活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

邦楽の持つ可能性を求めて

(2022年05月20日公開)

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

全国生涯学習音楽指導員協議会栃木・郡馬支部会員 箏奏者 前川智世さん
活動風景
活動風景

■活動タイトル:邦楽の持つ可能性を求めて

目次

■日時:2010年〜現在活動中
■場所:栃木県内外
■対象:一般 

■活動内容

1.活動をはじめたきっかけ

邦楽ゾリスデンは、2008年に宇都宮市民芸術祭で立ち上げた宇都宮ユース邦楽合奏団のトップメンバーで2010年に結成されました。メンバーは吉澤延隆(箏・十七絃)、福田智久山(尺八)、本條秀慈郎(三味線)、前川智世(箏・三絃・十七絃)の4人で、古典から現代作品まで幅広いレパートリーを演奏する邦楽アンサンブルグループです。

「邦楽ゾリスデン」の「ゾリスデン」はドイツ語の「solisten」(ソリストたち)が由来です。私の師匠である和久文子先生が、それぞれのメンバーがソリストとしても羽ばたきながら、力を合わせて日本の伝統文化を発信して欲しいという願いから名付けてくださいました。2010年の日光田母沢御用邸記念公園秋の音楽祭を皮切りに本格的に邦楽ゾリスデンとしての活動が始まりました。

2.具体的な活動内容

(1)お客様に寄り添ったプログラムを

邦楽ゾリスデンの公演を聴きに来てくださるお客様は、小さいお子様から90代の方までと幅広い年齢層となっております。お客様が聴きたい曲もさまざまで「古典的な曲が聴きたい」「芸術的な現代邦楽が聴きたい」「分かりやすく親しみやすいポピュラーな曲が聴きたい」といろいろなご意見をいただきます。できるだけお客様のニーズに応じたプログラムを考えるようにしており、近年のプログラムは「古典」「現代邦楽」「一人芝居とアニメーションとのコラボレーション」「オリジナル曲」「ポピュラー作品のメドレー」が主なプログラムの内容となっております。

(2)「SANKYOKU」という舞台での挑戦

邦楽ゾリスデンが2015年より公益財団法人うつのみや文化創造財団(宇都宮市文化会館)の主催で開催している「SANKYOKU」という公演があります。公演の名前は箏・三味線・尺八の三種の楽器で合奏を行う三曲合奏の「三曲」から来ており、毎回、古典の作品または古典風な現代曲をプログラムに入れています。

A.一人芝居とアニメーションとのコラボレーション

現代邦楽は主に西洋音楽の作曲を専門とする作曲家の作品を入れることが多く、2018年の公演では酒井健治さんに作曲依頼をし、初めて邦楽ゾリスデンの委嘱作品として「Cantus」を演奏させていただきました。

「一人芝居とアニメーションとのコラボレーション」は舞台俳優さんをゲストにお招きし、童話などの作品の主人公をお芝居していただき、バックスクリーンには地元の芸術大学に協力を得てアニメーションを作成、投影していただいております。邦楽ゾリスデンはその題材に音楽を乗せ、BGM、効果音、時には脇役のセリフも担当します。近年ではメンバーの一人である尺八奏者福田智久山さんオリジナルの脚本・音楽で、より一層お客様に寄り添った演出になっております。

B.コンテンポラリーダンスとのコラボレーション

「オリジナル曲」は主に福田智久山さんが我がグループのために書き下ろした作品で2019年の公演では、そこにコンテンポラリーダンスを加え、音楽と踊り・照明の舞台全体を使って作品を表現しました。

C.ポピュラー作品ほか

「ポピュラー作品のメドレー」は水越丈晴先生に編曲依頼をし、誰もがどこかで聴いたことにある音楽をメドレー形式でお届けし、お客様にほっとしていただくようにしています。これまで、歌謡曲、民謡、ジブリ、ビートルズ、クイーンなどレパートリーは数多くあり、どれも好評を得ています。

D.光のアートとのコラボレーション

「SANKYOKU」では(公財)うつのみや文化創造財団のお力添えをいただき、「聴く音楽」だけでなく「観る音楽」にも力を入れております。音楽と共に光のアートが舞台に施され、目でも楽しめる舞台となっております。現代邦楽を演奏する際は光の陰影を利用したシックな照明や楽器の配置にも工夫し、ポピュラーな曲ではポップな照明など、一つひとつの演目に合わせた照明とのコラボレーションは邦楽としてはとても華やいだ舞台となっております。

「邦楽」というとまだまだ敷居が高く感じられているお客様も中にはいらっしゃると思います。地元の皆さんに育てていただき、応援していただいているからこそ、どうしたら「邦楽」をもっと身近に感じていただけるだろうか、そして”本物”を伝えられるだろうか、を皆で考えています。

身近に感じられる邦楽、本物の音と確かな技術力、そういったバランスのとれたプログラムを邦楽ゾリスデンは目指しています。

(3)演出の工夫

邦楽ゾリスデンの公演の特徴の一つとして演奏者の声を聞くことができるということが挙げられます。以前「SANKYOKU」では曲と曲の間、いわゆる幕間は司会を立てて幕間を繋いだこともあります。しかし、お客様から演奏者の声を聞きたいというご意見をいただき、現在は舞台転換の間、メンバーが曲の解説や演出についてなどお話をすることで間繋ぎをすることにしました。私たちの立場からするとお話をしない方が演奏だけに集中できるのかもしれませんが、お客様からは演奏者の人間性が垣間見えることで、より身近に音楽をそしてゾリスデンを感じることができるということでした。近年の公演ではゾリスデンメンバー全員とゲストを交えた対談コーナーも設け、ユーモア溢れる演出をし、お客様に楽しんでいただいております。


3.課題と抱負

(1)演奏プログラム

お客様のニーズにお応えできるよう、さまざまな視点から舞台を考え、挑戦しておりますが、中には「少し難しかった」というご意見をいただくこともあります。例えば「古典作品」。古典は私たちがお箏をやる上で基盤となっているものなので、微力ながらもこれは次世代まで繋いでいきたいと思う音楽です。「古典」は古典ならではの奥ゆかしさをありのまま伝えたいという半面、古典の歌詞の情景をバックスクリーンに映像化して映し出したらどうだろうかなど夢は膨らみます。

(2)本物の楽器を

邦楽をもっと身近な存在にしつつ、「本物」を伝えていくには、きちんとした楽器をすぐに手に入れられる環境を整えることが重要だと考えます。私はさまざまな学校にスクールコンサート(鑑賞・体験)で伺わせていただいておりますが、本物のお箏とは言い難い楽器が音楽室に置いてあるということもあります。予算の問題、お箏の糸が切れた時のメンテナンスのことなど「本物」にこだわるといろいろな問題が出てくると思います。

ただ、子供たちに日本の「伝統文化」と言って箏らしき楽器を「これはお箏です」とは私は伝えたくないなと思います。きちんとしたお箏とそうでない楽器とでは、まず音色が全く異なります。事前学習で体験した子供たちは、きちんとしたお箏と比較し、すぐにその違いに気が付きます。現代ではインターネットで便利に楽器を購入される方も増えていますが、身近な楽器店でも本物の良い邦楽器を手に入れられる環境が整うともっと普及に繋がるのではないかと思います。

(3)家元制度や流派について思うこと

邦楽の家元制度や流派に関しましては、言葉に例えると「なまり」つまり「方言」のようなもので、それぞれのお家元や流派のなまりが特色となっていると考えます。皆が標準語で話していても面白くないように、関西弁があったり、東北弁があったりと地域によっていろいろな方言があるから面白いのです。

邦楽も先人の方々が楽譜も録音器もない時代に口伝えで連綿と伝えてきた音楽だからこそ、伝わり方が人や地域よって少し違ったり、リズムや手の運びが違ったりといろいろな先人の方々の足跡があるのだの思います。どの流派が正しくて、どの流派が正しくないということはないと考えています。現在まで継承されているものこそが「伝統文化」そのものだと思います。時には流派という垣根を超えて手を取り合い、お互いの特色を交えながら作る音楽も豊かなものになる可能性は大きく、またその時代に合わせた新しい音楽を紡いでいけたら良いのかなと思います。


4.最後に

今回は私が所属するユニット、邦楽ゾリスデンが邦楽の持つ可能性を追求した舞台「SANKYOKU」に焦点を当てて参りました。邦楽ゾリスデンとしての活動以外にも演奏活動や指導活動を行っておりますが、邦楽が日本人にとって、もっと身近な存在になったらと思います。そのためには多くの人に邦楽に触れ、聴いてもらう機会を増やす事、それに尽きると考えます。そして身近に本物の楽器が手に取れる環境作りも同時に進めて行かねばなりません。

私が箏を始めたきっかけは地元の宇都宮市立石井小学校です。偶然、そこに「こと部」があり、指導に来られていたのが現在の師匠である和久文子先生でした。当時、私は既にピアノを習い事としてやっておりましたが、初めて箏を見て、聴いて、触れたとき、とても魅了された記憶があります。またピアノは基本ひとりで演奏する楽器ですが、お箏はアンサンブルで楽しめるというところも私の性格にぴったりでした。

こと部での活動はグループレッスンで、例え弾けない箇所があっても、周りのお友達が補ってくれる、指が痛くなって立ち止まりたくなる時も励まし合える、そして、曲が仕上がった時の喜びも分かち合える、それが箏の魅力でもあります。

また、和久先生という素晴らしい指導者にも恵まれ、一人ひとりが「重さのある良い音を出す」ということを楽しみながら教えてくださいました。それが今なお私の演奏の根源になっています。

幸いなことに、現在、和久先生と共に母校である石井小こと部に指導者として私も伺っています。今度は私が子供たちに伝える立場で自分の経験を生かしつつ、箏の面白さを未来へ繋いでいきたいと思います。今後も地元宇都宮・日光を活動拠点とし、ここからより良い邦楽を発信し、「邦楽と言えば栃木!」というぐらいまずは栃木県から邦楽を盛り立てていくことが目標です。

★私が好きな曲で、皆様方へぜひ聴いていただきたい曲を上げました。
  • 瀬音(宮城道雄作曲) 箏・十七絃
  • 鳥のように(沢井忠夫作曲) 箏独奏
  • めぐりめぐる(沢井忠夫作曲) 十七絃二重奏
  • ファンタジア(沢井忠夫作曲) 箏のための小協奏曲
  • 土声(沢井比河流作曲)十七絃と尺八の二重奏
  • コスモドラグーン(沢井比河流作曲)1箏・2箏・十七絃・三味線・尺八




「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」

#コラボレーション

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