活動ノオト

【活動ノオト】半田ジュニアブラスバンドの設立

地域音楽コーディネーターの皆さんの活動の参考のために、1996年から20年以上にわたり、地元の吹奏楽団の活動を支援している愛知県半田市のマツイシ楽器店の取り組みをご紹介します。(株式会社マツイシ楽器店 松石奉之社長のご報告をもとに作成しました。)

2017年12月に文部科学省が「学校における働き方改革に関する緊急対策」を発表し、部活動指導者の労働環境や長時間労働が問題になっています。この問題は、1990年代から議論され、1996年に中央教育審議会が発表した「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で、運動部活動を地域社会に移行させる方向性を提示しています。それを受けて、半田市では学校における部活動(特にスポーツ系)が外部講師による指導の下で行われるようになりました。そのような状況の中、文化系部活動は指導者不足もあり活動そのものが縮小傾向でした。マツイシ楽器店はこのことに危機感を抱き、小中学校での吹奏楽指導に経験豊かな清水豈明先生(現 半田ジュニアブラスバンド団長)に相談していました。

おりしも、その危機感を察した当時の故 竹内半田市長と故 間瀬半田市教育長の二人が後押しをして、「音楽を通じた青少年の健全育成を目的」とした学校の枠を超えた吹奏楽団「半田ジュニアブラスバンド」の設立準備委員会が1996年に結成されました。

練習会場は、教育委員会の許可を得て、清水豈明先生が校長先生を勤めていた半田市立乙川小学校の体育館を借り、楽器は部活動で使わなくなったものを小中学校から借りました。しかし楽器はとても状態が悪く、リペアを施さなければまともに音も出ない状態のものばかりです。それらの楽器を音が出る状態にリペアし、1997年にようやく「半田ジュニアブラスバンド」は設立されました。設立準備委員会は半田ジュニアブラスバンド後援会へと名称を代え、市内建設業者の社長が初代の後援会長に就任しました。

指導者は、学校で吹奏楽指導の経験ある先生方を中心に、地元のアマチュア音楽家にも依頼し、団員は、学校を通じて募集しました。設立当初の団員は40名弱、楽器演奏の経験がない団員がほとんどでした。

1998年に「第1回定期演奏会」を開催しました。この定期演奏会を経て、さまざまな方が「音楽での青少年の健全育成の意義」に賛同して、団への楽器寄贈の機運が高まり、後援会長や市長・教育長が後押しして、地域の企業・団体から、半年余りで1,000万円を超える寄付を得ることができました。そのおかげで、個人所有が難しいティンパニーやチューバをはじめとする大型楽器、さらにはトランペットやフルート、サックスなどほとんどの楽器を揃えることができました。そして、団員保護者や指導者各自が負担して半田ジュニアブラスバンドのテーマカラーである黄色ジャケットの制服もつくりました。

第1回定期演奏会
第1回定期演奏会
第2回定期演奏会
第2回定期演奏会

【半田ジュニアブラスバンドの活動①】


年を重ねるごとに半田ジュニアブラスバンドの評判は高まり、団員数は徐々に増え、ピーク時には団員120名、指導者20名という大所帯の吹奏楽団になりました。毎年の定期演奏会は1,300人の会館が満席になり、演奏会を楽しみに足を運ぶ市民も増えていきました。活動の幅は広がり、音楽練習以外にもヤマハ管楽器工場や楽器博物館の見学、県外施設での合宿などで団員・指導者の結束も高まっていきました。

東日本大震災後の2012年には宮城県山元町に被災地との交流演奏会に遠征しました。バスで片道10時間の旅に、団員も引率者もへとへとに疲れ果てたそうですが、被災地の現状を目の当たりにしすべての団員が目を潤ませ、自然災害の恐ろしさを学び、現地の山下中学校の生徒たちとの交流演奏会では、被災地域の方々へ勇気や希望を届けることができました。

山下中学校での交流演奏会
山下中学校での交流演奏会

近年では半田市の水の源流である木祖村への演奏旅行で現地中学校との交流演奏会を開催し、水の大切さを団員が学ぶ機会を得たり、半田市の姉妹都市南砺市を訪ね、南砺市主催のワールドミュージックフェスティバル「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」に参加したり、さらに活動の幅を広げています。こうした活動も半田ジュニアブラスバンドの特徴のひとつです。

【半田ジュニアブラスバンドの活動②】


半田市の姉妹友好都市オーストラリア ポートマッコーリーの市民バンド「ヘイスティングス コアラ オーケストラ」の1999年の来日をきっかけに合同演奏会「フレンドシップコンサート」が始まりました。2001年には、半田ジュニアブラスバンド初の海外遠征「第1回オーストラリア親善演奏旅行」を催行しました。

その後もコアラ オーケストラの受け入れ(交流演奏会や団員宅へのホームステイなど)を行い、半田ジュニアブラスバンドはオーストラリア親善演奏旅行を実施し、その交流は12回を数えるまでになりました。

小学生を含む団員たちは、言葉は通じなくても音楽で意思の疎通を図り、ステージで日豪のアマチュア音楽家が入り混じり演奏する姿は、音楽を介した国際親善の無限の可能性を確信するものとなりました。

2001年オーストラリア親善演奏旅行
2001年オーストラリア親善演奏旅行
オーストラリア コアラオーケストラとのフレンドシップコンサート
オーストラリア コアラオーケストラとのフレンドシップコンサート


【半田ジュニアブラスバンドの目的】


半田ジュニアブラスバンドの活動のテーマは「広げよう音楽の輪・人の和」です。吹奏楽活動を通じての人間教育に重きを置き、単にコンクールへの出場を挑戦するだけではなく、健全な青少年の育成につながるよう音楽活動を展開しています。だからこそ多くの方の賛同や協力を得て、ボランティアの方々に支えられています。また、高校生、大学生、さらに社会人になっても団に残り後輩の育成に携わるOBやOGも数多く輩出きたのです。

【半田ジュニアブラスバンドの事務局(地域楽器店の役割)】


この活動の事務局は設立以来マツイシ楽器店が担ってきました。現社長が専務の時代から事務局長を21年間勤めてきましたが、2019年に取締役部長にその座をバトンタッチしました。多くの音楽団体がボランティアの熱意に支えられて活動するなか、半田ジュニアブラスバンドは楽器店に事務局を置き、楽器店経営者自らがその務めを果たしていました。マツイシ楽器店の松石社長は「民間音楽団体の継続性を担保する意味において重要な事柄のひとつであると思います。楽器店は地域の音楽情報の発信基地であると同時に、地域音楽情報の集積地でもあり、また地域行政、経済界、各種団体とも繋がりを持ち、ボランティアの方々だけではコネクトしにくいさまざまな方への情報発信や交渉の窓口としてその任を担ってまいりました。」と述べています。

定期演奏会開催の際には、事務局が中心となり、80社にも及ぶ広告協賛を集めています。これも楽器店が事務局であるからできることでしょう。単一楽器店の事務局体制は利権の独占になりがちかとも思われますが、松石社長は「楽器や楽譜を購入いただく分以上に団体への奉仕の精神で役立ち、また責任をもった団体運営をするうえで、楽器店事務局体制は行政が様々な施策を民間委託することと同様に、今後このような音楽団体の運営上、主流にすべき事柄ではないか」と述べています。

【半田ジュニアブラスバンドの課題】


半田ジュニアブラスバンドは、設立以来市内小学校の体育館を活動拠点として練習しています。毎月第2第4土曜日の午後を基本に3時間半練習しています。新入団員は、4月から毎月第1第3日曜日の午前にマツイシ楽器店の教室を開放して、新入団員特別練習を行います。

しかしながら、一番の課題は練習場所の確保です。小学校の体育館は学校行事でしばしば使用できない日があり、また冷暖房設備がないため、夏季は拭いきれない汗に悩まされ、冬季は吐く息が白い中での練習となります。熱中症や風邪の蔓延にも繋がりかねず、時にはジプシーのように練習会場の変更を余儀なくされます。

ご存知のとおり大所帯の吹奏楽団の練習会場の移動には、楽器の移動という課題が付きまとい、会場変更のたびに車や人手の確保が必要になっています。折に触れ行政には生涯学習活動拠点として適切な会場の確保を設立以来求めていますが、解決されないまま今にいたっています。

また、活動費は団員から徴収する年会費を基本にしていますが、潤沢な予算とは言えず運営はボランティアに頼らざるを得ない現状です。今後も活動を円滑に行うために、恒久的な練習会場と楽器備品庫の確保、後援会を中心にする活動資金集めが課題となっています。

【半田ジュニアブラスバンドの今後】


半田ジュニアブラスバンドの今後について、松石社長は次のように述べています。

「設立22年目を迎える半田ジュニアブラスバンドは過去多くの団員を育ててまいりました。設立当初の団員はすでに立派な社会人となりさまざまなシーンで地域社会を支える人となっています。音楽の楽しさ、協調と協力を必要とするアンサンブルの楽しさを経験した団員は、これからも人と人との繋がり『人の和』を、そして音楽を一緒に奏でる楽しさ『音楽の輪』を大切に次世代に向かって歩んでくれるものと確信しています。

半田ジュニアブラスバンドは、地域のボランティア、保護者の協力など多くの方の関わりで運営されています。団の運営を経験することは、これからの地域社会にとりさまざまなシーンでいかすべきことだと思っています 。『音楽を通した青少年の健全育成』が『地域社会の健全育成』に発展する活動になるよう尽力してまいりたいと思います。

2020年、半田ジュニアブラスバンドはブータン王国親善演奏旅行を行います。吹奏楽やクラシック音楽がポピュラーではない新興国ブータンにおいて、国民の皆さまに吹奏楽の楽しさを知っていただく機会とし、そして半田ジュニアブラスバンドの団員が、ブータンの学生たちとの交流や市民の皆様との交流を通じて、ブータンの提唱するGNH(国民総幸福量)の思想や生活に触れることにより、『真の豊かさとは何か」を学ぶ機会になればと願っています。

半田ジュニアブラスバンドはこれからも音楽を通じて地域の青少年を健全に育成する役割を担ってまいります。」

設立20周年記念演奏会
設立20周年記念演奏会

※ 音楽文化創造では、地域音楽コーディネーターの活動を取材して「活動ノオト」として掲載いたします。「活動ノート」で紹介する「活動の音」をご覧ください。全国の地域音楽コーディネーターの皆さんの活動の参考にしていただければと存じます。

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