地域音楽 コーディネーター

地域音楽コーディネーター NPO法人音楽のチカラ 理事長 プロジェクトスマイル実行委員 宮城県 早坂茂仁さん

すべての人に、音楽を。
すべての人に、音楽を。
■活動テーマ:
奏でる人にも、聴く人にもチカラを!すべての人に音楽を。
■目次:
■活動開始時期:
2023年~現在
■場所:
宮城県・山形県内の病院、福祉施設、特別支援学校、高齢者施設、レンタルキッチン ほか
■対象:
障がいのある方、幼児・高齢者、経済的な理由等により音楽に触れる機会が限られている方々。あわせて、地域の子どもたちを対象とした音楽文化の普及・地域振興にも取り組んでいる。

1.「NPO法人 音楽のチカラ」の立ち上げのきっかけ

私は中学生の頃、吹奏楽部でトランペットを担当し、音楽を通して人とつながる喜びや楽しさを感じてきました。しかしある日、交通事故により脊髄を損傷し、車いすでの生活を送ることになりました。この出来事をきっかけに、私は初めて「音楽に触れること」そのものに、物理的・心理的な壁が存在している現実を知ることになります。それは、車いすに乗るようにならなければ見えなかった世界でした。
例えば、宮城県にある東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)は、約1,590席を有する大規模ホールですが、車いす席は約6席に限られています。また、山形県のやまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)も約2,000席規模のホールである一方、車いす席は9席と限られており、同行するご家族が隣に座ることが難しい場合もあります。
さらに、地方においては駐車場の確保や導線の問題もあり、場合によっては車を停めることができず、来場そのものを断念せざるを得ないケースもあります。こうした状況の中で、「音楽を聴きに行こう」という選択そのものが難しくなっている現実があります。
加えて、障がいのある子どもたちがコンサート中に音に反応して声を出したり、体を動かしたりした際、ご家族や支援者の方々は「周囲に迷惑をかけてしまうのではないか」という不安を抱え、途中で退席せざるを得ない状況になることがあります。また、障がいの特性に対する理解が十分でないことから、心ない言葉をかけられたり、差別的な視線を向けられてしまうことも少なくありません。
私はこれまで、そうした場面で、悲しい表情のまま会場を後にする親子の姿や、何度も頭を下げ続けるご家族の姿を目にしてきました。その光景に対して、何もできない自分の無力さを痛感しました。
だからこそ、私は思いました。「音楽を会場に聴きに行く」のではなく、「音楽の方から人のもとへ届けるべきではないか」と。
そして2023年、音楽仲間とともに病院や福祉施設でコンサートを実施しました。その場で見た、涙を流しながら音楽に耳を傾ける方、笑顔で手拍子をする子どもたちの姿は、私にとって忘れることのできない光景となりました。
この経験を通して、音楽には人の心に寄り添い、支える力があることを改めて実感しました。そして2024年1月、「すべての人に音楽を届けたい」という思いから、「NPO法人 音楽のチカラ」を立ち上げました。

(1)NPO法人 音楽のチカラとは

○理念

奏でる人にも、聴く人にもチカラを!すべての人に音楽を。

○ビジョン

音楽は、すべての人のものであるべきだと、私たちは信じています。
障がいや病気、年齢、暮らす環境や立場によって、音楽から遠ざかってしまう人がいます。
けれど、音楽には人の心をいやし、励まし、つなぐ力があります。
だからこそ、どんな状況にある人にも、生の音楽の感動を届けたい。
それがかなう社会は、きっと誰にとっても優しく、あたたかい社会です。
私たちは、奏でる人と聴く人が共に輝き、音楽が日常の希望となる未来を目指しています。

○ミッション

私たちは、一人一人の状況や思いに寄り添いながら、生の音楽を必要とする場所へ演奏を届けています。
子ども向け、大人向け、高齢者向けなど、対象ごとに会場やプログラムを調整し、誰もが安心して音楽を楽しめる環境づくりを行っています。
会場選びや演奏内容、音量や曲目、進行の仕方に至るまで、「その場にいる一人一人」に寄り添うことを大切にしています。
また、音楽を愛する奏者が、その思いを社会で生かせる場を広げることも、私たちの重要な役割です。
演奏者と聴く人、そして支える人、それぞれの思いを循環させ、音楽を通じたつながりが地域に根づくよう取り組んでいます。

○行動指針:「チカラ」に込めた3つの意味

ⅰ.みんなに音楽を届ける力
音楽家を病院や福祉施設へ派遣し、生の音楽を通して、笑顔や心の動きを届けます。
ⅱ.音楽家を支える力
演奏の機会を創出するとともに、学校や地域における音楽活動を支援し、音楽家が社会の中で活躍できる場を広げます。
ⅲ.循環させる力
賛助会員や寄附金を募り、活動資金として循環させることで、持続可能な音楽活動の仕組みを構築します。
これら3つの行動を循環させることで、音楽の価値を社会の中で生かし続け、地域全体の豊かさへとつなげていきます。

(2)組織

本団体は、プロの音楽家を中心に、音楽療法の専門家、音楽教室の運営者・指導者、医療関係者(医師等)など、多様な専門性を持つメンバーによって構成されています。
音楽分野においては、山形交響楽団首席トランペット奏者・井上直樹氏を始め、第一線で活躍する演奏家が参画しています。
また医療分野においては、小児科医として長年ダウン症の診療に携わり、2026年1月に仙台医療センターに開設される東北初の「ダウン症専門外来」を担当する堺武男医師も参画しています。
成人後の受皿が限られているという課題に向き合い、子どもから大人まで切れ目のない医療体制の構築に尽力されている専門家です。
このように、本団体は音楽と医療の双方の専門性を融合させながら、現場に寄り添った活動を行っています。

(3)活動に当たってのポイント

①音楽を必要とするすべての人へ、生の音を届ける

音楽にふれる機会が限られている方々のもとへ、生の音楽を届ける活動を行っています。
私たちが訪れるのは、病院、福祉施設、特別支援学校、高齢者施設など、様々な現場です。
そこでは、年齢や障がい、病気などの事情により、コンサートホールに足を運ぶことが難しい方々が生活しています。
私たちは、単に演奏を行うのではなく、その場にいる一人一人の状態や環境に合わせて、音量や距離、空間の使い方を調整しながら、「安心して音楽にふれられる場」をつくることを大切にしています。

②参加型のプログラムと関わりの創出

演奏会では、クラシック、ポップス、ジャズ、童謡など幅広いジャンルを取り入れ、年齢や心身の状態に応じたプログラムを構成しています。
また、ただ音楽を届けるだけでなく、手拍子やリズムあそび、身体を揺らす動き、楽器に触れる体験など、参加型の要素を多く取り入れています。
その中で、ふだんは声を出さない子どもが歌い出したり、動かなかった体が自然と動き出したりするなど、音楽が人の内面や身体に働きかける瞬間に立ち会うことがあります。
音楽を「聴くもの」から「共に感じ、関わるもの」へと広げていくことも、私たちの大切な役割です。

③誰もが安心して過ごせる音楽の場づくり

私たちの演奏会では、「静かにしなければならない」「じっとしていなければならない」といった従来のコンサートの前提を設けていません。
声が出ても、体が動いても、その人らしくいられることを大切にし、障がいの有無にかかわらず、誰もが安心して音楽を楽しめる空間づくりを行っています。
そのために、私たちは次のようなことを大切にしています。
・声が出ても大丈夫
・途中で出入りしても大丈夫
・体が動いても大丈夫
・横になって聴いても大丈夫
・医療機器の音があっても大丈夫
こうした前提を共有することで、周囲の目を気にすることなく、音楽を自由に受け止め、感じたままに表現できる時間をつくっています。
これまで音楽の場から遠ざかってしまっていた方々が、「ここなら大丈夫」と感じられること。
そして、演奏する側(がわ)もそのすべてを受け止めながら、同じ時間を共有すること。
さらに、このような空間は当事者だけでなく、ご家族や支援者の方々にとっても「安心して音楽を楽しめる時間」となります。
周囲に気を遣い続けるのではなく、同じように音楽に心を向けることができることで、こうした場の必要性や価値を実感し、応援の輪が広がっていくことにもつながっています。
そのような関係性の中で生まれる音楽こそが、私たちが届けたい価値です。

2.活動実績

特定非営利活動法人音楽のチカラは、2024年9月の活動開始以降、宮城県・山形県を中心に、岩手県・福島県を含む各地域において演奏活動を展開してきました。
これまでに、福祉施設、医療機関、特別支援学校、高齢者施設、地域イベント等において52件の演奏会を実施し、延べ参加人数は約3,700名にのぼります。
主な活動先は、こども発達センター、特別支援学校、医療機関、高齢者施設など、音楽にふれる機会が限られている現場であり、地域に根ざした継続的な訪問演奏を行っています。
また、仙台サンプラザでの地域共生フォーラム(約500名参加)や、こころつなぐチャリティーコンサートの開催など、大規模な演奏会にも取り組んできました。
2026年2月に実施したチャリティーコンサートでは、一般来場者約400名に加え、障がいのある方とそのご家族50名以上が参加し、ボランティア約70名、一般吹奏楽参加者80名以上が関わるなど、多様な立場の人々が一体となる場となりました。
さらに、会場スタッフや出店者なども含め、多くの関係者が連携しながら運営を支えています。
出演者には、NPO法人音楽のチカラ所属の演奏家に加え、山形交響楽団首席トランペット奏者・井上直樹氏、山形交響楽団 Brass5 (金管五重奏)も参加し、より質の高い演奏を提供しました。
運営面においては、宮城教育大学の学生による音楽面での協力、宮城大学からの看護職の派遣、東北医科薬科大学の学生による福祉系ボランティアの参加など、複数の大学と連携し、医療・福祉・教育が融合した体制を構築しました。
これにより、安全性と参加しやすさを両立した演奏会の実現につながっています。
さらに、宮城県の「芸術銀河」事業や、みやぎ生協との連携事業など、行政・企業との協働による活動も展開し、地域社会とのつながりを広げています。
これらの取り組みを通じて、障がいや年齢、環境にかかわらず、誰もが音楽にふれられる機会の創出を継続的に行っています。

音楽のチカラ実績

3.成果と課題

本法人の活動は、2024年9月の開始以降、宮城県・山形県を中心に継続的に展開され、福祉施設や医療機関、特別支援学校、高齢者施設などにおいて、着実に実績を積み重ねてきました。
その中で、音楽にふれる機会が限られていた方々が、生の音楽に触れることで表情を変え、体を動かし、声をあげて反応する姿を数多く目にしてきました。
ふだんは反応が少ないとされる方が音楽に合わせて身体を揺らす様子や、子どもたちが自然と歌い出す姿など、音楽が人の内面に働きかける力を日々実感しています。
また、各演奏会後に実施しているアンケートからも、活動の意義が明確に表れています。
「ふだんは落ち着いて座っていられないが、最後まで楽しんで聴くことができた」
「声を出してもよい環境に安心し、家族としても初めて一緒に音楽を楽しめた」
「ふだんは表情の変化が少ないが、笑顔が見られた」
「また是非来てほしい」「次回も参加したい」といった声が多く寄せられています。
特に、ご家族や支援者の方々からは、これまで周囲への配慮から音楽の場への参加をためらっていたという声が多く、「ここなら安心して参加できる」という評価を頂いています。
これは単に音楽を届けるだけでなく、「安心して存在できる場」を提供できていることの成果であると考えています。
さらに、地域の施設や団体との信頼関係も着実に築かれており、「継続してきてほしい」「定期的に実施してほしい」といった依頼が増加しています。
行政や企業との連携事業も広がりつつあり、本活動が地域社会において必要とされていることを実感しています。
一方で、活動の広がりに伴い、安定的な運営体制の構築が大きな課題となっています。
具体的には、継続的な活動を支えるための資金の確保、演奏に関わる人材の育成と確保、活動を広く社会に伝えるための広報体制の強化が挙げられます。
また、ニーズの増加に対して、すべての依頼に応えきれない状況も生じており、活動の質を維持しながら持続可能な形で拡大していく仕組みづくりが求められています。
今後は、これらの課題に向き合いながら、活動の継続性と発展性を両立させていくことが重要であると考えています。

4.抱負

私たちは、音楽には人の心をやさしく包み込み、人と人とをつなぐ力があると信じています。
音楽は必ず誰かの心に届き、その人の中で何かを動かします。
その小さな変化の積み重ねが、人と人とのつながりを生み、社会を少しずつあたたかくしていくのではないかと感じています。
日本は超高齢社会へと進み、独居高齢者の増加など、人と人とのつながりが希薄になりつつある現状があります。
だからこそ、音楽の力を生かし、誰もが安心して集い、心を通わせることのできる場をつくっていくことが、これからますます重要になると考えています。
障がいや年齢、環境にかかわらず、誰もが安心して音楽にふれられる社会。
そのようなあたたかな社会の実現に向けて、これからも一つひとつの現場を大切にしながら、音楽を届け続けていきたいと考えています。
音楽を通して、誰かの心が少し軽くなること。
誰もが「ここにいていい」と感じられること。
その積み重ねが、やがて社会全体のやさしさや包容力につながっていくと信じています。
そして、この活動は私たちだけで完結するものではありません。
音楽を届けたいと願う人、支えたいと思ってくださる人、そのすべての方々とともに育てていくものだと考えています。
賛助会員や御寄附というかたちで関わっていただくことも、音楽を届ける大きな力となります。
一人でも多くの方にこの活動の趣旨をご理解いただき、共に支えていただけましたら幸いです。
すべての人に音楽を。
そして、音楽を通して、誰もが安心して生きられるあたたかな社会へ。
私たちはこれからも、その実現に向けて歩み続けてまいります。

地域音楽コーディネーターや生涯学習音楽指導員として皆さまの活動を掲載しませんか?
活動紹介やイベント告知をご希望の方は、下記のページをご覧ください

音楽文化創造では、地域音楽コーディネーター資格取得の養成講座を実施しております。
詳しくは下記をご覧ください。

その他の記事

               
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】奏でる人にも、聴く人にもチカラを!すべての人に音楽を。
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】未来の地域音楽はどうなっているだろう
地域音楽 コーディネーター
Evening Café Concert〜お菓子と音楽で過ごす夕べ〜 vol.4(8/9)
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】キトキト音楽届けます!
地域音楽 コーディネーター
茨木市室内管弦楽団 ベートーヴェン ツィクルスシリーズ ピアノ三重奏全曲演奏会1(7/10)
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】聴衆と演奏者が双方向型で音楽を楽しむ場を作りたい
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】「聴く」を「体験する」へ。物語が動き出す参加型コンサート
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】吹奏楽を通じてみんながHAPPYになる空間を作りたい
地域音楽 コーディネーター
[終了]こどもゆめまつり(6/7)
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】こどもゆめまつり
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】生涯学習講座フルートの音色を楽しむ
地域音楽 コーディネーター
講座受講者インタビュー Vol.45
地域文化クラブ応援
枚方市地域文化クラブ 2025年度実証事業 「デジタル部活動」が音楽文化を救う?
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】「ハープでつながる楽しい時間」
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】音楽でつながる瞬間を、あなたと一緒に―心に寄り添う音色―
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】音楽は、みんなで創るもの
地域音楽 コーディネーター
【事例紹介】つなぐ“きせき”のバトン~学校から地域🎼学校から次世代へ~
国際音楽の日
【活動報告】平和&共生コンサート2025~戦後80年~湘南に響く被爆ピアノ [2025年度助成事業]