活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】それぞれの地域の持つ環境、文化の中に溶け込む音楽活動があるとしたら

(2024年10月11日公開)

地域音楽コーディネーター 千葉県 コントラバス・ベーシストK企画代表 TORAMELOLABEL副代表 日下部史貴さん

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■活動テーマ:
それぞれの地域の持つ環境、文化の中に溶け込む音楽活動があるとしたら
■目次:
■活動開始時期:
2000年~現在
■場所:
茨城県龍ヶ崎市、長野県高遠町、千葉県我孫子市と船橋市の公民館ホール他
■対象:
一般
■活動内容

1.きっかけ

私は高校時代、エレクトリックベースで地元山形県酒田市の仲間とバンド活動を行っていました。高校卒業後、都内の音楽学校に入学し様々な音楽ジャンルに興味を持ち、その後コントラバスに持ち替えてジャズを中心にクラシック、民族音楽、ポップスなど様々なジャンルでの演奏活動を始めました。プロミュージシャンとして活動している中、各地域に音楽の力で街・村を活性化している方々と出会い、その活動に賛同し公共ホール、レストラン、催し場等での演奏会・イベントの企画・運営に関わるようになりました。

2.地域音楽普及活動に関わり始めたころの事例

現在の活動を行う上で、サポートから始まった次の経験が活(い)かされています。

A.茨城県龍ヶ崎市「田んぼの音楽会」

龍ヶ崎市(茨城県の南部に位置する)の音楽会で紹介して頂いた主催者のジャズドラマー・パーカショニスト三浦能氏(アメリカより帰国後、龍ヶ崎に移住)より2001年「たんぼの音楽会」というお祭りを開催するためのスタッフの一人として依頼を受けました。氏の目的は、龍ヶ崎ニュータウンは新しい街で地元に祭りがなく、この祭りを通して地域住民のコミュニティづくりをすることです。私の役目は演奏者を都内等から招へいすることでした。

「田んぼの音楽会」というのは龍ヶ崎の水田のど真ん中にある一面を会場にしてメインステージを作り、地元のバンドや和太鼓グループが出演しました。他に地元の野菜などの販売出店、バーベキュー、地元の住民が子どもたちにベーゴマやザリガニ釣りを教える遊びのコーナー等も設置されていました。成果としては地元の運営スタッフの方々・出演者・来場者とも親しみ深く触れ合うことができ、大きな感動を得、有意義な会に感じました。

B.長野県高遠町(たかとおまち)廃村の芝平(しびら)「廃校の音楽祭」

声楽家の村澤健一氏らによって長野県中部に位置する廃村の芝平の廃校となった小学校の体育館を活用する音楽祭の企画が生まれました。当初は音楽祭を開催しても数少ない移住組しかいない場所であり、しかも季節の良い時期にしか滞在していない場合が多い環境の中、どのように広報するか大きな課題でした。そこで地元新聞社とコンタクトを取り取材を受けることができ、また麓の有名なホテルと提携して進めることができました。私の役割は演奏の他に、私が招へいした出演者連絡やステージ構成補佐・舞台監督的な業務でした。2010年から2012年までの3回の活動で終了となりました。

3.現在の活動

A.茨城県龍ヶ崎市「龍ヶ崎JAZZ倶楽部」(RJC)

(1)目的

龍ヶ崎「田んぼの音楽祭」で交流した歯科医で地元のドラマーの秋山修一氏の呼びかけにより、龍ヶ崎でジャズのライブの会「龍ヶ崎JAZZ倶楽部」(RJC)を2009年からスタートし今年で15年目になります。開催当初の目的は

  1. シャッター商店街化していた龍ヶ崎旧市街の復活・再生
  2. 高齢化が進んでいる近隣住民の孤立を防ぎ、つながりを維持する。
  3. 田舎町に一夜だけでもジャズを楽しむ機会を提供し「ちょっとおしゃれをして出かけていきたい」と思えるような会にすること。
(2)会場

市内の古い蔵(おくら)

(3)内容

地元のJAZZ演奏家である秋山氏と都内、全国で活動するプロミュージシャンらが共演する形で企画し、最初の1年は隔月で開催、その後は毎月開催となりました。ジャズのスタンダード曲を中心に1時間ほどのステージを2回行っていました。

毎回ほぼ満席に近い動員(平均25名ほど)を得ました。私は演奏の他、企画、出演者のキャスティング、PA、会場設営、運営サポート、アドバイス等多岐にわたりました。

(4)課題

○収支面
出演者への謝金、会場費、打ち上げ費用等をすべて賄える金額には及ばず、全体は赤字の運営が長く続きました。

○会場
最初の会場であったお蔵が消防法などの関連で継続利用が難しい状況になりその後、新しい会場も管理責任者の代替わりやコストなどの問題で利用できなくなる等、紆余曲折(うよきょくせつ)ありました。

(5)新しい運営体制

コロナ渦の長い中断後、再開するため会場を探し始めた時、地元のNPO法人「茨城県南生活者ネット」創設者・会長の松原卓朗氏がRJCの活動状況に興味を持ってくださり、同NPO法人が運営している龍ヶ崎コミュニケーションハウス(コムハウス)という施設の使用を勧めてくださり、2023年以降、RJCのイベントは同NPO法人が数多く開催しているイベントの中の一つとして運営されています。RJCの運営方法をそっくりそのまま受け入れてくださったこの新しい体制はすでにコミュニティ作りが進んでいたRJCにとって大変有難く、主に会場費などの負担が大きく減りRJC自体の収支状況も大幅に改善されました。

一時中断していましたが、2023年8月からはコムハウスでの活動とは別に龍ヶ崎市内にある「CR5BAR」というライブバーを会場に、ワークショップ形式のジャズセッションも行っています。

今年は7月に地元周辺地域で活躍する地域のミュージシャンの方々との更なるジャズ演奏の研究・成果の発表の場として、ある地元のお祭りでのステージの機会を作り、お祭りを楽しむ市民の皆様の中での発表の場を創ることができました。

B.千葉県我孫子市「我孫子市民プラザのJAZZコンサート」

我孫子市民プラザは我孫子市の大型ショッピングモール内にある公民館です。2016年に館長に就任された松平氏とともに同館の多目的ホールを使った同館主催公演としてのジャズコンサートを立ち上げ、現在9年目を迎えます。松平氏はジャズボーカルを嗜(たしな)むほどのジャズファンで、同館館長への就任以前から当時RJCで行っていたジャムセッションへの参加やRJCのライブを観にいらして頂いた事がご縁となりました。

我孫子市民プラザでは主催でのジャズコンサート開催の前例がなかったことから試行錯誤しながらの開催になりました。年に3回のペースでの公演を続けてゆくにつれ演奏者、来場者が増え、また別の地域の公民館(松戸勤労福祉会館)からも開催依頼を受けるまでに成長しました。次期館長に就任された須田氏もこのイベントを継承し、2019年12月の公演では動員が200名(会場定員200名)を超えました。

C.音楽事務所「K企画」と音楽団体TORAMELO (トラメロ)LABELの設立

コロナ渦において館による自主公演の開催ができなくなった我孫子市民プラザでのジャズイベントを継続するために、2021年2月に私個人の音楽事務所名である「K企画」を主催として我孫子市民プラザでのジャズコンサートを開催しました。「文化芸術活動の継続支援事業」の制度を利用して実施し、開催費用の確保を行うことができました。

その後、このコンサートに参加されたジャズボーカリスト中溝ひろみ氏を代表としたTORAMELO (トラメロ)LABELという音楽団体の立ち上げに副代表として参加しました。設立のきっかけはコロナ渦当時に文化庁から発表された補助金「AFF」への応募でした。

AFF

同年12月、我孫子市民プラザにてTORAMELO LABELの主催でクリスマス公演を行いました。

2021年に行ったこの二つの自主公演では、外出自粛によって音楽に触れる機会を失っている方々へ新旧の洋楽ポップスや日本のJポップをジャズミュージシャンによるアレンジと演奏で楽しんでいただく企画として制作し、多くの来場者より親しみやすい内容だったとの評価を頂きました。その後、次期館長となられた駒澤氏への引継ぎもスムースに行われ、2022年9月に我孫子市民プラザ主催での公演を復活し、以降再び年に3回の公演ペースも復活し来場者数も回を重ねるたびに増え、現在はほぼコロナ前の水準になっています。

2024年3月には「我孫子産品物産展」というイベントに併設開催する形で、我孫子に由来のある白樺(しらかば)派文学に絡めた音楽イベントが企画され、クラシック演奏家の演奏と朗読を楽しむイベントとともに、若手ジャズミュージシャン達(たち)による創作小説の朗読とジャズ演奏のインプロビゼーションを行いました。コンサートメインではない、より地域性に寄り添ったジャズ演奏の活用などの取り組みも行っています。現在は2024年、9月と12月に行う「我孫子市民プラザのJAZZコンサート」に向けた準備を行っています。

D.千葉県船橋市TORAMELOLABEL「親子で楽しむジャズコンサート」

トラメロは地元船橋・千葉県でのコンサートを中心に活動を行っています。

2024年5月にトラメロでは「親子で楽しむジャズコンサート」という自主公演を船橋市の市民文化創造館「きららホール」で開催しました。この企画は中溝氏ご自身の子育て経験のつながりで、船橋市・子育て支援センターから「親子で楽しめるような音楽の会を行ってほしい」との依頼があり、取り組み始めたことがきっかけとなりました。

目的:育児に忙しい保護者に対し、子どもと一緒に気兼ねなく生演奏を聴いていただく機会を作り癒(い)やしの時間を与えたい。また子どもたちへも音楽の楽しさを体感してほしい。それが将来のリスナーの広がりに寄与する。
対象:乳幼児から10歳ぐらいの子どもと保護者
会場:自由に座り込んだり移動できる場所をレジャーシートで作成
内容:保護者の方もお子さんも親しみの持てる楽曲の演奏と音遊びのコンサート
成果:子どもたちが音楽のある空間を自由に過ごしている様子がとても有意義に感じられた。

4.学んだことと課題

(1)「田んぼの音楽会」

特別な機会として存在する「お祭り」でしたが「いろいろな遊びや楽しみのコンテンツの中に音楽もある」という雰囲気がありました。音楽がある環境を作ろうという単独の発想よりは、様々な生活の中の楽しいコンテンツと音楽が共存して発展してゆくイベントのモデルを体感させていただきました。

(2)「龍ヶ崎JAZZ倶楽部」「我孫子市民プラザのJAZZコンサート」

多くのお客様方に様々なジャズに楽しく出会っていただくための工夫が必要と考えていました。簡単に「お客さまを育てる」と言うと、それは私などには大それた言葉で適当ではありません。しかし、歴史をなぞって「古い音楽から新しい音楽へ」というような単純な順番での表現とは別に、参加者の皆さん方が興味を継続して膨らませてゆけるようなコンテンツの順番作りに注意を払いました。

現在はいずれの会も開催当時よりも幅の広い音楽性のコンテンツをお客様方が自然に楽しんでいただける会になっています。今回紹介させていただいたそれぞれの会を長く維持・発展してくださっているリーダー・スタッフ・関係者とお客様方に敬意を覚えます。環境は変化し、新しいお客様も増えてゆく中で、コンテンツを様々な方々に、新鮮に受け止めていただくための工夫はこれからも必要になると感じています。

5.抱負

今後も演奏家としてのみならず、地域の音楽文化の活性化へ関わっていけたら幸いと思います。

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