地域音楽コーディネーター オリエント楽器 代表取締役社長 愛知県豊川市 鎌田幸伸さん
- ■活動テーマ:
- 官民連携で、持続可能な「地域音楽教育」の実現に向けて
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 2018年〜現在
- ■場所:
- 豊橋市立小学校、豊橋市こども未来館ここにこ
- ■対象:
- 幼児~小学生
- ■活動内容
1.きっかけ
豊橋青年会議所での活動を通して、地域のまちづくりや人づくりを学んだことで、楽器店の仕事から地域全体の未来を大きく思い描けるようになりました。市役所の中でも「まちなか活性課」「文化のまちづくり課」「生涯学習課」のそれぞれと接点が増え、様々な課と一緒に活動する機会が増えていきました。その中で幼児から小学生を対象とした活動「のびるんdeスクール」と「できたフェスタ」をご紹介いたします。
2.具体的な内容
A.のびるんdeスクール
(1)きっかけ
小学校の部活動廃止(*)を受け、市役所の生涯学習課は課外活動で何をすれば良いかを考えており、私どもも今までの部活動の時間を使って、多くの子供たちに音楽を楽しむ場を提供したい思いがありました。そこで指導者を派遣して体験型音楽ソフトを提案し、市議会議員の方にも意見を求めながら、協力していただけるよう働きかけ2020年5月実現に至りました。音楽教室事業以外の音楽普及活動として、園や小学校に出向いて直接音楽を体験する機会を提供でき、かつビジネスとして持続可能なモデルを模索しています。
*)小学校の部活動廃止:国の働き方改革の一つで、今まで学校の教員が担ってきた多忙な部活動を学校から地域のクラブ・団体へ移行する政策が2020年9月に文部科学省より提示される。
(2)内容
内容は各ペアに一任しており、ファシリテーターの個性が発揮できるジャンルや楽器で、小学生が誰でも楽しめる体験型のメニューをお願いしております。楽器は学校備品をある程度使用し、時間は1回45分程度(準備と片付けの時間は除く)です。積み上げ型ではなくワークショップ的な単発メニューを前提にした内容です。毎回参加希望の方が多いのは、音楽に対する関心が高いことや満足度を示しており、歌を口ずさんで帰る子、学校の授業は受けないが「のびるんdeスクール」には行きたいという子、チェロの生演奏を聴いてチェロを始めた子もいるなどうれしい声が届いています。市役所の担当者も、音楽の効果についての理解が深まっており、感謝されています。自治体とは、お互いに協力し合って改善を重ね、良好な関係性のもと事業を継続できています。
(3)展開学校数
1年目は2校、2年目は12校で開催。その後も段階的に活動を拡げたいところでしたが、平等な機会提供を求められ、3年目の秋には一気に全52校の展開となりました。音楽だけでなく、スポーツや英語など他カテゴリーの体験学習が展開されています。音楽だけのメニューで、4年目の2023年度は延べ687回(各校13回程度)実施。本年度は840回(各校16回程度)が計画されています。
市役所は年間計画を立案し、いつどのようなメニューが受けられるかをまとめて保護者様へ情報を開示、参加者を募ります。参加は有料(1回300円)。当日はシルバー人材のサポートもあり、子供たちを地域で見守る機会にもなっています。
(4)私どもの役割
- ファシリテーターの募集
- 二人一組のペアリング
- 稼働希望日の把握と稼働組みと派遣
- 市とファシリテーターとの情報共有
- 年1回の更新研修
ファシリテーターは、自店の音楽教室講師、地域のピアノレスナー、管弦打楽器を含む音楽指導者に声を掛け、保育経験がある方にもサポートしていただいています(現在は55名の方が登録、稼働)。
(5)成果と課題
社会貢献活動といえども、ボランティアではなくビジネスで成立させなければ持続できません。私たち楽器店が社会に関わり続けるために収入が必要であることを共有できており、収入面においても納得した条件で開催できています。課題はファシリテーターを確保し続けること、人材の教育、提供する音楽ソフトの質向上です。
内容を都度確認できないため、市役所や講師からのフィードバックが重要で、運営に活かすべく情報を共有しております。また、学校ごとに判断が異なることや、学校の部屋や備品を使う上で気を遣うこともあります。小学生のときから音楽を学びたい!楽器を演奏したい!という気持ちを育み、いかに吹奏楽などの地域クラブ活動へつなげられるかが次のテーマで、その受皿について市と会話しながら、準備を始めています。
B.できたフェスタ!(習い事体験フェスティバル)
(1)きっかけ
私の友人に体操教室と英語教室の事業者がおり、一緒に生徒募集イベントを行うことを検討していました。市の施設で開催したい旨を施設の責任者へ相談し、2024年2月豊橋市主催のイベントとして行うことができるようになりました。運営は主に、できたフェスタ実行委員会(書道、絵画造形、バレエ、ダンス、空手、音楽、英語、体操の各代表者が加盟)が担っています。
(2)内容
幼児~小学生が習い事を選ぶためには、保護者が子供の体験する姿を見られる場が必要です。保護者が習い事について理解を深め、習い事を検討する機会を提供しています。8つの習い事の「体験レッスン」に加え、現在習っている生徒さんの成長を見られる「できたステージ」を行い、様々な習い事のパンフレットを自由にお取りいただける「資料コーナー」も設置しています。弊社は今年も、ヤマハ音楽教室講師による3歳、4・5歳向けに体験レッスン(グループ)を行い、40名の方に体験していただき、できたステージでは18名の生徒様にピアノソロ演奏を披露していただきました。
(3)成果と課題
できたフェスタは、習い事の事業者が出展料を出し合い、チラシ印刷から配布手配、予約受付、当日運営までを協力していっています。豊橋市主催イベントのため、市内の幼稚園と小学校へチラシを配布できるメリットがあり、子供の習い事について考えていただくきっかけになっています。 従来の音楽教室内部での体験レッスンは、参加申込みが年々減っています。今後は外部会場での出張体験レッスンやコンサートなど、気軽に音楽に触れる機会を積極的に作っていく必要があります。無料の音楽イベントに集まった人に、いかに音楽の価値を伝え、入会へとつなげられるかが課題です。そのための資源(経費と人的エネルギー)には限界があるため、年間計画として活動していきたいと考えています。
3.抱負
現在、地方の楽器店が抱えている課題は、共通していることが多いと感じています。今こそ業界が団結して共通する課題解決に取り組む必要があります。昨年、中日本楽器小売商交流会(C-JAMM)という団体(東海北陸7県の楽器小売店36法人、50名で構成)が発足して現在2年目を迎えており、幹事長の役を仰せつかっています。会員にとって有意義であることはもちろん、日本における音楽文化振興につながる活動を行っています。
個人的には、現代の教育に必要とされるリベラルアーツとして、「音楽」はますます重要になっていると感じます。文科省、文化庁、県や市の教育委員会に働きかけることは必要ですが、私たちが自ら強く音楽の価値や可能性を発信し続け、新たな流れを創り出さなければなりません。同時に、楽器店が地域に必要な存在であり続けられるかどうかが問われています。公のために今後必要とされる活動とは何かを追求し、挑戦し続けていきます。
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