<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>
カルフォルニア州サクラメント在住 沢井箏曲院講師 日景晶子さん■活動テーマ:アメリカでの箏の普及啓蒙活動
目次■日時:1992年~現在に至る
■場所:アメリカーハワイ、サンフランシスコ,サクラメント
■対象:アメリカ現地の子どもから大人まで
■活動内容
1.渡米したきっかけ
沢井箏曲院(*1)箏奏者の沢井一恵氏は、箏の普及発展には、海外の方々に聴いてもらう事が将来有意義だと考えておられました。ちょうどその頃、尺八奏者ライリー・リー氏(*2)より沢井一恵氏の内弟子であった後藤真起子氏へ海外派遣講師としての依頼がありました。1992年、後藤氏の後任として沢井箏ハワイ支部に赴任したのが私の活動の始まりです。*1)沢井箏曲院:生田流の箏演奏家沢井忠夫氏が1979年に創設。古典の曲を掘り下げるだけでなく、音楽ジャンルにとらわれない新しい邦楽作品を生み出した。
*2)ライリー・リー:テキサス生まれのアメリカ人。1971年、日本で尺八を横山勝也に師事、1980年に外国人で初の尺八大師範となる。
2.活動の軌跡
<1992年~1996年 ハワイ時代>
台湾、韓国、ベトナム、沖縄の絃楽器を集めた「Asian Strings」を結成しました。当時ハワイという土地柄、日系人社会では箏という楽器自体は知られていたと思います。沖縄からの移民の方が多いため、沖縄の三線、箏を演奏される方も多かったのではないかと思います。
先任の後藤氏の派遣以前に、山田流の先生がハワイ大学で教えておられました。また沢井忠夫先生もハワイ滞在中に演奏活動をされていた影響もあり、日系人社会の中では認知度は高かったと思います。その演奏録音テープを大切に持っていた方もいる程の人気でした。
「Asian Strings」は日本の箏と、中国のグーチェン、韓国のカヤグム、ベトナムのダントラン、沖縄の三線と各国の箏を集めたグループです。ハワイ在住の演奏家達と結成し舞踏も加えて活動していました。自作曲や他の邦楽演奏家の曲を、ハワイの美術館などで演奏していました。舞踏も加えていたので物珍しく見ておられる感じでした。
<1996年~2021年 サンフランシスコ時代>
ハワイで主人と出会い結婚してサンフランシスコへ。(1)2003年、ピアニスト、作曲家と共に現代音楽グループ「Wooden Fish Ensemble」を結成
現代音楽の新作を発表するグループで、ピアノ・バイオリン・チェロ・ベース・マリンバなど洋楽の現地のプロの演奏家と共にコンサートホール・教会・美術館で演奏を重ねていました。作曲家が洋楽の作曲家であったため、作曲家の意向で洋楽と本格的にコラボする形になりました。これが双方にとって共に演奏可能であると認知され、箏を知っていただけるチャンスにも恵まれたと思っています。メンバーの作曲家、ヒョーシン・ナの作品は繊細で緻密であり、韓国の音楽要素も時に含まれているような曲で邦楽器の出せる音の良い面や不便さを理解していただきました。さまざまな洋楽器とコラボできたことは貴重な体験であり、勉強になりました。聴衆は現代音楽なので、静かに聴いておられましたが、好評でした。
(2)2013年~
サンフランシス・コシンフォニー主催による「Adventure in Music」でサンフランシスコ市内全ての小学生を対象に、世界の音楽を紹介するプログラムに参加し、約90校にて136公演をしました。まずおのおの、最初に楽器を紹介し、演奏は『さくら』、サンフランシスコの歌、中国系の方が多かったこともあり中国の民謡など、そして自作曲を演奏しました。現地の小学生や先生方に大変喜んでもらえ、私自身も大変楽しかったです。
(3)2017年~
小学校訪問演奏会第二弾として日系2世ジャズ音楽隊「Mark Izu and Frends」というグループ名にして、箏、尺八、ベース、ドラムス,大太鼓の4奏者で45分のプログラムを行いました。おのおの各楽器の説明をし、箏曲『千鳥の曲』(*3)ジャズ、そして日本の盆踊りを演奏しました。盆踊りでは小学生たちと踊り、このプログラムも好評でした。
*3)『千鳥の曲』:吉沢検校の曲で、『春の海』『六段の調』と並んで、箏の代表曲の一つ。
(4)カルフォルニア州都サクラメントでの現在の活動
2021年10月14日大学でのランチコンサートで地元の箏の先生方と 『六段の調』、地元作曲家の作品を演奏しました。ソロはヒョウシンナ作品、タケオ・クドウ作品、そして師匠沢井忠夫の『情景三章』一楽章を演奏しました。3.総括
ハワイ~サンフランシスコ~サクラメントで箏演奏家として30年箏の普及をして来ましたが、箏はすべての音楽、クラシック・ジャズ・即興に対応できる楽器として認知されてきたのではないかと思います。渡米した日本人だけでなく、アメリカ人演奏家も誕生して活躍するようになってきています。
海外でのこれからの課題は、
- 十七絃がサイズ規定の変更で日本から持ち込みが難しくなっていること
- 箏の糸締(箏糸の取り換え)の難しさ
箏の糸締は、その地域に住んでいる箏奏者が集って、日本からお箏屋さんに来ていただき、飛行機代+糸締代を折半する形でお願いするのですが、金銭的な問題などで、箏人口の少ない所には糸締にきてもらえません - 現在はコロナウイルスにより日本からお箏屋さんに糸締に来てもらえないこと
米国で一番困ったことは、米国で演奏・仕事・永住するための永住権の取得です。かなりの年数と費用がかかり、永住権取得までは就労ビザの取得と仕事で厄介でした。年ごとに1、2ヶ月は日本で待機して米国大使館より許可もらってやっと入国に漕ぎ着けます。
これから渡米して活動したい方のためにも、就労ビザ申請はかなりのハードル、難関だと知ってもらった方が良いと思います。
Koto, Kayageum, and Guzheng at the San Francisco Public Library
“Furusato” My Hometown 2019 ”ふるさと” 3.11忘れない
4.抱負
2022年3月に諸事情があり30年の海外生活にピリオドを打ち、日本に住居を移すことになりました。落ち着いたら、日本での活動を再開しお箏の発展のために頑張って行きたいと思います。「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。
「新しい方角(邦楽)」
#海外活動