地域音楽コーディネーター クラリネッティスト 吹奏楽コーチ 山形県 高橋麻里さん
- ■活動テーマ:
- みんなの吹奏楽みんなの居場所〜吹奏楽地域移行トライアルに参加して〜
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 2004年~現在
- ■場所:
- 山形市内の小・中学校、高等学校、富岡本店、山銀ホール他
- ■対象:
- 小学生~大人まで
- ■活動内容
1.きっかけ
音楽大学でクラリネットを専攻し、卒業後一般企業に就職しましたが、ある日、音楽のない生活に疲弊しまったのか体調を崩し地元山形へ帰郷しました。その後、以前お世話になっていた楽器店の方より「うちで仕事しないか?」とお声をかけていただき、これが私の人生のターニングポイントとなりました。少し時がたった頃、その楽器店に良く来店される中学校の先生に「学校の部活動でクラリネットを教えてほしい」との依頼があり、引き受けたのが現在の活動のきっかけとなりました。
2.具体的な活動
(1)外部吹奏楽コーチとしての三つの柱
吹奏楽の指導は中学・高校に訪問することが多いですが、小学校から大学まで幅広い年代の生徒の方々にもお会いします。各学校の部員数の規模、使用している楽器の種類や状態などは様々です。多くの学校はコンクールに向けての練習が多く、一回3時間程度で月一から数か月に一回のときもあり、顧問の先生と相談しながら進めていきます。私の役割はクラリネットパート他、木管楽器セクション(フルート・オーボエ・ファゴット・サックス)の演奏指導です。
吹奏楽指導で大事にしている三つの柱があります。
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音楽を味わう心を育てる
生涯にわたって育てていくことが大きな使命です。音楽は知れば知るほど新しい世界があるという心を養いたいと思っています。その心は積み重なり、生徒たちがこれから歩むための大きな糧になります。頑張ったこの先に美しい世界と感動が待っていることを届けて行きます。 -
中長期的な目標を具体化する
木管楽器に大切なタンギング(舌による演奏テクニック)やそれぞれ曲中でのフレーズの音色等、技術的な目標を持たせます。アイデアを出し具体的な練習メニューを提案します。生徒たちのモヤッとした疑問や悩みを具体化することを大切にしています。 -
今すぐできることを体感させる
音楽作りは時間がかかることも多いですが、その瞬間に解決する場合も少なくありません。例えば、オーボエ、クラリネット、ファゴット、サックス等の木管楽器はリード(*)というものをマウスピース(息を入れる所)に装着して息を吹き込んで振動させ音を出します。
*)リード:葦(あし)と呼ばれる植物を乾燥させて作られる薄い板。これによって音色が大きく左右される重要なもの。
よってリードの種類や厚さを本人に合うものに選定したり、リードを固定する金具を変えたり、マウスピースの取り付け方を調整します。奏者がいい音のイメージで音が変わる、いい音を発見できるようにサポートします。
(2)指導のやりがい
生徒の中には専門の道に進んだ子もおり、指導者としてとてもうれしく私の楽器人生の励みにもなります。しかし何となく吹奏楽部にいる生徒、様々な悩みや境遇を抱えている生徒も少なくありません。このような生徒たちをいかに豊かな方向へ導いてあげられるかが指導のやりがいの一つです。生徒の心に寄り添えるようにと感じるたびに勉強し、様々なところからアドバイスをもらい私の学びにもなっています。
その結果レッスンを重ねるごとに生徒が良い顔つきになり、目が生き生きしてきます。その変化はとてもうれしく感じ私も成長させてもらいます。生徒から見れば私はたまに来るクラリネットの外部コーチですが、それだからこそ見えてくること、伝えられることがあります。心の琴線に触れる言葉を言える存在でありたいと思っています。生徒たちにとって吹奏楽部が貴重な居場所であり、成長できる場になればと思います。このようなかわいい教え子たちとコンサートなどのステージ上で演奏できることは指導者冥利で私の喜びとなっています。
3.地域文化クラブ推進事業のトライアル
(1)背景
昨今、国の政策である働き方改革が様々な業種で進んでいます。学校教育現場においても教員の働き方につき、2019年中央教育審議会で答申がまとめられました。2023年より学校での休日のクラブ活動は段階的に学校主導から地域主導(地域の人材が担う)へと移行します。(地域文化クラブ)
私が吹奏楽コンクールに熱中していた30数年前の学生時代に比べたら部活動の活動時間は三分の一ほどになっているのかもしれません。学校での活動は減少しなければならない状況の一方で、「もっと練習したい、もっと仲間と演奏したい」という想(おも)いの生徒たち、またそれをかなえてあげたい保護者や顧問の先生もたくさんいます。
そこで文化庁が全国で行う実証事業の一つ「地域文化クラブ推進事業」のトライアル」を文化庁・(公財)音楽文化創造が共催の基、2023年11月より3か月間、山形市七日町にある富岡本店にて実施することになりました。富岡本店は120年を超える歴史のある楽器店で山形市の中心商店街にあり、山形市の文化芸術の発信をしています。店の隣の広場は『ほっとなる広場』の名前から『ほっとなる吹奏楽部』と名付けられており「地域のみんなで、楽しく奏でよう!」の合い言葉にはぴったりのネーミングと感じます。講師は合奏と金管楽器セクション担当の佐藤達郎先生と木管楽器セクション担当の私と二人で務めさせていただきました。私に御指名があったのは、今までの外部コーチとしての経験を活(い)かすことができると判断されたと思います。
(2)トライアル実施
発足前から富岡本店の常務よりご提案・ご相談を受け内容、スケジュールを決定し、参加者募集をしました。
<目標>
- 学校、行政、教育委員会や音楽関連団体との連携の可能性を探る
- 地域住民、生徒、保護者のニーズを把握する
- 成果発表の場として発表会を設定。(6曲演奏)
<参加者>
小学4年生~中学3年生、管打楽器経験者一般の愛好家
募集結果としては6名(フルート1、クラリネット2、サックス2、ホルン1)でした。この6名では合奏は成立しないので私が急きょ、指導者兼演奏者として参加することになりました。前日のリハーサルと本番のみ参加できる週末「一日ブラバンDay」のイベントも企画していただきメンバーを募り4名(フルート1、トランペット1、トロンボーン1、チューバ1)加わり11名となりました。
<練習>
計15日
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・練習日 9日
▼1日の流れ
午前 2時間 セクション(木管・金管)練習
午後 3時間 合奏 - ・個人練習 4日
- ・本番前日リハ&本番
<会費>
小・中学生1日の参加料¥1,000 一般¥1,500
○成果
内容的には限られたスケジュールと練習時間の中で皆、上達し音楽が生き生きをしてくる様子、コミュニケーションが深まっていく様子がわかり、とても充実した時間を創ることができました。本番は出演者のご家族や次回参加してみたい方も聴きに来てくださり、大きな拍手を浴びることができ、成功裏に終えることができたことは、主催者側としてうれしく思います。運営側として参加者が良い環境の中で演奏できるように、下記の点に付き留意しました。
- 限られた人材での運営体制作りと密なコミュニケーション
- アクションプランとスケジュール管理
- 参加者のモチベーション維持
- 広報宣伝、チラシ・プログラム制作の工夫
- ステージ制作に関わる音響・照明機材や椅子、テーブルなどのセッティングの配慮
なお、2024年8月より第2回目を開催しています。
来年1月26日(日)にコンサートを行います。
4.総括 みんなの吹奏楽 みんなの居場所
私はこのトライアルを通して活動の存在意義、希望と課題が見えてきました。準備期間の段階から学校へ伺った際、顧問の先生・生徒・保護者の皆様へ主旨をお話しさせてもらうと興味を寄せてくれる方がほとんどでした。地域文化クラブは全ての学校の部活動受皿として必要な存在だと実感しました。仲間ともっと練習・演奏したい現役吹奏楽部の生徒たち、その前向きな気持ちをかなえてあげたい保護者、充実した学生時代を過ごしてほしいと願う先生方、みんなの想(おも)いの集まる第3の居場所になってほしいと願っています。
また今回のように学生だけでなく世代もバックグラウンドも超え、吹奏楽を楽しむ人たちがここに集うことでより大きな地域コミュニティーになります。環境が整えば吹奏楽に関わりたい全ての人が自由に出入りでき、そこに音楽の技術と知識などを深く学ぶことができる大切な居場所になり得るはずです。地域で活動している吹奏楽愛好家の皆様もこの状況に関心を寄せて協力したいと思ってくれている方はたくさんおりました。
しかし地域文化クラブ推進事業を推進していくには様々な課題を解決していかねばなりません。学校・行政・音楽団体・地域の文化施設をコーディネートする人を始め、予算・練習場所と時間・指導者・楽器手配と保管場所・楽譜・それらを総合的に組み立てるシステムなどが必要です。そのためには地域社会が学校とともに強い連携を持ち協力して良い環境創りを整えていくことが求められています。
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