地域音楽 コーディネーター

活動事例 地域音楽 コーディネーター

【事例紹介】音楽をもっと自由に。地方発“音楽で生きる”ことの価値観を変える新たな取り組み

(2023年12月08日公開)

地域音楽コーディネーター 会社員 兵庫県 染木真晃さん

メイン
■活動テーマ:
音楽をもっと自由に。地方発“音楽で生きる”ことの価値観を変える新たな取り組み
■目次:
■活動開始時期:
2019年~現在
■場所:
兵庫県淡路島
■対象:
一般市民、プロ・アマチュア音楽家
■活動内容

1.音楽との関わり

私は小学校の頃から地元東京都台東区のジュニアオーケストラで打楽器を演奏していました。知人・友人には音楽大学へ進学する人もいましたが私自身、音楽は「趣味として一生付き合っていこう」と思い総合大学に進学しました。その大学には幸いにもオーケストラがあり、学生時代をすべてオーケストラと過ごしていました。その後社会人になってからも複数の団体で音楽活動を続けています。

2.きっかけ

入社した会社は「社会の問題点を解決する」という企業理念のもと、年齢や性別、障がいの有無、国籍などに関わらず、誰もが“自分らしく輝ける働き方”を実現できるよう様々なサービスを展開しています。その一つとして社会人オーケストラ(*1)を保有しており、音楽大学を卒業する学生へのキャリア支援を行っています。当時、私の配属先が人事部だったことも含め、学生時代に考えていた、「音楽家のキャリア支援に携わりたい」「一握りの成功者だけでなく、誰もが音楽で活躍できる環境を作りたい」という気持ちを抱き続け、現在その仕事に携わっていることは本当に幸運だったと思います。

*1)社会人オーケストラ:2009年に結成され、プロ・アマ合わせて約80名程度構成される

弊社は兵庫県淡路島での地方創生事業に2008年から取り組んでいます。私がこのプロジェクトと関わり始めたのは、2015年の社内研修事業からです。それまで淡路島のことをあまり知りませんでしたが、毎年2、3か月をこの地で過ごしていくうちに、東京とは違った豊かさがあると感じました。そこで2019年に自ら手を挙げ淡路島へ異動し、地方創生事業全体の広報担当として着任しました。ちょうどこの時期、新型コロナウィルスが蔓延(まんえん)し始めたことで2020年7月、コロナ禍における音楽家の支援と文化創造による地方創生を目的とした「音楽島プロジェクト」がスタートしました。現在に至るまで広報を担当しております。まさか仕事で音楽家の方々と一緒にプロジェクトを推進することになるとは夢にも思っていませんでした。

3.具体的な活動内容

音楽島―Music Islandとは

(1)理念

文化創造による地方創生と音楽家たちの新たな働き方・ライフスタイルを実現する

(2)目的
  1. 文化芸術で地方創生
    コロナ禍の影響を大きく受けたフリーランスで活躍していた若い音楽家たちに、淡路島に活動の拠点を置いてもらい、文化芸術で地方創生に一緒に挑戦してもらう。
  2. 「文化を楽しみ、次は一緒に文化をつくる」
    芸術を中心に観光や経済を盛り立てている地域は世界中でも多く例があるが、年に数回のイベントではなく、このような行動が各地域で広がることで、地場の文化伝承の継承にもつながる。

劇場や演奏団体の数などは、都市圏と地方では比べるまでもありません。しかし、“芸術は都市部で楽しむもの”という固定概念を変え、地方でも質の高い芸術体験を楽しむことができるようにしたいと考えております。

(3)内容
  1. 社員として採用
    本プロジェクトに参加する音楽家たちは、弊社の社員として採用します。そのため面接や実技試験もあります。音楽レベルは音楽大学卒業程度の力が必要になります。プロとアマチュアをどのように区分するのかは様々な考えがあるとは思いますが、「音楽活動で生計を立てる」という意味では、メンバーは紛(まぎ)れもなくプロフェッショナルであると考えています。
    音楽島メンバーは、いわゆる“フリーランス”で活躍している基本的に音楽家ばかりです。個人の活動としては、プロの団体にエキストラとして出演する人もいれば、ポップスのバックバンド、自主公演の開催など様々です。淡路島島内でのコンサート企画に関しても、自ら企画してもらいます。会社の予算を引っ張ってくる、集客をする、売上げを立てる。会社で月給をもらいながら、独立するための練習にもなります。
  2. 待遇
    月給としての収入はもちろんですが、社会保障への加入、住宅補助(社宅)や社食など、福利厚生を受けることもできます。例えば、東京に実家があるメンバーであれば、淡路島の社宅を利用することで、東京・大阪の2拠点で音楽活動ができ、またこの制度を活用しながら、1人の音楽家としてのキャリアも歩んでいます。働き方も様々で、規定上、最短の勤務時間は「週3日の20時間勤務」です。それ以外の時間は、個人としての活動に当てることができます。
  3. 活動
    活動は、「演奏」だけではありません。弊社が運営するレストランでの演奏時には、その前後でフロアサービスを行います。お客様と直接会話をすることができ、自身のファンを作るための営業の場にもなります。また劇場やショーレストランでは、クラシックコンサートやミュージカル等も行っており、その運営・企画にも携わってもらいます。音楽島の活動ですが、各施設での公演を含めればほぼ毎日活動があります。
    具体的には、「ハローキティショーボックス」での公演(週6)
    劇場「波乗亭」でのミュージカルや演奏会
    「淡路ワールドバレエ」でのバックミュージック
    その他、地域からの招聘(しょうへい)で小学校や老人ホームなどへの出張演奏会など
  4. メリット
    音楽大学では、演奏技術を磨くことに時間を割くため、1人の音楽家として、どのような事業ができるのか?アートマネージメント等を教わる機会は少ないと思います。実際、行政からの補助金の枠組みでコンサートを企画する団体がほとんどだと思います。これからの音楽家は、自分で考え自分で稼げるになるためには、音楽家にとってもビジネスの勉強(コンセプト/ターゲット選定/収支計画)が必要不可欠です。このプロジェクトを通して皆が社員として給料をもらいながら、淡路島での業務がその一役になると信じています。
(4)広報としての私の役割

コンサートの告知はもちろん、「音楽島」というプロジェクト自体の広報活動も担っています。今はまだ、関西圏を中心とした一部のアーティストの中にしか広まっていないです。このプロジェクトを推進するに当たり、日本の音楽界を代表するアーティストやプロデューサーの方々ともお話をする機会がありますが、皆さんが応援してくださいます。特に、「大阪の子でさえ、音楽・芸術だけで生計を立てるために東京に行ってしまう」という話は衝撃でした。もちろん、東京に集中することが悪いわけではないですが、生まれた場所・育った環境によって、結果的に“チャレンジする格差”が生まれていることは事実だと思います。弊社の活動だけではどうにもならないですが、「音楽島」プロジェクトを通して、他の企業・自治体がこの問題を一緒に考えてくれるきっかけになれば良いな、と思いながら広報活動を行っています。

4.成果

2020年のプロジェクト開始以来、現在約60名以上の音楽家が淡路島で活動しています。中には学生時代にコンクールで受賞歴のあるメンバーもいます。この3年間でジャズチームやオペラ・ミュージカルチームも結成しました。クラシック音楽を主軸に勉強してきた若手たちが、全く別の音楽ジャンルに取り組んだとき、音楽家同士の感性を磨き合う良い影響が出ているようです。もちろんプロジェクトを卒業していくメンバーもいますが、「淡路島で音楽家と出会い、新たな挑戦をした」という経験を持った音楽家が増えていくことが、プロジェクトとしての一番の財産になると考えています。

5.課題

広報である私自身の課題ですが「知ってもらうこと」ですね。淡路島に60名以上の音楽家が来てくださり、この事実だけでもすごいことだと思っています。しかしいまだに「コンクールで良い成績を出さなければならない」「有名な団体に入らないとプロではない」「都市圏にいないと仕事がない」というような呪縛に捕まり、いつしか夢をあきらめ、普通の会社員、事務員として音楽活動に終止符をうっている音楽家がいることも事実です。
今後この活動を淡路島から更に発信して全国の音楽家たち、音楽大学や他の企業、自治体に認知してもらうことが目標です。全国の地域で同じようなプロジェクトが始まれば、音楽家の活動の幅も広がります。それがこのプロジェクト音楽島―Music Islandの目的「文化芸術で地方創生」「文化を楽しみ、次は一緒に文化をつくる」を達成し、更にその上の夢を追うこともできるはずです。

6.今後の抱負

二つの目標があります。一つはこの淡路島でのプロジェクトを「成功事例」として、全国に普及啓蒙(けいもう)していくことです。少なくとも1つ、同じようなプロジェクトが他地域で成立すれば音楽家という人材が流動します。それによって地域に密着した音楽文化事業が広まります。
二つ目は、音楽大学をあきらめた自分の経験より一生音楽(芸術)に携わる人を増やしたいです。日本は世界でも有数の演奏家大国です。ほとんどの中高に吹奏楽部があります。しかし、部活を卒業したら楽器に触れない人が少なくありません。音楽を続けるのはお金がかかるのです。レッスン代はもちろん社会人の団体に入れば演奏会費は自費です。お金と時間と家族の理解を経て、やっと音楽が続けることができます。より気軽に音楽ができる環境が整備されれば音楽に対する関わり方がもっと自由になると思っています。

(2023年12月8日公開)

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