活動事例

新しい方角(邦楽) 活動事例

次世代の人々への架け橋に

(2023年03月03日公開)

<新しい方角(邦楽:日本の伝統音楽)>

梅屋流囃子方 梅屋喜三郎さん
梅屋喜三郎さん
梅屋喜三郎さん

■活動タイトル:次世代の人々への架け橋に

目次

■活動開始時期:2005年~現在
■場所:歌舞伎公演·日本舞踊公演·長唄演奏会などの国内公演やライブ活動、アメリカ·ヨーロッパ·アジアなどの海外公演
■対象:一般

■活動内容

1.小鼓を始めたきっかけ

父も姉も日本舞踊を習っておりましたが、私は日本舞踊にも邦楽自体にも興味がありませんでした。家の会話でも邦楽の話題になると話についていけず蚊帳の外、姉が出演する舞踊会に行くと決まって騒がないように飴(あめ)を口に入れられ客席に座っておりました。

小学校6年のとき、家で月見をしているときに姉の鼓を興味本意で打ってみました。そのときは特に楽しいとは感じませんでしたが、その姿を見た親が興味を持ったと思い、早速師匠の所に連れて行かれました。あれよあれよという間に入門し、その後稽古を続けるうちに楽しくなっていき現在に至ってます。



2.小鼓とは

歌舞伎や日本舞踊、長唄演奏会、能で演奏している所を見たことがある方もいらっしゃると思います。この楽器を簡単に説明しますと、胴を2枚の革で挟み、離れないように紐(ひも)を革にかける構造になっています。革は馬皮、胴は桜の木をくりぬいたもの、紐(ひも)は調べ緒と言い、麻でできています。(写真①、②参照)

奏法としては左手で紐(ひも)を持ち右肩に担いで右手で打ちます。(写真①参照)持っている手を握ることにより紐(ひも)で革が引っ張られ高い音が、逆に開くと革が緩み低い音が出ます。良い音を出すには革に適度の湿気を与える必要があるので、息をかけたり唾液でぬらしたりします。

小鼓は中国や韓国から伝来されてきた楽器が元になっています。小鼓と対で演奏される大鼓の胴の形が、チャンゴ(韓国の太鼓の1種)・三ノ鼓(雅楽で使われる太鼓の1種)と真ん中の細くなっている部分に節がある点が共通しているので、流れが分かります。

また大鼓は強弱で音を変えるのに対して小鼓は高低も出すことができるため、改良されたのだと思います。




3.具体的な活動

(1)国内公演

自分自身の基盤である古典を劇場で主に演奏しています。鼓のコンディションの整え方や掛け声の大きさなど再認識する場でもあります。新曲も作られて演奏しますが、新曲も古典の奏法などを基本として作られていて新しい中にも基礎が詰まっています。

(2)海外公演

いろいろな国々を回りましたが、2018年7月に「和楽器アンサンブルJapan」として参加したカザフスタン共和国(*1)が一番印象に残っています。

*1)カザフスタン共和国:中央アジアに位置し、北と西にはロシア、東に中国、南にキルギスほかの国境があり、南西は世界最大の湖カスピ海に面している。1991年にソビエト連邦崩壊(ペレストロイカ)時に共和制国家として独立。

通常、海外公演の場合は日本舞踊や日本の音楽を紹介する目的で行われる事が多いので日本人のみ(スタッフは現地の方もいらっしゃいます)で公演が行われますが、この時は国際伝統音楽祭ということでいろいろな国の方々(フランス、タジキスタン、ポーランド、ロシア、メキシコ、トルコ、スコットランド、ペルー、カザフスタン)と一緒でした。

演奏は国ごとでしたがバックヤードで交流することができました。楽器も似ているものもあり、シルクロードというものを肌で感じました。

現地の方もすごく興味深かったようで、とても反応が良かったです。また音楽祭が開催された場所はウリタウというところでカザフスタンでも田舎町だったので、日本人はほとんど見たことがないためか、控室からステージ近くに行くまでの間に呼び止められ写真を求められました。



(3)「巴の華」hanokaの結成


ピアニストの菊池美奈子さんと笙奏者の豊明日美さんのDUO LIVEを聴きに行って、飛び入りで共演したのがきっかけで三人でライブをすることになり、2017年6月に巴の華-hanoka-と命名いたしました。

明日美さんと一緒に活動した東京民族音楽というバンドでは、オリジナルを中心にフリージャズを演奏していましたが、巴の華ではサブカル(ゲーム音楽、アニメ劇伴、ボーカロイド(*2)曲を中心に洋楽やオリジナル曲を演奏をしています。

*2)ボーカロイド:ヤマハ株式会社が2000年に開発した歌声合成エンジン。人の声をコンピューターソフトで作成できる歌声のシンセサイザーソフト。一躍脚光を浴びたのはクリプトン・フューチャー・メディアが作った合成ソフト初音ミク(バーチャルシンガー)から。

ピアノと笙が交互に旋律を奏で小鼓や鈴・レイ(持鈴)・フィンガーシンバルなどの金物楽器が旋律に乗るように効果的に入れていきます。

和楽器が目立つのではなく全体の音楽に溶け込むように違和感なく聴けるような演奏、言い方を変えると環境音楽のようなものも和楽器でも可能性があると考え、表現できることを目指しています。聴いた方も心地良いとか、違和感がないといった感想を頂いてます。

(4)そのほか マスメディア、CD制作

NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」「軍司官兵衛」「真田丸」「麒麟がくる」にも出演させていただきました。ふだんは紋付袴で演奏することが多いですが、脚本上その当時の服装や場所また時代背景などを聞いた上で演奏します。このことによりふだんの演奏より感慨深く当時に想(おも)いをはせながら演奏することが多いです。

<CD制作>

三味線奏者の上原潤之助さんに声をかけていただき「初春~和楽器が奏でる、おめでたい調べ決定盤〜」の制作に参加させていただきました。

邦楽をより多くの方に聴いてもらうには、BGMとして流したときに心地良く、また曲の風景を自由に想像してもらえるように、歌は無しにして、三味線・笛・鳴物のみで録音しました。内容は慶事の際、おめでたい席で歌われる江戸、明治時代の端唄(*3)を中心に選曲しました。更にお正月の獅子舞的な楽曲も選びました。

ふだんは脇役になりがちな楽器が前面に出ることで、同じ曲でも歌入りとは違う角度から表現できる可能性が見えました。

*3)端唄:江戸後期から幕末にかけて流行した三味線伴奏の短い歌曲。『梅は咲いたか』『かっぽれ』『浅草参り』などが有名


CDジャケットhttp://www.respect-record.co.jp/discs/res342.html


4.課題と抱負

(1)課題

邦楽全般的に言えることかもしれませんが、邦楽器の生の音を聴く機会が圧倒的に少ないと思います。またメディアで露出されることも余りないので敷居が高いと思われがちです。コロナ禍YouTubeなどで気軽に聴くことが増えたとはいえ、飽くまでもスピーカー越しです。耳だけではなく身体で感じる機会を増やさないといけないと思います。

また現在は昔と違い娯楽の数や音楽ジャンルの幅も多く、選択肢が広がっているためどうしても機会が薄まります。演奏会ほかメディアなどにも取り上げられることが少なくなっているので、邦楽界全体として考えないといけないと思います。

(2)抱負

この状況を打破するためには、もっと身近に感じてもらえるように、まずは楽器を見て生の音を聴いてもらう機会として積極的にライブに参加しようと思います。これは邦楽の世界だけにこだわることなく、あらゆるジャンルの音楽とのコラボレーションも大切ではないかと思います。

気軽に演奏を聴いていただき、少しでも興味を持った方に劇場に足を運んでもらい古典芸能に親しんでいただければ奏者としてうれしいです。結果その中の1名でも実際に楽器を習い初めてくれると、私の役割として次世代につなげていくということに1歩近づけるのではないかと思っています。


(2023年3月3日公開)

「新しい方角(邦楽)」は日本の伝統音楽の新しい道を探るコラムです。
新しく斬新な試みで邦楽(日本の伝統音楽)の世界に新しい息吹を吹き込んでいる邦楽演奏家の方やその活動などを御紹介し、邦楽の新しい方向性を皆さんとともに模索しています。

「新しい方角(邦楽)」
#コラボレーション
#海外活動

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