活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

私が考えるこれからの音楽の在るべき姿 〜西洋楽器 × 邦楽器〜

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

洗足学園音楽大学 ヴァイオリン専攻
神奈川県横須賀市 三谷月菜さん
私が考えるこれからの音楽の在るべき姿 〜西洋楽器 × 邦楽器〜
私が考えるこれからの音楽の在るべき姿 〜西洋楽器 × 邦楽器〜

■私が考えるこれからの音楽の在るべき姿 〜西洋楽器 × 邦楽器〜

目次

■日時:2020年
■場所:洗足学園音楽大学、高津老人福祉・地域交流センター
■対象:大学生、高齢者ほか

■活動内容

1.箏奏者との協演きっかけ

5歳の頃からクラシック音楽の世界で育ってきた私にとって邦楽の世界はとても未知なものでした。邦楽には興味があったものの、ヨーロッパで発祥したクラシック音楽と日本の邦楽では歴史的背景と音楽様式等が大きく違い、また日常触れる機会が有りませんでした。2020年に洗足学園音楽大学に入学し、同学年の邦楽コース箏専攻の方と演奏会実習という授業で一緒になり、箏のかたより「一緒に演奏しませんか」とお誘いを受けたのが最初のきっかけです。初めて勉強する素敵な機会だと思い、快く引き受け協演をいたしました。


2.協演に対する要望とは

尺八と箏の原曲の「尺八」のパートを「ヴァイオリン」で演奏するとの事でした。ヴァイオリンとして弾くのではなく、尺八として奏でるのかと思った時、「どう弾いたら良いのか?」、「どのような音を出せばいいのだろう?」と考えながら練習しました。

ヴァイオリンは弦を弓で弾いて音を出す弦楽器に対し、尺八は息を吹いて音を出すリード楽器でそれぞれの音の出方と奏法が違います。音の質感や聴こえ方が違うところに着眼をし、ヴァイオリンの特徴であるきらびやかな音と尺八の特徴である息で扱う渋みや少し掠れたような音のバランスを考えました。その結果自分の中での「ヴァイオリンの表現の可能性」を広げている気がして奏でるのが一層楽しく感じました。私が師事している先生は、この西洋楽器と邦楽器のコラボレーションについて応援してくださり、筝とヴァイオリンだけでなくさまざまな楽器と合わせて多くの可能性を広げ、私の音楽性をより深いものにして欲しいとアドバイスを受けました。


3.協演してみて

演奏会実習授業の学内で行われたコンサートで吉崎克彦さん作曲の『クレッセント』という曲を協演しました。最初に留意したことは、尺八の世界観を保ちながら、そこにヴァイオリンの音色をどのように調和させるかでした。

実際に合わせをしてみると、自分が想像していたもの以上に普段聴く機会が無い楽器の音との融合はとてもインパクトがあったのを覚えています。このインパクトは、ピアノなどといったよく聴く音ならば、どうなるかなど想像がつきますが、私は尺八や箏のような音は聞き慣れておらず、融合させたらどうなるのだろうかと私の想像力にインパクトを与えたという意味です。

普段はピアノ伴奏で演奏する事が多い中、筝とアンサンブルをすると「弦を爪ではじいて奏でる」箏は聴こえてくる音の質感や、聴こえ方など、初めて居る世界が違うとこれ程音楽の運び方も違うのかと非常に驚き勉強になりました。この経験を基に「次はこんな感じで弾いて合わせてみよう」とアイディアを出し、その楽曲に合った「音作り」を考えていきたいと思います。

4.高齢者施設での演奏

演奏会実習の授業の先生から依頼され演奏いたしました。

2021年9月15日、場所は川崎市高津区にある高津老人福祉・地域交流センターです。演奏会実習の先生から普段の演奏の様子を見ていただいており、たくさんのお褒めのお言葉をいただいて居たことからだと思います。時間は他のグループの方も参加されていたので15分ほどでした。

コンサートをするにあたっては、コロナ禍が続き過ごしにくくなってしまった毎日を、今日の演奏で少しでも皆様の気分転換になっていただき、エールを送る気持ちを心掛けました。先生と箏とヴァイオリンに何かもっと聴き応えのある楽器を入れた編成にしたいねと話した結果、下記の編成になりました。ヴァイオリン、筝、津軽三味線といった編成で、アンサンブルを考えた結果、ヴァイオリンが主旋律、筝が伴奏、津軽三味線が合いの手というように役割分担をしました。

曲目については聴衆者の年齢層からどの様な曲が喜んでくれるのか、その年代にあった曲を選曲しました。このコロナ禍今日の演奏で少しでも皆様のエールになればと思い演奏を行いました。演奏した曲は、石川さゆりさんの『天城越え』、細川たかしさんの『北酒場』、高峯秀子さんの『カンカン娘』、都はるみさんの『好きになった人』、美空ひばりさんの『お祭りマンボ』の計5曲です。ヴァイオリンは特に何もしておりませんでしたが、箏は譜面に載っているコードを、津軽三味線はその曲やヴァイオリンと箏に合うような合いの手のアレンジを考えてくれました。

演奏会終了後、お客様を出口でお見送りしていた時、皆様一人一人が「とても楽しい演奏会をありがとう」「とても勇気づけられました」など、とても嬉しいお言葉をお聞きすることができ、お客様には大変喜んでいただくことができて本当に嬉しかったです。また演奏することの楽しさをあらためて実感することができました。


5.今後の抱負

私は大学に入って素敵な仲間に出会い、新しい音楽のジャンルに触れる機会ができました。ここでは自分の楽器の固定概念に縛られてはならない、ということを学びました。ヴァイオリンはメロディーラインを務めることが多く、とてもきらびやかな印象を与える楽器だと私は考えます。そこはヴァイオリンの特徴とも言えます。しかしヴァイオリンは綺麗な音だけで終わらないのです。奏法次第では、男の人のような野太い音から動物の鳴き声のような音、今回のように尺八のようなもっと可能な音を作り出すことができる表現の幅が非常に広い楽器です。

演奏の際に考えさせられたのは、自分の可能性はただ弾くだけで終わりではないことです。頭の中で「この楽器と合わせるのはどうも難しいだろう」と考えていても、とりあえず分からなくてもいいから自分なりにアイディアを練り相手と話し合いアンサンブルしてみる。これをまず行動にするだけでも未来は変わると思います。そのアイディアが自分の思っていた「まさかの」ジャンルと上手く融合ができたりするのだと思います。

「奏でる」というのは楽器の特徴である音を超えて、自分が作りたい音楽の形に精一杯近づけることだと思います。そこに自分の想いや考えたことを表現することで初めてお客様の心に届けることができるのではないでしょうか。考えが1つ出るだけで、今在る音楽の形はどんどん進化して、今の私たちが想像できない程に音楽は人の心に寄り添い、力を与えてくれる存在になります。ヴァイオリン奏者に限らず、音楽に携わる者すべてに無限大の「可能性」が秘められています。

これからの時代は音楽ジャンルの垣根を越え、相互の音楽ジャンルを理解、挑戦し新しい響きを作り出すことが1番大切だと思います。これからも未来の音楽のために、自分が在りたい音楽の形のために、精一杯頑張りたいと思います。

(2022年10月25日公開)


「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
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