活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】音楽で人と地域、そして社会とつなげて

(2024年01月11日公開)

地域音楽コーディネーター NPO法人音の風代表 京都府 西野桂子さん

2022年10月1日(土)@ロームシアター京都野外会場でのコンサート 聴覚障害のあるメンバーによる手話ロックバンド BRIGHT EYES super-duper LIVE
2022年10月1日(土)@ロームシアター京都野外会場でのコンサート
聴覚障害のあるメンバーによる手話ロックバンド BRIGHT EYES super-duper LIVE
■活動テーマ:
音楽で人と地域、そして社会とつなげて
■目次:
■活動開始時期:
2003年~現在
■場所:
主に京都市内の福祉施設や地域のイヴェント会場、コンサートホールなど。
■対象:
高齢者・障がい者・子ども、その他地域に暮らす人々
■活動内容

1.きっかけ

(1)原点

2003年に「NPO法人音の風」を立ち上げて、今年で20周年を迎えることができました。正に光陰矢のごとしで設立当初はこれほど長く続くとは思ってもおりませんでした。20年前、楽器メーカーの仕事をしていた時に、多くの人に楽器や音楽に親しんでもらいたいと日々仕事に取り組んでいましたが、もう少し直接人々と交流しながら音楽の楽しさを伝えていきたいと思うようになりました。

(2)高齢者施設での体験

その思いに至るきっかけとなった出来事があったのです。それは、たまたま知人に頼まれて高齢者施設へ演奏に行ったときのことでした。実はそれまで高齢者と接する機会がほとんどなく、施設内の薄暗い重苦しい雰囲気に飲まれて、もはや早く帰りたいとまで思ったことを今でも覚えています。
このとき、福祉施設に入ったのは初めてでした。以前の少ない経験からの先入観を持った中で、いざ演奏を始めると今までの重苦しい雰囲気が一変し、まるで次々と花が咲くように笑顔あふれる明るい空間になっていったのです。私たちが用意したプログラムは、皆さんと一緒に歌うという参加型のシンプルなものでした。懐かしい曲を大きな声で歌われていた方や、リズムに合わせて体を揺らす方もおり感動しました。

2.NPO法人設立

(1)設立のきっかけ

前記の体験を通して「音楽を必要としてくれる人たちは多く、出会う機会がないだけ」と確信しました。また音楽を届ける演奏者側は必ずしも音楽の専門教育を受け高い技術があるのが全てではなく、対象者に寄り添った企画が重要と思いました。「これは、つなげるしかない!」と、音楽を必要としている側(がわ)と、音楽家(プロ・アマ問わず)をつなげるため、一念発起しNPO法人(*1)設立を目指すことになりました。

*1)NPO法人:Non-Profit Organizationの略。市民が主体となって営利を目的とせず、社会貢献活動を行う団体。

(2)NPO法人設立に当たって

特定非営利活動促進法が制定されたのが1998年。私たちが組織化を目指し始めた2001~2年は、ちょうどNPOの地域活動が盛り上がりを見せていた時期でした。NPO法人化することで「地域に信用・信頼され活動しやすい」と勢い半分で最初の一歩踏み出した感じはありました。それまでに見たこともなかった書類の作成にも挑戦することになりました。「定款(*2)って?????」というレベル。一緒に立ち上げたメンバーもほとんどが音楽畑で別世界の知らないことばかりなので戸惑いつつも、地元京都市にあるNPOを支援するNPO法人に駆け込み定款の作り方を教えてもらい完成しました。このことは社会の仕組みや法律を学ぶことができ面白かったです。

*2)定款:法人や会社の事業目的、活動、組織等についての基本規約。

3.NPO法人音の風

(1)理念

笑顔でつながる、音でつながる~音楽で社会貢献」をモットーに、音楽を通じて交流の機会創出、地域社会に貢献するとともに、音楽文化の向上をつなげること

(2)事業体制

理事会(代表理事、副代表理事、理事4名、監事1名)と事務局10名他、京都市岡崎いきいき市民活動センター(指定管理:音の風)10名で運営。正会員100名、賛助会員10名

4.事業内容

(1)ボランティア派遣

音楽ボランティア会員が福祉施設等で余暇活動の支援を行います。依頼内容や要望に合わせて、会員数名でグループを組み、演奏や伴奏・楽器配布などの役割分担をし、約45分~60分の音楽活動を行っています。

(2)アーティスト派遣

音の風では、音楽の専門的なスキルを持つ会員のアーティスト登録を行い、様々な要望に応じて派遣しています。音楽療法、コンサート、音楽レッスン、レクリエーション、各種ワークショップなど、障がいのある方とのマンツーマンの活動からコンサートホールでのコンサートまで幅広く対応しています。

(3)ミュージックサロン

ポップスコーラス(初級・中級)・ゴスペルコーラス・ピアノ・歌声教室・子どもコーラスの6クラスを開講しています。音の風のミュージックサロンでは、月2~3回のレッスン以外に、年に1度の発表会を開催し、日頃の成果の発表と交流を楽しんでいます。また、単にレッスンを受けることにとどまらず、レパートリーを増やして地域貢献活動に出向くことも目標にしています。児童館でのクリスマスコンサート、高齢者施設でのコンサートなど、多くの場で活動をしています。

2023年9月9日(土)ロームシアター京都にて、「ミュージックサロンコンサート」を開催しました。ここ数年はコロナ禍で無観客やオンラインでの開催で、出演時もマスクをしていましたが、ようやく笑顔いっぱいのコンサートとなりました。

【各種教室】

(4)スマイルミュージックフェスティバル

活動を進める中で京都市の東山区では、「障がい者福祉への対策や取り組みは思うように進んでおらず、障がい者の交流の場や情報交換の機会が少ない。」という地域の現状が見えてきました。このような経緯から地域住民への障がい者福祉の啓発と対象者理解を進めることで、ノーマライゼーション(*3)の実現に寄与することと共に、障がい者福祉のネットワーク構築を目的として、「障がいのある方もない方もともに音楽を楽しむイベント」であるスマイルミュージックフェスティバルは始まりました。

*3)ノーマライゼーション:障がい者,高齢者が健常者と平等に過ごしていくため社会基盤・福祉を充実し整備すること。

(5)京都市岡崎いきいき市民活動センター(2011年から指定管理スタート)

京都市は2011年4月、市民活動を支援することを目的に市内13か所にセンターを開設しました。そのうち文化施設が集積する京都市左京区岡崎地区に所在する「岡崎いきいき市民活動センター」の指定管理者となり、運営を担っています。

「音楽 × 市民活動」をテーマに様々な事業を行い、市民にとっていきいきとした場所となれるようなセンターを目指しています。
2023年もたくさんの音楽イベントを開催してきました。毎月1回開催の「レコードを聴く会」、9月から4回シリーズで開催した「ドラムサークルファシリテーター養成講座&体験会」、10/14(土)開催の岡崎ワールドミュージックフェスタ、同じく10月にはロームスクエラライブも開催。市民と音楽をつなぎ、音楽の輪を広げています。

A.レコードを聴く会

レコードを聴く会では、市民の皆さんが自分の好きな音楽を好き勝手に紹介する企画。企画者も市民、参加者も市民、市民の皆さんがレコードを通して交流しています。

B.ドラムサークルファシリテーター養成講座

ドラムサークルとはみんなが輪になって、即興的につくりあげる打楽器、パーカションのアンサンブルです。ファシリテーターとはドラムサークルにおいては、みんなが緊張やプレッシャーから解放されて楽しくなるように働きかける案内人です。地域の子どもたちや高齢者の集いで活動できる人材を育成するために企画しました。

C.岡崎ワールドミュージックフェスタ

5.成果

今振り返ると、自分たちが登り始めた山が富士山なのか大文字山(京都府にある五山送り火が有名な山)なのか、最初から富士山とわかっていたらチャレンジしていたかどうかわかりません。「えーっい!!ごちゃごちゃ考えていてもあかんし、やってみよう!」とスタートして結果的には良かったと思っています。(冷静に考えるとできなかったと思います。)いまだに頂上がどこかわからないままですが、ゆっくり時間をかけて楽しみながら登っているような気持ちです。
結果的に20年間、活動を継続することができていますが、当初は絶対長く続けようと思っていませんでした。多くの楽しいことがあった半面、苦労もありましたがNPO法人化したことで地域の人々や活動先、関係機関から大きな信頼を得ることができ、活動の幅が広がりました。その方々に対する責任を考えると多少の難局でくじけるわけにはいかないと思うようにもなりました。自分自身の成長にもつながったと思います。

6.課題

「やりたいことはいっぱいある。」でも・・・。どこの団体も同じ悩みを抱えておられます。永遠の課題は「資金面」と「人材面」です。資金面では特に人件費を充実させたいと思っています。関わってくれるスタッフの労働条件の改善が結果的には地域の音楽活動の充実や資金調達にもつながるのです。とは思いつつこれが一番難しいところです。私たちの取り組んできたこと、今後取り組みたいことの多くは音楽を通した地域課題解決に向けた事業ですが、これは収入につながりにくいのです。やりたいことをやりすぎるとスタッフが疲弊することにもなります。今の自分たちの身の丈に合った動きを模索しながら、良いバランス感覚を保つ必要があります。

7.抱負

20年も続けていると必要以上に背伸びをすることもなくなり、開き直ることがうまくなってきました。演奏者、聴衆者共々音楽を楽しんでいるときの心からの笑顔は本当に美しいと思います。この笑顔の輪を広げていくこと、これがスタートしたときから変わらぬビジョンです。大きなことはできないですが、目の前にあることを丁寧に進めていくことが夢への一歩だと心にとどめ、今後も地域に根差した活動を取り組んでいきたいと思います。

(2024年1月11日公開)

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