活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

『箏の魅力を、もっともっと多くの人へ』

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

沢井箏曲院 箏地歌三味線演奏家 岐阜市生まれ、ニューヨーク在住 石榑雅代さん

石榑雅代さん
石榑雅代さん
■活動テーマ 『箏の魅力を、もっともっと多くの人へ』
目次

マンハッタン 「ブライアントパーク」
マンハッタン 「ブライアントパーク」

■活動開始年:1992年~現在
■活動場所:アメリカ ニューヨークを拠点とし全米各地
アメリカ コネチカット州「ウエスリアン大学」
アメリカ ニューヨーク州「コロンビア大学」
■対象:現地の子ども~大人まで、趣味又は専門的に習いたい方

■活動内容

1.海外活動のきっかけ

沢井箏曲院の沢井一恵師より海外派遣のお話をいただき、アメリカへ日本の伝統楽器普及のために渡米したのがきっかけです。1992年コネチカット州(アメリカ北東部)にあるウエスリアン大学音楽部で、琴と三味線の指導をしておりましたが、ある日ニューヨークで長く指導されていたお琴の先生が永久帰国されることになり、アメリカ人尺八奏者から「ぜひこちらに来て欲しい」と。

1997年、活動の拠点をニューヨークへ移しました。

最初にニューヨークに来た時、箏という楽器は知る人ぞ知る程度で今日の様には知られていなかったと記憶しています。まだまだ富士山芸者的なイメージが強かったようです。道で箏を持って歩いていると「わお〜芸者」とか言われてました。しかし、その中でも日本人以上に日本文化に詳しい専門家の方が、当時でも結構いらしたように思います。その理由はニューヨークという土地柄もあると思います。


2.活動の軌跡

  • 1992年から12年間、ウエスリアン大学音楽部で箏・三味線指導
  • 1997年よりニューヨークで演奏、教授活動
  • 2001−2022年 コロンビア大学で箏クラス指導

現在はワシントンDC(2003年~)とニューヨーク(1997年~)で個人指導をしています。生徒は高校生から80歳まで45名程、その内訳は日本人60% アメリカ人40%で、男女の比率は男性30%、女性70%です。過去には専門家を目指す人がいましたが、現在は趣味層の方々です。

演奏家としては個人、または「Masayo Ishigure and MIYABI koto shamisen Ensemble」として活動しています。また20年以上継続して習っている生徒と公演する機会も多いです。

日本関連やアジア関連のイベント、共演は尺八、舞踊、他にはjazz奏者、イベントの内容に応じて構成を変えています。


3.コンサート活動

(1)2018年「在米25年記念コンサート」

ニューヨーク市内の劇場で開催しました。出演は私と雅アンサンブル25名と、現地プロ演奏家のベース、パーカッション、モダンダンサー、クラシックギター、尺八は、日本からジョン海山ネプチューンを招き、ジョン氏の作品も演奏しました。

彼の作品では、全員が曲の途中で即興演奏、またお客様も巻き込んでの参加型のコンサートとなり、邦楽の堅苦しいイメージを払拭でき、お客様の箏に対するイメージは、随分変わったのではないかと思っています。

<演奏曲目>
『春の海』宮城道夫作曲
『Midnight Rain』エリザベスファルコナー作曲
『甦る五つの歌』沢井忠夫作曲
『青竹/west of somewhere、』ジョン海山ネプチューン作曲等

(2)2018年7月、「在米25年記念岐阜バージョン」日本ふたたび 箏と尺八

私の出身地、岐阜市のサラマンカホールでのコンサート。
出演者は私とMIYABI アンサンブル13名(ニューヨークから9名、現在は自国に戻っている生徒達も参加)と、地元からゲストとしてベース、パーカッション、尺八は千葉からジョン海山ネプチューン氏に参加していただきました。

<曲目>
『六段の調』三味線本手/替手/箏
『プライム ナンバーズ』ジョン海山ネプチューン作曲
『翼にのって』沢井忠夫作曲
『青竹/west of somewhere』ジョン海山ネプチューン作曲
『夢の輪』沢井比河流作曲

(3)2018年5月桜祭りコンサートinニューヨーク

出演者:石榑雅代とMIYABI アンサンブル

全米各地で、4月には桜祭りが開催されています。毎年ニューヨーク近郊、ワシントンDC、で開催されるイベントに『MIYABI koto shamisen Ensemble』として参加しています。

このイベントは、生徒さんにとっても練習の大きな目標となっており、また楽しみにしている発表の場です。過去には40名に近い生徒が参加し、舞台に全員がのりきらないというハプニングもありました。

仕方なく数名が舞台の下に楽器をセットしたところ、お客さまから、近くで演奏が見られ大変に良かった、これからは同じ目線で演奏してほしいな〜との声が多く届きました。時に舞台は、観客との心理的・物理的距離を作ってしまうのかもしれませんね。

(4)2016年2月 オーケストラと共演:ハートフォードシンフォニーコンサート

コネチカット州 ハートフォード
出演者は現地のオーケストラで「ハートフォードシンフォニーオーケストラ」
ゲストは、私の他にL.A在住の尺八奏者梅崎康二郎さん。

指揮者がアジア人の女性であることから、このオーケストラでは、アジアに関連する作品がよく取り入れられています。私は過去に、このオーケストラとの共演(箏)を2回行っています。

『concerto for koto and Shakuhachi Rivive』(菅野裕悟曲)と『鳥のように』(沢井忠夫作曲)を演奏しました。
聴衆者は主にハートフォードシンフォニーの会員が中心です。

オーケストラ公演の観客数は、多くの場合1700〜2000人が標準です。日本の楽器にご縁のない方が99%ですが、このような機会に、一気に大勢の方に日本の楽器は紹介できることは素晴らしいことだと思います。ですが、日本と中国の違いがよくお分かりになっていない方もいることを実感する場面でもあります! 海外ならではの悩みですね。


(5)2021年4月 ニューヨーク、ブルックリン ボタニカルガーデンにて

コロナで全くイベントが行われていなかった2021年、感染者が少し減っていた時期であったこともあり、屋外でのコンサートが開催されました。当日はお天気にも恵まれ、約300名のお客様が演奏に耳を傾けてくださいました。音楽を通して、忘れかけていた日常を思い出させてくれるイベントとなりました。


(6)リモート録音 NYのMIYABIアンサンブル演奏

コロナ禍、全く何もない毎日。練習の意味さえも見つからず、みんなが完全に目標を失っていました。そこで、日頃からよく演奏していた『夢の輪』(沢井比河流作曲)をこの機会に是非形に残したいという意見が出たことから、それぞれの自宅からリモート録音しました。 リモート録音は初めての経験で、私も含めて戸惑いましたが努力の結果、この曲以外にも数曲録画をすることができ、全員が新しい世界観が感じられる貴重な経験となりました。編集に200時間以上費やしてくれた主人に感謝です。


4.ニューヨークで箏に対する反応は

アメリカ人で稀に古典を好む人もいますが、一般的には耳に優しく聴きやすい現代曲の方が受けが良いように感じます。日本人の場合ですと「春の海」、アニメからは今なら「鬼滅の刃」など既知曲はもちろん受け入れられやすいです。

中でも沢井忠夫先生、沢井比河流先生の作品は人気があります。

5.アメリカでの伝統楽器の認知

特殊で限られた人だけを対象とした演奏会よりも、一般の方が集まる場所での演奏を増やしてきたことでアメリカ人への認識は昔に比べれば確実に高まっています。時代と共に富士山芸者的な感覚は減ってきていると思いますが、まだまだ箏の存在を知らない人の方が俄然多いのは確かです。今も引き続き、道歩く普通のアメリカ人に箏を広めている段階です。

昨今、世界では日本文化、伝統音楽の受け入れは昔に比べて進んでいます。その結果多くの作曲家たちも興味を持ち箏を使った作品が多く作られています。ただそれぞれの作品の評価は別として、やはりまだ絵的な要素としての依頼が多いのが現実です。

絵的というのは、着物を着て箏を弾いている人がそこに存在するという役割。伝統楽器という面からすると、その部分を担うことは宿命でしょう。収入源でもあるので必要不可欠です!

課題としては2点あります。一つは自分も含めてなのかも知れませんが、その方が日本を出た時点で、時が止まってしまっている指導者も多いことに驚きます。

次々に新しい作品が生み出されていますが、演奏されている曲は半世紀以前の作品に偏っていることが挙げられるかと思います。もちろん日本に頻繁に帰れるわけではありませんので、新曲を最先端で取り入れることは難しいかもしれませんが、今はネット配信で知識を得ることも可能なので、みんなが力を合わせてどんどん新しい作品が紹介できれば良いと願っています。

二つ目は楽器のメンテナスです。糸の管理のために、2~3年に一度、日本からお箏屋さんに来てもらうという作業を続けています。海外のお住まいの先生の中には、糸締めは50年に一度とおっしゃる方も。少々驚くことが多いです(数十年前に購入から、一度も糸の調整をしてない人が結構いらっしゃいます)。

毎回NYだけでも約70面ほど糸締めがありますが、自分達だけでお箏屋さん経費を賄うのは大変なので、経費軽減のため、お琴屋さんには全米各地をまわってもらいます。東海岸からハワイまでで、合計100面以上となります。それが物理的に一番大変なことでしょうか。


6.これからの抱負

吉田兄弟により、津軽三味線が世に一気に広まったことは紛れもない事実だと思います。残念ながら、お箏にはそのようなセンセーショナルなことが全く起きず、この先起こる予感もないので、現地に住む人間が、今まで通り地道に広めて行くよりないと思います。

認知力を上げる手段としては、やはり電波は大きいと思いますので、映画やテレビなどで箏を音楽と共に紹介できれば良いかも知れません。あくまでの予想ですが反響は期待できると思います。もしくは流行りのアニメなどと和楽器とコラボさせる。そして、それをSNSでの発信、それはいまの時代欠かせないと思います。

残念なのは、『この音止まれ』(*1)が日本語だけでしか発売されてないことです。多言語発信であったならば、もしかしたら若者へのアプローチも違ってきたのではないでしょうか。日本の高校生が大きく影響を受けました。ただし認知力が上がったら、それをどう継続していくかまで考える事が重要です。

10年間、コロンビア大学の箏のクラスを担当しましたが、卒業後にも演奏を続けている人は非常に少ないのが現実です。私が教えた学生で卒業後3〜4名は続けていますが、その程度です。学生に対して、日本文化紹介としての役割は果たせていると思いますが、演奏家が生業となるようなことは、残念ながら全く現実的でないと思います。大きな目標よりも、まずは一人でも二人でも演奏する人を増やすことが、今の邦楽にとって大切なことのように思えます。子どもは金の宝です。しっかりと足元を見るべきです。

日本に帰省するたびに感じますが、激しい邦楽の衰退に、自分の気持ちをどう整理していってよいのか全くわかりません。近い将来、海外から和楽器の演奏家を逆輸入する時代が来るのではないでしょうか? それはある意味成功だと思います。 彼らが演奏家を生業としていけることが不可欠ですが期待したいと思います。

*1)『この音止まれ』:アミュー原作の高校箏曲部をテーマとした学園漫画・アニメ(集英社―ジャンプスクエア刊)「龍星群」は作中オリジナル曲として橋本みぎわ氏が作曲。

●Web site: Masayo Ishigure
http://www.masayoishigure.com
●Web site: Masayo Ishigure New York Koto and Shamisen
http://www.letsplaykoto.com

「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#海外活動

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