活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

ソーシャル・ネットワークは「箏」― ワールドミュージックの楽園フランスにて

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

箏奏者 作曲家 フランス・リヨン在住 みやざきみえこさん
サクソフォン奏者のフランク・ウォルフ氏と
サクソフォン奏者のフランク・ウォルフ氏と

■活動テーマ:ソーシャル・ネットワークは「箏」― ワールドミュージックの楽園フランスにて

目次

■フランスでの活動期間:2005年〜現在
■活動場所:ヨーロッパ、北アフリカ、南北アメリカ、中国語圏(中国・台湾・香港)

■具体的な活動

1.フランスへの移住

フランスに拠点を移したのはプライベートな理由からです。当時交際していたフランス人男性(現夫)と一緒に暮らすため、というのが直接の動機です。そして箏の演奏活動をフランスで続けていくにあたって確信がありました。

フランスはアメリカに引けを取らぬ人種のるつぼ、世界中の音楽家が集まるワールドミュージック大国です。フランスでなら自分の居場所がきっと見つかる、そこに疑いはありませんでした。加えて私は自分自身の音楽、つまり自作曲の発表を続けたかったのです。

現在の状況は分かりませんが、私が日本で活動していた当時、プロジェクトの制作者やコンサートの主催者から「みんなが知っている曲を弾いてください」「有名曲を弾いてください」などという依頼がしばしありました。それは当時の日本ではプロデューサーがいかに聴衆のことを大切にしているかを意味します。しかし演奏者にとって、それはそのまま自作品発表の場が狭められることになるのです。私はその状況にストレスを感じていました。フランスではそのようなことはあり得ない、というのは既に経験済みでした。ワールドミュージックのコンサートに足を運ぶ人々はそもそも新しいことが大好きなのです。それは演奏会のプロデューサーも同じです。


2.箏を中心にした音楽プロジェクト

フランスを活動拠点にする手始めとして、バイオリニストである夫とその友人のアコーディオン奏者とでトリオを組み、2007年にアルバムを発表しました(Trio Miyazaki)。私の作品を中心としたレパートリーです。日本でも2008年、2010年に演奏しました。フランスに移住してすぐにレベルの高いミュージシャンが私の作品を演奏してくれる、という恵まれた環境が持てたのは、夫に依るところが大きいのです。

フランスはジャズが大変盛んです。フランスでジャズのマエストロたちに出会えたことは私の演奏活動に多大な影響を及ぼしました。彼らと共に世界中を演奏旅行する日々が始まったのです。

文化や価値観、生活習慣が全く異なる人々から喝采をいただく嬉しさは特筆すべきものです。そしてその喝采は、ジャズ・インプロビゼーション(即興演奏)という共通言語の中でこそ持つことができる種類のものなのです。中でもギタリストのグエン・リー氏のユニット「S A I Y U K I」は、フランス音楽業界において私に様々な機会を与えてくれました。

フランスで音楽家として生活するにあたっては、いくつかのプロジェクトを同時進行させることが多いのです。フリーランスの音楽家の社会保障は年間のコンサート数によって決まります。とにかく演奏会の数をこなさなければなりません。

2022年の現在まで、実に様々なプロジェクトに携わりました。サクソフォンと箏のデュオ、コルシカ伝統歌謡とのコラボレーション、現代舞踏のための作曲と演奏、現代音楽作曲家による箏とオーケストラのコンチェルトの初演、フランス在住の尺八奏者との古典音楽のユニット、そして箏のソロによる、J ・S・バッハの「ゴルトベルク変奏曲」(*1)・・・関わった企画は数えきれません。

*1)ゴルトベルク変奏曲:原曲はチェンバロのための変奏曲で、ドレスデンのロシア大使カイザーリンク伯爵の不眠症解消のために書かれたというエピソードがある。曲名のゴルドベルクとは伯爵の旅に同行していた音楽家の名前。1956年にリリースされたグレン・グールドのレコードは大ヒットし、今でもファンは多い。

現在(2022年)は、若手ストリング・カルテット「クァチュール・ヤコ」と共に、私の作品によるアルバムを製作中です。彼らは箏と私の作品にめぐりあい、それを彼らの刺激としてくれました。箏奏者としても作曲家としても光栄なことです。フランス国内最高の音楽教育を受け、パッションと創造性に溢れた彼らとの演奏は勉強になることばかりです。


3.教育活動

地歌箏曲、三曲合奏に始まる日本の室内楽に魅了され、自身も演奏したい、これを職業にしたい、という人々はこの10年で確実に増えていると実感しています。

尺八奏者のジャン=フランソワ・ラグロ氏と、2021年にパリ郊外の公立音楽院に日本伝統室内楽のクラスを開設しました。これはフランスの教育機関、行政機関に日本伝統音楽を認めてもらう第一歩です。現在は国立音楽院に専門クラスがあるジャズも、50年前には音楽院で習うような音楽ではなかったのですから。

音楽院でのクラス開設にあたり、全国邦楽器組合連合会から、6面の箏、箏爪や弦などの付属品を寄附していただきました。フランスまでの輸送は日本航空のご協力を得ました。このプロジェクトに賛同してくださった方々に、心から御礼申し上げる次第です。


4.これからやりたいこと

箏の教師として今後やらなければならないことは、物品のスムーズな提供でしょう。ひとつの楽器を習得するためには、楽器、周辺機材、楽譜が必要なときに手に入る状況を作らなければなりません。例をあげれば、箏の弦です。弦楽器は、演奏すればするほど弦が消耗し、いずれ切れてしまいます。新たに弦が入手できなければ演奏できなくなるのです。物品の問題については、私個人では解決しきれない課題になるのかもしれません。

(2022年8月13日公開)

「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#海外活動

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