活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

邦楽(日本の伝統音楽)を身近に感じて

(2022年02月14日公開)

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

箏演奏家、生田流正派湖都美会 滋賀県 山口里美さん

邦楽を身近に感じて
邦楽を身近に感じて

■活動タイトル:邦楽を身近に感じて

目次

■日時:2017年~現在
■場所:滋賀県草津市
■対象:小中学生

■活動内容

1.箏との出会い

私が小学2〜3年生の頃、近くの公民館で開催された文化祭行事で,日本舞踊を習っている友達の発表を見に行きました。色々なプログラムの一つに箏の演奏があり、そこで初めて箏に出会いその音色に興味を持ちました。

これがきっかけとなり近所の教室でお稽古を始めることになりました。気づいていなかったのですが、自宅には叔母の箏が置いてあり、実は身近なものでした。


2.お箏との再会

当時、周りにお箏を習っている友達は少なく、学校等で習い事の話になると人と違った事をしているのがひそかな自慢でした。

高校生になった時、一度お箏のお稽古から離れました。それでもずっとお箏は気になる存在で、またいつかお稽古を再開できたらと思っており、宇宙飛行士の山崎直子さんがお箏を弾かれて、 宇宙でお箏を弾きたいと言われたことを聞いた時には、もう一度お稽古をしたいとの思いが更に強くなりました。

しかし積極的に先生を探すことはしておらず時が過ぎ去りました。ある日、小学生だった娘が「湖都美会」のお琴体験教室の案内を学校から持ち帰ったのが新しい出会いになりました。 娘を誘って行ったところ、娘ではなく私自身が「湖都美会」を主宰されている福永先生に師事する事となり、ここが分岐点でした。その後、准師範の試験にも挑戦し、現在湖都美会のメンバーとして活動しております。

●湖都美会
https://kotomikai.wordpress.com


3.湖都美会とは

「湖都美会」は演奏会や体験イベントを主催し、また箏の普及を目的として子ども向けのグループ教室を開催しています.毎年地域の三曲協会が主催する邦楽演奏会にも出演し、多方面より依頼演奏をお引き受けしております. メンバーの中には「湖都美会」以外の演奏家のグループで演奏をする機会を積極的に持たれている方もおられます.

<目的>

  • ①「和」の心を大切に人を敬い礼儀正しく、をモットーに日本伝統音楽の発展・向上に努力し、後世に発展させていくための後継者育成につとめ情操豊かな社会づくりの音楽活動を実践する。
  • ②研修会・各種イベントで他の音楽ジャンルの方々と共演したり、楽しい合奏と向上を目指す。

  • 今回は上記の目的②についてご報告いたします。


4.他の音楽ジャンルとのコラボレーション

(1)考え方

「湖都美会」を主宰している福永先生は、伝統文化や箏を多くの人にもっと身近に感じてもらえないか、邦楽の良さをもっと広められないかといつも考えておられます。
  1. 子どもの頃から邦楽が身近な環境にある事が一番重要で、その経験があれば、大きくなっても関わり続けることが多いように思う。
  2. そこから伝統文化・音楽を支える人が増えることにも繋がり、邦楽の世界がより発展できるのではないか。
  3. 他の音楽ジャンルの方々との交流と、新しい発想の基にアイデア作りと試みが大切。

(2)実際の試み

A. 箏・三絃・十七絃・尺八に打楽器(ドラムス、鈴)

私は「湖都美会」での最初の演奏会で、長沢勝利作曲「冬の一日・パート2」という曲を弾かせていただきました。打楽器は太鼓ではなく鈴やドラムです。お箏の演奏に三絃や尺八が入ることは普通のことですが、打楽器が入るのは初めての経験で私自身びっくりしたことを思い出します。

B.箏、尺八、児童合唱団との共演

この時の演奏会では他にも、「越天楽」で雅楽と、「花さき山」(宮田耕八朗作曲)では大津児童合唱団と、ベートーベンの交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125(通称「第九」)では声楽と共演という盛りだくさんの内容の演奏会でした.

C.箏、クラリネット、トローンボーン、声楽

その後もクラリネット奏者や声楽の方たちと演奏会を一緒にさせていただくことが多く、最近では2021年7月に開催した子ども向けの「わらべ唄を活用した子ども音楽体験 七夕を楽しもう」という体験会では「夕焼け小焼け」をピアノ、声楽、クラリネットの方たちと共演しました。 従来の邦楽器だけのアンサンブルとは違う新しい響きを体験しました。

ピアノは「湖都美会」のメンバーでピアノも習っていた方が担当し、また「湖都美会」メンバーの娘さんもトロンボーンで出演し、賑やかな演奏となりました。この体験会では絵本の読み聞かせにお箏の演奏を入れたプログラムもあり、 箏というのは遠いところにある伝統楽器ではなく、身近にある気軽に楽しめる楽器なのだということを感じてほしいと思いました。

邦楽の曲は、残念ながら一般の方にはあまり馴染みがないのが現状です。コラボレーションで扱う曲は既知曲や又軽い感じの楽しい曲を扱います。聴衆者は馴染みがある曲だと親しみが増し、楽器そのものにも興味を持ってもらえるようになります。 演奏する私たちも新しい響きに包まれ、楽しく演奏できます。

次回予定しております演奏会では、邦楽の演奏に合わせて、日本舞踊の方に舞ってもらう予定もしています。


5.課題

(1)楽譜

箏の曲は三絃(三味線)や尺八と一緒に演奏することが多いのですが、合わせる楽器は邦楽器にこだわる必要はないと思います。例えば尺八のパートはフルートで演奏することも可能です。但しここで大きな課題は、尺八の楽譜を読めるフルート奏者がおられないということでしょうか。

和楽器の演奏家は通常縦書きの楽譜を、洋楽器の演奏家は五線譜を使用します。洋楽器の演奏者が縦書きの楽譜を見て鍵盤楽器を演奏するのは難しいでしょう。私自身も五線譜を見て箏を演奏することはできませんのでお互い様です。

日本の学校教育は明治以降、西洋音楽を基に教材が整備されたので五線譜が当たり前になりました。邦楽が少し歩みよって楽譜を五線譜の形で発行するとか、自動で楽譜を変換できるコンピュータソフトが開発される様になると、それぞれの奏者がもっと演奏する機会が増えるのではないでしょうか。

(2)防音

楽器は音の出るものです。共同住宅などに住んでいると十分な練習ができない事もあると思います。それぞれの環境によっては諦めることにつながってしまう事が少なくありません。 電子ピアノのように音量を調整できる仕組みが考えられたり、気軽に練習できる場所が増えたりすると、もっと関わる人が増えるのではないでしょうか.最近は教室の場所でさえ確保するのが大変な場合があります。 音楽が生活の中にあっても「うるさい!」と言われない寛容な社会であって欲しいとも思います。余裕のある豊かな社会が実現できていない事と、邦楽器の衰退とは関連があるようにも思います。


6.今後の夢

感染症の拡大で外出を控えていた時、私は自宅でお箏の練習をする時間が増えました。一人でお稽古をしておりますと、庭から聞こえる鳥のさえずりが、曲に合わせて唄っているように感じるときがあり、自然と繋がっているようなとても幸せな時間を過ごしました。 このような趣味を楽しめる時間が持てることは幸せなことだと心の底から思いました。

私がお箏を弾くのは、誰かに聞かせるのが目的ではなく、どちらかと言うと自分の楽しみのためです。人それぞれ興味を持つものは違うと思いますが、各自が自分の楽しみを見つけて豊かな時間を持つことは豊かな人生につながると思います。 いろいろなものに触れる機会が多いほど惹かれるものに出会う確率が高くなると思いますので、まずは機会を増やすことが大事だと思います。

邦楽器の魅力を少しでも多くの人に知ってもらい興味を持ってもらえるようにしていくには、古典曲を大切にしながら、同時に様々な音楽ジャンルの方、様々な楽器とコラボレーションすることを通して新しい響きを試み実践する事であり、 そういった機会を作ることを皆さんと一緒にお手伝いして行きたいと思っております。



「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#コラボレーション

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