地域音楽 コーディネーター

活動事例 地域音楽 コーディネーター

【事例紹介】邦楽をもっと身近に

(2025年10月29日公開)

地域音楽コーディネーター 箏曲家 茨城県 稲垣佳代子さん

稲垣佳代子さん
稲垣佳代子さん
■活動テーマ:
邦楽をもっと身近に
■目次:
■活動開始時期:
2013年~現在
■場所:
茨城県内の小・中学校・高校、ホール他
■対象:
幼児~小・中・高校生~シニア世代まで
■活動内容

1.きっかけ

私が箏を始めたのは、幼少の頃に隣家から聞こえてくる音色の美しさに興味を持ったからです。以来、永らく個人レッスンで学んできました。その後、当時プロの邦楽演奏家を目指す人の第一歩と言われていた「NHK邦楽技能者育成会」の第40期生を修了しました。とはいえ、お箏の方面ではなく一般の企業に就職し、結婚後10年以上子育てに専念しておりました。しかしその間、同世代の母親や子どもたちにとって「箏」や「邦楽」は、日常生活の中ではるか遠い存在であることを痛感し、もっとこの楽器の魅力を知ってほしい、楽しんでもらいたいと奮起して活動を始めました。特に子どもたちに向けては、現在教室で教える他、茨城県内の学校へ出向いて体験や鑑賞の授業を積極的に展開しております。

2.具体的な内容

A.教える、伝える~普及活動~

(1)目的

箏を知ってもらうためには「見る」「聴く」「触れる」機会を身近に作ることが大切だと思い、まず自宅教室を立ち上げ、そして地元カルチャースクールで開講他公共施設での市の講座や自主企画のワークショップを開催しました。またイベント等でも演奏し、地域の方々に知っていただけるようになりました。

(2)学校へのアウトリーチ

現在は年5,6件~20件、学校の音楽の授業へ出向くことも多いのですが、これについては2つのアプローチがあります。

①2014年長子が中学校に入学し、器楽の教科書にお箏が載っているのを見て、自分から学校に申し出て「出前授業」をさせていただきました。以来その学校へ末子のときまで10年続けました。また、その中学校の先生が転勤した先の学校で、出前授業の依頼を頂くようになり、これまで行ってきたことが次につながり、とても有り難くうれしく思っております。

②2021年(公財)いばらき文化振興財団の登録アーティストに認定され(*1)、以降財団の文化推進事業の一つとして、県内各地の学校へ行き、子どもたちに実際に箏を弾く体験や、様々な箏の音楽を鑑賞してもらうなどして、普及に努めています。

*1)(公財)いばらき文化振興財団の登録アーティスト:財団が演奏(録音)や活動履歴を審査して認定するものです。

(3)学校における箏の普及活動について
①授業
<目的>音楽の授業における「邦楽」の充実

学習指導要領には、義務教育期間において自国の伝統的な音楽―邦楽を学ぶよう明示されていますが、学校には和楽器も数少なく、先生も邦楽の知識と経験が不足しているのが現状です。そこを補うべく外部講師として招かれます。会場は普通教室、体育館や音楽室、多目的室など様々です。体験用の箏はクラスの人数に応じて講師が準備します。

②放課後こども教室、又は放課後交流ひろば等
<目的>子どもたちの体験企画

放課後こども教室や放課後交流ひろばは授業や学童保育とは別で、保護者が中心となって放課後に企画する遊びや体験の時間です。参加は希望者による事前申込制をとり、学年や人数に合わせて講師が体験用の箏を用意して簡単な曲の演奏にチャレンジする他、講師の演奏を鑑賞します。

B.演奏家としての活動について

「街のお師匠さん」として箏の魅力を伝える活動の他、演奏家としての活動も行っております。私の住む地域には響きのよい1,000人収容のホールがあり、クラシックの音楽会は多く開催されるのですが、邦楽関係はほとんどありません。質の高い演奏を聴くには都内まで出なければならない…という状況を打開し、邦楽を聴く機会を増やそうと自主企画のコンサートを年1~2回開催しております。

①箏デュオ”SOU”「邦楽の小窓」

同門の布村聡子さんと一緒に“箏デュオ”SOU””という名のユニットを組み、「邦楽の小窓」というシリーズコンサートを2019年から始めました。以来7回まで開催しております。現代箏曲を中心とした選曲で、「邦楽の『今』を知ってほしい」という思いが詰まった企画です。

②きぬのおと

伝統的な邦楽をじっくり聴いてもらう機会を作りたいと思い、和風庭園を望むお座敷で古典を中心とした演奏を楽しむ会を2023年と2025年に開催しました。箏や三味線の音楽は江戸時代に発達し、その頃の音楽は古典として今でも受け継がれています。質の高い演奏をお届けしたく、東京を中心にご活躍の邦楽演奏家・日𠮷章吾さんをお招きして箏、三味線、歌をゆったりと楽しんでいただきました。

「邦楽の小窓」「きぬのおと」ともに、プロとして胸を張ってお届けできる、聴く人の心を動かす演奏をすべくエネルギーを注(そそ)いでいます。目の前で奏でられる音楽そのものに魅力がなければ、愛好者は増えないと思います。
「日本の伝統的な楽器である」ことだけが箏や三味線のアイデンティティや存在意義ではないということ。その魅力は言葉でなく、演奏で伝えたいのです。

3.成果

教える、伝えるという活動の中で、特に学校への取り組みに関しては、毎回子どもたちはこちらに集中して聴いてくれますし、自分たちで箏を弾くときも一生懸命です。事後に子どもたちからのイラスト入りのあたたかい感想を頂くこともあり、手ごたえを感じています。延べ50校近く、小学生から高校生まで多くの子どもたちにお箏の音色を届けてきました。でもそれが、「よし、自分もお箏を習おう!」ということに直結するかというと定かではないと思います。近くに先生がいるか、又は他の勉強や習い事との兼ね合い、親の理解と協力…子どもが何かを始めるには、幾つもクリアしなければならない条件があります。しかし、箏の音色に心を動かされた経験は、先々にきっと生きてくると思います。

4.課題

(1)仲間を増やすこと

私一人でできる範囲は限られているので、志を同じくする仲間を増やし活動を水平展開していくことが必要です。楽器を運び、限られた時間の中でクオリティを保ちつつカリキュラムを遂行するのは気力体力が必要ですし、多くの箏も必要です(運搬の車も)。茨城県内くまなく行けるようになりたいです。

(2)後継者育成

仲間を増やすには、後継者の問題が重要です。指導者・演奏家として箏も三味線も十七絃箏(*2)も弾き、歌も歌い、古典から現代邦楽、ポップスまで多岐にわたる音楽を網羅して常に自己研鑽(けんさん)していくには、相応の時間と努力が必要です。定年のない世界ですが、さりとて高齢になったとき、今と同じボリュームの活動ができるとは到底思えませんので、志を引き継いでいく人材の育成は今から取り組まなくてはならない課題です。

*2)十七絃:筝曲家・作曲家の宮城道雄が考案した17本の絃がある低音域用の箏。(通常の箏の絃数は13本)

5.抱負

こういう魅力的な楽器があるんだ、このような音楽を奏でるんだ、ステキだなぁ…と感じてもらう機会を作って届け、種を蒔(ま)くのが私の役割です。楽器を弾くことはできないけど聴くのは好き、という方は世の中に大勢いらっしゃるでしょう。そういう人をまず増やしたい。そして、その中からお箏を習う子が現れるかも知れません。かつての私が、隣家から聞こえてくる箏の音色に惹(ひ)かれてこの世界に入ってきたように。

私のところへは年に数名新規の生徒がいらっしゃいます。また学校からの依頼も続いています。この楽器、音楽に興味の持つ人は必ずおり、インターネットを通じてこちらから積極的に発信することも可能な時代です。邦楽の魅力を伝え続けていくこと、私自身がそれを体現する演奏者であることに、今後も力を注(そそ)ぎ続けていきたいと思います。

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