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地域文化クラブ推進事業レポート その7「杉劇地域文化クラブ応援プロジェクト(神奈川県横浜市)」

(2024年09月26日公開)

中学校の部活動は、これまで学校の先生方が中心になってその指導を担って来られました。昨今注目を集めている働き方改革の一環として、教員の残業の原因の一つとなっている部活動指導を地域と連携した形に変えて教員の負担を軽減しようという方向性が文部科学省から打ち出されました。

まずは、令和7年度(2025年度)までに土、日、祝日での部活動に教員が関わらなくても良い環境の整備が求められています。音楽文化創造も文化庁の委託を受けて、昨年度全国7団体と連携して実証事業を行いましたので、その取り組みに関して順次レポートして参ります。第7回は横浜市の 横浜市磯子区民文化センター杉田劇場による「杉劇地域文化クラブ応援プロジェクト」の取組レポートです。

【杉劇地域文化クラブ応援プロジェクトの取組レポート】


1)基本情報とプロジェクトの背景

横浜市は地域に根差した個性ある文化の創造に寄与するため、区民文化センターを設置しています。杉田劇場は、横浜市磯子区の区民文化センターで、地域文化の振興を目的とした多様な活動を展開しています。本プロジェクトは、教育現場での働き方改革を推進するために企画されたもので、地域に住む専門家や文化担い手と学校を連携させることで、学校の部活動の負担軽減を図ることと、地域の文化振興に寄与することを目指しています。

また、「地域文化クラブ」という新しい公立学校の部活動形態を実証し、その有効性を検証するために実施されました。

2)活動概要と取り組み

活動場所は主に杉田劇場と各学校の音楽室で行われ、対象となる学校は横浜市磯子区内の中学校と小学校でした。中学校では吹奏楽部を対象に、小学校では特設合唱クラブを対象にして、それぞれ月に2回から3回のペースでプロの指導者が派遣されました。

中学校の吹奏楽部で合計61名、小学校の合唱クラブで31名が参加しました。活動は2023年9月から12月まで行われ、中学校では月2回から3回、小学校では11月と12月に1回ずつ実施されました。指導時間は1回あたり2時間程度で、各学校の年間スケジュールや感染症の影響を受けて柔軟に対応しました。

指導者は、横浜ユーフォニアム合奏団代表や防衛大学の吹奏楽指導者、ソプラノ歌手など、専門家が担当しました。これにより、学校では提供できない高度な音楽教育が提供されました。

活動財源は、文化庁からの地域文化クラブの実証事業の事業委託費と磯子音楽祭事業費(杉田劇場)が主な資金源となっており、保護者の負担はありませんでした。

3)成果と課題

成果として、まず生徒たちからは非常に高い評価が寄せられました。プロの音楽家による指導は、生徒たちにとって貴重な体験となり、音楽に対する興味や関心が一層深まりました。また、磯子音楽祭が発表の場となり、2023年12月23日に中学校の吹奏楽部と小学校の合唱クラブが合同で演奏を行いました。この合同演奏は、学校の枠を超えた交流の場として機能し、生徒たちの成長を促しました。

アンケートやヒアリングを通じて、プロジェクトの成功が確認され、今後の活動に向けた意見が収集されました。特に中学校の吹奏楽部顧問や小学校の合唱クラブ指導者からは、プロジェクトの価値が高く評価され、次年度以降の継続を望む声が多く寄せられました。

一方、プロジェクトを通じていくつかの課題も明らかになりました。特に学校と講師の間での認識のずれやスケジュール調整の難しさが大きな課題として浮上しました。学校行事や感染症の影響で、活動日程が不安定になり、各学校で対応が異なるため、統一的な進行が困難でした。また顧問教員の対応にもばらつきがあり、プロジェクトの効果を最大限に引き出すには、さらなる調整が必要であることがわかりました。

4)今後の方針

これらの成果と課題を踏まえ、プロジェクトの今後の方針が設定されました。

まず、学校との連携をさらに強化する必要があります。具体的には、教育委員会や校長会との連携を密にし、現場教員だけでなく学校全体での協力体制を構築することが求められています。特に地域文化クラブの実施に際しては、最低でも1年前に学校との調整を行い、校長と顧問を交えた話し合いの場を設けることが不可欠でしょう。

また学校と地域の専門家との間をつなぐコーディネーターが非常に重要です。特に、学校教育の現場を理解しつつも、講師とも緊密に連携できるコーディネーターの存在が、プロジェクトの成功に不可欠となります。このため、今後は三者(学校、教員、講師)に対する研修とフォローアップの仕組みを構築し、三者をつなぐコーディネーターの育成が求められています。

さらに、プロジェクトの継続には、行政からの支援を強化することも必要です。横浜市は政令指定都市であり、人口も多いため、動きが遅くなることがありますが、今回のプロジェクトを通じて校長先生たちの関心が高まり、次年度参加を希望する学校が増加していることが確認されました。これにより、行政のトップダウンのアプローチも組み込み、教育委員会から校長会への流れをつくる仕組みを構築することを提案していきます。

プロジェクトの成功と今後の課題解決のためには、学校と地域の講師たちの相互理解を深めることが重要です。これには、現場教員と講師がともに参加する研修の実施や、定期的な情報交換の場を設けることが含まれます。これにより、プロジェクトの効果を最大限に引き出し、地域文化クラブが地域社会に根付くような取り組みが推進されます。

5)まとめ

「杉劇地域文化クラブ応援プロジェクト」は、地域と学校の連携を深め、教育現場での働き方改革を推進するための重要なモデルケースとなりました。プロの音楽家を学校に派遣し、生徒たちに質の高い音楽教育を提供することで、地域社会の文化振興にも寄与しました。一方で、学校との調整や認識のずれといった課題も浮き彫りとなり、今後のプロジェクトの継続と改善には、さらなる努力が求められます。今後は、行政との連携強化、コーディネーターの育成、そして学校と地域の専門家の相互理解を深めることで、より効果的な地域文化クラブの実現を目指していくことが期待されます。

杉田劇場は、このプロジェクトを通じて得られた知見を基に、地域文化クラブのさらなる発展と、教育現場における働き方改革の推進に貢献してまいります。

●杉劇 地域文化クラブ 応援プロジェクト
https://www.sugigeki.jp/杉田劇場の刊行物/杉劇-地域文化クラブ-応援プロジェクト/

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