活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

歌あればこそ、山田流箏曲の可能性は限りなく

山田流 箏曲演奏家  群馬県前橋市  下野戸亜弓さん

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■活動テーマ:
歌あればこそ、山田流箏曲の可能性は限りなく
■目次:
■活動開始時期:
1993年〜現在
■場所:
群馬県と東京都を拠点に国内外でも活動
■対象:
子供から大人まで幅広い年齢層の初心者・アマチュア・学生・プロの方まで
■活動内容

1.お箏との出会い

子供の頃、小学校の教師をしながら箏の先生をしていた祖母の家に遊びに行くと、多くの子供が習いにきており楽しそうに感じました。その様子から自分もお箏が習いたいと思い、近所に在住の山田流(*1)の中林照栄先生に師事するようになりました。その後、東京藝術大学邦楽科に入学したのが演奏家への長い芸の道へとびこむきっかけでした。
*1)山田流:筝曲の二大流派の一つ。江戸時代山田検校が創設したのが山田流。もう一派は生田検校が創設の生田流。両派の相違は演奏上使用する爪の形と楽器を構える姿勢にある。山田流の偉大な演奏家は現代邦楽先駆者と呼ばれた中能島欣一(なかのしま・きんいち)。作曲家でもあった氏の「三つの断章」は代表曲の一つ。「春の海」で有名な宮城道夫は生田流。

大学受験を機に歌の名手であり現代作品にも取り組んでいた谷珠美先生との出会いは私の運命を決めた大きなターニングポイントでした。それは歌です。山田流には語り物の曲が多く伝承されていますが、先生とお会いするまでは箏歌(箏を弾(ひ)きながら歌う)を習う機会がなかったのです。「歌が歌えるというのは箏曲演奏家にとって大きな武器になる」と言われ、持ち前の声を褒めてくださったことは今でも忘れません。歌は小さな頃から独唱・長唄三味線(*2)・詩吟(*3)を習っていた経験があり、歌は抵抗がなく得意でした。後から思えばすべてはこの道に通じていたのだなと思います。子供の頃の経験が大きな糧となり、挫折は何度となくありましたが、すばらしい出会いと数えきれない貴重な経験が今の自分の礎となっています。
*2)独唱・長唄三味線:歌舞伎の音楽として取り入れられた三味線音楽。一番細い三味線で演奏される。
*3)詩吟:漢詩や和歌に旋律を付けて歌う(吟ずる)音楽。平安時代に生まれる。

2.具体的な活動

ソロ演奏と創作を主にした4つとユニット活動をご紹介いたします。

① 山田流箏曲の古典、現代を探求するリサイタルシリーズ

古典と現代の両面から自分自身の研鑽の場として2019年からスタートした山田検校の作品によるリサイタルシリーズ「下野戸亜弓箏曲リサイタルー山田検校作品連続演奏会―」と現代作品によるコンサートシリーズ「下野戸亜弓 現代箏曲の世界」があります。

A.山田検校作品連続演奏会

流祖山田検校作品の多様性とその魅力をご紹介するプログラムです。初めての方にも楽しんでいただけるよう、わかりやすい解説を入れながら工夫しています。全曲完奏までにはまだまだ時間が必要ですが、当時の江戸で一世風靡(ふうび)した山田検校の人生や各作品を紐(ひも)解く楽しさは演奏家冥利につきます。作品のすばらしさと魅力を少しでも多くの方に伝えています。

下記は是非お聴きいただきたい曲

「初音の曲」「江の島曲」「長恨歌曲」

B.現代箏曲の世界

歌を得意とする山田流の箏曲演奏家として2020年よりスタートした現代作品を紹介するコンサートシリーズです。目的は声楽面での可能性への追求と新しい歌の作品を作ることです。現代の作曲家が、自らの作品について解説したり、映像を用いた演出なども加え、新しいアートとしての現代箏曲作品の紹介を続けています。古典と現代は真逆の世界のようでいて実は私のこれまでの生き方を大きくフォーカスする活動であり大切な両輪です。

「初音曲」

「みづとり」

② 宮沢賢治から始まった創作活動

古典や現代作曲家への委嘱初演などの他に、自分自身も歌や語りの創作活動を精力的に行っています。作曲を始めるきっかけは、宮沢賢治の童話「ざしき童子のはなし」を箏弾き語りによる作品として作曲発表したことでした。目的は幼児へ邦楽による読み聞かせの作品を作りたいという思いでした。以来、賢治作品への取り組みはライフワークとなっています。子供から大人まで楽しめるコンサートとして「邦楽・夢コンサート」を企画開催しています。これまでに「鹿踊りのはじまり」「水仙月の四日」「よだかの星」「かしわばやしの夜」「春と修羅」「辞世2首」などを発表してきました。現在は、賢治作品以外にも万葉集・古今和歌集・古典文学作品を題材に新しい歌曲の創作に取り組んでいます。

「ざしき童子のはなし」

「万葉の恋歌」

③ 舞台音楽の作曲・音楽制作への参加

作曲活動をする中で、最近では朗読劇・舞台演劇・新派・日本舞踊公演などの他ジャンルとの音楽制作にも携わることが多くなりました。最近の公演としては、劇団メメントC(劇作家嶽本あゆ美を中心に2008年結成された演劇ユニット)の「女人往生環」や新派「糸桜」(波乃久里子主演・新派の子主催)、日本舞踊新作公演未来座=最(SAI)=「舞姫」(日本舞踊協会主催)では作曲と演奏・歌を担当させていただきました。新しい分野の方との出会いや固定概念に捕らわれないものの見方など、多くを学び刺激を受け独自の創作活動を広げていけることは非常にワクワクします。

④ 楽譜・CD制作・映像制作

コンサートなどのライブ活動の他、自分の作品・演奏をより多くの方に知っていただくため、楽譜出版やCD制作・コンサート映像のYouTubeによる配信なども行っています。創作し生み出すことは子供を産むことと一緒で、その子を育てそして作品をして成長させるためには、多くの方に知ってもらうことが一番です。自分の足跡として、次の時代にも愛される作品を一つでも多く残していきたいです。

楽譜:「ざしき童子のはなし」、「方十里・いたつきのー辞世二首よりー」、「万葉の恋歌―箏歌<Koto Uta>をうたう」(マザーアース)、「春と修羅」「春に寄せて〜古今和歌集より〜」ほか

CD:「万葉の恋歌」「下野戸亜弓現代箏曲の世界」「下野戸亜弓箏曲リサイタル2005―ライブ収録」「鹿踊りのはじまり」ほか

⑤ ユニット活動

A.「紫(ゆかり)の会」

日本文学博士で群馬大学名誉教授の藤本宗利先生と朗読家の山口てる代さんと箏曲演奏家の私、3人によるユニット「紫(ゆかり)の会」です。毎回テーマを決めて源氏物語を楽しいお話と朗読に、創作歌曲まで深く掘り下げるレクチャーコンサートを開催しています。

B.「邦楽ちーむD」

女流義太夫三味線方で・太棹三味線(*4)の鶴澤津賀寿さん、大和楽(*5)家元でもある、で中棹三味線の大和櫻笙さん、囃子方で鳴物(小鼓、大鼓、太鼓)の藤舎千穂さん、同じく笛方の鳳声千晴さん、そして箏曲の私というジャンルの異なる5人の邦楽家によるユニット「邦楽ちーむD」です。
*4)太棹三味線:義太夫は江戸時代、大阪の竹本義太夫が創始した浄瑠璃の一種。人形浄瑠璃の音楽として太棹三味線で演奏される。
*5)大和楽:昭和初期、三味線音楽に西洋音楽の要素と演奏法を取り入れた新邦楽。

ディズニー好きの5人ならではのプログラムとアレンジで、ふだんは演奏しないような楽曲にも挑戦しながらライブ活動、YouTube配信をしています。

3.地元群馬の邦楽発展、次世代育成のために

演奏活動の多くは東京を中心に行っていますが、指導者としては生活拠点である群馬県にあります。前橋と高崎での活動は、主宰する「下野戸亜弓箏の会」、そして副会長を務めるNPO法人三曲合奏研究グループによる邦楽普及と文化振興が主です。特に子供への体験教室や、学校公演、鑑賞教室の開催に力を入れています。しかし教育現場での予算不足の影響で、和楽器体験や邦楽鑑賞会などの機会が減少傾向です。この現状の打開策を考え、新しい企画を練り群馬に邦楽教育が定着するように今後も尽力していきたいと思っています。

4.夢は海外へ向けて

演奏家としての夢は日本にとどまらず、海外へも向かっています。現在、箏の認知度がほぼゼロに近いデンマークにおいて、邦楽普及委員会を立ち上げコンサートとワークショップによる普及活動を進めています。日本の文化である箏曲の今を多くの方に知っていただくためには、現地へ出向き、楽器に直接触れてもらい、その音色の美しさを聴いてもらうことが一番です。

この春には4年ぶりにデンマークツアーを再開することができました。4月20日より10日間滞在し、7か所でコンサートとワークショップを開催しました。子供から中学生・大学生・一般社会人の方まで幅広い世代の方に楽器体験していただき、また古典から現代作品に至るまでバラエテイに富んだプログラムによるコンサートを楽しんでいただきました。海外でも箏の音がいろいろなところで聴こえてくる日を夢見て、この活動を今後も継続していきたいと思っています。

コロナ禍では海外向けの映像を制作し、YouTubeにて配信しております。

5.課題と抱負

現在に至るまで様々なシーンで演奏家として活動してきて思うことがあります。それは日本に住み、日本人でありながら和楽器の箏を見たことがない、弾(ひ)いたことがないという悲しい現実があります。まず、きっかけとして演奏家としていろいろなところに出向き、間近に楽器を見てもらい、音色を聴く機会を作ることが大切です。もう一つはコンサートと集客です。いかにして魅力のある内容にするか、リピーターを増やすしファンを掴(つか)むかが大きな課題です。

自分の中にしっかりとした信念と夢を追う熱い心と実行力があれば、きっと道は開けていくと信じています。まだまだ知らない世界も多くあります。山田流箏曲家として無二の存在になれるよう、異分野の方々と交流しながら世界への憧れと夢を持ってチャレンジし芸を極(きわ)め、同時に次世代の若者を育てていきたいです。

(2023年8月28日公開)

「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」

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