「音楽文化の創造」(CMC電子版) Vol.14 特集「プロとアマチュアの境界線」のご紹介
音楽に携わる者にとってプロとアマチュアの問題は、避けて通れない課題だといえるでしょう。昨年SNSで、小学校から無償で指導を依頼され憤慨する和太鼓奏者の書き込みが話題になりました。同時期に、人前で「プロピアニスト」と紹介されて緊張し、思うように演奏できなかったピアノ愛好家の話も聞きました。
公益財団法人音楽文化創造が四半期ごとに発行している、音楽文化と生涯音楽学習の総合情報・研究誌『音楽文化の創造』(CMC電子版 vol.14)では、「プロとアマチュアの境界線」について著名な研究者による3編の論文と1つのコラムを掲載しています。その内容をご紹介します。
【面白さを深めるアマチュア】
アマチュアの音楽人生について、余暇活動において目標を定めて練習に励む「シリアスレジャー」の概念をもとに論じています。アマチュアが音楽学習を継続する理由として、「音楽の専門領域の深みへ潜り、音楽の新しい面白さに出会い続けられること」をあげました。これについてはプロとあまり差異はありません。しかしアマチュアは、あくまで自分が音楽活動を楽しめるようになること、音楽の面白さを深めていくところにある、と述べています。(専門的に面白さを深めるアマチュアの人生と生涯音楽学習/東京大学大学院情報学環特任研究員 杉山昂平)
【アマチュアの目的は、人々に音楽への愛を吹き込むこと】
20世紀転換期(1800 年代終わりから1900 年にかけて)のイギリス音楽界でのプロとアマチュアについてジェンダーの切り口から述べています。男性は公的な場で働き、女性は家庭を守るという性別領域分担ゆえにプロ界から女性が排除されました。このような社会的背景のもと、アマチュアの目的は、「人々に音楽への愛を吹き込むこと」と述べ、音楽の楽しみを広めようとする活動の実質的な担い手は、大抵アマチュア(愛する人)であると論じています。(躍動するアマチュアたち:20世紀転換期のイギリス音楽界/元お茶の水女子大学基幹研究院研究員 西阪多恵子)
【夢追いバンドマンにとっては?】
多くの夢追いバンドマンは、フリーターや正社員として働きながら活動することからも、他者から「アマチュア」と評されています。同様にバンドマンにもそれは自覚されています。しかし、決して「アマチュア」の立場に甘んじているわけではありません。このように、プロになりえていないが「プロ」を目指している中間的な領域を「職業達成過程」と位置づけ、当事者自身がプロとアマチュア間に広がる空隙を埋めていく作業が必要であると述べています。(「プロ」らしさの装い―夢追いバンドマンにとってのプロとアマチュアの距離―/名古屋大学大学院、日本学術振興会 野村駿)【ストリートピアノの価値】
かつて「修養として趣味」とされたピアノのお稽古が、「発表する趣味」へと移行しています。具体例としてストリートピアノをあげました。ストリートピアノの広まりは、「ピアノのお稽古経験」の価値の再発見につながるだけではなく、一般市民と、音楽大学生やYouTuber などのセミプロとの交流の場ともなっているという点を指摘しています。(<コラム>ピアノのお稽古経験はようやく日の目を見るか?― ストリートピアノ/聖路加国際大学大学院看護学研究科・准教授 歌川光一)
プロとアマチュアの問題は、生涯学習音楽指導員や地域音楽コーディネーターにとっては、重要な課題です。ぜひ『音楽文化の創造』 (CMC電子版 vol.14)をお読みいただきたいと思います。
