活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

箏。境界線のないアンサンブルを目指して

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

沢井箏曲院 箏演奏家 ドイツフランクフルト在住 菊地奈緒子さん
アジアンアートアンサンブル
アジアンアートアンサンブル

■活動テーマ:箏。境界線のないアンサンブルを目指して

目次

■活動開始年:2007年~現在
■場所:ドイツフランクフルトを中心に活動

■活動内容

1.海外へ行ったきっかけ

2007年に現代音楽の演奏を突き詰めて勉強するため渡独しました。フランクフルトに拠点を置き国際的に活躍する現代音楽室内楽の最高峰、アンサンブルモデルン(1980年に結成)が次世代の育成のために2003年に設立した「アンサンブルモデルンアカデミー」に一年在籍しました。 演奏家の育成だけでなく作曲家、指揮者、音響エンジニアも一緒に新旧作品(私が在籍したときにはペーター・エトヴォシュ(*1)、ヴォルフガング・リーム(*2)などが講師として招かれ、直接指導を受けました。)数多くの曲を勉強し発表します。

アカデミー生は世界各地から集まりオーディションで選ばれます。アカデミー生は通常西洋音楽の演奏家のみでしたが、特別枠で私がアカデミーに入る事を設けてくださいました。当時、多くの演奏家や招待作曲家などにとって箏は馴染みがなく、また箏を含んだアンサンブル作品がとても少ないと言う、皆がお箏の予備知識がない中、一つの楽器として理解しようと努め、演奏する仲間として受け入れてくれたのは幸運でした。

作曲家とのコミュニケーションや楽器の紹介の仕方、短期間で新しい作品を演奏できる状態に持っていく技術は今の活動にとても役立っています。また舞台に立つ人だけでなく、マネージメント、ステージ、音響、さまざまな人と関わり合って一つのものを作り上げるという意識も高く、 それぞれの役割の人が平等で誇りを持って仕事をしているのが印象に残っています。ここに在籍した一年間はアンサンブルを演奏すること、ドイツで活動することなど、大切な事を多く学びとても有意義でした。

*1)ペーター・エトヴォシュ:Peter Eötvös、1944年、ハンガリー生まれの作曲家、指揮者。
*2)ヴォルフガング・リーム:Wolfgang Rihm、ドイツの作曲家、1952年生まれ。1998年にベルリン自由大学から名誉博士号を取得

2.ドイツでの活動

演奏は現代音楽からワールドミュージック、ジャズなど幅広い音楽ジャンルを取り上げます。アンサンブルにおいては西洋楽器、各国の民族楽器などさまざまな編成で演奏する機会が多く、新作の初演その再演ということもあります。

(1)主に所属しているグループ

〇アジアンアート

日中韓の民族楽器と西洋楽器で現代音楽を演奏
https://www.asianart-ensemble.com

〇トリックスターオーケストラ

イラン人の歌手を中心に西洋、中東、アジアなどさまざまな楽器でワールドミュージック、即興など演奏
https://tricksterorchestra.de

〇エリック シェーファー Kyoto mon Amour

ベース、ドラム、バスクラリネット、箏のジャズカルテット
日本の音楽、哲学、宗教に魅せられ、自ら勉強・体験した、ドイツ人ジャズドラマー エリック・シェーファーから見た日本を表現。

現在所属している上記のグループはそれぞれ設立時に声をかけられたのがきっかけで入りました。その他、2021年は演劇での連続公演があり、6月、アンサンブルモデルンの企画演奏会でチェロとの二重奏作曲家の桑原ゆうさん(*3)が書いてくれています。 7月にはオーストリアのフェスティバルで岸野末利加さん(*4)のコンチェルトをウィーンシンフォニーと演奏予定です。

*3)桑原ゆう(くわばら ゆう):現代音楽のフィールドを中心に活動する作曲家。1984年生まれ。
*4)岸野末利加(きしの まりか):日本の現代音楽の作曲家。1971年京都生まれ。

(2)演奏に際して心がけていること

演奏者としては、まず各作品の意図、曲の全体構成を把握し、その中で自分のパート役割を理解し、どのような音を作り出すか考えていきます。アンサンブルでは、弦楽器、管楽器(フルートやトランペット)、撥弦楽器(箏やハープなど)、 打楽器などそれぞれの楽器よって音の出るタイミングに相違があるので、一緒に呼吸を合わせる事を大切にしています。

作曲家と新作を作る時には、作曲家が想像する音楽と実際出る音の乖離が出ないよう、作曲家へ箏の楽器としての機能的運動的な部分を伝えるようにしています。私自身が箏を演奏していて一番の魅力は音色だと自画自賛(?!)しています。 (決して他の楽器と比べた訳ではありませんが)

(3)聴衆者の反応

現地ドイツ人の反応は面白いと感じた方たちは、公演後に近寄ってきて、楽器がどのような構造なのか、どうやって弾いているのか、楽譜はどうなっているのかなどの質問を受けます。

(4)演奏活動の軌跡

2012年 ベルリンフィルハーモニー教育プロジェクト参加。フレディ マーキュリー復刻アルバム”バルセロナ”CD参加。
2013年 衣笠貞之助監督 川端康成脚本 無声映画「狂った一頁」にジーンコールマン作曲の音楽を演奏。(ウィーン、ベルリン春の祭典)
2016年 ノーベル文学賞受賞者、シームスヒーニー記念館設立記念行事(アイルランド)にて演奏。
2017~
18年
ドイツバレエアムライン(デュッセルドルフ)にてアドリアーナホルツキー作品マーティンシュレープファー演出作品『Roses of Shadow』 にて出演。
2019年 世界音楽の日エストニア(ISCM) に招かれ、アルヴォペルトセンターにてカンネル奏者クリスティーミューリング氏とデュオ公演を行う。
2020年 バーレーン、春の音楽祭にて演奏。
2021~
22年
ベルリン、ノイケルナーオペラ劇場にて「ベートーヴェンと名乗る男」2演劇公演(全28公演)に参加。

(5)他の活動

A.教育プログラム

教育プログラム(小中学校、高校、大学などの学校訪問からフィルハーモニーや団体などが主催)では子どもや学生など若い人たちとも接し、楽器の紹介だけでなく、作品を作ったりすることもあります。

その時の企画によって、一人の時もあればアンサンブルで他の楽器や作曲家やアーティストと一緒に訪れることもあります。期間は1回で終了するものや数回シリーズのものもあります。聴衆年齢、性別問わずに集まり、その多くが聴きに行こうという意志で来られているので、熱心に聴いてくださいます。 ジャンルの違った演奏会に来てくれるリピーターの方もいて演奏家として嬉しいです。

B.定期的なお箏の稽古

箏、三味線の稽古は現在、フランクフルト、ベルリン、デュッセルドルフ、ケルンで教えています。楽器を演奏することを目的に定期的に来る生徒は日本人、ドイツ人、ブラジル人、中国人などインターナショナルなお弟子さんです。 お稽古は日本語、英語、ドイツ語を使い分けて指導しています。

生徒が習いに来るきっかけは、それぞれです。例えば私の演奏会を聴いた、生徒たちの演奏をお祭りで聴いた、漫画で読んだなどで楽器に興味を持ち、弾きたいと思ったようです。 内容は日本で行っているお稽古同様、最初に基礎的な事を教え、沢井箏曲院で教えている曲、宮城流の曲、古典など進度に合わせてレパートリーを増やしていきます。

トリックスターオーケストラ、ボン公演


3.課題

箏を聴いて自分も弾いてみたいと思われる方も増え、ジャンルを問わず箏を含んだアンサンブル作品、また独奏の作品が少しずつ増えてきたとは思いますが、まだまだ道半ばだと思います。 海外では日本のように楽器屋さんはいないので、とにかく楽器のメンテナンス、移動(長距離移動往復1500kmの時もあります)、コンサートでのセッティング、全て自分でしなければいけません。日本にいた時のサポートの有難さを感じます。


4.これからの抱負

何よりも箏を通して、海外で生活し色々な人に出会い、その国の考え方、習慣、文化など、さまざまな経験をしている事は人生において貴重な時間だと感じます。また演奏家として絶え間なく弾き続けられる状況であること、本当に幸せなことだと思います。 新たな作品に向かうことは大変ではありますが、少しずつ前進できる喜びを感じています。これからもさまざまな場所で演奏することで、生まれた作品達が未来の箏の音楽の一つになれば嬉しいです。








「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#海外活動

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