新しい方角(邦楽)

三味線が誰にとっても身近な存在であるために

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

三味線奏者 街角伝統芸能プロジェクト代表、三味線三昧+(シャミセンザンマイプラス)代表 京都府 三宅 良さん

■活動テーマ 「三味線が誰にとっても身近な存在であるために」

目次


カフェ&バー天Qでの『三味線三昧』からの1枚(左から、三味線唄:山田白米さん、津軽・地唄・義太夫の三刀流三味線:椿紅静月(つばいしずき)さん、三線:安保剛さん、ゴッタン:黒坂周吾さん、津軽三味線:itaruさん、ペットボトル三味線を弾く筆者)
カフェ&バー天Qでの『三味線三昧』からの1枚 (左から、三味線唄:山田白米さん、津軽・地唄・義太夫の三刀流三味線:椿紅静月(つばいしずき)さん、三線:安保剛さん、ゴッタン:黒坂周吾さん、津軽三味線:itaruさん、ペットボトル三味線を弾く筆者)
■活動開始年:2012年~現在
■場所:カフェ&バー天Q、ゼスト御池、長岡京生涯学習センター、その他京都の寺社仏閣等
■対象:子どもから大人まで

■活動内容

Ⅰ.三味線に興味を持ったきっかけから出会いまで

1.興味を持ったきっかけ

三味線に興味を持ったのは10代の頃、テレビのお笑い番組で「昔、活躍されていた芸人さんで三味線の名手がおられ、弦が一本になっても曲を弾いた」というエピソードを聞いたことがきっかけでした。

「三本あるはずの弦が一本になっても演奏できるってどんな楽器だろう?」「弦が一本しかない逆境でも演奏し続ける精神力はどこからくるのか?」ということに強く惹きつけられました。

それまでにも三味線の演奏自体は聴いたことはありましたが、意識して聴いたことはありませんでした。今思えばもったいないことなのですが、物事には出会うきっかけとタイミングが大切で、始めることはもちろんのこと続けていく上でもそう言えると思っています。

2.三味線との出会い

三味線に興味を持ったことを父親に伝えると、父親が知り合いからお稽古用の三味線を譲り受けてきてくれました。その三味線が長唄用の細棹三味線だったことが長唄三味線を始めるきっかけでした。その後、指導者を探さねばならず修理を依頼した楽器屋さんにご紹介いただきました。

最初に師事した先生はいわゆる「町のお師匠さん」という方で、年配のご婦人だったのですが、「最後の弟子」として大変可愛がってくださりお稽古をつけてくださるだけでなく、上七軒(*1)の歌舞練場で行われる「寿会」などにも勉強として連れて行ってくださりました。

*1)上七軒:京都五花街の一つで最も古い花街。その歴史は室町時代までさかのぼる。北野天満宮の門前町にあり、毎年春に「北野をどり」、秋に「寿会」が開催される。

伝統芸能を始めるきっかけは親から子へ、師匠から弟子へ、または学生時代のサークルでという方がほとんどで、私のような興味の持ち方・始め方は珍しいパターンだと思います。今思い起こしても幸運なスタートです。

今でも長唄(*2)三味線を続けていられるのはこうした恵まれた環境があったからですが、何より「長唄三味線」の魅力に強く惹きつけられているからに他なりません。その魅力を一言で言ってしまうと「心地良い違和感」です。

日本語としては文字通り「違和感」のある表現かもしれませんが、生まれてからずっと意識して日本の伝統音楽を聴くことなく、ポップスや流行歌、洋楽(ロックやダンスミュージックなど)ばかり聴いて育った中で初めて聴いた「長唄三味線」はメロディーの展開や間、どれもが良い意味で予想を裏切られる「心地良い違和感」でした。伝統音楽と言われる“古典”が私にとっては新鮮に感じられたのです。

*2)長唄:歌舞伎の伴奏音楽として成立。地歌、浄瑠璃、謡曲、狂言、はやり唄などの歌詞・旋律を取り入れ発展。「日本音楽を集大成した細棹芸術」と言われる。『勧進帳』『秋の色種』『二人椀久』などの曲がある。


Ⅱ.『三味線三昧』

京都の西陣にある「カフェ&バー 天Q」というライブハウスにそれぞれ個別にさまざまなジャンルの三味線奏者が出演していたのですが、天Qのマスターが「三味線奏者を集めた三味線だけのライブをしたら面白いんちゃうか」ということで声をかけていただいて『三味線三昧』というイベントが生れました。

一口に三味線と言っても【細棹・中棹・太棹】(*3)、そして沖縄の三線(*4)、南九州に伝わる民族楽器で伝統工芸品に指定されているゴッタンと色々な種類があります。さらに音楽のジャンルとしては長唄・地唄・津軽・常磐津・清元・俗曲(*5)などがあります。

ジャンルが違うとほとんど交流もないのですが、奇跡的にも同じライブハウスに同世代の三味線奏者が集まるという縁も重なり、今では月例ライブとして「三味線三昧」が実施できています。

*3)細棹・中棹・太棹:音楽ジャンルによって扱う三味線が違う。
  • 小唄、端唄、長唄は細棹(更に細い柳川三味線もある)
  • 地歌、常磐津節, 清元節は中棹
  • 義太夫節、津軽は太棹

*4)三線:中国の三絃(サンシェン)が琉球に伝わり、改良された。胴にはニシキヘビの皮を張り、水牛の角などで作られた爪を人差し指にはめて演奏する。沖縄本島、奄美諸島などの離島各地にさまざまな民謡が存在する。(三味線は胴に犬や猫の皮を貼り、象牙や鼈甲で作られた撥を用いて演奏する)

*5)俗曲:宴会や酒席で俗っぽくうたわれるもの、または寄席芸の音曲に類するものを一括して指す。「さのさ」「金比羅船々」などがある。

基本的にはそれぞれのジャンルにある曲を演奏しているのですが、最近では出演者同士でのコラボレーションや持ち曲のカバーなど新しい試みも出てきており、「三味線三昧」のラストには全員参加の合奏が恒例になっています。

全員参加の合奏はどの世代でも一度は耳にしたことがあるような「童謡」を選曲していますが、メンバーの持つ個性やジャンル毎の特性も生きた演奏になっていると思います。こうしたさまざまなジャンルの三味線奏者が一緒に一つの曲を演奏するのも「三味線三昧」の面白いところだと思います。


Ⅲ. 三味線の普及啓蒙活動

1.『紙芝居』~朗読とのコラボレーション


(1)きっかけ

ゼスト御池という京都の中心にある商業施設で朗読教室「おはなしの栞」を主宰されている辻曙美さんから「子供に向けて朗読と音楽のコラボレーションしたイベントを行いたい」と声をかけていただいたのがきっかけで始めることになりました。もともと子供に向けて三味線音楽を伝えたいと考えていたので、ちょうど良い機会与えてもらい有難かったです。

(2)内容

「長唄」というジャンルも歌舞伎の伴奏音楽として発展してきましたので、物語のBGM的な演奏、特に題材が「日本の昔話であればなんとかなるだろう」と考えていたのですが、海外の物語や現代の物語ではどのように演奏すればよいか戸惑っていました。

しかし、一緒に音楽で参加していたレゲエキーボーディストの鈴木潤さんや二胡のジャー・ピンさんの素晴らしいアドリブ演奏を聴いて、「朗読された場面から思い浮かぶ美しいフレーズや楽しいフレーズを奇をてらわずに弾けば良い」とあらためて長唄の勉強や自分の演奏を見直すきっかけにもなり、朗読の読み手や聴いていただく皆さんのリアクションを見ながら演奏することも意識することができました。

その様な中で子供たちに伝統文化や伝統芸能の楽しさを伝える活動をしている、語り部の満茶乃さんと出会い、より子供に三味線音楽を伝える機会が増えていきました。そして、できるだけ楽しくユルユルと伝えられればと思い、自作の紙芝居を作成することにしました。

子供の反応は正直な話、私の画力のせいもあってか「微妙」ですが、ただ言葉だけで説明するよりは食いつきは良くなっていると感じています。(保護者の方をはじめ、大人の方にウケが良いようです)

2.『移動おんがく実験室 スタジオ☆ムジカ』


(1)企画にあたって

2020年に京都でアートマネージャーとして活動されており「コジカレーベル」を主宰されている小島さんからお声がけをいただいて『移動おんがく実験室 スタジオ☆ムジカ』というプロジェクトに参加しています。

年齢やあらゆるハンディキャップに関係なく、さまざまな人たちに音楽を届けて一緒に作っていくという活動なのですが、活動を始めたのがコロナ禍のなかで子供が音楽をはじめとした文化・芸術に触れる機会を失っているという時期で、私自身も子供向けのワークショップをずっと行えていない時でした。

そしてパーカッショニストの渡辺亮さん、ギターと歌・和太鼓とゴッタン奏者の黒坂周吾さん、アラブの打楽器(ダルブッカ)奏者の永田充さんと個性豊かなバックボーンを持っているメンバーが集い、それぞれの経験を生かしたアイディアを出し合って、参加してくれる子供に楽しんでもらえる企画を作っていきました。

(2)内容

50種類以上はある楽器や楽器として音の出せる道具などを一堂に並べて体験してもらったり、その中から気に入った楽器を選んで全員で合奏したり。また、空ペットボトルを使ったシェーカー作りをしてもらい、作ったシェーカーでリズム遊びをしたりとさまざまな音楽体験をしてもらいながら、子供から返ってくる天才的なリアクションに刺激を受けつつ実験活動を行なっています。

3.『ペットボトル三味線ワークショップ』


(1)きっかけ

ペットボトル三味線のワークショップを考えるようになったきっかけの一つに、ある子供から言われた「聴いたことないから難しい。よくわからない」という一言がありました。

よく聴く感想ではあったのですが、その時は「確かに普段聴くことがない音楽を『日本の伝統音楽だから』という理由では親しみも湧わかないし、楽しさも感じないのかも」と、あらためてどんな視点で取り組めば良いかを考えるヒントとなりました。

(2)ペットボトル三味線作り

楽器自体、安いものではないのでワークショップをする際に楽器を揃えることが難しく、子供達に十分触れてもらえることができないのが悩みの一つでした。そこで沖縄のカンカラ三線(空き缶で作られた三線です)をヒントに、子供向けの三味線を自作できないか考えました。

実際にポリタンクを材料にして三線を作られている方の動画を見つけ、楽器製作をしている知人の協力を得ながら、ペットボトル三味線を作ることに成功しました。

(3)内容

京都で子供に向けて伝統文化・芸能を伝える親子イベントを実施されている語り部の満茶乃さんとコラボレーションして町家でイベントを行なったり、NPO法人「和の学校」との共催で実際にマイ・ペットボトル三味線を作って演奏するワークショップも行いました。

他にも小学校の夏休みイベントに参加してワークショップを行ったりとさまざまな場所で子供に三味線を身近に感じてもらう機会を作ることができました。

(4)参加者の反応

参加してくれる子供の反応もさまざまで、教えた通りに弾いてみる子、自分独自の音の出し方を探す子、三味線から音が出る原理に興味を示す子、まさに十人十色の反応です。中でも強く印象に残っているのは小学校のワークショップで出会った子です。

練習曲の「きらきらぼし」に挑戦するのですが、決して飲み込みが良いわけではなく何度も同じところで間違います。しかし、諦めずに挑戦し確実に一つずつのフレーズを完成させ「次のところも弾いてみる?」と尋ねると、コクンと肯き演奏を進めていきます。

残念ながら時間内に一曲完成させることはできなかったのですが、自分が弾けるようになったフレーズを反芻しながら満足気に帰っていきました。深い集中力と弾けるまでひたすらに挑戦し続ける姿は一演奏者として頭の下がる思いでした。

ワークショップに参加してくれた子供が見せてくれる充実した顔は、自分がワークショップのために取り組んできたことへの最高のご褒美であり、宝物として心に残っています。


Ⅳ.課題

(1)現状

「三味線三昧」をはじめとした演奏活動を行っていますが、まだまだ三味線音楽が「日常的に楽しむ音楽」になっていないと感じます。しかし、最近では「和楽器バンド」や漫画「鬼滅の刃」のヒットにより日本の伝統文化や音楽に興味を持つ人達が増えているようなので、この流れを一過性にしないためにも三味線をはじめとした伝統音楽の中で「多様な表現者とその活躍の場」をどれだけ作っていけるのか? が鍵になると思います。

実際、津軽三味線の演奏者の中ではジャズやロックなど、他のジャンルとのセッションを行っている方も多く、こうした取り組みが津軽三味線人気の一因でもあるでしょう。

(2)演奏者として

一演奏者としては先人が守り受け継いで来られた伝統音楽を学び研鑽することは大事ですし、そういった音楽の魅力を多くの人に伝えたいという思いもあります。しかし、企画・立案と一歩引いた視点で考えると、より多くの人に楽しんでもらえる場(機会)を作りたいと考えています。そのバランスを両立させていくことが個人的な課題の一つです。

(3)普及活動について

もう一点、ワークショップを中心とした普及活動に関しての課題ですが、「いかに運営を続けていくか」と言うことに尽きます。ペットボトル三味線が本物の三味線よりも安価で作れるといっても材料費等がかかってきます。

また、格差社会の深刻さが叫ばれる中で、特に子供にとって「体験の格差」は圧倒的と言われています。“一般的”とされる家庭の子供でも三味線に触れる機会は少ないのに、相対的貧困家庭に育った子供やハンディキャップを背負った子供にとって体験する機会は更に少なくなってしまいます。

できるだけ分け隔てなく三味線に触れる機会を作り「体験の格差」が生れないようにするためには参加費を低価格に抑えるか、参加無料で行う必要があります。自治体などが出している補助金や助成金を申請していますが、それでも個人の持ち出し分が発生するので定期的に継続していくのは困難です。

そのうえで、続けていくには活動を理解して応援し“仲間”の存在が大切であり、その輪を広げていくことが重要だと感じています。


(府立植物園での野外イベントにて。三味線三昧メンバーと)


(天Q『三味線三昧』にて。三味線三昧メンバーと)


Ⅴ.今後の抱負

今後もペットボトル三味線ワークショップや自作の紙芝居、そして自分自身の演奏活動を通じて子供に三味線音楽を届ける活動に力を注いでいきたいと考えています。ワークショップをするにあたって子供とは「教える人と教わる人」という関係ではなく「一緒に遊ぶ人」という関係でいたいと思っています。

遊ぶことに関して子供は天才的ですし、遊び楽しみながらの方が知識や体験の吸収も早く、記憶に強く残ります。また、“教えること”ではなく“遊ぶこと”で子供のペースで進めることができると考えています。

アフリカのことわざで「人間がいくら焚き木をくべても豆は豆の時間でしか煮えない」というものがあるそうで、子供と接するときはこのことわざを常に意識しています。

たとえ三味線に触れる機会があってもその子供が興味を持つのは今ではないかもしれません。一年後か五年後か、それとも十年後かもしれません。それでも機会を作ること、そして子供の時間で興味を育てていくことが大事だと思います。機会を作るということで言えば、日本だけではなく世界にも目を向けていきたいです。

畳屋さんがリーダーをされている「日本畳楽器製造」(あらゆる楽器を“畳化”されている“けったいなバンド”です)に参加させていただいていて、色々なご縁から台湾とマレーシアに行く機会がありました。

畳や着物といった日本の文化に関心を持っておられる方も多く、私が持参したペットボトル三味線にも興味を持ってもらえました。子供たちとは言葉がわからないなりにも音楽を通じてやり取りができ、国境関係なくワークショップができる可能性を感じました。

ペットボトルという誰もが知っている素材で作られているという点も食いつきの良さに繋がったのかもしれません。ペットボトル三味線を持って日本や世界の各地を巡りながら現地の曲を現地の人達と演奏する旅をしてみたいと思っています。





「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#コラボレーション

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