地域音楽コーディネーター 福吉ジャズ実行委員会代表 福岡県 井口賢治さん
- ■活動テーマ:
- 音楽で地域に笑顔とつながりを
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 2014年~現在
- ■場所:
- 糸島市福吉公民館、コミュニティーセンター、旅館、飲食店他
- ■対象:
- 一般
- ■活動内容
1.きっかけ
福吉ジャズを始めたきっかけは、2013年に開催された「糸島三都110キロウォーク」(*1)のスタッフ仲間からの相談が始まりでした。それはニューヨークでジャズドラマーとして活動している彼の甥(おい)が日本に一時帰国するので糸島で凱旋(がいせん)公演を行いたいとの希望があり、運営を手伝ってほしいと依頼を受けました。当時、私は糸島へ移住してまだ4年、地域でウォーキングとは違った新しい知り合いを作る意味で承諾しました。しかし音楽はどちらかといえば門外漢で、ジャズはそれまでほとんど触れたことなく、興味本位でした。
*1)糸島三都110キロウォーク:2010年に3市町(前原市・二丈町・志摩町)が合併し誕生した糸島市を記念して始まったウオーキングイベント
2.目的
私たちが活動している二丈の福吉というところは、福岡県の糸島市最西端に位置し北は玄界灘、南には山があり風光明媚(ふうこうめいび)なところです。浜辺を歩くと「キュ、キュ」と音がする「姉子の浜の鳴き砂」が有名です。人口は約4,000人。高齢化が進んでいますが移住者が増えています。3市町が合併して糸島市になったことにより良い面もありましたが、二丈は行政・経済・観光について徐々に主体性を失っていき、町の活気も先行きが見通せないようになっていました。それは文化・芸術においても同じ状況でした。そのような中、「二丈福吉発」という名前を使って音楽で地元の娯楽、外部からの誘引という観光要素も含めてできることを考えました。そのポイントは下記の4点です。
- 本物の文化・芸術に触れる機会を持つ
- 娯楽の選択肢を一つ増やす
- 地元商工業者との連携による地元貢献
- 新規移住者の横のつながり醸成
3.福吉ジャズの立ち上げ
上記の目的で始めましたが2回目のライブ開催時、私を誘った実行委員長が体調を壊し、急きょ代役を務め無事にライブを終えることができました。しかし集客の難しさに直面し、元実行委員長が継続は難しいと判断し解散となってしまいました。その後、私はこのイベントで感じたことを振り返り、「この経験をそのままなくすのはもったい無い。何かしらか発展させよう」と考えました。当時、観光協会・商工会理事の要職についていたこともあり、ジャズを田舎に持ってくる意義と福吉の名前の売り方を考えました。名前は「福吉ジャズ」場所は公民館で、音楽はハイクオリティでお金をかけず継続できる内容で立ち上がりました。
4.具体的な内容―福吉ジャズのあゆみ
2014年から始めた福吉ジャズは今まで紆余曲折(うよきょくせつ)がありましたが、この夏2023年、26回目を数えることができました。ピアニストの二見勇気と、アメリカ在住の3人のミュージシャンを招へいしました。
(1)休止
2019年2月、一旦休止せねばならなくなりました。その理由は地元住民に足を運んでもらえなかったことが大きな要因です。手軽に観てもらいたいと考えチケット代を2,500円と安価に設定しましたが、内容的に興味を持ってもらえなかったのです。また何もないところに音楽ホールを作るため、途方もなく労力、会場費、音響照明費などがかかります。その資金面と広報の難しさを感じました。
(2)リニューアルー海音ジャズ
休止して半年ほどたち、各所から「寂しくなったね」「ほんとにやらないの」と声をもらうようになって、地元の初潮旅館からも「ウチでやらない?」と声掛けしてもらって、会場費と宿泊代を支援してもらうことで「海音ジャズ」としてリニューアルします。
非常に好調な滑り出しでしたが、程なくコロナ禍になり旅館は休業し自分の本業も休止状態となり途方に暮れていました。ちょうどその頃、文化庁の支援の話が有りそれを活用して、できる範囲での活動を再開しました。感染対策を配慮し少人数での開催でしたが、自分たち、お客様も音楽を聴けるという環境に感謝しました。ミュージシャンにとっても仕事がなくなり、絶望の中にいたところを、何とか仕事を与えることで、生き抜くことができたのかもしれません。
(3)福吉ジャズの再開
それから3年間、AFF、AFF2と経る中で補助金を活用する中、福吉ジャズを再出発させ、ミュージシャン同士の新しいつながりを中心に企画するようになり、日本の若手ジャズミュージシャンを集めた秩父英里ラージアンサンブルを企画します。
アメリカに行くことができなくなってしまったこのタイミングだからこそできた、スペシャルメンバーでの公演。
このときに共演したことがきっかけで、メンバー全員が新しい取り組み新展開、相乗効果がありました。秩父英里は本格的なラージアンサンブル活動を展開し、東北でメジャーな作曲演奏家となり東京にも進出。加藤真亜沙は、グラミー賞にノミネート楽曲に参加。馬場智章は、映画「BLUE GIANT」の主人公の演奏を担当などなど、それぞれ大活躍です。しかし、このあと、初潮旅館が一旦立ち止まってしまったことで、独自の運営を模索することになりました。
経済産業省のライブエンタメ等の支援事業JLOX(*2)を活用、自立した運営を目指しています。
*2)支援事業JLOX: https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/j-lox_brochure_b.pdf
<企画内容>
- ・目的:ふだん聴く機会がないジャズ生演奏を安い料金で楽しんでもらう
- ・対象者:地元住民・移住者、老若男女
- ・演奏者:田舎でジャズ未体験の人に聴く機会をというコンセプトを理解してくれる一流奏者
- ・収支:赤字をなるべく少なく
- ・日時:昼開催が中心
<会場決定に当たって>
当初、糸島市の校区公民館を使用するに当たり、有料イベントの開催許可は前例がなく門前払いでしたが、糸島三都110キロウォークのスタッフ仲間の市役所職員に事情を話すと、教育委員会の上席への審議となり、3か月ほどたって許可が下りました。福吉ジャズの立ち上げ公演では、いろいろな市内の団体が「本当に有料イベントが開催できるのか?」と視察目的で来場されました。その後、糸島市は公民館に代わりコミュニティセンターが立ち上がり有料のコンサートが盛んに開催されています。
<広報宣伝>
今の時代、広報が難しいと感じます。紙媒体として、市の広報誌は、発行回数が半減したため掲載機会を失っています。新聞は回を重ねるごとに掲載機会がなくなり、新聞購読者も減り、購読者層も高齢者がほとんどです。SNSは年齢層により得手不得手が顕著です。結果、従来の口コミと既存顧客へのDMが強い状態です。
以上を踏まえ、最新の公演 2023年7月は、
<企画内容>
- ・目的:昨年開催した同じメンバーで、良さを体感した人によりファンになってもらう
- ・対象者:糸島市・福岡市・福吉地区
- ・演奏者:二見勇気(pf) Zack Auslander(gt)James Dale(ba)Robbie Pate(vo)
- ・予算:130万円(JLOXの補助あり 主催は、はちねこ合同会社)
- ・日時と会場:7/13 糸島前原 法林寺 4,000円学生無料
7/14 博多中洲 Gate’s7 5,000円学生無料
7/15 福吉コミュニティセンター(コミセン教養講座という名目で無料)
<プログラム>
デュークエリントンとスティービーワンダートリビュート(敬意)です。7/14 Gate’s 7 では、博多祇園山笠直前とあって、「博多祝い唄」を編曲して上演しました。アンコールは、オスカーピーターソンのHymn to Freedom糸島前原、博多中洲と、これまでにない入場料で満員近くでしたが福吉は無料だったにも関わらず、地元先住住民はほぼゼロでほとんど移住者だけでした。この要因は何か、今後の課題として検討せねばなりません。
5.課題と抱負
(1)課題
継続していくためには集客、収支面が一番の課題です。入場料は地域住民にとって適正価格を提示し、ただし子ども・学生には普及啓蒙(けいもう)の意味もあり無料というのを維持し門戸は広く開いておきたいと思います。活動全体の収支は都市部で売上げを増やし、その余剰金で地方部・田舎部での公演を支えていくように運営していく所存です。
(2)抱負
糸島市で音楽活動を行うには、地域の多くの移住者、都市部の人たちに支えられています。一流のミュージシャンを招へいすることは、金銭的に大変ですが、より良い内容を作り支援者・愛好家を増やしていくことが大きなテーマです。また行政にこの活動の意味合いを理解していただき、連携して進めていきたいです。現在も国は地方創生という言葉を掲げていますが、音楽もその役割の一部を担えると自負しています。
(2023年11月2日公開)
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