント名が長く分かりにくいというコメントもあり、シンプルな名前に改称し、ステージの艶やかさと、音響を良くすることで、演奏者もリスナーも心地良い音で楽しめるように企画にすることにしました。


Ⅱ.具体的な活動

1.「Zushi Music Festa」開催にあたって

(1)Zushi Music Festa実行委員会の立ちあげ

2014年の初めての大ホールでのイベントを実施した経験、反省を踏まえ、約1年を費やし、企画を大きく変えました。わかりやすい名前として、「Zushi Music Festa」としました。

会場は逗子文化プラザホール、なぎさホール(大ホール)として定め、ずし平和デー実行委員会と連携し、1年前に日程を決定しました。また地域のデザイナーの方にご協力いただき、ロゴも完成しました。企画の運営体制として、Zushi Music Festa実行委員会を立ち上げました。

演奏者は、地元や首都圏周辺のバンド仲間に声をかけ、またスタッフとして、職場の方、元職場の方、大学時代の同期などにお願いしました。ずし平和デー実行委員会からも協賛をいただきました。

実行委員会のスタッフは少人数ではありましたが、できる限り、演奏者、スタッフ、ホールとの情報共有はデジタル技術(その当時はまだホームページやメーリングリスト)でシェアをし、極力時間を圧縮して企画運営を行いました。またフライヤー、ポスター作成、チケット作成もDIYで作成し、Webサイトを通じて発信しました。この経験は、現在のベンチャー企業経営にも活かせていると感じます。


(2)予算作成

予算作成には苦労しました。555人の大ホールを満席にすることは難しいと予測し、演者からいただく参加費用、チケット販売から得られる収益と併せて予算を決めました。また一部、ずし平和デー実行委員会からの補助金もいただけたことで、必要経費(ホールの費用、音響や照明費用、ポスター、チケット印刷費用)などを算出し、赤字にならないようシミュレーションを重ねました。

会場や音響との交渉も、私自ら行い、当初は分からない言葉も多く苦労しましたが、数々のイベントをこなしてくると大きな経験になりました。その後、さまざまな課題が起きても、迅速なディシジョンができたことで、少ない人数でイベント運営ができたと思っています。


(3)Zushi Music Festa2015(夏編)

Zushi Music Festa2015(夏編)は、5時間の長時間イベント、6団体の参加という、参加メンバーも私がまとめたことがあるイベントの中で最多のものでした。司会は、地元ラジオ局のパーソナリティの方にお願いし、楽器類の調達は、自己所有のものに加え、楽器メーカに勤務されていた演者の方から貸出しいただくことができました。

また演者の方が勤務されていたPA会社様に機材レンタルとオペレーションをお願いできたことで、非常にクオリティの高いライブになりました。2014年の初イベントから1年でこのような大規模イベントができたことでその後の活動に大変励みになりました。

経費も高額でしたが、たくさんの演者の方々の参加、チケットノルマによる販売協力をいただくことができ、ギリギリ、黒字化及び、ユニセフへ少額ではありましたが、寄付を実現できました。

(4)Zushi Music Festa 2016

2015年のイベントを踏み台として、翌年のZushi Music Festa 2016では、Danceとの融合として、クラッシックバレースタジオやダンススタジオの方々とのコラボをすることができ、新たな嗜好要素を加えました。

このイベントでは、持続可能な仕組み作りを目指し、コストのかけ方のメリハリをつけ、大きく見直しました。経費のうちの大半を占めていた音響経費を削減、機材は自己機材とプロの音響の方の厚意で機材の提供とオペレーションをいただくことができました。

また照明の内容の見直しを行ったことで、全体コストを大きく削減できました。また司会進行も自ら行ったことで、よりストレートにイベントの意義を伝えることを目指し、よりコンパクトな運営が実現できました。

これらは2014年からの2年間のイベント運営のノウハウが溜まり、どの部分にコストをかけるとどの程度クオリティが高まるか、なんとなく分かったように感じます。その後は、日常の業務も多忙になり、2017年~2019年までのイベントは、大規模ホールの運営をあらため、ライブハウスを使ったこじんまりした企画に切り替えました。

開催場所も逗子ではない場所を選択し、新たなコミュニティを立ち上げるべく、仕事上でお近づきになった方のご紹介で栃木県佐野市のライブハウスで開催しました。

しかし、軌道に乗り始めたさ中で、2020年よりコロナの影響でイベントは中止、また佐野のライブハウスのオーナーの他界などもあり、現在は、残念ながら現在は、Zushi Music Festaの活動を休止しています。


(5)参加者

Zushi Music Festaの演者の方々は、一部プロの方からアマチュアまで多様な方々でした。ホームページを活用して演者の公募も行いましたが、口コミでご紹介いただいた方に参加いただきました。

サラリーマン、自営業、定年退職された方々、主婦、子供、学生などさまざまな方々に参加いただきました。元々のコンセプトは地域コミュニティを創りたいという想いがあり、その考えはこれまでのイベントでも実現できたと思っています。

参加いただいたバンドの方々は、大ホールでのイベント、アットホームなイベントを毎年楽しみにしてくれました。リピート参加いただいた演者の方、毎年参加いただいた、ボランティアスタッフをいただいた方も多かったです。現在でも一部の方々ではありますが、そのつながりは続いています。

2.内容

Zushi Music Festaに参加いただいた演者の方々は多種多様で、バンドのスタイル(Vocal, Eギター、Eベース、ドラム、キーボード)のようなスタンダードなスタイルの方々もおり、特別編成で、16人でJPOPやロック、フュージョンを演奏したバンドもありました。

事前に“可能な限り、分かりやすい曲を演奏していただきたい”とお願いしていたことから、80年代、90年代のPOPS、ロック、フュージョンなどの演奏曲が多かったです。その中でも印象的だったのは、カシオペアの『MakeUp City』の曲をバックに幼いバレリーナの方々にダンスをしてもらったことや、最後のClosingとして、全体演奏、全体で合唱を行う企画を設定しました。

『We are the World』『WAになっておどろう』『White Christmas』『Choo-Choo-Train』など、多様な選曲をして合同演奏を行いました。演奏以外でもコメディアンの方の漫才や、ダンス団体にも参加いただき、多様なエンターテーメントを提供してきました。リスナーアンケートでは、馴染みのある曲が多かったこと、音響が良かったことで好評でした。




Ⅲ.課題と抱負

(1)課題

現在の課題は、“持続可能な運営体制を作れるか?”にあるとおもっています。現在、Zushi Music Festaは活動を休止中ですが、これまでも私を中心に最小人数で運営していたため、自分の業務が多忙になると開催が難しくなっています。一人が欠けても運営できる体制を作れるような組織作りこそが持続可能なイベント開催の秘訣と思います。

また参加バンドもマンネリ化しないように、適度に新たな演者の方の参加、違ったタイプのエンターテーメントの提供を企画側も意識して開催することが大切と感じました。飽きさせない企画の立案など、これはアマチュアイベントにかからず、プロフェッショナルな方々にも同様で、エンターテーメントを持続的に届けるため、持続的な工夫が必要と思っています。

また逗子の場合は、地域全体でアートを盛り上げる風土があり、Zushi Music Festaも2016年にZAF(逗子アートフェスティバル)に参加したことからイベントの最後には逗子市長にも参加いただきました。このような環境から、ずし平和デー実行委員会、逗子アートフェスティバル実行委員会などの協力が得られやすいことで、PRしやすくなりました。

もう少し地道に活動を続けてきていれば、Zushi Music Festaもイベントの定着化もできたかもしれません。しかし、収支面は更なる工夫が必要であり、広く地元企業との連携をしながら継続的に支援をいただく仕組み作りが必要です。またこれらのイベント開催を積み重ねることで、イベントを開催により、コミュニティをまとめる人材育成にもつながるものと思います。

何かを取りまとめる能力は、このようなエンターテーメントだけでなく、なんらかの地域連携プロジェクト、共同研究、共同開発など、異文化を取りまとめられる人材育成につながると感じています。

(2)抱負

現在、私は山形県鶴岡市在住となり、Zushi Music Festaの企画は止まっています。しかし、自分のイベントに賭ける想いは続いています。現在は山形の農業分野を盛り上げていくためのプロジェクトの推進に注力しています。

音楽に関しては、まだ新たな企画立案ができていませんが、Zushi Music Festaとしての新たな出発、または新たなイベントを立ち上げることなど、どの地域においても地域のオープンコミュニティを盛り上げることが私の目指すところです。

また新たなチャレンジをしていきたいと思います。是非、私も一緒にイベント立ち上げをやってみたいという方は、お気軽にコンタクトいただけると幸いです。音楽を通じて、楽しい未来を創っていければと考えています。

●Zushi Music Festa ホームページ
https://zushi-music-festa.jp/

●Zushi Music Festa Facebook
https://www.facebook.com/ZushiMusicFesta

●Zushi Music Festa YouTube
https://www.youtube.com/@zushimusicfesta


(2023年1月5日公開)

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