活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】『杜の都に広がれ!ブラスの輪

(2024年07月17日公開)

地域音楽コーディネーター ピアニスト 部活動外部指導者 仙台市 和久佳菜さん

2019年芸術鑑賞会の様子
2019年芸術鑑賞会の様子
■活動テーマ:
『杜の都に広がれ!ブラスの輪
〜吹奏楽が大好きな子ども達のために今何ができるか〜』
■目次:
■活動開始時期:
2022年から現在
■場所:
仙台市の小学校
■対象:
小学校三年生から六年生まで
■活動内容

1.ピアノ弾きが部活動外部指導者になるまで

ピアノ演奏活動をしている私の最初の吹奏楽との関わりは、中学生時代にパーカッションを少々経験した程度でしたが、子どもが小学校のブラスバンド部に所属していた関係でお手伝いをさせていただいたことが現在の活動のきっかけです。子どもの卒業後も時々顧問の先生や保護者の方々とお付き合いを続けました。学校と深く関わることになったのは2019年の小学校芸術鑑賞会でのピアノ演奏依頼でした。その後、以前東日本大震災のボランティアで出会った有名なバンドのプロドラマーの方との共演(私はキーボード)で得た感動から、ドラマーへブラスバンド部の子どもたちと一緒にコンサートができないか提案し快諾していただきました。実施するにあたり「ステージマネージャーとして」下記の6つの役割を担いました。

  1. スケジュールの作成
  2. 裏方を担当してくださる学校の先生方との打合せ
  3. 共演者の送迎の対応など一連のステマネ業務
  4. 楽曲編曲(吹奏楽部、ドラム&ピアノとのアンサンブル用に)
  5. ボランティアとして朝の練習に参加
  6. 合奏指導等

本番では全校の子どもたちと吹奏楽部の演奏が一つになり、総立ちになるほどの熱気に包まれ大盛会に終えることができました。一生懸命に奏でる子どもたちが作り上げた生命力あふれる演奏にすっかり魅了させられ、吹奏楽に夢中になっていました。今思えば何とも無謀な挑戦でしたが、情熱だけで達成させることができたような気がします。このコンサート以降も校内行事の際に子どもたちの練習をサポートし、またピアノも一緒に演奏をする機会を頂くなど交流は続きました。ある日、校長先生から「部活動外部指導者」(*1)としてこれからも継続してほしいとお願いされ、2022年より「部活動外部指導者」として活動を始めました。私にとって今までの経験が非常に大きかったと思います。このことは地域音楽コーディネーターに関心を持つ『根っこ』の出来事だったのかもしれません。

*1)部活動外部指導者:学校長が適任と認めた人と契約し、部活動担当教員と連携しながら技術的な指導(コーチ)を行う

2.『部活動の地域移行』と『コミュニティースクール』

この二つのワードは現在最も重要であり、地域と学校の状況変化を常に把握し慎重に進めていかなければならないと考えています。

(1)部活動の地域移行とは

国の働き方改革政策により、文化庁とスポーツ庁が2022年12月にガイドラインを作成し、それを基に昨年から学校の部活動が段階的に地域に移行することとなりました。この要因は下記の3点があると思います。

  1. 教員数の減少と過重労働
  2. 少子化の影響で部活編成が困難
  3. 生徒のニーズ多様化

今後は地域が主体となって活動する地域クラブ(*2)となります。

*2)地域クラブ:地域のスポーツ団体、文化芸術団体、民間のクラブや学校関係の組織等が担います。

(2)「コミュニティースクール」とは

『地域と共にある学校』への転換を図る取り組みのことです。学校運営に地域住民の声を積極的に生かし、地域と一体となって特色ある学校づくりを進めていくことと文科省によって制度化されました。
詳細は下記文部科学省のHPをご覧ください。

3.具体的な内容―部活動外部指導者として

対象は小学3年生から6年生に成長していく子どもたち約30名を、音楽を通して見守りながら時間を共有します。年間の行事(コンクールや地域のイベント等)を学校の先生方と行動を共にさせていただきながら相互関係を少しずつ密に構築しています。また練習時間以外にも地域のイベントなどで関わる機会がこれまで以上に増えました。子どもたちが楽しく音楽に触れる環境を、私のように地域に関わりのある大人が守り続けていくことを大切にしたいとの思いが強くなっていきました。
子どもたちが卒業するとき、あるいは卒業後も吹奏楽部で過ごした時間が「良かった」「楽しかった」と心から思えるように支えていきたいという思いを大切にしています。つい先日も卒業生たちが差し入れを持って後輩たちの練習の手伝いに来てくれ、非常にうれしい限りです。長い間子どもたちの部活動を支えてきて下さった教職員の皆様の熱意やご苦労、学校の中で安心して活動を続け育まれてきた子ども同士の絆、私はこの地域の人間だからこそ、これからのコミュニティを大切にしながら、地域移行を少しずつ進められればと思います。

4.地域移行の現在地

進捗状況は都道府県、地域、学校ごとに違いがあると思いますが、一例として私が委託を受けている小学校の現状をご説明いたします。

①役割とスケジュール管理

教務主任・顧問の先生を中心とした6名ほどの先生方と私を含め、年間行事に則して各々の役割とスケジュールを決めます。コンクールや地域のイベントに出場する際は、楽器運搬の確認や子どもたちの引率の割当て等、事前の打合せをその都度設けてくださいます。今期はコンクール出場までのスケジュール管理を初めて任されました。時間をどのように最善でかつ有効に使えるか、計画通りに進められるのか至難の業です。

②演奏曲目の決定と指導にあたって

年間演奏曲8曲前後を顧問・副顧問・私の3名で選曲を行います。指導にあたって3年生部員には楽器の扱い方や楽譜の読み方に時間を必要とします。音が鳴らない、楽譜が読めないなどの苦手意識を子どもたちが感じることのないように見守りながらどう育てていくか、指導する側(そば)の観察力、工夫と根気が問われます。先生方との連携はこのような場合に非常に重要です。地域移行を円滑に進めようと学校側がしっかりとイニシアティブを取って進めてくださっていることには、心から感謝するばかりです。3年生から6年生までの進捗度にはかなり差があるので、どこまで楽譜を読んでいるか、読み間違いはないか、運指に悩んでいないかなどなるべく多くの子どもたちに声をかけるように心がけています。それでも練習後帰路の際には十分ケアーができたかどうかと反省すること多々あります。

③練習時間

基本的には朝授業が始まる前、土曜日と放課後が練習時間に充てられています。

<朝と土曜日>

当校では週4回、子どもたちが7時30分頃に登校して実質30分程度の練習後、音楽室から全員送り出す8時20分までが私の役割です。現在は私が週2回、他の2回を顧問、副顧問の両先生とで分担しています。また本番が近いときは週4回全てに対応します。土曜日は午前中の限られた時間の中で行います。

<放課後>

ここは下記の理由があり難しい状況です。

  1. この地域は古くから文教地区で、ほとんどの子どもが習い事の理由で時間が取れず参加できない
  2. 教職員の働き方改革の観点
  3. 学校のセキュリティ問題
  4. 上記をクリアするための対応できる大人の不在

よって朝の練習内容は、まとまった練習ができる土曜日に生かすことが非常に重要で、私の頭の中は常にタイムマネージメントと格闘しています。時間の使い方にメリハリがあって良い側面と、反面全く余裕がなく本番に臨まなければならない状況の繰り返しで、なかなかに過酷です。今後はこの朝の練習時間のほとんどを外部指導者が担っていくことになりそうです。

④子どもたちのケアー

小学生の場合は楽器の扱いや友達同士のトラブル、コロナ禍以降の様々な感染症対策など大人の見守りが必要です。楽曲の指導以外の部分で担っている部分も非常に大きいです。外部指導者が担う役割として特に精神的な部分の負担は多いと感じます。

⑤指導料

市から支払われる指導料は年間指導回数の36回に対してですが、上記の練習内容のように約半年でその回数を大きく上回り、それ以上の練習に関しては無償でのボランティアになります。1回あたり1時間程度の練習時間とされていますが(ハイシーズンを除く)、土曜日は9時〜12時までの3時間です。対して指導料は「ややお値段が良いお弁当代」ほどで、活動内容とその責任の重さで考えるといわゆるSDGsの観点とはほど遠く、この先の担い手を確保し続けていくのは非常に難しいと感じています。
幸いなことに、今年度から同窓生でありブラスバンド部のOBでもある音楽家の方が身近におり、手伝っていただける予定となりました。しかし1校あたりに支給される指導料が増額されるわけではないので、二人で無償に近いボランティアとして活動していくことになります。学校側からの提案で、親の会から幾分かご負担いただけることになりそうですが(現時点で未確定)、それは家庭の負担額が増えることを意味します。外部指導の人員を増やして対応していくには限界があり、行動を共にしてくれる人材もなかなかいないのではないでしょうか。

⑥保護者の捉え方

私はこの部活動の地域移行を保護者はどう捉えているのか、先日、親の会の皆様へ『部活動の地域移行に関するアンケート』を実施、ご協力を頂きました。その中で今後A.期待することとB.不安なことをいくつか項目を挙げて2つまで選んでいただきました。

A.期待すること

最も多かったのが「専門的で丁寧な指導が受けられる」という項目が「いろいろな世代や年齢の人と一緒に活動ができる」を大きく上回りました。これは外部からの専門的な人材に指導に来てほしいという願いの表れです。

B.不安なこと

「活動に係る経費の負担」と「活動場所の確保」が最も多く、今後の活動に対して家庭の金銭的な負担がどれだけ増えるのか、また学校での練習はできなくなっていくのではないか等、見えない不安も感じていると思いました。

5.現状に対する私の提案

(1)人材確保と育成

吹奏楽部は学校の中で長きに渡り、教職員の方々の力によって大切に育まれてきた特別な世界であるように思っています。子どもたちは信頼できる指導者と学校内だからこそ安心して活動を続けることができています。

  1. 部活動の地域移行の根幹が教員の働き方改革であるなら、心豊かな子どもの育成環境をこれまで学校の現場が文化・芸術の側面から守ってきたことの重要性を踏まえて、国は教職員のこれからの働き方と、併せて外部指導者の人材育成や活用の方法にしっかり議論を重ねていただきたいと思います。
  2. 教員の働き方改革が非常に重要であることは誰しもが認識しています。しかし「代わりができそうな人材を、できれば地域内で探して対応していってください、ボランティアで!」という考え方は安易すぎます。細かなことかもしれませんが、学校行事においては式典などの際の入退場での吹奏楽部の演奏は正に華を添える大切な役割であり、このような場面では顧問の先生にタクトを振っていただくべきではないかと思います。吹奏楽に育てられ、吹奏楽が大好きで教員を目指した方も多いはずです。その先生方が活躍できる場はこれからもあってしかるべきだと思います。
  3. 真の働き方改革と部活動地域移行は、託す側(国・自治体・学校)が民間(外部指導者や地域の人材)に本当に託したいことは何なのかを詳細に精査して提起し、互いに『真に必要な部分』を補い合う相互関係作りに本気で時間とお金を費やすべきではないでしょうか。人材が見つからないが故に既に廃部になっている学校も実際にあるという話を耳にしたこともあります。子ども、保護者、地域住民が安心できるよう根本的な部分の議論が成されることを心から願っています。

(2)予算

今後一家庭あたりの負担金を増額し、指導料を含め全てを親の会で運営していく形に変わっていくのであれば、スポーツ分野のクラブチームのような位置付けになるのでしょうか。

(3)練習場所と楽器保管

吹奏楽は音が相当な音量で鳴ります。市民センターを利用したくても大きな音量は近隣住民から苦情が出るかもしれないと言われ、練習場所を確保しようとするのは容易ではありませんし、一般の音楽スタジオなどを借りるようなことにでもなれば経費はかさむ一方でしょう。大きな楽器(トロンボーンやチューバ等)の保管場所はどう確保するか、また保管できる場所があったとして、高額な楽器にそれぞれ保険をかけるのか、責任の所在はどこになるのか等、簡単に決められるとは思えません。

6.外部指導者としての抱負

(1)継続性のある安定した運営のコーディネート

外部指導者として会費の見直しや部員募集などを積極的に提案し、継続性のある安定した部の運営を目指しています。外部指導者の在り方は百人いたら百通りの関わり方があると思いますし、子どもたち、保護者そして学校側も含めて人流は毎年変化していきます。様々な変化の中にあっても、これからも長く子どもたちと楽しく音楽を作っていくために、地域の細かな現場を見つめながら安定した運営をコーディネートしていくことが、少なくとも私には求められているのではないかと感じています。

しかし先にも書きましたようにⅰ.指導者がいないⅱ.見つからないⅲ.部員数が少なく財力が弱い団体が淘汰されていってしまうのではないかという懸念は解決に向けて早急に検討しなければならない事象です。ピアノのように早ければ3、4歳で出会う鍵盤楽器と違い、吹奏楽の楽器と出会う最初の機会はほとんどが学校です。この機会が減少していってしまっては、自然とう汰と勝利至上がいずれ早々に現れてくるような気がしています。

(2)部活動に関わる勉強会立ち上げ

外部指導者としてのクオリティーを高めるために、昨年から吹奏楽指導で高名な先生に指揮法を習っています。その先生のご協力と、偶然にも私が外部指導の現状を一番初めに相談させて頂いた地元のプレーヤーの方も地域音楽コーディネーターで、この方々の計らいのおかげで、地域の行政関係の方や楽器店の方などが集まり、併せて7名ほどで『部活動の地域移行に関わる勉強会』を立ち上げました。勉強会第1回目では、地域移行に対する県内の自治体の対応についての意見交換や、子どもたちの吹奏楽の活動を更に盛り上げていく機運にしていくために我々に何ができるか等をテーマに議論しました。今回参加された音楽家の方々は子どもの頃に吹奏楽・ブラスバンド部で楽器に出会いプロになられた方々がほとんどです。中には地元の吹奏楽の活動に恩返しがしたいと参加された方もいます。そういった方々とつながり、更に輪を広げ持続性を持って社会貢献できる団体へ少しずつ形作りを進めていきたいと思っています。

(3)吹奏楽の輪を広げる

子どもたちがキラキラと輝く楽器に興味をもって触れる機会を守り続けたいと思います。そのためにこれからも知恵を絞り、「おにいさん、おねえさんの大きな金色の楽器、私も吹けるようになりたい!」「お父さんお母さん、私たちのコンサート聴きに来てね!」「今日、うちの孫が演奏するんだよ」等の様な会話がこれからもたくさん溢れ、ますます増えるような理想に辿り着けるよう、外部指導者として、地域音楽コーディネーターとして、吹奏楽の輪を広げて行きます。

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