活動事例

地域音楽 コーディネーター 活動事例

【事例紹介】民謡酒場から日本の民謡と食文化を未来に伝承したい

地域音楽コーディネーター 民謡未来ネットワーク代表 埼玉県 小池梨沙さん

東京向島にある民謡酒場「栄翠」×民謡こども食堂の前で
東京向島にある民謡酒場「栄翠」×民謡こども食堂の前で
■活動テーマ:
民謡酒場から日本の民謡と食文化を未来に伝承したい
■目次:
■活動開始時期:
2022年~現在
■場所:
東京都墨田区
■対象:
近隣住民、親子、子どもたち
■活動内容

1.きっかけ

「民謡酒場」をご存じですか?店内の一角に小さなステージが設けられており、常連客が三味線・尺八・太鼓などの生伴奏に合わせて、好きな民謡を唄うことができます。飲食をしながら、独特の「揉み手」や「お囃子」といわれている掛け声でお店が一体となり、民謡を気軽に楽しめるスポットとなっています。

東京都内にある民謡酒場は、集団就職の時代であった昭和30年代に、故郷を懐かしむスポットとして、上野や浅草界隈(かいわい)に100件以上あったと言われています。その時代、同郷同士が仕事の疲れをいやすため郷土の唄、民謡を唄って英気を養っていました。当時は民謡ブームともいわれており、大変にぎわっていたと言います。

しかし、時代の流れとともにその数は減少していき、現在、一見さんが行ける民謡酒場は都内で3軒ほどになってしまいました。あることが当たり前だと思っていた民謡酒場の存続が危ぶまれている背景としては、民謡文化の衰退に加えて、新型コロナウィルス感染症による長期にわたる休業要請が追い打ちをかけました。コロナ禍の休業要請が解除された後も、以前のような活気が戻りません。

都内にある民謡酒場の一つ、墨田区にある民謡酒場「栄翠(えいすい)」は、コロナ禍以降、週に一度の営業しかできないため、営業時間以外の場所の活用について、店主よりご相談を頂いたことを機に、私は自分の子供が小さかったこともあり、親子で楽しめる「民謡喫茶」を立ち上げました。

これまで民謡酒場の顧客対象となっていなかった親子をターゲットとした民謡喫茶は大変好評で、毎回、満員御礼(おんれい)が続いていました。しかし、お店の近隣地域を巻き込めていないことがずっと気掛かりでした。

民謡・・・民衆の生活の中で生まれ、口承によって歌い継がれてきた歌の総称。日本においては、各地域の人々の日常生活(お祭り、労働歌、子守唄、神事、祭礼等)から生まれ長い間唄い継がれたものを指す。一般によく知られた民謡としては、ソーラン節(北海道)、花笠音頭(山形県)、佐渡おけさ(新潟県)、こきりこ節(富山県)、伊勢音頭(三重県)、炭坑節(福岡県)、牛深ハイヤ節(熊本県)など

2.新たな課題からの脱却~「民謡こども食堂」の立ち上げ~

親子で楽しめる民謡喫茶を継続するに当たり、一番の課題は集客でした。参加者を分析すると遠方からの参加者が多く占めていました。親子で民謡酒場を楽しめるというコンセプトの物珍しさから、足を運んでいただけることは大変有り難かった半面、長く続けるには近隣の地域を巻き込むことが必要不可欠であると思っていました。民謡と接点のない地域の方にも、お店に足を運んでいただいて、親しんでいただくこと・・・・そのために、どうしたらよいか悩んだ結果、民謡酒場で子ども食堂を実施するというアイデアに行きつきました。

存続の危機にある民謡酒場に、地域の親子が立ち寄れる「民謡こども食堂」を立ち上げよう!と、クラウドファンディングを実施し、60名より賛同・支援を得ておよそ25万円を調達することができました。

子ども食堂の立ち上げに関しては、生活困窮家庭の支援経験に長けた一般社団法人ベジモア食育協会の高橋思歩さんと協同し、民謡の生演奏を楽しみながら、季節に応じた「行事食」を通して食の伝統も伝承できる場が実現しました。

進化する子ども食堂

子ども食堂とは、元々は共働きやひとり親世帯の子どもたちの孤食対策として2010年頃より全国に広がり有名になりました。しかし、近年は誰もが参加できる地域のコミュニティとしての役割や防災拠点としても期待されており、その数が増えています。私たちも民謡酒場が地域のリビングのように地元の人たちから愛され、必要とされる空間にシフトできるのではないかと思っています。

顕著化する子どもたちの体験格差

「体験格差」という言葉をご存じでしょうか?これは、周囲の環境によって子どもたちが得られる体験に格差が生じる現象です。学校外での体験を得る機会が多いほど、学習意欲や課題解決能力が向上すると言われており、近年、社会課題としてテレビでも取り上げられています。

そもそも民謡は、特に庶民の中で厳しい労働を唄で和らげたり、うれしいことを祝ったり、楽しんだりするために、暮らしの中で伝承されてきたものであり、本来どこかで習わなければ知ることができないものではないはずです。世帯事情によって、お稽古事にかけられるコストに差があることは仕方のないことかもしれませんが、私たちは、日本民謡や文化を未来に継承するために、世帯負担を気にすることなく、自国として「当たり前の体験」がきるスポットとして民謡酒場を活性化していきたいと考えています。

3.成果

初年度となった2023年は、「まずはやってみよう」がテーマで、運営側も参加者もわからないことだらけでした。しかし、民謡こども食堂に来ることで、民謡に接点のなかった子どもたちが、民謡や三味線等の和楽器のある空間に身を置くことができたことは、確かな手ごたえでした。

子ども食堂BAND「エプロンズ」の誕生

あるとき、エプロン姿で三味線を抱えている姿がとても新鮮に映り、これをもっと多くの子供たちに届けられないかなと思いました。エプロンという庶民的な姿で、敷居が高いと思われている和楽器を抱えるというのは、そのビジュアルで、民謡はもっと人々にとって身近であり、決して敷居の高いものではないというメッセージになるような気がしたのです。

しかし、私たちの子ども食堂の開催頻度だけでは、エプロン姿で民謡をお届けできる機会が少なすぎます。そのため、子ども食堂BAND「エプロンズ」と称して出張演奏を近隣の子ども食堂に提案し、その初めてのステージが、12/16(土)すみだゆいま〜る食堂さんで実現しました。当日は50名ほどの親子が来場し、ステージショーの後には、三味線の体験も実施しました。これも、民謡こども食堂を始めてみなければ、思い付かなかった発想です。

子ども食堂BAND『エプロンズ』 at すみだ ゆいま〜る食堂R5.12.16 sat.

4.将来の展望

民謡酒場の維持存続のために、ある種、偶発的なアイデアとしてスタートした民謡こども食堂ではありますが、街の中の社会的課題の解消と子どもたちへの民謡文化の継承というアプローチの相乗効果で、民謡酒場や民謡そのものの価値に確信を持つことができました。

とはいえ、運営は金銭的利益を生むものではありません。やればやるだけ赤字です。しかし、そこで育まれる社会的価値は必ず子どもたちの心に種となって育っています。民謡酒場が、過去の集団就職の時代から、現代における社会課題を改善するための拠点にシフトすることで、民謡文化を未来につなぎながら地域から必要とされるスポットとして存続できる可能性を感じていますので、今後は開催頻度をあげていきたいです。

また、学校教育の中で進められている教師の働き方改革では、地域の中で部活動などの指導者につないでいき、地域の中で大人と子どもたちがナナメの関係でつながれる居場所を作る、地域移行を推進している動きがあります。そのような場においても、子どもたちが日本の民謡文化をナチュラルに傍受できる環境を構築していきたいと考えています。

生まれ育った国の文化や歴史背景を知っていることは、グローバル社会において求められることであり、また本人がアイディンティティをもって世界を渡り歩くために力強い糧となることでしょう。私たちの活動だけでは、本当に小さな力にしかならないと思っています。しかし、このアクションをたくさんの方に知っていただき、もし共感をしていただけたら、いろんな地域で民謡や郷土の文化を日常の中で知ることのできる拠点づくりとして派生すること、また、活動を応援してくださる方が増えると良いと思います。

(2024年3月13日公開)

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