活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

インターナショナルの中でのナショナリズム

(2023年05月26日公開)

生田流 箏奏者  森川浩恵さん

テーマ写真 鎌倉鶴岡八幡宮での奉納演奏
■活動テーマ:
インターナショナルの中でのナショナリズム
■目次:
■活動開始時期:
2001~現在
■場所:
国内外(欧米、アジア、アフリカ、アルゼンチン他)
■対象:
一般
■活動内容

1.箏を始めたきっかけ

箏に接したのは邦楽一家に生まれた環境が大きいと思います。3歳で母に箏を、6歳で父に尺八を習い始めました。その頃、尺八奏者の故横山勝也先生(*1)に出会ったことが、今日までの私の演奏家としての支柱となっています。先生は哲学的なお話を含め、演奏活動をしていくための必要な思想などをたくさん授けてくださいました。現在はレゲエバンド「キウイとパパイヤ、マンゴーズ」のヴォ―カルと箏を担当して演奏活動をしています。

*1)故横山勝也先生:日本の現代作曲家 武満 徹の代表作品の一つ「オーケストラと尺八と琵琶のための「ノヴェンバーステップス」を1967年、小澤征爾指揮、ニューヨークフィルハーモニックで琵琶の鶴田錦史と初演

2.具体的な活動

(1)目的

楽器本来の良さを知っていただく機会をなるべく多く届け普及することを目的としています。箏は奈良時代からこの国に存在している楽器です。昔は嫁入り道具に持たされ、嫁入り修行の一貫でどなたでも演奏していた時代があり、私の地元でも祖父母の若い頃には街を歩けば三味線や箏の音が聴こえていたそうです。今は一般の方々は楽器を生で目にすることも耳にすることもそれほど多くありません。

この現状を打破する一つの方法として、日本の伝統楽器である箏を若い方々にも興味を持ってもらえるように、ワールドミュージック(*2)の枠で演奏しています。世界中には類似している楽器が存在します。「類似している」「違う」ということの隔たりがとても面白く、それぞれの国で誕生した楽器の特徴(楽器の構造、音色、奏法等)をお互いが尊重し合いながらコラボレーションして新しい音楽を作っていく活動をしてきました。

*2)ワールドミュージック:広義では世界の全ての音楽ジャンルを指す。ラテンアメリカのフォルクローレ、タンゴ、サンバやカリブ海の国々のサルサ、レゲエ、キューバのルンバ、ポルトガルのファド、インドネシアのガムラン、アフリカ、インド音楽がある。

人は未知のものを怖がります。時には未知のものに対して攻撃してしまうことすらあります。私は未知の物を知ることが昔から好きでした。知らないことを知ったとき、できなかったことができるようになったときの喜びを多くの人に知ってほしいと常々感じています。この活動を通じて、ごく身近なところから尊重し合える社会に繋(つな)げていければと思います。

(2)活動

A.レゲエバンド「キウイとパパイヤ、マンゴーズ」とは

元々は早稲田大学の中南米研究会出身者が中心となって始まったレゲエバンドで、かれこれ20年ほど続いています。リズムはレゲエのリズムをベースにしながら、時々はブラジルなどの地方のリズムを取り入れています。最近は数年前にツアーで訪れたアフリカに心奪われているのでガーナやモロッコなどで現地の方から学んだリズムも使うようになりました。日本の民謡の旋律と日本語による歌唱によって多国籍感を持ち味としているバンドです。

私が加入する前まではフロントの方が三味線を演奏しておられたのですが、現在の編成は、箏、歌、ドラム、ベース、ギター、ヴァイオリンです。そこに時々シタール、ザブンバ(ブラジルの太鼓)などが加わります。私の加入は7年ほど前で、前任者が脱退したタイミングでのメンバー募集を見て応募し、加入する運びになりました。

B.コンサート

スウェーデンのアーティストや、韓国、アルゼンチンのアーティストと共同生活を送りながら舞台を作るレジデンス企画にも度々参加して、それぞれの国特有の文化をお互いに尊重し合いながら国際的なステージを作り上げるという仕事にもやりがいを感じています。先日も「なんて多幸感のあるコンサートなんだ!」と絶賛していただきました。これは私が一番根底的に大切にしている「人間性重視で仕事する」という所(単に良い人という意味だけではなく)ところが映し出されているいい例だとおもっています。古典曲から民謡、現代音楽、ディスコ、ポップスなど演奏曲は特に縛りはありませんが、即興演奏が一番得意です。

JAERV(SWE)&Hirose Morikawa(JAPAN) 「花笠音頭」

Hirose Morikawa Meets the “SUKIYAKI MEETS THE WORLD”

C.指導

教育番組への出演や、パラリンピックなど国際行事での演奏にも参加させていただき、超高速で演奏するということもあり、楽器の可能性を自分なりのアレンジでお見せすることができ、これをきっかけに小さなお子さんたちが箏を始めてくださったりして、冥利に尽きる気持ちです。先生の教えもあり、哲学に加えて心理的なものに興味が繋(つな)がっていき、カウンセリングの講座を卒業しました。生徒さんのレッスン時はメンタルケアを含めて指導させていただいています。昨今の社会情勢を見ていてもとても必要なことのように実感していますし、厳しい時代を生きる中で、それぞれが思いを語ってくださり、話せてよかったと言って頂けること、表情が明るくなっている事にとてもやりがいを感じますし、様々な気持ちを抱えているからこそ楽器を通して自分自身を整えてくれる姿には、私もとても勇気づけられます。

ムジカ・ピッコリーノ 「待ちぼうけ」

3.成果と今後の抱負

ワールドミュージックやバンドでの演奏を行うことにより若い層の方に来ていただける機会も増えました。聴衆からは新しく感じると同時に「はじめて聴いたのに懐かしい」という感想をよく頂きます。この意見は私の作り上げたい音楽の方向性と同じなのでとてもうれしいです。自分で企画をするコンサートは来場してくださる方をこちらから限定しないよう古典曲、現代曲、認知されている曲を交えるようにしています。これも新しく知っていただく為です。古典を目当てに聞きに来たが、民謡や現代曲が好みだったということや、その逆のこともよくあります。そこから箏以外、私以外の音楽、ジャンルのものを聴きにいってみようかなと思ってもらえたら…と。ここ数年は未来を見据えすぎると日々の楽しさを失いそうなので、「今」を楽しむ余白ある演奏を続けていければと思います。

(2023年5月26日公開)

「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」

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