地域音楽コーディネーター History to Art主宰 Jasmine Factory副代表 チェリスト、作曲家、デザイナー 神奈川県 北條立記さん

- ■活動テーマ:
- 音楽で丹念に価値を探求する
- ■目次:
- ■活動開始時期:
- 2021年~現在
- ■場所:
- 神奈川県横浜市、秦野市、足柄上郡松田町寄(やどりき)
- ■対象:
- 子どもから大人、障がい者、LGBTQ
- ■活動内容
1.きっかけ
5歳よりチェロを始め、10代の頃に巨匠カザルス(*1)の音色や現代作曲家の斬新な音楽世界に憧れを持ちました。カザルスの演奏には、太宰治の『人間失格』と同じように人間の現実に向き合う奥深さが、また意外な音が紡がれる現代音楽(20世紀後半のクラシック)には、現在が未来に進む上での先取りの精神があると思っています。
*1)パブロ・カザルス:スペイン生まれ(1876~1973)のチェリスト・指揮者で20世紀最高のチェリストと言われている。生まれ育ったカタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」が生涯の愛想曲となる。
History to Artを屋号として公演プロデュースを始めたのは、2021年でした。屋号を立てたのは、ダンサーとの公演企画を担う必要性が生じたことや、コロナ下で音楽活動の在り方を考え始めたことがきっかけとなっています。
2022年、アーティスト系グループ「Jasmine Factory」の代表である歌手の莉玲さんとダンス系の催しで知り合います。彼女は右耳に難聴がありますが、この団体を一人で立ち上げ、手話やダンスを使って音楽を視覚化し障害の有無に関わらず参加者を広く募った「観えるLIVE」の企画などをされていました。障害福祉に関わる音楽、農業、福祉の取り組みを目的に活動されていることに共感し2022年の半ば頃に「Jasmine Factory」の活動に参加しました。
私は今まで行ってきた通常の演奏会よりも、個人個人の実存に音楽が関わる価値があるのではないかと感じるようになったのです。現在History to Art代表としての公演プロデュースと共に「Jasmine Factory」副代表としてグループ活動にも関わっています。
2.具体的な内容
A.Jasmine Factoryジャスミン・ファクトリー
(1)理念と活動拠点
2022年半ば、私やトランスジェンダーのKaoriさんが加わった後、任意団体名称を「Jasmine Factory」と改めました。更にLGBTQ・国籍の違いなど、マイノリティー性の有無を問わず誰でもが楽しめるイベントの企画を活動内容に据え、「誰もが自分らしい生き方を追求できる社会づくり」を理念として掲げました。
2024年より農業資格を持つ莉玲さんが秦野の 「丹沢ジャスミン農園」と足柄の古⺠家「舎道莉喜庵(やどりきあん)」に活動拠点を移し、音楽・ダンスの公演や、ワークショップなどの企画、農業福祉、生涯教育、第3の居場所づくりなどへと活動の範囲を広げました。Jasmine Factoryの詳細はこちらをご覧ください。


(2)活動
【りれいしょん〜聴いて!観て!みんなで創るフェス〜】
2023年7月、川崎市にある「溝ノ口劇場」で1週間にわたるインクルーシブなフェスティバルを開催し、障害のある方々も手話とダンスでの音楽で自由に表現されました。会場は車椅子での来場も可能なエレベーターがある所を選び、バリアフリーなイベントを運営しました。
「りれいしょん(Relation)」と銘打ったこのフェスには、発達障害のメンバーを含む社会人バンドや、知的障害のダンサー、難聴のピアニスト、片手でのみ演奏する左手ピアニストなど、いろいろな方が出演されました。ヨガ、パントマイム、手話ソングなどのワークショップのほか「インクルーシブを語る会」というディスカッションタイムも設けました。


【ワークショップ】
2023年後半、知的障害のある女性ダンサーと児童のためにダンスを中心とした音楽の生演奏を用いたワークショップを定期的に開催。2024年の初めには横浜市の磯子区障害者地域活動ホームからご依頼を頂き、10名ほどの成人の知的障害者を対象としたワークショップを行いました。

【その他】
2023年7月からは代表者が先述の秦野の農園の土壌改良、フェンスやコンポストトイレ、ビニールハウスなどの設営を開始し、2024年3月には足柄の古⺠家を入手。それぞれを誰でもが気軽に遊びに来られる環境へと整備し、2024年7月にオープンいたしました。オープニングイベントでもインクルーシブなコンサートをそれぞれの地で開催いたしました。
私自身は、農園や古民家のロゴ・チラシ・サイトなどのデザインと、市場調査、情報収集、書類作成を担当。また、現地で行うイベントでの演奏や作曲なども行いながら、仲間たちと各種の企画運営に携わっています。2024年11月現在は、神奈川県主催の「ボランタリー団体成⻑支援事業」にて、広報体制を中心に団体の改革をしているところです。
B.山手縁乃庭(やまてえんのば)
横浜のJR.根岸線山手駅から徒歩数分の地域コミュニティースペース「山手縁乃庭」は、幅広い人たちが交流できる地域スペースとして元横浜市職員の渡邊圭祐さんが運営されています。そこを活動拠点とする市民グループ「山手オープンタウン」は渡邊さんのほか、山手地域のケアマネージャーの平野さんや⺠生委員、作業所「はな工房」の方などで作られ、障がいの有無に関わらない「まちづくり」を目指しています。莉玲さんを通して山手オープンタウンのリーダー・平野健子さんとご縁がつながり、現在は私も音楽家の立場でこのグループにも参加しています。2024年4月にはJasmine Factoryメンバーで障がいのある方も気楽に来場できるライブを開催しました。

また、私の個人企画「1人のための作曲」も縁乃庭で試みてきました。「1人のための作曲」とは、対面したある1人の方をテーマとする音楽を作り、チェロで演奏して聴いていただく企画です。私の曲が大作曲家のものほど優れたものではなかったとしても通常余りない「自分のために曲が作られた」という体験は、何か意味を持つのではないだろうかと考えています。今年は、2人の方に体験していただきました。

C.History to Art
先にご紹介したJasmine Factoryの取り組みと並行して、私個人を主体として行っているのが屋号「History to Art」のもと行う音楽活動です。
History to Artという名前にはクラシック音楽の「歴史」を踏まえながら曲の自作自演や公演プロデュースといった「芸術」の創作を行う、という意味合いが込められています。「1人のための作曲」もその一つになりますが、どちらかというと通常の演奏会、ダンサーとのコラボなど、音楽×福祉に絞らない内容のものが多くなっています。なお、オーソドックスな演奏会をこなして演奏技術を磨いた上で、福祉の場で演奏することが大事だとも考えています。詳細はホームページをご覧ください。

3.成果と課題
Jasmine Factoryの活動では、人と人とのつながりを徐々に作れてこられているのではないかと思います。障害福祉や高齢者福祉、マイノリティー支援などにおいて、音楽やパフォーマンスを用いることで、いろいろな人がそれらの領域に自然になじんでいく、そういう機会を作っていけると良いのではないかと考えています。山手縁乃庭での「1人のための作曲」は、アイデアを得たばかりのもので、手探りで行っている段階です。
2つに共通する課題は、これらの取り組みでは人的ネットワークを築くのが重要と考えます。また、アーティスト視点でアイデアを出すだけではなく、ケアマネージャー・訪問看護・障害者施設の運営者など、地域の専門家の意見をもとにアイデアを整えることも重要だと思っています。
4.抱負
私は、音楽を軸にいろいろな物事を関連付けていきたいと思っています。テレビで見たあるブレイクダンスの有名な方は、踊りを考えるのは宝探しと同じだと言っていました。演奏作りや作曲だけではなく、音楽活動の在り方についても、そのように探索のしがいがあると思っています。音楽の周辺で、丹念に価値を作り上げていくことが私の抱負です。
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