活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

「和洋奏楽」~ジャンルと世代を超えた音楽の創造~

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

全国生涯学習音楽指導員協議会浜松支部会員 生田流箏演奏家 浜松市 吉田理世さん
「和洋奏楽」~ジャンルと世代を超えた音楽の創造~ アクトシティ浜松 中ホール 2013.9.29.
「和洋奏楽」~ジャンルと世代を超えた音楽の創造~ アクトシティ浜松 中ホール 2013.9.29.

■活動タイトル:「和洋奏楽」~ジャンルと世代を超えた音楽の創造~

目次

■日時:2011年~2022年
■場所:アクトシティ浜松 中ホール
浜松市雄踏文化センター ホール
浜松市天竜壬生ホール
■対象:一般

■活動内容

1.活動を始めたきっかけ

2004年から3年間、文部科学省委託事業「浜松子ども音楽セミナー」が定着した実績が認められ、浜松市主催の事業として継続されることが決まりました。ちょうどその頃、浜松市在住の生涯学習音楽指導員5名(ジャズ、吹奏楽、邦楽の専門家)が集まり、育成事業だけでなく主催コンサートを開催しようという思いを強くしました。

「ジャンルを超える、世代を超える、音楽のバイアフリー」の3つのコンセプトを基に、先ずタイトルを決めようということになり、話し合いの結果「和洋奏楽」に決定しました。漢字四文字の造語ですが、意味が分かりやすく、どの漢字を組み合わせても意味が通じるこのタイトルを永く使い続けられるよう、持続可能な事業にしようと考えました。生涯学習音楽指導員A級認定を受けた私たちにとっては、既に音楽ジャンルの垣根を超えることは自然な思いでした。


2.コンサート開催にあたって

第1回「和洋奏楽」(2011年)は浜松市雄踏文化センターとの共催でした。指定管理者である東海ビル管理株式会社が、文化事業を主催したいと考えていた時に協力する形で実現しました。出演者はできる限り地元の市民を公募し、10か月ほど練習期間を設けて本番を迎えました。

当日ご招待した公益財団浜松市文化振興財団(*1)の事業課の方が、公演終了後に楽屋を訪ねて来られて、「和洋奏楽を浜松市文化振興財団と一緒にぜひやりましょう。今年の秋に!」とお話をいただきました。

準備期間は半年足らず、しかも既に決まっている他の演奏会の翌日に同じアクトシティ浜松中ホールで? 無理!…と思いましたが、「ここで踏み出さなければ!」との思いの方が強く、気が付いたら制作部会が始まっていました。

最初の企画の段階から浜松市文化振興財団と私たちが一緒に創り上げていくために、プログラム作りの段階から舞台スタッフにも参加していただき、制作部会を何回も重ねました。ゲストにも事業の趣旨をご理解いただき、企画の段階から一緒に考え、制作に参加していただきました。この制作スタイルが和洋奏楽には欠かせないものです。

*1)公益財団浜松市文化振興財団
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/houmu/gaikaku/h23/dantaibetsu/03.html


3.「和洋奏楽」の軌跡

〇第1回:2011年4月17日 浜松市雄踏文化センター 大ホール

テーマ:第1部「日本音楽と西洋音楽との出会い」

  • ・雅楽とともに(浜松楽所と公募のジュニアアンサンブル:箏・鍵盤ハーモニカ・洋楽打楽器とのコラボレーション)
  • ・ジャズで『越天楽』他

第2部「日本音楽と西洋音楽 融合の新しい試み」

  • ・現代邦楽曲(三木稔作品)
  • ・吹奏楽と箏による合奏曲(浜松市文化振興財団委嘱)他

〇第2回:2011年10月30日 アクトシティ浜松 中ホール

テーマ:第1部「はじまりは日本の伝統音楽から」

  • ・『越天楽』(浜松楽所)
  • ・『越天楽今様』(合唱、吹奏楽、邦楽 小中高校生と浜松楽所)
  • ・『洋楽越天楽』(ジャズバンドと人間国宝の山本邦山さんのコラボ)

第2部「日本音楽と西洋音楽の融合」

  • ・邦楽曲、吹奏楽曲、コラボ曲、委嘱初演『ファンタジア四季~合唱・箏・吹奏楽のための~』

  • ・ゲスト:山本邦山、保科洋、織田浩司、浜松楽所他

〇第3回:2012年9月29日 アクトシティ浜松 中ホール

テーマ:第1部「伝えたい日本の心」

  • ・『編曲八千代獅子』(邦楽合奏曲) 宮城道雄作曲
  • ・初演『遠州地方のわらべうたより』(邦楽合奏曲) 簑田弘大編作曲
  • ・『ガイーヌより剣の舞』 ハチャトゥリアン作曲(邦楽器で)
  • ・三味線協奏曲(三味線、尺八、篠笛、琵琶、打ち物、ピアノ2台)

第2部「日本音楽と西洋音楽の融合」

  • ・委嘱初演『タイムカプセル Vol.1 ~箏・吹奏楽~』前田憲男作曲
  • ・『ファンタジア四季 ~合唱・箏・吹奏楽のための~』保科洋作曲

  • ・ゲスト:前田憲男、簑田弘大、和楽団「煌」他

〇第4回:2013年9月29日 アクトシティ浜松 中ホール

テーマ:第1部「伝えたい日本の音風景」

  • ・初演『遠州地方のあそびうた』(邦楽合奏曲) 簑田弘大編作曲
  • ・初演『かごまわり変奏曲』(邦楽合奏曲) 簑田弘大編作曲
  • ・初演『遠州の民話今様~子育て飴と祝い凧』 加藤修一構成、簑田弘大作曲
      琵琶、三味線、篠笛、尺八、笙、打物による音楽物語
  • ・『ディヴェルティメント』和楽器群と洋楽器群(フルート、ピアノ連弾)

第2部「日本音楽と西洋音楽の出会い」

  • ・委嘱初演『犬夜叉想夢譚~吹奏楽と邦楽アンサンブルのための』和田薫編作曲
  • ・委嘱初演『日本民謡による吹奏楽と合唱・箏合奏のための“俗謡五景”』和田薫編作曲

  • ・ゲスト:北爪道夫、和田薫、簑田弘大、和楽団「煌」他

〇第5回:2015年2月15日 アクトシティ浜松 中ホール

テーマ:第1部「伝えたい日本の音風景」

  • ・『初鶯』(箏・尺八)宮城道雄作曲
  • ・委嘱初演『風聲地響~尺八と打楽器、管楽アンサンブルのための協奏的二章』

第2部「日本音楽と西洋音楽の出会い」

  • ・『アヴェ・マリア ヴィルゴセレーナ』(合唱)新美徳英作曲
  • ・『Winds singing a song』(吹奏楽)北爪道夫作曲
  • ・『日本民謡による吹奏楽と合唱・箏合奏のための“俗謡五景”藤原道山バージョン』和田薫編作曲
  • ・『花は咲く』(和楽器、合唱、吹奏楽)原田大雪編曲

  • ・ゲスト:藤原道山、北爪道夫、新美徳英、和田薫

〇第6回:2017年1月22日 アクトシティ浜松 中ホール

テーマ:第1部「邦楽囃子の世界~伝統から現代へ~」

  • ・『寿獅子』(邦楽囃子)
  • ・『砧』(箏と邦楽囃子)宮城道雄作曲 お囃子プロジェクト作調
  • ・『リベルタンゴ』アストル・ピアソラ作曲 お囃子プロジェクト作調

第2部「伝えたい日本語の響きと音楽」~谷川俊太郎の詩より

  • ・委嘱初演『陽炎』琵琶弾き語り 藤高理恵子作曲
  • ・『世界の約束』木村弓作曲
  • ・和洋奏楽バージョン初演『信じる~女声3部合唱とピアノ、弦楽四重奏のために~』松下耕作編曲
  • ・『日本民謡による吹奏楽と合唱・箏合奏のための“俗謡五景”』和田薫編作曲 お囃子プロジェクト作調

  • ・ゲスト:お囃子プロジェクト、松下耕、魚路恭子、藤高理恵子

〇第7回:2020年2月2日 浜松市天竜壬生ホール

テーマ:日本音楽から世界の音楽へ~つながる響き~

第1部

  • ・『春の海』日本音楽と西洋音楽とのコラボの原点 宮城道雄作曲
  • ・『風聲地響~尺八と打楽器、管楽器アンサンブルのための協奏的二章~』和田薫作曲

第2部

  • ・『龍波』遠州天竜太鼓 龍勢組
  • ・『吹奏楽のためのラプソディ』尺八と吹奏楽 外山雄三作曲
  • ・『ファンタジア四季~吹奏楽と合唱と箏のための~』保科洋編作曲

  • ・ゲスト:藤原道山、野津如弘(指揮)


4.演奏者として

世界中の国々との交流がこれほど盛んになった現代においては、音楽も当然交流が盛んになるのが自然です。それぞれの国の伝統音楽を正しく継承することはもちろん大事なことですが、さまざまなジャンルの音楽が融合することも自然であり、邦楽家とし新しい音を創造して行くことは使命だと思います。

例えば邦楽器と吹奏楽、弦楽と共演する場合、特に大事なのはそれぞれの音色の違いを大事にすることと、音のバランスだと思います。邦楽器は特に音色が多彩で、そこに大きな魅力があります。「一音! で表現できる」とも言われます。洋楽器はオーケストラのようにさまざまな楽器(木管楽器、金管楽器、弦楽器、打楽器等)の音が混じり合うことで多彩な音色を表現します。その違いを理解されている作曲家に曲を書いていただくのが一番です。さらに当然のことですが、演奏者がお互いの楽器、演奏をリスペクトする気持ちを根底に持てるかどうかです。



5.聴衆の反応

和洋奏楽も7回を重ねてまいりましたが、最初はやはり「箏と吹奏楽は合わない」「吹奏楽がやかましくて箏が聴こえない」「木に竹をついだ感じ」などのご意見もいただきましたが、それは当然の率直な感想だと受け止めました。

私たちはそのような感想をもちろん予想していましたので、めげずに続けようと思いました。そして、回を重ねるごとにアンサンブルがしっくりきていることに聴衆も演奏者も気づいてきました。また「普段は吹奏楽をよく聴きますが、箏の生の音色を初めて聴きました。いいですね。また聴きたいです」「いつも邦楽の演奏会に行きますが、吹奏楽も合唱もいいですね」という感想も聞かれるようになりました。つまり聴衆も聴く機会の幅を広げているのです。



6.今後の抱負

(1)「和洋奏楽」の継続

実は第7回を終える時点で既に第8回の日程と会場、ゲストも決まっていましたが、コロナ禍のために中止せざるをえませんでした。世の中の情勢を見つつ仕切り直しです。私個人の考えですが今後は「和洋奏楽」も新しい形を模索していきたいと考えています。

浜松市文化振興財団もコロナ禍の影響で事業が急減し、大きな減収になっている現状を考えると、これまでのように財団主催、共同制作という形は難しくなるかと思います。財団の協力をいただきながらも規模を縮小して、浜音協主催事業として持続可能な形を模索する必要があります。

事業の規模を縮小することは決して後退ではありません。これまでは大規模なコンサート、大きいホールで大々的に開催することが良いこと、発展すること、と捉えられていましたが、これからは小規模ホールで生の音楽を聴くことがどんなに感動的で贅沢な時間であるか、見直されるのではないかと思います。出演者を子ども中心にした「キッズ和洋奏楽」の企画も良いと思います。アイデアはこれからも色々出てきそうです。

(2)邦楽の普及のために、必要なこと

  1. ➀古典を基盤に置くことを忘れないこと
  2. ②邦楽に携わっている者が幅広い音楽に目と耳を向けること
  3. ③義務教育期間のうちに子どもたちが生の日本音楽に触れる、できれば弾いてみる機会を設けること(日頃から学校と連携していくことが大事。私たちは要請があれば、できる限り学校に出向いています)
  4. ④箏は調弦次第でさまざまな曲を演奏することができ、とても便利な楽器です。アニメソング、J-POP、クラシック音楽…箏譜も出版されていますので目的に合わせて選択しながら使うこと
  5. ⑤青少年があこがれるようなカッコいい邦楽演奏家が世に出てくること
現在、小中高校生と大学生以上の若者を対象に「浜松ジュニア・ユース邦楽合奏団」(*2)の運営・指導をしています。生涯学習音楽指導員が立ち上げた育成事業です。これは私の生涯学習音楽指導員A級認定の論文の一つのテーマでした。

全国では唯一新潟市に行政の育成事業として「ジュニア邦楽合奏団」があり、私たちは見学に行き、また2015年には団員全員で「ジュニア邦楽合奏フェスティバル in 新潟」に参加させていただきました。各地域にジュニアの邦楽合奏団ができて、交流できたらと…これは私の夢です。

*2)浜松ジュニア・ユース邦楽合奏団
https://hamajy.com/




「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

#コラボレーション

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