活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】森でつながった地域と音楽と私〜「FOREST JAZZ@カーボン山」

(2024年08月20日公開)

地域音楽コーディネーター 作・編曲家 横浜市 諸井 野ぞ美さん

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■活動テーマ:
森でつながった地域と音楽と私〜「FOREST JAZZ@カーボン山」
■目次:
■活動開始時期:
2001年~現在
■場所:
横浜市菊名桜山公園(カーボン山)
■対象:
一般
■活動内容

1.きっかけ

「カーボン山」は横浜市港北区菊名(JR・東急東横線)の小高い丘にある八重桜の森で、私が緑豊かなこの地に移り住んできたのは、かれこれ30年以上前になります。当時この森は第一カーボン株式会社が所有する民有地でありながら地域住民に開放されており、私もこの森とともに暮らしていましたが、2001年、この森はマンション開発会社へ売却されることになりました。日頃から親しんでいた森が失われることを知った地域の人々は『桜の森を守る会』を結成し『公園化』を目指した活動が始まりました。
コアメンバーはそれぞれ得意分野を持ち合わせており、当時は「よくこれだけの役者がそろったものだ」と思ったものでしたが、横浜市と開発会社との交渉テーブルを設けたり、様々な調査に基づいた要望書や提案書の作成、地域の既存団体に協力を仰ぐなどの活動を行いました。
私はといえば、音楽を生業にしており、作曲・編曲・演奏・指導の他に、以前所属していた会社ではコンサート制作など裏方的な仕事にも携わっておりましたので、私にできることとして、広報を目的としたイベント『桜まつり』や『感謝祭』などの音楽面、また、自身のホームページの運用経験から、『桜の森を守る会』のホームページ(*1)の作成を担い、この活動の中のひとりとして存在することとなりました。
2005年、人々の思いは結実し横浜市の公園になることが決まりました。整備計画は市民と行政が協働で行い、2010年に 『菊名桜山公園』として開園しましたが、地域では今でも『カーボン山』と呼ばれています。

*1)桜の森を守る会(SAKURA FOREST COMMUNITY/菊名桜山公園愛護会): ホームページ

2.具体的な内容

フォレストジャズForest Jazz@カーボン山について

『公園化』以降は、長年開催してきたイベント、春の『桜まつり』と秋の『感謝祭』に加え<アートイベント>夏の『フォレスト・ジャズ』と冬の『フォレスト・クリスマス』の開催を開始しました。コンセプトは、<森とアートでつながるコミュニティづくり>です。この<アート>はいわゆる芸術的なことに限らず、 お掃除でもお料理でも、独自のこだわりを持って<皆で創ること>を<アート>と位置づけています。これは『公園化への活動』が<皆で創ること>と<コミュニティづくり>であったからですが、ここでは、私が携わっている音楽イベント『Forest Jazz@カーボン山』についてご紹介させていただきます。

<演奏者>

フォレストジャズ『Forest Jazz@カーボン山』は、2011年より開催し、2020~2022年は休止していましたが、昨年2023年に再開しました。近在のライブハウスに出演していた小山尚希さん(Bass)にコアメンバーの一人が出会い、演奏を依頼したことが始まりでした。初期はその小山さんのトリオで、後に持山翔子さん(Piano)、小山尚希さん(Bass)のユニット『m.s.t.』(*2)を中心として、回ごとにその仲間達である、KOTETSUさん(Vo.,Trb.)、山下伶さん(C.Hmc.)、辻本美博さん(Cla.)、他をフィーチャーし、出演いただいています。 2011年に結成された『m.s.t.』は2017年にメジャーデビューを果たし、彼らの発展の道のりとこのイベントは共に成⻑を重ねていくこととなりました。『m.s.t.』はオリジナル曲をメインとしたユニットですが、『Forest Jazz』では、「~向きの」とか「~を対象に」といったマーケティング的なことよりも「表現する人が主体的に表現する」というコンセプトの下、思う存分彼らの音楽を表現していただいています。「ジャズは難しい」「知っている曲があまりない」という声が巷(ちまた)によくあります。それに対し聴衆の反応はどうだろうかと気になるところでもありましたが、そのような杞憂(きゆう)は全く無用で、彼らにしかない音楽を楽しんでいただき、年々聴衆は増え、地域恒例の一大イベントになりつつあります。最新(2023)のアルバム『HOME』の中には、”Forest”というこのカーボン山を題材とした曲も収録されています。

*2)m.s.t.: ホームページ

<会場>

ちなみに、この会場は公園の『トイレ棟』です。この建物は整備計画時から多目的に使用することを考慮してデザインされていますが、イベント当日はこのトイレ棟をライブ会場に変身させます。トイレと一体となった東屋(あずまや)部分をステージとし、その後方のスペースに楽屋とキッチンを設け、建物前のテラスは有料・予約制のテーブル席となります。テーブルにはクロスを掛け、夕暮れにはキャンドルを灯(とも)し、本物の食器でお飲物やお料理を提供するジャズクラブに仕立てます。また、このテーブル席以外のエリアは入場フリーのピクニックエリアとして多くの方々に開放し、ボーイスカウトなどの協力で飲物、食べ物の提供も行います。
森の中、暮れから夜への色の移り変わりを背景に、ステージでパフォーマンスをするミュージシャンはもちろん、聴衆もお料理も全てがその空間の音楽を創ると考えていますが、日常的な公園がイベント当日だけこのような空間に変身する非日常の特別感も 『Forest Jazz@カーボン山』の魅力となっているのではないかと思います。

<機材・ステージセッティング>

ライブには当然PAが必要になりますが、ひとつのコンセントで数百人を相手とした音を作ります。有料・予約制のテーブル席に見合った音であること、フリーのエリアでも音楽イベントとして楽しめること、更に公園には隣接する住宅地があり騒音にならないこと、これらをクリアする必要があります。
機材はふだんイベント用に用意しているものでは足りませんので、ステージ担当メンバー3名の手持ち機材を寄せ集めて行っています。近年は編成が大きくなり(2023/9/30の編成ピアノ+鍵ハモ、ベース、サックス、ドラムス、パーカッション)チャンネルの割当ても『m.s.t.』とステージ担当の連携で行い、お互いに妥協することなくサウンドを追求できることにとても感謝しています。

<近隣住民への配慮>

「音」についての近隣への配慮ですが、あらかじめライブ開催のご案内とともに実際の音の出る時間などの詳細を告知するだけではなく、ご意見・ご要望がある場合は直接連絡を取らせていただき改善するという方針で、スピーカーの向き、遮音・反射パネルなどを工夫し対策を講じています。本番では聴衆も盛り上がってきますので、デシベルメーターを見ながら、歓声を含めたトータル音量を調整し、あらかじめ告知している終了時間を厳守するなど、細心の注意を払っていますが、こういった近隣とのコミュニケーションも含めた全てを『Forest Jazz@カーボン山』と考えています。

3.成果

2023年は例年通り夏のイベントとしてまず7月末に行い、そして『m.s.t.』のニューアルバム発売のタイミングで2か月後になる9月末に立て続けに行いました。両方とも会場を埋め尽くすお客様で、特に9月の方は2か月後、という僅かな間隔であるにもかかわらず、更に来場者が増え、この地でのジャズの鑑賞が定着していることを感じました。もともと横浜市は横濱ジャズプロムナード、本牧ジャズ祭など市民が街角でジャズに触れる機会に恵まれている地域ですが、更に徒歩や自転車で行ける距離で行われるということで、その気軽さが集客につながっているのかもしれません。

4.課題

お陰様でここまで無事に大きな問題も起きず続いてきましたが、今後を勘案すると課題も見えてきます。

  1. イベントにおけるスタッフ体制について
    聴衆の増加により、目が行き届かないところが多くなることで起こる、トラブルやアクシデントを防止すること。また今後は関係者も徐々に高齢化していくので積極的に若手を巻き込み、スタッフの年齢層と人数を拡大する必要性などが挙げられます。
  2. 資金面について
    イベントが大きくなったことで個々が負担に感じてしまうと持続が難しくなります。もちろん資金があれば解決できる点も多々あり、資金調達の手段も日々検討しています。キッチンやPAにプロの方に入っていただくという解決策もありますが、<皆で創ること><コミュニティづくり>からかけ離れていくことは避けたいところです。

5.抱負

「市民が喜ぶことを!」「音楽の良さをわかっていただく!」など気負ってしまいすぎると、だんだん力の入った答え探しばかりになってしまいます。いつもそこにある風景に、当たり前のように音楽が寄り添う、そんな形を自然に創ってゆくことが理想です。
また、『公園化』を目指した頃から開催している『桜まつり』や『感謝祭』のステージは、地域のアマチュアや子供達のパフォーマンスの機会となっており、この場から将来のアーティストが誕生することも期待していますが、次のステップとしては、大規模なイベントだけでなく日常的な週末カフェのようなものなど、今頭の中にあるものをひとつひとつ実現していきたいと思います。

最後に、この森は作品を生み出すためのインスピレーションとエネルギーをいつも私に与えてくれています。そしてイベントづくりでは、長年の音楽の仕事で培った技術や方法を生かすことができます。こうしてこの森に関わるまでは別々の存在だった「自分の音楽」と「自分が居住している地域」がつながっていることを今実感しています。地域の森を守る活動から始まった<森とアートでつながるコミュニティづくり>の更なる発展を目指し、今後も微力ながらお手伝いできたらと思っています。

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