活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

尺八が教えてくれた可能性と楽しさ

(2022年08月17日公開)

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

尺八演奏家 和歌山県橋本市 辻本好美さん
演奏風景
演奏風景

■活動タイトル:尺八が教えてくれた可能性と楽しさ

目次

■日時:2007年~現在
■場所:東京と故郷の和歌山を中心に活動。海外公演は24カ国33都市、53回を数える。
■対象:一般

■活動内容

1.尺八を始めたきっかけ

「尺八を始めたきっかけは何ですか?」という質問をよく投げかけられますが、それは両親のおかげです。母は箏、父は尺八をこよなく愛する家庭環境の中で育ちました。幼少の頃から箏と尺八の音色に恵まれ、それが当たり前の生活でした。特に小さい頃は父に遊んでもらいたいがために練習の邪魔をしにいって、穴を塞いだり、吹く真似をしていたのを覚えています。

そのおかげか尺八の音を鳴らすのには苦労せず、「尺八を吹く」という事に関して自然と身に付いていました。とは言え、その頃は尺八に興味を持っていたわけではなかったので特に練習をするでもなく、家にある尺八をたまに触る程度でした。しかし、高校生になりこの生活に転機が訪れました。入学した地元和歌山県の橋本高校には邦楽部があり、ここに入部をした事によって、部活動を通して尺八を毎日吹くようになります。県大会に向けて仲間と共に練習に励む時間は楽しく、その枠を超えて、同級生たちとコンサートをしたのは良い思い出です。

その後大学進学を考えるにあたり、何か人と違うことをしたいという想いのもと、日本の伝統楽器である尺八を本格的に追及してみたら面白い展開が待っているかもしれないと感じました。東京藝術大学音楽学部邦楽科へ進学し、尺八演奏家の道を志しました。尺八は驚くほど豊かな表現ができ、魅力と可能性に満ち溢れている素晴らしい楽器です。この時の選択のおかげで今なおその道を歩めている事に感謝しています。

2.具体的な活動

(1)大学在学中

最初に覚えているのは、大学在学中の2008年にアッシジ日本文化祭に招待演奏としてイタリアへ行った時のことです。まだ右も左も分からない中、尺八一本で演奏してきたわけです。日本と全く違う風土と文化の中で尺八を演奏し、それを現地の人々が真剣な眼差しと共に耳を傾けてくれている姿は、私にとって全てが新鮮で刺激的であり、尺八の可能性と楽しさを体感しました。そして日本の文化を伝えられる立場にいることを強く実感する機会にもなりました。

次に大学4年の時に先輩に誘っていただいた和楽器ユニット「結」の活動です。今は解散してしまいましたが、この活動が無ければ今の私に繋がっていないと思います。このユニットは箏・津軽三味線・尺八の3人組で、メンバーの中にはメジャーデビュー経験がある先輩もおり、さまざまな事を学ばせていただきました。ピアノをはじめ、洋楽器とのコラボや、ポップスをメインとした古典だけではない他ジャンルの音楽との楽しさを教えてもらいました。またオリジナル曲作成に初めて挑戦したのもこのユニット時代です。

(2)中米にて

次の転機となるのは、2014年に尊敬する先輩にお誘いいただいた中米(エルサルバドル・キューバ・パナマ)ツアー公演でした。このツアーで和楽器の枠に囚われない無限の可能性を知ると共に、キューバでは現地の素晴らしいバンドとのセッションの中、言葉を超えた音楽の素晴らしさを身を持って経験しました。

(3)“Bamboo Flute Orchestra”

2016年にはソロプロジェクト“Bamboo Flute Orchestra”として『SHAKUHACHI』をリリース、メジャーデビューをしました。このきっかけとなったのは Michael Jackson の『Smooth Criminal』をNHK WORLDの『Blends』という番組内でカバーした動画です。世界中でシェアされ、その反響によりデビューに至りました。

故郷和歌山での活動にも力を入れており、2017年からは毎年コンサートを開催し、文化芸術の促進や、尺八の普及に努めております。

3.共演者、聴衆者の反応

(1)共演者の反応

音楽には言葉が要らないと言いますが、言語だけでなく、どの方も音楽のジャンルを越えて尺八との共演を楽しんでくれているように感じます。

初めてこの楽器と共演する演奏家達は、想像以上の自由度の高さや、多彩な音色の魅力を感じてくれる方が多いです。クラシックやポップスなどの西洋音楽は基本的にメロディー、リズム、ハーモニーの三つの要素で構成されていますが、尺八の古典本曲(古くから伝わる尺八の曲で、その楽器のために作られた曲)はそれとは違う無拍節の独自の音楽です。それが故に尺八本来のありのままの良さに感動される方が多いです。

(2)日本と海外の聴衆の反応の違い

最も印象的なのは、尺八の古典本曲を日本で演奏した時と海外で演奏した時の聴衆の反応の違いです。日本では演奏終わりの最後の音が消えたタイミングを伺いながら拍手します。それに対し海外では、「ブラボー!」などの歓声と共にスタンディングオベーションが起こることもしばしばです。

これは日本では考えられない現象です。この違いがなぜ起こるのか、正解は分かりませんが、自分の感情や意見を率直に表現してきた海外の反応と、相手や周りの雰囲気を伺いながらコミュニケーションを図ってきた民族性の違いなのではないかと私は感じています。どちらが良い悪いという話では無く、培われてきた環境で全く違うこの反応がいつもとても興味深いです。


4.課題と抱負

今後の課題としては、尺八の可能性をより拡げるために、どの様な事にも挑戦し続け、それに伴って尺八の認知度をあげる事です。一般的には「尺八のコンサート」と聞くと、どうしても古臭いイメージが強いらしく、それが会場への足を遠のかせていると感じています。それを払拭するためにも常に挑戦し、進化していきたいです。

私のコンサートに初めて来て下さったお客様からの嬉しい声として、「尺八のコンサートって聞いて面白くなさそうと思っていたけど、すごく楽しかった。来て良かった。」と感想を頂いています。そう思ってもらえる人を1人でも増やすことが大きな課題です。

いつも願っている事は、尺八という楽器が特別な存在ではなく、身近な存在になる事です。日常生活の中で、尺八の音が自然に耳に入ってきたり、誰もが一度は楽器に触れることができる世界になって欲しいです。そして、日本の文化は、海外から逆輸入という形で注目されることも良くありますが、日本という国で育まれた邦楽の魅力と楽器の音色を、日本から更に発信していきたいです。

●Yoshimi Tsujimoto ウェブサイト
http://www.443tsujimoto.com




「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#コラボレーション
#海外活動

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