地域音楽コーディネーター・那智勝浦町文化協会副会長・那智勝浦町町民音楽祭実行委員長・那智勝浦オペラコンサート実行委員長・合唱指揮者 和歌山県 山縣弘明さん

- ■活動テーマ:
- 「楽しんだもん勝ち!ツナがろう!」
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 1990年頃~現在
- ■場所:
- 和歌山県那智勝浦町を中心とする紀南地方(和歌山県全域と三重県南部)
- ■対象:
- 地域住民(一般・小学生・中学生・高校生)
- ■活動内容
1.きっかけ
(1)活動の原点
現在、和歌山県那智勝浦町と新宮市を中心に、地域住民のためのコンサートを企画・プロデュースの傍ら合唱指揮者として活動しています。その原点は、高校1年生に合唱を始めたことにあります。大学進学後はグリークラブに入部。2回生より指揮者となり指揮法を須賀敬一氏より師事しました。演奏会やコンクール・交流会などの開催を通じてつながりを広げました。また大阪府合唱連盟大学部会指揮者会幹事として学生指揮者の資質向上や合唱文化の普及、他団体との交流などに努めました。
(2)合唱団の設立
大学卒業後は高校・大学時代の合唱つながりで得たご縁を基に、和歌山市内、紀南地方と大阪府内で合唱団を設立しました。古くは創団40年にもなる合唱団もあり、それぞれの地域でコンサートや音楽祭・ワークショップ・交歓会などの開催や出演に努めています。また、ある時期は和歌山県合唱連盟事務局長として、和歌山県全域における合唱文化の振興や、紀南地方における合唱講習会などの開催にも努めました。
(3)地域でのコンサート普及
私の住んでいる紀南地方は一流の音楽や指導者に接する機会が少なく、地元では都市部と圧倒的な格差に対する地域住民の嘆きが止まらないことから、私はこれを地域特有の課題として捉えました。40歳になった頃から3期12年、那智勝浦町議会議員を務めました。思えば、この頃に得た様々な危機感や、国・県・市・町の職員や議員とのご縁が、音楽による地域の活性化に向けた私の原動力となりました。
那智勝浦町文化協会の発足と同時に副会長と音楽部会長を拝命以来、地域住民の手作りによる町民音楽祭や一流アーティストを招請してコンサートを開催するなど、官民協働による住民主体のまちづくりを進めながら、都心部から離れた地域に住む住民にも優れた音楽に接する機会が創れるよう努めています。
2.具体的な内容
(1)Home of Spiritsコンサート2022年3月14日㈪16時~
【趣旨】
地元那智勝浦町立勝浦小学校の6年生がコロナ禍のために修学旅行へ行けなかったという話をという話を聞いた私は、子どもたちに何か良い想い出作りはできないものかと考え、和歌山市出身のヴァイオリニスト寺下真理子さんに相談しました。すると彼女は、Home of Spiritsコンサートを企画。世界的ピアニストの角野隼人さん(*1)と関西フィル主席チェロ奏者の向井航さんへ呼びかけ、彼らの善意で無料のコンサートを開催することができました。音楽と郷土とコロナ禍のつながりから生まれた、この日だけの奇跡の特別コンサートでした。
*1)角野隼人:2021年ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。コンサート他YouTubeでは「かてぃん」という名義でも活躍中。
【内容】
対照は小学6年生と当地域のピアノ講師、音楽関係者のみとしました。ロマン派、印象派、近現代のクラシック作品から、シャンソンやジャズの名曲まで幅広い音楽ジャンルで構成しました。また3人でのピアノトリオは圧巻でした。(詳細はチラシ参照)小学生たちはふだん聴く機会がない生演奏に感動したと思います。





(2)那智勝浦町町民音楽祭
A.第26回那智勝浦町 町民音楽祭2022年10月23日㈰14時~和洋折衷~世界最高峰のヴァイオリン~ストラディバリウス(*2)と日本の伝統楽器の饗宴(きょうえん)
*2)ストラディバリウス:イタリアクレモナのヴァイオリン製作者ストラディバリ父子が17世紀~18世紀にかけて制作した弦楽器の名器をさす。市場では億単位で売買される。
【趣旨】
那智勝浦町町民音楽祭は、音楽愛好家らが日頃の練習の成果を発表する場を設けることで、広く地域住民にも楽しんでいただけるよう地域の音楽愛好家や学校関係者らに呼び掛け、1994年よりスタートし、これまで町内外の多くの方々に、音楽を楽しんでいただいてまいりました。
しかしながら、近年ではコロナ禍や高齢化などの影響を受けて、多くの団体が音楽活動を継続できなくなってしまいました。そこで2022年からは、一流の音楽家たちを招請してコンサートやワークショップなどを開催することで、優れた音楽を生で楽しんでいただける手法に切り替えて開催しました。一流の音楽に生で触れられる機会の少ない当地方において、子どもからご高齢の方々まで広く音楽に親しく楽しんでいただき、いやしの空間づくりや人材育成などに努めています。
【内容】
前年より、和歌山県内の学生たちを対象にした無料応募制コンサートを和歌山市と那智勝浦町で展開し、2022年当時で既に延べ2,000名もの学生らを動員されるなど、ふるさと貢献を精力的に展開されているヴァイオリニストの寺下真理子さん。私は音楽と和歌山を通じていただいた彼女とのご縁を地方に住む皆さんのために生かしたいとの思いと運の良さから、一流の音楽を地方で楽しめる機会を、この年は二回も開催することができました。
今回は、第26回那智勝浦町町民音楽祭 特別記念コンサート『和洋折衷~世界最高峰のヴァイオリン~ストラディバリウスと日本の伝統楽器の饗宴』と題し、和歌山県の令和4年度地域・ひと・まちづくり補助事業に申請し、採択されたことで開催が実現しました。

<第一部>コンサート
国内外でご活躍中のアーティストによるヴァイオリン・中棹三味線・筝・ピアノの楽器紹介から。後半のコンサートが終わった瞬間、お客様からは「ブラボー」の歓声と鳴りやまない拍手が。アンケートにも多くのお客様から「感動しました」「これからも開催してください」などの声を多数頂きました。


<第二部>ワークショップ
和歌山県よりご助言をいただいて実施したワークショップ。その前半は寺下真理子さんのセミナー「夢を抱き、夢に向かって進んでいく」と題し、幼少期より今日に至るまでの経緯や経験などをお話しくださいました。
後半は、事前に申込みされた5人の小学生を対象にしたヴァイオリンレッスン体験。ここで子どもたちを褒め可能性を認めながら引き出してあげる寺下さんの指導方法に、ご家族や教育関係者たちからも感嘆の声が上がっていました。また、子どもからも「ヴァイオリンが弾けて、楽しかった。」などの感想を頂き、大人からも「私も弾いてみたくなった。」「こんな機会を作ってくれたことに、感謝する。また、開催してほしい。」など、とてもうれしい感想を頂きました。県の担当者よりご提案いただいたこのワークショップは、予想以上に意義のある企画でした。

B.第28回那智勝浦町 町民音楽祭2024年9月29日
これまでオペラに接したことのない方々のために、地域住民による実行委員会が企画したミニコンサートを「第28回那智勝浦町町民音楽祭」として無料で開催しました。当日はプロのソリストと地域広域による合唱団TUNA GOOD(ツナぐ)(次の⑶で説明)で行い合唱団員のモチベーションアップやチケット販売・集客等に予想を超える大きな効果が得られました。この音楽祭は、同年10月19日に開催された「世界遺産登録20周年記念さわかみオペラin紀州勝浦」につながります。





(3)世界遺産登録20周年記念さわかみオペラin紀州勝浦生まぐろ市場コンサートオペラ『カルメン』(ビゼー作曲)ハイライト2024年10月19日㈯16時~
【趣旨】
2004年、紀伊山地の霊場と参詣道が世界遺産に登録され、20周年になる記念行事の一つとして、那智勝浦町(延縄漁法による生まぐろの水揚げ日本一のまち)の勝浦地方卸売市場内特設会場で開催しました。
前身は2021年より始まった『紀州勝浦生まぐろ市場コンサート』です。コロナ禍や高齢化等の影響を受けて当地域でも多くの合唱団が解散し、また地方における指導者不足も文化・芸術の振興・発展に向けた大きな課題(ハードル)となっておりました。これらの厳しい環境の中、那智勝浦町は文化振興と地域の活性化を目指すため、堀順一郎町長が前職(和歌山県庁)の頃から交流のあった『さわかみオペラ芸術振興財団』の澤上理事長とのご縁で実現することが出来ました。
【合唱団TUNA GOOD結成】
今回、初めて地域住民による合唱団が広域で募集されることとなり、私は町からの相談を受けて実行委員長長を拝命しました。
初稽古までわずか2ヵ月という短期間の中、チラシやラジオ・新聞・SNS・ホームページ・合唱関係者・友人などを通じて、町内から県外まで声をかけたところ、小学校低学年から80歳の高齢者まで年齢や性別・合唱経験なども問わず、60人を超える合唱団員が集結し、ここにオペラ合唱団TUNA GOODが誕生しました。
名前は下記の3点の願いを含み表記しました。
- 音楽を通じて地域を広域でツナ(繋)いで欲しい
- 延縄(はえなわ)漁法による生まぐろ(鮪(まぐろ)=tuna)の水揚げが日本一である勝浦地方卸売市場が舞台となること
- 世界遺産登録20周年の節目の年に、県・市・町の枠を越えて熊野地方でツナ(tuna)ぐ(good)こと。そして私たちの活動が地域振興へとツナがることへの願いも、解釈に含まれています。
【内容】
オペラの中でも特に有名で人気が高いビゼー作曲の「カルメン」名場面と名曲のハイライトをプロの声楽家とオペラ合唱団「TUNA GOOD」と行いました。歌は原語(フランス語)で日本語ナレーションを付けました。
コンサート当日は、前回の1.5倍となる330人ものお客様がご来場くださいました。『紀伊山地の霊場と参詣道』世界遺産登録20周年となる節目の年に三重と和歌山に、そして遠くは大阪在住の方までが山を越えて那智勝浦町で歌を通じて和やかにツナがりました。官民が連携し行政枠や県境をも越えて『熊野』がひとつになり、令和(Beautiful Harmony)の時代にふさわしい事業になりました。公益財団法人さわかみオペラ芸術振興財団が音楽を通じて、地域を広域でツナいでくれました。




市場オペラコンサートに、これまでの那智勝浦町町民音楽祭。この2つの事業が成功を収めてこられた背景には、常に合唱団Shicholora(シコロラ)の献身的なボランティア活動がありました。音楽のツナがりに、心から感謝です。
この合唱団は地元那智勝浦町・新宮市・三重県紀宝町在住の住民(高校や大学時代等の合唱経験者など)により19名で構成されています。合唱団の名前シコロラとは紀南(熊野)地方の方言「しこる」一生懸命、努力するという意味でこの意味合いを取り入れています。
(4)動画コンテスト&高校生・中学生合同文化祭「みんなでいこれ~‼」2024年7月21㈰13時30分
*3)いこれ:三重県の方言で行こうという意味。和歌山県でも「つれもていこら」等と、日常的に使われている方言。
【内容】
2021年、新宮市文化複合施設丹鶴(たんかく)ホールの開館に際し、市の公募により採択された私たち自主事業実行委員会『丹鶴ホールプロモーションチームICOLE(イコレ)』は、新宮市および熊野エリア広域の文化振興を目指すボランティアグループとして、2020年より市の委託により活動しています。
A.動画コンテスト
新宮市内にある和歌山県立新宮高校と新翔高校は2026年に統合が決定しており、高校が2つになってしまいます。統合前のイベントを検討するに当たり、同じ新宮市内にある近畿大学附属新宮高校を交えた計3高校生を対象に、各校のご協力を得てアンケート調査を実施しました。その結果、昨年度に続き今年度もSNS等で高校生たちの関心が特に高い動画に焦点を当てた『動画コンテスト』を開催し優れた作品を表彰しました。


B.合同文化祭
今回は同時に音楽をテーマにした『合同文化祭』を企画しました。生徒からの希望に応えて中学生も参加のできる合同イベントとして拡大させ、歌・演奏・ダンス等、自分たちが表現したいパフォーマンスを舞台で発表していただきました。また当日の司会・受付・誘導等のスタッフを各校の生徒がボランティアで参加。中でも特筆すべきは、各校放送部員らによる合同の見事な司会でした。
その成果を何らかの形で残せないものかと地域のラジオ局の和歌山放送に相談したところ、高校生による番組への出演にご快諾くださり、6人全員のトークが放送されました。主役は高校生と捉え、若者ならではのアイデアやパワーを生かし、地域とのつながりや他校との交流を深めながら文化・芸術の普及や人材育成などの事業の実施を通じて、次世代を担う人材の発掘や育成に取り組む私たちの思いが、少しは具現化できたものと存じます。


3.成果と課題
(1)成果
和歌山らしく官と民が歌を通じて和やかにツナがり、地域住民も県境や山々を越えてツナがった、Beautiful Harmonyと訳される令和の時代にふさわしい事業『紀州勝浦生まぐろ市場コンサート』は大成功でした。私がこれまでの音楽活動の中で、那智勝浦で得てきた人脈が役に立てたことが、とてもうれしく思います。
(2)課題
事業の継続に必要な資金の確保が大きな課題です。今は那智勝浦町の100%補助によって運営されていますが、今後いつまでこの形を継続していただくか、という問題が消えることはありません。一流の音楽に触れ楽しみ、指導を受ける機会が極端に少ない現在の状況や、都心部との格差を正常化する行動が大いなる課題と思われます。国や県をはじめとする様々な補助事業の活用を検討するためにも各議員や職員はじめ公益財団法人音楽文化創造と情報共有や意見交換などを展開してまいりたいと存じます。
4.抱負
都心部との地域間格差を少しでも縮め、地域に住む方々が音楽を通じて小さいお子さまからご高齢者まで、老若男女を問わず誰もが音楽に親しみ、楽しめる。その夢に向かって、活動ベースとして当地域における一般社団法人の設立が私の目標です。
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