地域音楽コーディネーター ピアノ指導者 東京都 染谷聖子さん
- ■活動テーマ:
- 音楽を通して、障がいのある子どもたちと健常児が共に学べる共生社会を目指して
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 2018年〜現在
- ■場所:
- 東京都目黒区
- ■対象:
- 健常児の子ども(3歳~大学生)・障がいのある子ども(3歳~20歳)
- ■活動内容
1.きっかけ
障がいのある子どもたちと関わることになったのは、ダウン症の息子の影響が大きいです。息子が幼稚園の頃から感じた社会との壁。一般の多くの方は分からない、知らないものに対して身構え戸惑うものだと思います。それを解消するには小さな頃から当たり前のように身近にいて、共に活動することでお互いを知り、助け合える関係が当たり前な世の中になれば良いと思ったことが一つ目のきっかけです。
二つ目は、息子が小学生のときに感じた習い事の壁。この頃息子はまだ体が弱く、習い事などなかなか考えられませんでした。周囲の保護者からは「障がいがある」と言うだけで、問合せ段階で断られるという話をよく耳にしました。現在、教育の世界では十分にその対策と指導法が浸透していないように感じられます。障がい児は健常児と同じことは難しいかもしれませんが、個々に合わせた指導をしてくれる場があれば良いと思い、現在の活動を始めました。
2.具体的な内容
(1)指導理念
音楽は、美しく奏でる芸術と同時に、様々な個性や特性のあるすべての子どもたちをつなぐ社会的側面も持っています。苦手な部分を持っている子どもや困っている子どもには、手を差し伸べ補い合いそれに対して感謝を伝える、そういった当たり前な関わりをすることで、皆それぞれ少しずつ「違う部分」があることを知り、相手を尊重することを覚えます。その横の繋がりを音楽を通して自然に生まれるような環境を作っていきます。
(2)指導にあたっての留意点
教室に通っている障がいのある子どもたちは、主に自閉症スペクトラム(*1)と診断がついている方やダウン症の子ども、また診断がついていない軽度の知的を伴う発達障害の子どもがいます。これらの子どもたちはこだわる部分と苦手な部分に相違があります。これは健常児も同じです。
*1)自閉症スペクトラム:社会性やコミュニケーションの難しさと、特定の物事やその手順に強くこだわるなどの特徴がある。
障がいのある子ども達と接する時に気をつける点
- 人格と個性を尊重する
- 自尊心を傷つけない
- ゆっくりと話を聞いてあげる
子どもたちは季節や気象状況の変化からも影響を受けやすいです。テンションが高い状態で来られたときは、まず動いてエネルギーを発散させることから入り、落ち着いていれば椅子に座って行う静かな課題から始めます。また共通して指先や体幹が弱いことが多いので、それぞれに合ったトレーニングも行います。
保護者の方にはピアノを演奏する前に習得したい下記の2点を説明します。
- 背筋を伸ばして立ち、「よろしくお願いします」「ありがとうございました」の挨拶ができる
- 話を聞くことができる
成長に伴い精神面も変化してきます。最初にあげたこだわりが思春期には特に強く現れる事もあります。幼い頃から社会との距離感、関わり方、マナーなどを教えていくことで少しずつ順応できるようになります。指導者として保護者の心に寄り添い笑顔で子育てにサポートしています。
(3)コンサート
教室では年に一回発表会を開催します。健常児と障がいのある子どもが皆同じ舞台に立ち、それぞれの発表を拍手で讃(たた)えお互いを尊重します。ソロ演奏・連弾・小物打楽器で演奏・歌を発表する等、一人一人が今できることを披露します。そしてカップス(プラスチックのコップをテーブルに打ち付けて音を出し、拍手と合わせてリズム打ちをするー下記写真参照)を扱い、健常児と障がいのある子ども一緒に音楽に合わせて行います。事前練習から保護者の方にもご覧いただき、それぞれが懸命に取り組んでいる姿を見てもらいます。今年はそれに加え、未就学児にはデスクベル(ベル上部のぼうしの部分を押すことで音が出るミュージックベルの一種)、速いリズムが得意な高学年以上の子どもにはカスタネットを用いた合奏などを行います。この発表会では、一人一人が主役になり自信をつけていくことを目指しています。未来へ向けて行動し、自己肯定感を高め、希望を持って前向きに生きていく力が身に付いていってほしいと願っています。
3.成果と課題
教室に入会されるとき、保護者には事前に「障がいのある子どもピアノコース」と「子どものピアノコース」を選んで、体験レッスンを受けていただきます。その後ご説明をし共に学ぶ教室だとご理解いただいた方が入会されます。うれしい言葉としては、「様々な個性を持った子どもたちと過ごす良い機会です。」「だからこそ、こちらのお教室にお願いしたいと思いました」など温かいまなざしを頂いています。発表会では不自由ながら頑張っている姿に涙を浮かべて見てくださった健常児の保護者の方もいらっしゃいました。ふだんのレッスンですれ違うとき、また発表会で初めて会う子どもたち、言葉掛けは難しくても、お互いに同じ舞台を踏み、ライトが当たる緊張感の中、頑張っている姿を「知る」という第一歩がとても大切だと考えているので、年に一回の発表会はとても良い機会だと思います。課題としては知り合った後、お互いの良さに気付ける気持ちが育まれるには会話と時間が必要です。ご理解いただくことを待っているばかりでなく、もっと能動的な行動が必要だと感じています。
4.抱負
2016年に障がい者差別解消法が施行され、障がい者の差別・偏見の禁止や配慮が求められるようになりました。スポーツではパラリンピック等で多くの方々に認知されるようになりましたが、社会生活面ではまだまだです。障がいの有無、高齢者、人種に関(かか)わらず、すべての人が違いを認め支え合う共生社会の実現を望みます。そのためには地域住民のつながり、地域包括支援センターの強化等の行政の支援が必要です。私は今後も音楽面からその方々を支え地域との連携を密にしていきます。
また障がいのある子どもたちと健常児たちが共に作り上げる音楽を多くの方々に知っていただき、心に届く環境を作っていきたいと思っています。社会の中で障がいを持った子どもたちと保護者を応援してくれる人々が増えていくことを望んでいます。
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