活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】音楽を通してインクルーシブな社会を目指す

(2025年03月31日公開)

地域音楽コーディネーター 舞鶴子どもコーラス事務局長  京都府 水嶋純作さん

第一回子どもコーラスコンサート2024
第一回子どもコーラスコンサート2024
■活動テーマ:
音楽を通してインクルーシブ(*1)な社会を目指す
*1)インクルーシブ:国籍・人種・性別・年齢・障害の有無に関わらず多様性を認め平等な機会を与える
■目次:
■活動開始時期:
2022年~現在
■場所:
舞鶴市総合文化会館他 市内の公民館・交流施設・高齢者施設 東京のホール等
■対象:
小・中高生
■活動内容

1.きっかけと目的

「舞鶴子どもコーラス」は「音楽で舞鶴を元気にしよう」という舞鶴市の肝いりで、京都府舞鶴市内にある子どもを対象とした二つの合唱団(小学生対象の「まいづる笑顔合唱団」、中高生対象の「Harmony for MAIZURU」)を母体として、2022年5月に小・中学生・高校生約50名で結成しました。6月、舞鶴出身のソプラノ歌手田中彩子さんの舞鶴市文化親善大使就任に伴いイベントが企画され、上記二つの合唱団を母体に新たに団員を募集し再スタートをきりました。

市は文化振興事業の一つとして「音楽を通して生きる力を育むまちづくり」を立ち上げ、一般社団法人エル・システマジャパン(*2)の代表理事の菊川穣さん、田中彩子さん、舞鶴子どもコーラス代表の中野紗織さん、舞鶴市の四者で連携協定を締結し、市の支援いただく体制が整いましました。

*2)一般社団法人エル・システマジャパン:エル・システマとは、1975年ベネズエラで創られた音楽教育プログラム。音楽による青少年育成を目的に、経済状況や障害の有無にかかわらず、希望する子どもなら誰でも無償でオーケストラやコーラスに参加でき質の高い教育を受けられる。エル・システマジャパンは、東日本大震災があった翌年2012年に被災地の子どもたちを支援することを目的に設立される。世界で活躍する指揮者G.デュダメルもここの出身者。

私は、「Harmony for MAIZURU」の理事長をしていた経緯から、舞鶴子どもコーラスの事務局長となり舞鶴市との協議に参加し、組織や規約づくりなどを行いました。

(1)理念

インクルーシブな社会づくりを目指す「エル・システマ」の理念の元、歌や音楽が好きな子どもはもちろん、仲間と繋がるきっかけを探している不登校や発達や障害を抱える子どもたちにとって、自分に自信をもてる心地よい居場所となることを目指しています。

(2)目標

  1. いろいろな仲間と一緒に音楽をつくる
  2. 本物と出会い、素敵な自分を見つける
  3. このまちをもっと好きに、もっと元気に
  4. このまちから世界とつながる

2.具体的な内容

(1)組織体制 (2024年度)

  • 代表:中野紗織
  • 副代表:川﨑美耶子
  • 特別顧問:ソプラノ歌手 舞鶴市文化親善大使 田中彩子
  • 音楽監督:指揮者 古橋富士雄
  • 理事:石原絢子
  • 事務局長:水嶋純作(筆者)

私の役割は舞鶴市と補助金やコンサート開催に関する折衝、指導者と事務局スタッフとの連絡調整などです。この組織の特徴はインクルーシブアドバイザーとフェローを置いていることです。インクルーシブアドバイザーはスクールカウンセラーや特別支援教育相談員などの経験者が、特性をもった子どもへの関わりや保護者の相談などを担当。フェローは中高生合同合唱団のOB.OGで、舞鶴子どもコーラスのコンサートなどに参加する他、フェローとしてサポートします。その他、保護者の方々も協力してくださっています。

(2)コーラス団員

このコーラスは舞鶴市の支援を受け無料で参加することができ、不登校の子どもや障がいがある子どもを含め現在40名が在籍しています。一緒に合唱をすることで、互いに支え合う関係ができています。練習は小学生が週1回(土)1時間半、舞鶴市総合文化会館小ホールと舞鶴市世代交流施設「まなびあむ」などで実施。その他中・高生を合わせたメンバーで合同練習を月1回(日)2時間程度、公演前には臨時の練習を行っています。

(3)活動

A.舞鶴子どもコーラス主催のコンサート

年1回、舞鶴市と教育委員会等の後援により、舞鶴市総合会館大ホールで開催。日程・内容は特別顧問の田中彩子さんと4名の指導者で検討し、最終的に事務局を含めて決定します。協賛金を舞鶴ライオンズクラブ・舞鶴ロータリークラブ、その他関係団体にお願いし、広報宣伝は公民館など公共施設・小中学校にポスター掲示、また「FMまいづる」に指導者や高校生が出演、内容のPR他「舞鶴市民新聞」に情報提供し記事を掲載してもらいます。
第1回コンサートは2024年3月10日に行いました。
第2回コンサートは 2025年3月9日に舞鶴商工観光センターで開催しました。

B.エル・システマJAPANメンバーとしての活動

・2022年12月「東京子どもアンサンブル」クリスマスコンサート(東京Hakuju Hall)「相馬子どもコーラス」と共に録音出演、オンライン配信を通して全国に発信 

・2024年7月15日「エル・システマ子ども合唱祭 in 東京:うたで誰もが輝く時間」(国立オリンピック記念青少年総合センター)
東京子どもアンサンブル、舞鶴子どもコーラス、相馬子どもコーラスの参加

C.舞鶴市主催の公式行事他の出演

市制施行80周年記念式典、戦没者追悼式、舞鶴引揚げの日、 平和記念式典、市民音楽祭、音楽フェスティバルなどに出演。また東京五輪ホストタウンとしてウズベキスタン選手団歓迎行事にて動画にてウズベキスタン国歌斉唱に参加しました。

3.成果

先に掲げた目標ごとに成果をあげます。

①いろいろな仲間と一緒に音楽をつくる

子どもたちは、この活動を通じて学年や学校を超えた仲間と音楽をつくりあげることで、広い世界に触れています。中高生は楽譜を読めない小学生を支え練習をサポートしています。また、学校に通う子どもや不登校傾向の子どもも参加し、練習を重ねる中で多様な関係性が生まれました。

中学校でずっと保健室登校していたAさんは、今年春から子どもコーラスに参加しました。当初は、話をすると涙が出てしまうといっていましたが、先日開催の「被爆ピアノ」のMCを担当し、曲名紹介などをしっかりとやり切りました。「よかったよ」って話しかけると極上の笑顔で答えてくれました。1年前のAさんの姿からは想像できませんでした。
そんなふうにここでは、誰もが安心していられる居場所となっています。

②本物と出会い 素敵な自分を見つける

世界で活躍されているソプラノ歌手の田中彩子さんや、全国の合唱団で指導されている古橋先生の指導を受けられる機会は、子どもたちの世界を大きく広げ、子どもたちにとって貴重な音楽体験となりました。田中さんは「才能はチャンスがあれば開花する」と語り、子どもたちの質問にも丁寧に応えてくださいます。そんな田中さんは、「あこがれ」を身近に感じさせる存在となっています。

また、エル・システマを通じた「東京子ども合唱祭」への参加など、大きなステージで表現したり、他の合唱団と一緒に練習や演奏したりする経験を通じて、田舎に育ちながらも広い世界に飛び出していける自信をつけています。

③このまちをもっと好きに、もっと元気に

誰でも無料で参加できる取り組みをしているまちに感謝しています。また、舞鶴市の行事やライオンズクラブ等の周年行事への参加を通じて、「音楽でまちを元気に」という目的を実現しています。市民の皆さんに楽しみにしていただける存在となりましたし、子どもたちにとってもまちへの愛着が育まれています。ここで育った子どもは、ふるさとを誇りを持って羽ばたいていきます。合唱団のOB・OGたちも、子どもたちへのサポートやコンサートへの参加を通じて、ずっと「子どもコーラス」とつながっています。

また、公民館の行事に出演した際の高齢者の方と一緒に歌ったり、ふれあったりする時間は大変喜ばれ、そばから見ていた方も感激して涙を流されていました。核家族化の中で高齢者と接する機会が少ない子どもたちにも貴重な体験となりました。さらに、近隣の合唱団との合同演奏会は、交流を広げるとともに、自分たちのまちの魅力を再認識するきっかけとなっています。

④このまちから世界とつながる

舞鶴を拠点としながらも、様々な交流活動や情報活動も行ってきました。オリンピックホストタウンに係るウズベキスタン選手団お迎えにウズベキスタンの国歌斉唱を担当しました。(コロナのため動画で出演)またアルゼンチンの青少年オーケストラとの交流など、様々な機会が広がってきました。
地域でしっかりとした基盤を作りながら、世界へも発信していきたいと考えています。

4.課題

(1)市の援助について

「参加費が無料」という大きなサポートによって以前の倍の子どもたちが参加してきました。発足から3年が経過し、補助金の見直しの時期となりました。市の人口減少に伴い文化振興予算が縮小される中、補助金も見直しの対象です。参加費が有料になった場合、団員がこれまで同様に確保できるのか、指導者への謝金や交通費などの資金面での不安があります。
子どもコーラスのインクルーシブな活動や高齢者との交流を評価し、「子どもの健全育成」や「福祉関係」の予算を活用できる可能性についても担当課と相談を進めています。

この問題は、どこの音楽団体も直面しています。日本の文化への予算が極端に低く、(日本の文化支出額は政府総予算の0.1%、政府自身の調査において対象先進国中の圧倒的な最下位であり、韓国の約3734億円と比較すると優に5分の1以下)行政を変えるためには市民・国民の文化に対する意識を上げていくしかありません。私たちは、市民の皆さんに子どもコーラスを認知していただくことを主眼に、市や団体からのオファーを全て引き受けてきましたが、うれしい半面、十分な練習時間がないまま本番の準備に追われる状況が続いています。

(2)団員の確保

子どもたちの放課後は忙しく、日ごとに参加メンバーが変わるため、練習が十分にできず本番を迎えることもあります。団員が増えるとチーム別の参加などもできます。現在、まだまだ活動を知らない子どもが多いので、市内の全小・中学生に学校を通じてチラシを配布することや、次年度の小学校就学児童への早期の働きかけや幼稚園、学校への訪問演奏なども含め認知度を高めていきたいと思います。

今、国の政策で今年度からクラブ活動の地域移行が試行されています。舞鶴市では合唱もその対象の一つです。全国地域によって進捗状況に相違がありますが、当団も子どもたちに「合唱」の魅力を伝え効果的なPRをしていくことが求められています。

(3)合唱指導のあり方

舞鶴子どもコーラスは参加の自由度を重視し、コンクール至上主義をとっていません。田中彩子さんは「いろんな参加の仕方でいいよ」といってくださいますし、私たちもそこを大事にしてきました。しかし一方で合唱の質について課題を感じています。前述の通り本番に追われ、歌い込む喜びや積み上げた達成感を十分に得られていません。

指導は現在、現役の教員や支援員など計4名で行っています。これは指導者の子ども達の成長への喜びと、音楽文化の向上やまちの活性化などに対する目的意識で続いてきましたが、熱意だけでは続きません。新たな指導者を確保できれば余裕が生まれ、一人ひとりに対応した、より質の高い指導が可能となります。今後も中高生が小学生をサポートし、保護者のより一層の協力を得たりするなど、限られた練習時間の中で内容を充実させるための工夫が求められています。

5.抱負

舞鶴子どもコーラスの前身である中高合同合唱団は、東日本大震災の被災地へエールを送りたいという指導者の思いで始まりました。私たちは、この思いを引き継ぎ、コンサートを通して能登半島地震の被災地へ勇気と元気を、また収益の一部を届けています。また、福島へ演奏旅行に行き現地の合唱団と再び交流したいと願っています。

また、「エル・システマ」の一員として今年、「東京子どもアンサンブル」の視覚障害を持つ仲間との出会いもあり、子どもたちは様々な壁を乗り越えていく力を学んでいます。こうした小さな出会いが、インクルーシブな社会をつくっていくきっかけとなるでしょう。また今後は海外の子どもたちとの交流も視野に入れ、地方に住む私たちにとって世界とつながるきっかけを増やしていきたいと考えています。

2025年は戦後80年、海外引揚げ開始80年、ユネスコ世界遺産登録10周年に当たります。引揚げのまち舞鶴の歴史を学び、舞鶴から平和の願いを届けます。合唱を通して世界の子どもたちとつながり、平和な世界のつくり手となってくれることを願います。
私自身も子どもたちの成長の姿に教えられています。そんな場所に一緒にいられることに心から感謝しています。夢に終わりはありません。

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