活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】想いをつなぐ〜どんぐりピアノが伝えたもの、そして未来へ…~

(2021年01月18日公開)

鹿児島県霧島市 地域音楽コーディネーター
霧島国際音楽ホール(みやまコンセール)協力演奏家
入来慶子さん

■活動テーマ:「想いをつなぐ〜どんぐりピアノが伝えたもの、そして未来へ…~」
■日時:2017年〜現在
■場所:鹿児島県霧島市三体小学校
■対象:幼児〜高齢者まで

■活動内容

【1.活動の背景】

私が「どんぐりピアノ」と初めて対面したのは2017年秋、霧島市社会教育委員を務めていた関係で三体小学校(牧園町の山間にある)前校長とのご縁をいただいたことがきっかけでした。学校体育館に塗装が剥げ落書きもある古いピアノがあり、そのピアノを使ってコンサート依頼を受けました。幼稚園児から地域住民の他に、「どんぐりピアノ」に関わり縁のある方々にも聴いていただき、同窓会のようで温かい雰囲気の中で終了し多くの方々に喜んでいただきました。

どんぐりピアノ

<どんぐりピアノとは>

戦後間もない頃、食べる物、着る物も不自由する貧しい時代の中で、「子供達にピアノの音色を聴かせたい」という想いを持つ方々がいました。ピアノ購入資金を集めるため、当時の三体小学校、中学校の生徒(祖母もその一人です)が秋の遠足を兼ねて、教職員、保護者と共にどんぐりを拾い集め校庭に蒔く事から始めました。

やがて5万本にもなった櫟(クヌギ)の苗を植林して、3年がかりで29万円(当時のお金)もの収益を得て購入されたグランドピアノが「どんぐりピアノ」と呼ばれるようになりました。音楽で子ども達の心に火を灯そうとした方々の想いが一杯詰まったこのピアノは2020年10月で66歳になりました。今でも現役のこのピアノは子ども達や地域の方々の誇りであり大きな心の財産です。

【2.具体的な活動】

NO.1 コンサート開催

10数年を経て初めて触れたピアノは柔らかく温かみのある響きで、音楽家として、このピアノの使命、実話の継承また地域の誇り、宝として伝えて行きたいという想いの基、コンサートを続けております。

2018年には2回目のコンサートに加えて、霧島市社会教育委員の定例会を三体小学校で行い、その中に「どんぐりピアノミニコンサート」を組み入れていただき、三体校区以外の方々にも広く知ってもらうきっかけとなりました。

2019年には”音楽祭による地域活性化プログラム実行委員会”にオブザーバーとして参加させていただき、音楽祭PRコンサートの会場の1つとして三体小学校を提案し、ソプラノ、バリトン、ピアノによるコンサートを開催しました。

NO.2 CD付き絵本「ぼくはどんぐりピアノ」制作コーディネート

三体小学校には、2000年頃に保護者手作りの「ぼくはどんぐりピアノ」という一冊の貴重な絵本があります。すでに劣化し始めており、この絵本を守るため、また「どんぐりピアノ」を普及啓蒙するために、絵本とコンサートをコラボレーションする事が相乗効果に成ると考え、コーディネーターとして演奏家として下記の流れで進めました。

(1)地域への協力依頼

老舗ホテルのオーナーに話を持ち掛け、役員を務める鹿児島県旅館組合霧島支部の創立50周年事業の一環として絵本制作の資金援助を受ける事になりました。同支部は「霧島ふるさと命の森をつくる会」の霧島市10万本植林プロジェクトを通して、平和の尊さ、自然の大切さを守り伝える活動を続けておられるので、どんぐりピアノの精神に通じるものと賛同してもらいました。

(2)教育委員会、学校の協力

教育委員会、教育事務所に絵本発刊の承諾と後援を得た後、校長、教頭に参画頂き私との5人で「どんぐりピアノの会」を立ち上げ、会則、企画書の作成を行い推進しました。

(3)自治体、学校、地域音楽家との連携

CD製作においては
  1. 絵本の原画をそのまま活用
  2. 文章は校長が修正
  3. 絵本の朗読・児童による「どんぐりピアノ」の歌の合唱
  4. バリトン歌手による「どんぐりピアノ」の歌の原曲
  5. 入来のピアノ演奏=ベルガマスク組曲(ドビュッシー作曲)より有名な『月の光』を収録する事に決定しました。
市観光課や商工会議所等の協力も得、2019年1月には録音実施、同年9月に完成。製作にあたり、児童の合唱指導を引き受けてくださったバリトン歌手のお父様も、奇しくも当時三体中学校で教鞭を取っておられ、児童生徒と共にどんぐりを集めたお一人です。

「どんぐりピアノ」絵本のイラスト

 

【3.成果と課題】

1000冊作った絵本は、霧島市立の全小中高校、その他図書館などの教育機関に寄贈し、残りの600冊あまりを販売して得た収益と寄付金を合わせて、「どんぐりピアノ」の保存、活用のために使用することを会則で定めています。2020年のどんぐりピアノコンサートは絵本の完売収益を使ってヴァイオリンとピアノのデュオで開催することが出来ました。(過去3年間は、学校あるいは他の機関の予算を使っての開催でした)

どんぐりピアノコンサートと絵本のコラボは新聞やテレビ等のメディアにも多く取り上げられ、特集番組を組まれたこともあって、広く県内外に「どんぐりピアノ」の存在を知らしめ、県や市の教育の発展、観光PRに役立てるという会の目的等、大きな成果があげることが出来ました。

しかし、もうひとつの目的である「どんぐりピアノ」の今後の保存活動という点では一応の成果はおさめたものの、予算面が大きなポイントです。寄付金や絵本の収益を元にした資金はピアノの調律・調整・コンサートの開催でいずれは底をついてしまうので、今後の資金集めが大きな課題です。助成金の申請も検討中です。

【4.抱負】

私は現在フリーのピアニストとして、企業や行政、教育機関、公共団体、愛好家等から依頼されたコンサートの企画、出演等、県内外で年間100を越える演奏活動を行っています。私は演奏家以外に「地域音楽コーディネーター」として次の3つの抱負があります。
  1. 音楽の溢れる街づくりを目的に進めて行くため、自治体、学校、地域住民、関連機関と連携するための力をさらに磨く事。
  2. 敷居が高いと思われがちなクラシック音楽を身近に感じてもらう企画づくり。
  3. 人を引き寄せる不思議な魅力を持ったこの「どんぐりピアノ」を地域の財産として100年ピアノを目指し、いつまでも現役であり続けられるようにする事。
今までは、忙しくも、やり甲斐を感じる日々を過ごしておりましたが、コロナの影響を受け出演予定だったコンサートは2020年3月以降ほとんど延期や中止となる状況に陥ってしまいました。夏以降は少しずつ演奏依頼が戻り、12月にはほぼ例年並にコンサートに出演できるまでに回復したのも束の間、再度の感染拡大により先の見通しがどうなるか分からない状況になりつつあります。

あるコンサートの終演後に「久しぶりの生演奏で涙が出ました」と声をかけてくださった方がいましたが、不安を抱えているときこそ音楽の力はより必要とされるのではないかと感じました。一日でも早く全ての人が日常を取り戻し、音楽を自由に思いっきり楽しめる日々が返ってくることを心より願っております。

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