地域音楽コーディネーター NPO法人こどもゆめひろば代表 吹奏楽部指導者 京都府 中川晋一さん

- ■活動テーマ:
- 中学生地域バンド『なら夢鹿BRASS(ならムジカブラス)』
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 2025年1月~現在
- ■場所:
- 奈良市立登美ヶ丘北中学校、ならやま中学校内の施設
- ■対象:
- 小学生・中学生・高校生
- ■活動内容
1.きっかけ
(1)吹奏楽との出会い
私は中学1年生のとき、何げなく入った吹奏楽部で初めて本格的に楽器(トロンボーン)に触れました。初めて音が鳴ったときの喜び、合奏で響き合う楽しさ、仲間と同じ曲を作り上げていく感動。そこから私の人生は大きく変わっていきました。その後、音楽大学に進学し演奏活動やコンサートの企画、さらには吹奏楽団の立ち上げなど、音楽を中心に多くの人と関わる人生を歩んできました。私にとって音楽は、単なる趣味や特技ではなく「人生を形作る大切な柱」となったのです。
(2)部活動の地域移行
2023年から奈良市立登美ヶ丘北中学校吹奏楽部の部活動指導員(*1)を務めています。外部の音楽家として関わることで、学校の先生とは異なる視点で子どもたちをサポートでき、活動は大いに盛り上がりました。出席率も高く、練習に熱心に取り組む姿勢も見られ、「音楽が好き」という気持ちを子どもたちから強く感じました。
近年、学校現場では文化庁・スポーツ庁のガイドラインに基づき、教員の働き方改革が進み、部活動の地域移行が制度として推し進められています。奈良市では、2026年度から休日の部活動が廃止され、2027年度からは平日も廃止される予定です。つまり、学校から「部活動」というものが完全に姿を消すことになります。この変化は、子どもたちの生活や保護者に大きな影響を及ぼします。これまで放課後や休日に仲間とともに練習してきた吹奏楽部の活動が突然なくなる。音楽を続けたいと思っても、その「場」が存在しなくなる。そうなれば、多くの子どもたちが音楽から離れてしまうかもしれません。
(3)「NPO法人こどもゆめひろば」と中学生地域バンド「なら夢鹿BRASS」設立
数年後にはその活動がなくなるとの現実を突きつけられたとき、私は強い危機感を覚えました。教育委員会に相談したところ、吹奏楽をはじめとする文化部の地域移行については、まだ明確な計画が立っていないことが分かりました。「それならば、自分たちでつくるしかない」と考え、ふだんから一緒に活動している音楽仲間と力を合わせ、「NPO法人こどもゆめひろば」を立ち上げ「部活動の地域連携コーディネーター」として他地域の支援にも乗り出しました。その主な活動をご紹介いたします。
2.具体的な内容
(1)「NPO法人こどもゆめひろば」
①使命
学生時代の経験は、その後の人生を方向づける大きな力を持っています。部活動を通じて初めて音楽やスポーツに触れ、その経験が大人になってからも人生を支えることは少なくありません。私たちは「子どもたちに安心して打ち込める場を提供すること」を使命としています。
②事業内容
- 地域移行吹奏楽団のマネージメント
- 指導員登録・派遣
- 地域イベント企画・運営
上記の中で特に子どもたちが持続的に活動できる仕組みを整えています。
- 学校の部活動に代わる場の提供
- 安全な施設の確保
- 適切な指導者やチューターの育成
- 広報活動
- 資金管理

(2)中学生地域バンド『なら夢鹿BRASS』
①目的
子どもたちがこれからも安心して音楽に触れられるように、中学生地域バンド「なら夢鹿BRASS(ならムジカブラス)」を2025年設立しました。このバンドの愛称名は一般公募で決まりました。奈良で有名な鹿と夢を組み合わせ「夢鹿」、読み方のムジカはMUSICAというイタリア語の音楽という意味です。
②活動拠点・練習・参加費
奈良市の登美ヶ丘北中学校・ならやま中学校の2校で活動しておりますが、ならやま中学校は既に部活動を廃止しており、2年後には登美ヶ丘北中学校が廃止予定です。練習は月4回程度、土日の午前又は午後、更に平日の夕方に実施しています。参加費は本年度、無料です。


③メンバー
居住地域は問わず、中学生を中心に小学生や高校生も加わり、学年や学校を超えた交流が生まれています。参加する子どもたちは多様です。
- 吹奏楽部に所属している子
- 部活では楽器をやっていなかったけれど興味を持った子
- 兄弟をきっかけに来た小学生、卒業後も音楽を続けたい高校生。
様々な背景を持つ子どもたちが同じ曲を練習し、一緒に音楽を作り上げています。コンサートでは、違う学校の生徒が協力して司会を務めるなど、音楽以外の場面でも交流と成長が見られます。
④指導者とチューター
指導には指導者とチューターという二つの役割を設けています。
【指導者】音楽的な指導や合奏の指揮を担う
【チューター】子どもの隣で一緒に演奏しながらサポートする
子どもと同じ目線で演奏を支えるチューターの存在は、安心感を与えるだけでなく、演奏技術の向上にもつながっています。また、子どもたちが安心して活動できるよう、指導者・チューターには「認定講習」と「検定制度」を設けています。理念の共有に加え、ハラスメント防止や事故対応についても学び、安全な環境づくりに努めています。
⑤活動内容
日々の練習の成果を発揮するためには、子どもたちにとって「発表の場」が欠かせません。人前で演奏する経験は練習へのモチベーションを高め、大勢の観客の前で披露した達成感は、次の活動へ挑戦する原動力となります。
【2025年1月19日(日)能登半島応援チャリティコンサート開催】
【同年6月15日(日)こどもゆめまつり開催】

いずれのイベントでも、中学生地域バンド「なら夢鹿BRASS」の演奏に加え、吹奏楽団モンヴェールクレールの演奏や、地元ダンススクールの子どもたちの発表も行われ、会場全体が大いに盛り上がりました。さらに、観客動員と運営費の確保を目的として、会場内ではマルシェを同時開催しました。来場者は音楽を楽しむだけでなく買物や食事も楽しめ、出店者からの出店料によってコンサートの運営費を賄うことができました。持続可能な形で、イベントを開催するという新しい試みとなり、多くの方に好評を頂きました。
【同年5月11日(日)】「ブラスエキスポ2025 大阪・関西万博」に参加
「なら夢鹿BRASS」と「モンヴェールクレール」合わせて総勢110人が早朝にバスで現地に向かい、ギネス世界記録への挑戦とステージ演奏を行いました。大舞台での経験は子どもたちに大きな自信を与え、その後の活動にも確実にプラスとなりました。演奏後には万博会場を見学し、一日を通して音楽とともに特別な体験を共有することができました。


(3)吹奏楽団モンヴェールクレール
この楽団は中心となる代表が、地元でさまざまな分野で活躍されている方々で音楽を一生の友として楽しみたいという同じ理念を共有する仲間と共に「吹奏楽団モンヴェールクレール」を2022年に結成しました。モンヴェールクレールとはフランス語で若草山という意味です。吹奏楽コンクールへの出場や各種演奏会の開催など、地域に根差した活動を展開しています。

子どもたちが演奏するために必要な打楽器類は、この吹奏楽団が所有するものを活用しています。練習場所についても、効率的に利用できるよう工夫し、例えば日曜日の午前中は子どもたちの活動、午後は大人の吹奏楽団の活動という形で、同じ日に連続して練習を行っています。また、同じイベントに向けて合同練習を行い、本番のステージを共に迎えることもあります。そのような取り組みを通じて、子どもと大人のつながりは一層深まっています。
「なら夢鹿BRASS」の子どもたちの中には、「将来はモンヴェールクレールに入りたい」と話すメンバーも少なくありません。地域の中で、子どもから大人までが一貫して音楽を楽しみ続けられる環境が整っていることは大きな強みであり、この活動の魅力の一つとなっています。
3.部活動の地域連携コーディネーターとしての活動
今年度から、日本各地で部活動を廃止する学校や自治体が現れ始めました。そして数年以内には、多くの学校で部活動が完全に廃止される流れがほぼ確定的となっています。部活動が学校から切り離され、地域で担うことになる一方で、その「受け皿」となる団体はまだ十分に存在していないのが現状です。
そこでNPO法人こどもゆめひろばは、奈良市での取り組みを出発点として、日本各地で子どもたちが安心して活動できる場を創出するために「部活動の地域連携コーディネーター」としての役割を担い始めました。地域の実情に合わせ、行政・学校・保護者・指導者をつなぐハブとして、協力を惜しまず取り組んでいます。
(1)生駒ジュニアバンドCrescendo
奈良県生駒市では、小学生を対象としたジュニアブラス活動を開始しました。
「子どもに吹奏楽を経験させたい」という保護者の長年の願いと、「指導力に定評のある先生」を結びつけ、定期的な活動を開始しました。音楽を通じた学びの場を、地域に根付かせる第一歩となっています。


(2)京田辺市中学生合唱団
2025年9月からは、京都府京田辺市で「中学生合唱団」の活動がスタートします。大住中学校合唱部を母体とし、行政からの依頼を受けて実施する取り組みです。指導は学校の先生が担いますが、土日の運営主体は「こどもゆめひろば」が務め、練習場所として市から学校施設をお借りします。指導に当たる先生には、兼職・兼業の届出を行っていただき、学校と地域の橋渡しをしながら運営していく予定です。
(3)その他の連携
京都府や奈良県内の各自治体の教育委員会、さらには現場の先生方から、地域移行に関する相談を多数受けています。各地域の状況に合わせたアドバイスや協力を行い、全国的に広がりつつある「部活動の地域移行」を円滑に進めるための伴走者として活動しています。
4.成果
(1)中学生地域バンドの立ち上げ
私たちの取り組みの大きな成果としてまず挙げられるのは、奈良市において初めて中学生地域バンドを立ち上げたことです。これは、これまで学校の中でしか行えなかった吹奏楽活動を地域の中で継続できるモデルケースとなりました。また、異なる学校や学年を超えた子どもたちが一緒に活動し、互いに学び合いながら安心して過ごせる新しい居場所をつくることができました。
(2)指導者・練習場所の仕組みつくり
地域吹奏楽団との連携により、楽器や指導者、練習場所といった大きな課題を解決する仕組みを整えることにも成功しました。地域イベントや大阪・関西万博への出演を通しては、子どもたちの自己肯定感が大きく育まれるとともに、活動自体が地域に広く知られるようになりました。そして何より、こうした実績が他地域からの依頼につながり、「地域移行の先駆け」としての役割を果たし始めていることも、大きな成果といえます。
5.課題
今後に向けて取り組むべき課題も明確になってきています。
(1)資金調達
活動を安定的に続けるための資金調達です。現在は助成金や寄附に頼る部分が大きく、長期的には自立した収益モデルを構築することが不可欠です。
(2)人材育成と確保
子どもたちを支える人材の育成と確保があります。理念を理解し、継続的に関わってくれる指導者やチューターを増やしていくことが、活動の質を高めるために必要です。さらに、参加する子どもたちは初心者から経験豊富な生徒まで幅広いため、それぞれの背景に応じて誰もが安心して活動できる環境を整える工夫が求められています。
(3)行政と学校の連携
制度として地域移行が本格化する前に行政や学校との連携をより強め、モデルケースとしての信頼を積み上げていくことも今後の大きな課題となっています。
6.抱負
今後は、中学生地域バンド「なら夢鹿BRASS」で培った経験を基盤とし、この取り組みを奈良から全国へと広げ、地域バンドの成功事例をつくっていきたいと考えています。子どもたちが音楽を一生涯の楽しみとして続けられるように、世代を超えて活動が循環する仕組みを整えることが大きな目標です。また、吹奏楽だけにとどまらず、合唱やダンスなど他の文化活動にも視野を広げ、地域の子どもたちが多様な表現活動に取り組める総合的な拠点を目指していきます。
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