活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】韻を踏んで地域に活力を

(2025年01月08日公開)

地域音楽コーディネーター 沖縄県名護市古我知区区長 コミュニティーラジオ局FMやんばるパーソナリティー ラッパー 社会教育士 沖縄県 宮城研二さん

名護市古我知区豊年祭出演者(2022.8)筆者2列目右から2番目
名護市古我知区豊年祭出演者(2022.8)筆者2列目右から2番目
■活動テーマ:
韻を踏んで地域に活力を
■目次:
■活動開始時期:
2014年~現在
■場所:
名護市市営市場、勝山BASE CAMP(BAR・キャンフ場)、羽地ダム他
■対象:
一般
■活動内容

1.きっかけ

私は現在、沖縄県名護市古我知(こがち)区 区長、学校運営協議委員、コミュニティーラジオ局FMやんばるパーソナリティー、ラッパーとして活動しています。

(1)沖縄県名護市古我知区 区長

名護市古我知区区長になる前に沖縄県立名護青少年の家にて社会教育に従事していました。その仕事の任期満了のタイミングで地元の区長が不在との情報があり25歳の時に立候補、区の総会を経て着任し現在に至ります。区長職は区民と役所(行政)とのパイプ役であり、公民館の施設管理、区の伝統文化継承、行事運営など区・地域で行うことの全てを担い業務は多岐に渡ります。

(2)FMやんばる(*1)パーソナリティーとラップ(*2)

ラジオパーソナリティーは高校時代の友人より「素人でもパーソナリティーを務められるラジオ局がある」との誘いをもらい、2014年より毎週金曜日に出演させてもらっています。趣味のラップを通して良き地元の情報を受発信したく、名護市にあるコミュニティーラジオ局「FMやんばる」のパーソナリティーとして番組企画を出し採用させていただきました。

*1)FMやんばる:やんばるとは沖縄島北部を指す言葉で豊かな森が広がる地域。世界でこの地域しか生息していない「やんばるくいな」という鳥がいる。

*2)パーソナリティーとラップ:1970年代後半、ニューヨークの黒人社会で誕生したリズム(バックビートという)にのせて韻をふんだ歌唱法。ラッパーとはラップを演奏する人

2.具体的な内容

(1)名護市古我知区とは

私が区長を務める古我知区は沖縄県名護市に55ある区の一つです。名護町・久志村・羽地村・屋我地村・屋部村の1町4村が1970年に合併し、古我知区は旧羽地村(全15区)の中に属します。(下記地図参照)名護市でも北西に位置し人口は約350名、130世帯ほどの小さな区です。「古我知焼」という焼き物が有名で、中心産業はサトウキビ・米・アレカヤシなどの農業になります。自然豊かな集落で夜は様々な生き物の鳴き声が聞こえ、中でもミミズク(フクロウ)の「チカホー」という鳴き声が有名です。ミミズクの性格と古我知区民の気質(きしつ)を準(なぞら)え、昔の人たちは古我知の人たちのことを「古我知チカホー」と呼んでいたと言います。全国的には2025年夏に開園される北部テーマパークJUNGLIA「ジャングリア」の足下と言えばわかりやすいでしょうか。

(2)地元の魅力を見つめ直す

地元をテーマにラップを扱ったのは2017年からです。ラップは「韻を踏むこと」や「言葉遊び」などを交え、直接的な言葉で人の心に届かせる歌唱方法です。地元を背負う気持ちと、地元から離れていった方々にも届かせる気持ちで歌詞を書き、地元の魅力を見つめ直し人に届けることを目的としています。

上記した旧羽地村で暮らす人々のことを地元に伝わる島言葉で「ヤキパニジャー」と呼びます。農耕民族だった羽地の人たちは日焼けで肌が真っ黒くなるまで仕事をし、生活を営んでいました。「ヤキ(焼き)パニジャー(羽地人)」=「焼けている羽地の人」と意味されます。その島言葉「YAKI-PANIGER」とタイトルとし、羽地15区の特徴を4小節ずつラップする曲を作りました。名義(MCネーム)はKHYME〈ケイム〉です。

日本語ラップはオリジナリティが非常に大事にされます。羽地の内容でラップの歌詞が書けるのは自分だけだと思います。またHIP HOP(*3)には「レペゼン(represent)」という用語があります。「代表する」や「象徴する」といった意味合いです。HIP HOPが好きで楽曲制作をするならその文化を大切にするのはマナーです。楽譜も読めない、楽器もできない、そういう人が音楽で自己表現できる、それがHIP HOPです。

*3)HIP HOP(ヒップ・ポップ):1970年代後半、ニューヨークの最北端にあるブロンクスで生まれた音楽でラップ・ブレイクダンス・グラフティーアートが含まれる。

▼YAKI-PANIGER

番組の内容としては日本語ラップの曲を紹介・解説をし、時には地元住民をゲストで招いて宣伝や交流を図る時もあります。番組に臨む姿勢として「居酒屋でたまたま隣の席にいるおじさん2人の会話がちょっと面白い」くらいで考えているので、比較的緩く聴きやすい番組だと思います。

(3)地元企業とのタイアップ

上記「YAKI-PANIGER」で少しずつ反響を頂き、様々な企業・団体から楽曲制作の依頼がありました。自らテーマを設定したものもあります。以下タイアップにて制作した曲名と内容を一部記します。

A.名護十字路商店連合(75BEER PROJECT)とのタイアップ

~Amber Beer -75~

2018年、名護でしか飲めない「75Beer」が10月に発売され、県内外から多くの方が名護を訪れ夜の街を賑(にぎ)わせました。ただ「75Beerが発売された」ではなく、プロジェクトの会長に直接お話を伺い「どういった想いと経緯で75Beerを製造するに至ったか」というプロジェクトメンバーの情熱を歌詞にしています。

2020年、世の中はコロナ禍になりました。名護十字路商店連合(75BEER PROJECT)は自粛が少し緩んだタイミングで、名護市にあるオリオンビール工場のバックアップを得てビールを使って名護の街(商店街・繁華街)を盛り上げようと「Beer Hopping」を企画しました。その主旨を基に作ったのが

▼Beer Hopping

B.また街中繰り出せる日々をコミュニティーラジオ局FMやんばるとのタイアップ

2020年、コロナ感染拡大に伴い長期間にわたり外出自粛が続きました。店も軒並み休業、学校等も卒業式・入学式共に自粛、日常の変化に世間が疲れ切っていたころ、FMやんばるの新城社長よりラジオのリスナーに音楽で元気を与えたいというご要望があり、私は今を必死に生きる現実と楽しい未来に希望を持てるようにとのコンセプトで歌詞を書きました。

▼また街中繰り出せる日々を

C.市制50周年記念

2020年8月1日、名護市は1町4村の町村合併をした日から「市制50周年」を迎えました。その日は「ナゴ」に因(ちな)んで75発の花火が上がり、コロナ禍でありながら市内では多くの企業・団体が名護市50歳の誕生日をお祝いする運びとなりました。ふだんはただ通り過ぎてしまうような人々が同時多発的に祝う気持ちになったことをうれしく思い、「ひとつに混ざろう」という曲を作りました。この曲は発表後FMやんばるでも取り上げていただき、ライブでもよくセットリストに組み込むハッピーチューンとなっています。

▼ひとつに混ざろう

D.豊年祭

2021年、古我知区は3年に一度の豊年祭の年を迎えました。区内最大の行事で地元伝統文化の継承行事でもあります。古くから区に伝わる舞踊・棒術をもってお願を奉納し五穀豊穣(ほうじょう)や健康願、子宝祈願などの区の繁栄を祈り感謝するものです。
当時はまだコロナ禍が抜け切らず各区開催の可否を検討した結果、羽地地区全15区で古我知区1区のみが実行の運びとなりました。豊年祭への想(おも)いをくみ取り、多くの区民の方のご協力のもと無事終えることができました。その豊年祭DVDの編集時に、恩返しの意味も込めてしっかりとしたエンディングを作成したいと思い、Septemberという曲を作るに至りました。豊年祭の本番は9月。8月から練習を開始し、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て本番に至るまでの流れを各バースに落としております。様々な面持ちで9月の本番を待つ、この時、この瞬間にしか書けない歌詞内容です。

▼September

E.名護市立稲田小学校・FMやんばるとのタイアップ

2022年に名護市にある母校の稲田小学校が創立75周年を迎え、卒業生にて期成会を設立。それを記念してFMやんばるにて稲田小学校卒業生のみが参加できる期間限定番組「稲田ラジオ」が始まりました。各期生の同級生で集まり75周年を祝いながら思い出をトークする番組です。毎回番組1時間の中でパンチのあったフレーズを挙げてもらい、全13回のパンチライン(印象的な言葉)を一曲にしました。ラジオということで市内県内のみならず県外に住む卒業生の方も聴いてくださり、大反響があった番組で作った曲がInada Radio Punch Lineになります。

▼Inada Radio Punch Line

F.名護市立羽地中学校とのタイアップ

2023年、母校の羽地(はねじ)中学校が授業の一つで行う「地域貢献活動」の時間を利用して楽曲を制作しました。中学生が自身の出身区のために何かしらの貢献活動をすることが授業テーマでしたが、他区では主に公民館の清掃や花壇の手入れ、草刈り作業などを行う中、古我知区は「どうせなら半永久的に残るもの、なお且つやったことがないものを」と話し合い、曲作りに至りました。古我知区に関するフレーズや特徴を中学生に挙げてもらい、歌詞を書き上げました。区の老人会や向上会の方々も孫たちの声が入った曲に感激し、参加した中学生からも初めてのレコーディングに興味津々な様子が伺えた一曲でした。

▼これがうわさの

上記に書いたものは制作したものの一部です。ライブ活動は2018年頃より、名護市営市場・BARがあるキャンプ場勝山BASE CAMPを主な開催場所として行っております。「誰にでも手軽に聴いてほしい」という気持ちが一番なので、制作した楽曲は全てYoutubeに挙げ、SNSにて拡散しています。楽曲制作時にウエイトを置く際は歌詞を重視しているため、動画は基本的に歌詞付きです。

3.成果と課題

(1)沖縄県名護市古我知区として

成果は市民県民の方々が「古我知」や「羽地」の文字や言葉を、新聞・ラジオ・SNSなどあらゆる媒体で見聞きする機会は相当増えたと思います。区長職は若い年代にとって接しにくく感じます。それを若くして区長に着任することで払拭できたのではと思います。全方位的な社会教育ですが、ただ一つ「地域」に対しては極端に特化すべき職業です。若さと勢いで盛り上げている自負はあります。課題は各団体後継者・協力者と単純に財源の不足でしょうか。これが解決できればもっと面白いことができると思います。

(2)FMやんばるパーソナリティー、ラッパーとして

元々はラジオで友人と日本語ラップについて話していれば良かっただけでしたが、番組をしていく中で「ラップをしてみよう」となり現在に至っています。ラッパーとして自身で制作した曲を流して歌詞解説ができる利点も大きく、また音楽を通じて地域の情報を発信でき、地域貢献の一つとなっていることが成果です。パーソナリティーとしての課題はリスナーをより増やすことでしょうか。ラッパーの課題としては「歌詞テーマが枯渇する」ということがあります。何か引っ掛かるアクションがあった場合に歌詞制作に入るので、常にアンテナを張っている意識が必要です。

4.抱負

(1)市内の中高生へ

市内の中高生とラップでコラボレーションをしたいと考え活動しております。現在地域の中学校区にて学校運営協議委員(コミュニティースクール)の役職も拝命しており、今まで行ってきた学校と家庭の連携に「地域」を組み込んで子どもたちを育んでいこうという取り組みが全国各地で広まっています。その一つで当地区の中学校では朝の活動の時間に「語れー会」という催しがあります。中学校に地域の大人を招き、自由なテーマで様々なお話をしていただくといった内容です。

普通は人生のアドバイスや自らが歩んできた進路、仕事の話などですが、人生経験も少ない上に現在を一生懸命生きる中学生の心にはほとんど残りません。私は「好きなことで自己表現をしなさい」といったメッセージを伝えています。その背景には自己肯定感の低さが課題となっている側面があり、コミュニケーションがうまくできない子が増えています。
そこで、課題解決の一つとして日本語ラップの特徴を扱って歌詞を書くことなど、このジャンルの面白さをプレゼンし、誰か一人でも言葉が心に染みてくれれば良いと願っています。

(2)FMやんばるフェス開催

FMやんばるには多くのパーソナリティーがいます。音楽をたしなむ方々も少なからずいるので、「FMやんばるフェス」なるものを開催できるのではと社員の方とお話した経緯があります。まだ可能性は低いですが、開催まで運べたら名護市は大きな盛り上がりを見せると思います。

地域で様々な活動をしておりますが、ラッパーとして尊敬するアーティストの方々の様に無理はせず息の長い音楽活動を楽しんでいく所存です。

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