活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

アメリカ、オレゴン州の箏・コミュニティの未来へ向かって

(2023年02月06日公開)

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

沢井箏曲院 箏演奏家 アメリカ合衆国 オレゴン州在住 太宰満木さん
太宰満木さん
太宰満木さん

■活動タイトル:アメリカ、オレゴン州の箏・コミュニティの未来へ向かって

目次

■日時:2002年から現在まで
■活動場所:アメリカ合衆国オレゴン州を中心にワシントン州、アイダホ州など
■対象:オレゴン州在住のアメリカ人、日系アメリカ人、日本人

■活動内容

1.アメリカでの活動のきっかけ

結婚を機に、当時夫が引っ越し先として選んだアメリカ合衆国オレゴン州(*)に2002年から住み始めました。慣れないアメリカ生活のスタートに伴い、自信を失いそうになりましたが、いろいろな意味でお箏に救われました。

この楽器を通じて演奏の機会や、芸術家や関係者との共演、またレッスンの場所を提供してくださる方と団体など、多くの協力者に出会えたことで目の前に道がどんどん開け、日本人として異国の地で胸を張って頑張る事ができました。また私の拙い演奏がきっかけとなって、この楽器に興味を持つ人が増えていったことも嬉しいことでした。

*)アメリカ合衆国オレゴン州:アメリカ西海岸の北西部に位置しており、南はカリフォルニア州に接する。州都はセイラムで人口最多の都市はポートランド。


2.具体的な活動

(1)箏の活動を始めるにあたって

当初は何をどう始めてよいか暗中模索の状態でした。まず一番大切な「音」を磨くため、練習に明け暮れる日々を送りました。

次にデモ・テープと企画書を作って、この楽器を楽しんでいただけそうな場所(日本食レストラン、図書館やコーヒーショップなど)に持って行ったり、春から秋にかけて開催されるさまざまなフェスティバルの事務所に送り、お箏を弾かせていただける場所にはどこにでも出かけました。

そのうち演奏の依頼を受けるようになり、オレゴン州だけでなく、ワシントン州、カリフォルニア州、アイダホ州で演奏の機会を得ました。特に各地の大学や日本総領事館(現在は日本総領事事務所)、日米協会には大変お世話になりました。お箏の美しい音色はどこでも喜ばれ反響も大きく、演奏が終わるとたくさんの人たちに取り囲まれることも珍しくありませんでした。

それまでお箏を見たことも聴いたこともない人たちは、楽器や楽譜について多くの質問を投げかけて来られました。その好奇心の旺盛さに当初は圧倒されましたが、この経験から自分自身が演奏だけでなく、楽器についての知識を深める努力も必要だということを学ばせていただきました。

実際いくつかの大学で音楽や日本文化を学ぶ学生を対象にした講義の依頼も入るようになり、ますますこの楽器について研究できたことは自分にとって大きなプラスとなっています。

ポートランド市には世界に誇る日本庭園(Portland Japanese Garden)があります。

日本庭園(Portland Japanese Garden)


2017年同園内に「Cultural Village」がオープンして以来、文化活動の一環として毎月私は独奏で、オレゴン箏会は合奏の形で演奏をしております。定期的に演奏の機会があるという恵まれた環境が、私やアンサンブルメンバーを成長させてくれました。

(2)「Mitsuki’s koto class」スタート

日本に住んでいる時は箏仲間がいて毎年コンサートを企画し、さまざまな合奏曲を演奏するのが楽しみでしたが、こちらに移住した途端、周りに箏を弾く人はおらず一人ぼっちになりました。

最初は途方に暮れましたが、自然に囲まれた田舎の我が家で独奏曲を学び直したり、レパートリーを広げることに集中でき、とても恵まれた環境にありました。演奏の場も少しずつ増え、私の演奏をきっかけにお箏を学びたいという人が1人また1人と現れ、「Mitsuki’s koto class」をスタートさせることができました。

生徒がお箏を始める理由はさまざまです。アメリカに暮らす日本人の中には、子どもの頃に日本でお箏を習っていた人もいれば、日本人として自分が生まれた国の文化の何かを身に付けたいと思って始める人もいます。アメリカで生まれ育った人のうち、日系アメリカ人の多くは自分の家族のルーツを辿る中で、お箏に行きあたったようです。

そのほかのアメリカ人は日本文化への憧れや、お箏の音楽やその音色に惹かれて始める人などそれぞれです。2020年にコロナウィルスが世界中に広がり、自宅で過ごす期間にインターネットでお箏と出会い、オンラインでレッスンをスタートした人もいます。

(3)オレゴン箏会結成

レッスンスタートから数年後、アンサンブルの醍醐味を共有したいという気持ちが芽生え、2012年に箏アンサンブル・グループ「オレゴン箏会」を生徒と共に結成しました。初めてのコンサートは「おさらい会」のような内容でしたが、地道に練習を重ね、各地で開かれるフェスティバルや文化的なイベントなどに招かれたり、定期演奏会を開催するまでに成長することができました。


コロナウィルスによるパンデミック期間中もリモートで曲を仕上げたり、オンライン・コンサートを企画してメンバー相互でモチベーションを保ち、前進し続けられたことは大変誇りに感じています。

「戦場のメリークリスマス」(坂本龍一作曲)演奏


箏という楽器は、その美しい音色と箏柱を動かすことによってさまざまな音階を作れるという利点から、ほかの楽器と交わることで、豊かな味わいを醸し出してくれます。実際アメリカで出会った音楽家は先入観なくこの楽器の良さを発見し、さまざまなジャンルに導いてくださり、またいろいろな楽器とのコラボレーションにも誘ってくださいました。もちろん演奏する側には多くの工夫が必要ですが、それは大変楽しい行程と言えます。


3.総括

現在までアメリカオレゴン州で箏の演奏活動や指導をしてきて、箏の認知度は確実に上がっていることを感じます。20年ほど指導してきた中で、生徒はだいぶ入れ替わりました。教え始めた頃は日本人、日系アメリカ人の方が多かったですが、現在はアメリカで生まれ育った生徒の数が約半数まで増えました。

またパンデミック期間に州外、国外に暮らす方達から問い合わせが入り、オンラインレッスンを始めています。自宅に居ながら遠い場所に住む生徒の上達を手助けできることは大きな喜びですが、彼らが今後長い期間、生き生きとお箏と付き合っていけるために指導内容を工夫し、充実したレッスンを提供することは、私にとって大きな課題です。

テクノロジーがさらに進化し、生に近い音を聴き合えること、またリモートでも問題なく合奏ができるようになることが望まれます。



4.抱負

私が将来お箏の活動から引退しても、この美しい楽器が永遠にこの地で愛され弾き継がれていくこと、それが私の願いであり夢です。そのために生徒を指導者としての資格を持つレベルまで導き、応援することが私のライフワークだと考えています。アメリカオレゴン州で生まれた箏・コミュニティの未来を考えるとワクワクします。



5.活動の軌跡 (敬称略)

2002 独奏曲でプログラムを組み、演奏活動を開始

2007 沢井忠夫、沢井比河流、宮城道雄、Tomas Svobodaなどの作品を集めたソロアルバム”Autumn for solo koto”をリリース。

2008 菊池奈緒子(箏)、市川慎(箏)、小湊昭尚(尺八)、松尾俊介(ギター)と共にセルビア、ボスニア ヘルツェゴビナ、クロアチアツアーに参加。

2010 グラミー賞ノミネート作曲家Michael Hoppéとの共作によるCD”Far Away…Romances for Koto”をリリース

2011 ニューヨーク在住の石榑雅代(箏)、Marco Lienhard(尺八)とともにブラジルツアーに参加

2012 オレゴン州 Bag & Baggage Production による演劇「Kabuki Titus」に楽団員として参加。Tylor Neist作曲による同名のCDも発売。


・ポートランド市を拠点とする箏・アンサンブルグループ「オレゴン箏会」を結成。第1回目の演奏会を行う。以後毎年定期演奏会を開催

2014 Ballet Fantastique 主催の “Tales from the Floating World”で共演


2015 日本・中国・韓国の友情を文化で結ぶイベント”Three Nations”(日本総領事館、中国理事会、韓国総領事館主催による)第1回目の”Strings of Three Nations: a Celebration of Music from China, Japan, Korea”にソリストとして出演。


またグラミー賞受賞作曲家Ricky KejによるCD”Shanti Samsara”に参加。

2016 カナダ・トロントで開催された21C Music Festival に招待され、コンサート”Japan: Next”において望月京、藤倉大、Michael Oesterleの作品をContinuum Contemporary Music、イギリス在住のJinny Shaw (Oboe), 沖縄在住のRobin Thompson (笙)と共に演奏。

(箏は6:25より)

2019 オレゴン箏会第8年目の演奏会に日本から沢井一恵、小林甲矢人を招待。演奏会に先立ちレクチャーをポートランド州立大学で開催。


2021 ・Kenney Polson (サクソフォン)プロデュースによるCD”Colors of Brazil”レコーディングに参加。

・オレゴン箏会10周年記念コンサートをバーチャル形式で開催。



(2023年2月6日公開)


「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」

 

#コラボレーション
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