活動事例

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

箏奏者、作曲家
熊本県 松下知代さん
箏に魅せられて
箏に魅せられて

■活動タイトル:箏に魅せられて

目次

■活動開始年:1997年〜現在
■場所:国内外のコンサートホール、学校、イベント会場、ホテル、式典etc

■活動内容

1.活動を始めたきっかけ

3歳から三上澄則先生にお箏を習い始めました。母親が好きだった影響です。音大在学中に箏奏者沢井忠夫(*1)先生の生演奏に出会い、私も人に感動を与える事ができる演奏家になりたいと思ったのが最初のきっかけです。

その後大学で優秀な友と出会い、一緒にプロを目指そうと背中を押されてNHK育成会(NHKがプロ養成する機関)と日本音楽集団(プロの和楽器奏者で構成されたオーケストラ団体)を受験し入団しました。1994年そこで出会った同世代の仲間とアンサンブルグループ「花ごろも」を結成、東京でNHKオーディションやさまざまなイベントで演奏活動を開始しました。

*1)沢井忠夫:生田流の箏演奏家沢井忠夫氏が古典の曲を掘り下げるだけでなく、音楽ジャンルにとらわれない新しい邦楽作品を生み出した。


2.活動の変遷

(1)邦楽器と洋楽器の融合

結婚を機に熊本に活動拠点を移しましたが、最初に悩んだのは刺激を受ける音楽仲間がいないという現実でした。東京でも演奏家のプロを目指すのも並大抵ではなく大変ですが、東京で活動をしていた頃は周りに恵まれ先輩や目指す同世代、演奏家を身近に感じる環境が整い学ぶ事ができました。やはり東京は一流の文化の宝庫と感じました。

地方は東京と正反対の環境、邦楽仲間も演奏する場もない環境の中、少しずつの出会いときっかけからソプラノ歌手佐野真奈美氏と作曲家・ピアニスト吉岡菜月氏と出会い、約10年間演奏活動を共にしました。

邦楽器と洋楽器の違いはありますが同じ感覚の仲間、他ジャンルの音楽から新しいアンサンブルを生み出す経験やアレンジ、作曲、ステージマナー、MCの流れ、舞台人としての魅せ方などさまざまな事を学び経験したことは、その後の演奏活動に役に立っています。




(2)箏模様(こともよう)

また演奏活動と一緒に指導者としてもお箏教室も始め後進の育成も手掛けました。それまで主流の合奏ではなく一人で演奏するスタイルを基本に独奏を中心にコンサートをプロデュースし、2003年「箏模様」(こともよう)を主宰。

コンサートシリーズを24歳に東京でスタートし、以降毎年3年連続開催、2002年熊本に場所を移し第4回リサイタル開催しました。その後ブランクがありましたが2017年に再開し、第5回を東京で、第6回を福山市で、2018年7回目を熊本で、現在12回を重ねる事ができました。



熊本に移り住んだ年は演奏の仕事はないのでI年間小学校の音楽教論を勤めしながら日本音楽集団の団員として公演に参加し、土日のお休みは県外のリハーサルや本番に全国を飛び回っていました。

(3)二十五絃箏との出会い

育児に忙しい時期、NHK技能者育成会の最後の終了記念演奏会をTVで観ていた時に初めて二十五絃箏第一人者野坂操寿先生の独奏で伊福部昭(*2)作曲の『琵琶行』に出会い「死ぬまでにこの曲は演奏したい」と強く感銘を受けました。

丁度その頃、東京で日本音楽集団研修生時期に出会った音楽仲間の友人北川詩子さんが脳腫瘍を発症、東京で手術を受け後遺症で視力を失いさまざまな障害を抱えてリハビリを経て熊本に帰郷された際再会し、彼女の音楽活動のサポートを始めました。

彼女は10年間病に伏せって、34歳で天国に旅立ちました。亡くなるまで一緒に過ごした友人の死をきっかけに彼女の生きた証を残したく、彼女の作曲や編曲した作品を書籍化し、大日本家庭音楽から出版したり、CDアルバム「心箏I、II」2枚リリース。(現在邦楽ショップHOWより発売中。自分の作品と共に北川詩子さんの作品も収録。)

友人が亡くなった時期に、たまたま熊本で二十五絃箏奏者中井智弥氏のライブに行き、再び二十五絃の生演奏に出会いました。彼の作品の中『花のように』に感動、これは北川さんが出会わせてくれた気がして二十五絃箏を購入し、この曲を中井氏に師事する事になりました。その後、夢だった『琵琶行』の作品を約3年かけてマスターする事ができました。

また野坂操寿先生にお電話をして『琵琶行』のレッスン指導をお願いし一生の宝物の経験となりました。そしてこの曲を使って全国箏曲コンクールに挑戦し2014年 第21回くるめ全国箏曲コンクール賢順賞 (第一位)受賞し、これをきっかけに演奏依頼が増え、TV出演をはじめイベントや海外公演など多忙な日々を4年過ごしました。

*2)伊福部昭:1914年釧路市出身の作曲家。独学で作曲を勉強し、民族主義を基本とした作風で、現地のアイヌと接した経験から生まれた『シンフォニア・タプカーラ』や『日本狂詩曲』があるが一般的には映画音楽『ゴジラ』が有名。


(4)新しい作品の普及と海外オーケストラとの共演

グランプリ受賞後も自分のクオリティーや技術を保つため挑戦してきたのが「全国邦楽コンクール」で、8年間連続本選出場し数々の賞を受賞しました。

ここでは新しい作品を世の中に沢山生み出してきた野坂先生のように新しい作品を普及する目的で、委嘱(*3)作品を6年間コンクールの場で紹介してきました。これはひとつの作品を納得いくまで完成させ表現したいと思いと具体的に目標を持ち努力をする私自身の性格もあいまったのだろうと思います。下記がコンサートの一例です。

*3)委嘱:委嘱とは作曲家に新しい作品を依頼する事。それを初めて公開の場で演奏することを初演という。

  • 二十五弦箏独奏
    吉岡菜月作曲 委嘱初演『トッカータからサラバンドへ 』
  • 2018年ふくやま国際音楽祭
    釜山オーケストラとソリストとして箏を共演。福島頼秀編曲『道〜春の海より〜』
  • 2019年ふくやま国際音楽祭
    ハンガリージュール交響楽団と共演
    平野義久作曲『FUKUYAMA FANTASIA』を箏ソリストとして演奏。
  • 2022年第5回ふるさとの宝を! 熊本ラスカーラ管弦楽団と共演
    吉岡菜月作曲『二十五絃箏とオーケストラのための小さな蝶のロンド』委嘱初演。


3.今後へ向かって

現在人生の第二ステージの時期を迎えています。今後も家庭と演奏を両立しながらその瞬間にできる事を努力し積み重ねていきたいと思っています。

これから「自分が演奏家としての目標は何か? 」と自問自答すると、箏の独奏や二十五絃、箏のアンサンブルの作品を作曲する事に行きつきました。今ではSNSの発展と共に地方や個人、または海外から文化が身近に発信できる時代になりました。

作品作りのみならず、コンサートプロデュースや一箏を奏でている仲間、成長した生徒たちと一緒に、海外へ向けて日本の伝統音楽、お箏の美しい演奏を紹介し新しい可能性を発信して行きます。そのためには出会いを大切にして活動して行く所存です。

(2022年12月21日公開)


「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」

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