活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

作曲・演奏活動と大学での指導を通して他者との融合、総合芸術を模索する。

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

箏・20絃箏奏者 正派邦楽会大師範
ニューヨーク在住 黒澤有美さん

■活動テーマ:作曲・演奏活動と大学での指導を通して
他者との融合、総合芸術を模索する。
イギリスでスワンオーケストラと初演した、ダーロン・ハーゲン作曲 箏コンチェル
                ト『源氏』をハワイシンフォニーオーケストラ、大友直人指揮と再演
イギリスでスワンオーケストラと初演した、ダーロン・ハーゲン作曲 箏コンチェル ト『源氏』をハワイシンフォニーオーケストラ、大友直人指揮と再演
■活動開始時期:2002年~現在
■場所:ニューヨークを拠点にアメリカ国内を主体に、日本や他国
■対象:一般

■活動内容

1.海外へ行ったきっかけと目的

東京を拠点に演奏活動をしていた頃、二十絃箏(*)の音楽を国内外に普及と啓蒙している吉村七重先生のご指導のおかげでたくさんの現代音楽を初演させていただきました。その影響が大きく、将来作曲をしたいという気持ちが芽生えていました。同時に海外で新しい音楽を創りたいという願望が捨てきれず、2002年に渡米ニューヨークに拠点を移しました。この地を選んだ理由は次の3点です。

ニューヨークは多種多様な民族が独特の文化を保ち、お互いに尊重しながら共生している街。(サラダボールとも言う)そのことで他のアーティストや音楽以外の芸術と融合するには大きな可能性を秘めている。過去の海外コンサート経験から自分に合うのは「ここだ!」と直感で決めました。

*)二十絃箏:現代音楽作曲家の三木稔と箏奏者の野坂恵子(野坂操壽)が、もう少し低音域が欲しいという思いで1969年に共同開発された箏。その後改良され二十一本の絃が有る。

2.二十絃箏の魅力とは

私の父も箏演奏家ですが、箏作りも修行した人です。二十絃箏の第一号を制作中にその場に居合わせた事もあり、音色は段階を経て改良されたと言っていたことを思い出します。二十絃箏に限らずあらゆる箏の魅力にその音色や余韻があると思います。一つの楽器で何種類もの音を奏でることができ、レコーディングエンジニア泣かせとも言われています。

例えば、爪で弾く音色、爪で擦る音色、ピッツィカート、絃を押して余韻を出す独特の音色、弾く場所で音色が変わるなど、演奏法次第で実に多彩な音を作り出すことができるのです。コンサート終了後にお客様から、あんなにいろいろなことができる楽器だと思わなかったとよく言われます。様々な経験が必要になってきますが、日本の箏は意外に様々な他ジャンルの楽器や、エレクトロニックサウンド(学生時代コンピュータミュージック研究室にいたことから、以前制作使用した時期もありました。)、映像や演劇とのインプロビゼーションなど様々な媒体と融合することが可能です。


3.現地の箏に対する認識とイメージ

私は14、5歳の頃、両親(黒澤和雄、千賀子)のカナダ・アメリカコンサートツアーに何度か同行して参加していました。過去より諸先生方も訪米してコンサートを開催していた事もあり、お箏は皆様が想像するより知られていたと思います。もちろんピアノやヴァイオリン等西洋楽器と比べると日本の伝統楽器の一つであるこの楽器は知る人ぞ知るといった感じでした。しかしその割合が意外と高めと言うと分かりやすいでしょうか。

箏に対して一種のイメージがある(あった)方も多かったと思います。例えば古典曲以外はないなど。私は二十絃箏をメインに演奏しますが、聴衆には箏が当時より音楽的、技術的に大きな可能性がある印象を持っていただいております。


4.活動の軌跡

(1)音楽以外のジャンルとのコラボレーション

ニューヨークに移住後、すぐに作曲を始めました。作曲初心者として初めはさらさらと曲を書けたこともありましたが、演奏と同じでそうは簡単にはいきません。長いトンネルにはまり込んだ時期もありました。その後すばらしいコンサートホールやいろいろな団体・組織との機会(現代曲、ジャズセッション、映画、ダンス、演劇)が増え、あらゆる種類の作品を試みています。

引き続き年間1、2曲他の作曲家作品の初演もしております。これまでに箏コンチェルトをイギリスで初演や、スミソニアン美術館フリアギャラリーとは長年お仕事をさせていただいておりますが、富岡鉄斎特別エキシビションのためのコンサートを御依頼いただき、鉄斎の作品をイメージした委嘱初演作品等もプログラムに含まれました。ヒューストンバレエは全米で大きなバレエ団の一つですが、そちらの新作のための委嘱作品とライブ演奏、米国立美術館でのコンサート、委嘱作品。

また清水寺で開催された奉納コンサートでは、元ビヨンセのメインダンサーでもあった、ツインズ(ヒップホップダンス)との共演、ケネディセンター主宰コンサートでゲスト出演等、数々のコンサートやコラボレーションをしてきました。

(2)黒澤有美トリオ結成

気がつけば、現在私の活動は自分のプロジェクト、自作曲でのコンサートやコラボレーションが主体となっています。2021年、黒澤有美トリオを新たに結成しました。編成は箏、ヴァイオリン、パーカッションです。活動は今年から徐々に始めております。

先日トリオとして初のコンサートツア―をアメリカ国内で行いました。曲によりゲストを迎えて4、5人編成で演奏することもあります。訪問する先々での聴衆・主催者の反応は、各コンサートの編成や内容にもよりますが、アンサンブルの融合の仕方やコンセプトにより、箏でこのような表現ができるとは思わなかった等、嬉しいコメントも沢山頂いております。


トリオの初CD用レコーディングも行いました。長いアーティスト人生の中で、一つの節目となったと思います。作品作りは演奏同様、一生育んでいくものと実感しています。





タブラは北インド地方の太鼓の一種

現在、演奏・作曲活動を軸として、コロンビア大学音楽学部演奏プログラムの箏曲クラスの指導も行っています。そこでは短い限られた時間内で、箏の基礎や歴史などを教え、学期末コンサートでは学生を通してお客様にも伝える場として向き合っております。



5.総括

ニューヨークに移り20年がたちましたが、認知度は確実に増したと思います。当初しばらくはあてどもない長い道のりのように感じていました。それに加え、作曲において始めの段階の壁にもぶち当たっていたと思います。長い間、自分の人生はこれで良いのかと自問自答していた時期がありました。

時間の流れとともに、世の中の状況も大きく変わったと思います。よく、「箏の人口は少なくて珍しいから競争が激しくなくてお得」とおっしゃる方々が時々います。でも実際にはクラシック、ポップス、ジャズ、邦楽、民族音楽等ジャンルは関係がないと思います。(少なくともニューヨークはそうです。)


6.これからの抱負

私は海外に飛び出しましたが、元来石橋を叩いて渡るタイプで納得するまでに時間がかかることが多々あります。今やっと自分の道の基礎を築けてきているように思います。最近、日本帰国の際に邦楽界の方々が「日本はもう駄目だ。これからは海外しかない」と言われるのを時折耳にします。

私はむしろ今、日本ではないかと思うのです。それは海外に20年在住して、以前に比べて大きな視野で物事を見ることができるようになったからだと思います。邦楽は日本で誕生し、多くの演奏家・作曲家が築き上げてきた土台が違いますので、それぞれ演奏家の活動は大きく見ると一つの絶大な力になります。現代はインターネットのおかげで世界中の情報伝達が瞬時に可能となり世界も変わりました。

私は現在の拠点で活動を続けますが、これから社会に出て行く日本の若い演奏家には、いろいろな経験を積みながら自分の太い軸は何かを見いだして、それを基盤に活動を広げていっていただけたらと願っています。


●黒澤有美さんホームページ
https://www.yumikuro.com/


(2023年2月27日公開)


「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などをご紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんと共に模索しています。

「新しい方角(邦楽)」

 

#海外活動
#日本の伝統音楽

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